文・島田裕巳(宗教学者)
日本の神様はあいまいな存在
日本は多神教の国であると言われる。
これは、西欧やイスラム圏と対比して言われることで、キリスト教やイスラム教が一神教であるのに対して、日本は八百万の神々が信仰される多神教の国だというわけである。
一神教については、それが日本とは異質な信仰のあり方であるということで論じられることが少なくない。一神教の伝統は、基本的にユダヤ教からはじまり、キリスト教、そしてイスラム教へと受け継がれていった。唯一絶対の創造神に対する信仰がそうした宗教の根幹にあることは広く認識されている。
ところが、多神教については議論の対象になることはほとんどない。一神教の世界でも、それ以前は多神教であったはずだし、インドのように今でも多くの神々が信仰の対象になっている国や地域はいくらでもある。中国も、最近ではキリスト教が台頭しているとはいえ、基本は多神教である。
私たちは一神教の特徴についてはそれを列挙することができるが、多神教ということになると、多くの神々が信仰の対象になっていて、そこでは唯一絶対の神は存在しないといったことしか、その特徴をあげることができない。
せいぜい、テロや宗教対立が起こったときに、一神教が寛容ではないのに対して、信仰対象が一つに限定されない多神教は寛容を特徴としていると指摘される程度である。
つまり、私たちは、自分たちがその世界に生きてきたにもかかわらず、多神教というあり方について十分に考えをめぐらせてはこなかったのだ。
あるいはそこには、日本人が幕末維新期から西欧文明にふれ、一神教というあり方に対してコンプレックスを感じてきたことが関係するのかもしれない。
しかし、それ以上に、「神道は言挙げせず」ということばがあるように、神道の伝統においては、その信仰を言語化することが少ないという点が重要である。神道はあくまで祭祀が中心であり、神学は発展を見せていない。
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