「お前ただのデブだろ。俺はだまされねーぞ」「偉そうにしやがって」。5月のある火曜日午後11時すぎ、東京西部を走る私鉄の車内。マタニティーマークをつけた妊娠7カ月の私が、目の前の男性に席を譲ってもらった際、その隣に座っていた男性から言われた言葉だ。なぜそんな敵意が生まれるのか? 妊婦に気をつけることはあるのか? 考えてみた。(朝日新聞東京本社社会部記者・中田絢子)
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敵意を向けてきた隣の男性は、白髪交じりのごま塩頭でおそらく50代。半袖のシャツにグレーのスラックス姿で、酒に酔った様子ではなかった。席は優先席。外見からは、けがなどをしているようには見えなかった。
この男性は私が最寄りの駅で電車を降りるまでの間、同様の言葉を繰り返し、席を譲ってくれた男性も戸惑ったような笑みを浮かべた。大きなトラブルになるのを避けたかったため、私は笑顔で沈黙することにした。最寄りまでの10分余りが長く感じた。
お腹が重くなり、バランスを取りづらくなってきたため、揺れる電車内では少しの時間でも座れるとありがたい。しかし、これしきの時間なのだから座らなければよかったなと後悔した。
マタニティーマークが出来て10年目ということが話題になった昨年、朝日新聞紙面などで「反感を持たれそう」として使用を控える人がいると知り、妊婦ではなかった私は半信半疑だった。
その数カ月後に妊娠し、マタニティマークをつけるようになったが、今回初めて露骨に敵意を向けられ、「本当にあることなんだな」と実感した。
マタニティマークは、妊婦を受動喫煙から守ったり、交通機関や職場での配慮を求めたりするためのマークだ。最近では「席を譲って欲しい」とアピールするためのマークだと受け取られ、様々な事情を抱えた人が乗り合わせる電車内で反感が広がっているように思う。
また、経済的、身体的な理由から子どもを持つのが難しい人たちがいる中で、好きな仕事を続けながら子どもを持てる環境は恵まれており、「望んで妊娠したのだから、周囲に配慮を求めるのはおかしい」と思う人がいるかもしれないとも考えた。
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