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英EU離脱問題、日系金融機関も他人事ではない

「脱ロンドン」拠点大移動が始まる可能性も

2016年6月16日(木)

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写真:ロイター/アフロ

 英国ではいよいよ6月23日にEU(欧州連合)残留の可否を問う国民投票が実施される。投票日まで2週間を切ったところでの世論調査によれば離脱支持がじわじわと伸びはじめている。

 特に一部の調査では離脱支持派が残留派を10%ポイント引き離すなど、離脱派が優勢な状況も出始めている。これによりポンドは大きく下落して余談を許さない状況が続いており、ロンドンのマーケット関係者からも“離脱は間違いないのでその準備を”などと物騒な声が日々増えている。

 ただし肝心の世論調査があてにならないことは有名な話で、代替策として挙げられる物差しの一つがブックメーカーの賭け率だ。それでも2015年5月の総選挙で、ブックメーカーの賭け率から選挙5日前に90%以上の確率でハングパーラメント(宙吊り国会)と予測されていたが、結果的に保守党単独政権が誕生し大外れとなった。今回は70%以上の確率で残留と予測されているが、総選挙時よりも確率が低いことが当然気になる。あてにならない指標より可能な限りサンプルを集めようと、保守党が単独政権となり国民投票の実施を決定した時から筆者は色々な場面で英国人に取材を試みている。

 ここで気がついたことは、世論調査で示された属性別の支持層の違い(図表1参照)は概ね筆者の取材ともその傾向が一致していることだ。たとえば、労働者階級、白人、高齢者の組み合わせからは、見事なまでに離脱派の意見が出てくる(同じ白人でも富裕層、スコットランド出身はほぼ残留派だ)。もともと英国では、欧州の中でも移民に寛容な国であり、反移民的な態度を人種差別の表れとして、移民政策の厳格化に反対する社会的な風潮も存在する。ただしこういった英国人ですら移民の大量流入に我慢できないという声を多く耳にする。

図表1 世論調査の属性別の比較
(出所)YouGovより大和総研作成

 日本人同様に本音と建前を使い分ける英国人から本音を引き出すことは難しい。

 ある英国人は、「まあ残留に入れるかな?」と淡々とした口調で答えてくれた。ところがその後、急に感情的な声色になり、「だけどね、EUから来るラトビア人やルーマニア人などは英語が全く話せないにもかかわらず、ロンドンで労働ビザ無しで働ける。一方、(英国女王を元首とする英国連邦加盟国の)オーストリア人やニュージーランド人たちは、英語を母語としながらも一定の年収や学歴のポイントがないと労働ビザが出ないので働けない。これは不公平だと思わないか?」と付け加えた。

 日本人である筆者に対し、面と向かって移民に対してNOを突きつける過激な意見を主張したりはしないが、EUからの移民に対して相当な不満が蓄積していることが垣間見られる。彼が当日“離脱”に投票することは明らかであろう。

 英調査会社YouGovによる調査でも若年層(18歳から29歳)のうち残留支持は約7割を超えていたが、若者たちは往々にして投票率が低く、実際の残留票に結び付くかは疑問視されている。特に、親元を離れている若年層が現住所で選挙登録してしまうと、実家に住民票を置いたままごまかしていた地方税(カウンシルタックス:日本の固定資産税の様に住居にかかる。賃貸では持ち主でなく借主が払う)の未払いが発覚し、遡及して払わなければいけない問題に直面するそうだ。このため特に学生の投票行動が制限されるのではないかとの指摘もある。

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「英EU離脱問題、日系金融機関も他人事ではない」の著者

菅野 泰夫

菅野 泰夫(すげの・やすお)

大和総研ロンドンリサーチセンター長

1999年大和総研入社。年金運用コンサルティング部、企業財務戦略部、資本市場調査部(現金融調査部)を経て2013年からロンドンリサーチセンター長。研究・専門分野は欧州経済・金融市場、年金運用など。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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