『世界一受けたい授業』でおなじみの歴史研究家・河合敦さんが、歴史の教科書についてのちょっと驚く事実を明かします。
あの聖徳太子は別の人??
「聖徳太子は、推古天皇の摂政として冠位十二階、十七条の憲法を制定し、遣隋使の小野妹子を派遣した」
「日本で一番大きな古墳は、仁徳天皇陵である」
「日本最古の貨幣は、和同開珎である」
「鎌倉幕府の創立は1192年」
みなさん、これらの文章を読んでどう感じましたか。懐かしいなあ。そうそう、昔一生懸命憶えたよ。…そんな感想を持った読者も多いかも知れません。
もしもあなたが、この文章に何の違和感もおぼえないとしたら、あなたが学校で学んだ歴史は、もう時代遅れと言わざるをえません。
ご存知ないかも知れませんが、教科書は4年に一度改定され、そのたびに大きく内容が改訂されます。それは歴史の教科書も例外ではありません。それもよく話題になる大量虐殺や戦争の解釈などと言った近代史だけではなく、太古の史実についてもかつては常識と思われていたことが、変更されることも珍しくないのです。
たとえば聖徳太子の肖像。40代以上の方なら、昔の一万円札を思い浮かべる人も多いでしょう。ところが、あの太子の肖像は、今の高校の日本史教科書からは消えてしまっているんです。なぜでしょうか?
それはあの肖像が、「太子を描いたものではない」という説が強くなっているからです。あの肖像は法隆寺の『唐本御影(聖徳太子三尊像)』(現・宮内庁所蔵)ですが、これが描かれたのは少なくても太子の没後100年以上経った8世紀半と思われ、太子を描いたという明確な証拠はないのです。
さらに驚くべきは「聖徳太子はいなかった」という説も有力になってきました。研究者の大山誠一氏が「推古天皇の時代に厩戸という皇子はいたが、有力な皇子の一人に過ぎず、政治を主導したわけでもないし、聖徳太子の名で呼ばれたこともない。太子の業績は『日本書紀』で創作だ」といった研究成果を発表したのが発端です。この説は学界で定着しはじめ、その結果、いまの教科書では、次のように記されています。
「推古天皇が新たに即位し、国際的緊張のもとで蘇我馬子や推古天皇の甥の厩戸王(聖徳太子)らが協力して国家組織の形成を進めた。603年には冠位十二階、翌604年には憲法十七条が定められた」(2012年検定済『詳説日本史B』山川出版社)
いかがでしょうか。なんと、聖徳太子は、厩戸王と記され、推古天皇の協力者扱いに降格されてしまいました。しかも摂政とも皇太子とも記されておらず、単に天皇の「甥」とあるだけなのです。
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