教科書をめぐる不公正な営業活動が、小中学校だけでなく、高校にも及んでいた。

 「大修館書店」がこの春、自社の英語の教科書を使う5都県の14高校に、問題集約1500冊を無償で配っていたことが明らかになった。

 高校の教科書は公立の場合、地域で同じ教科書を選定する小中とは違い、各校が自ら選び、教育委員会が追認している。

 同社は選ぶ側の高校に直接、物品を提供したことになる。

 教科書は質で選ぶのが原則だ。内容より営業力が決め手となるのは好ましくない。

 そのため、業界団体の「教科書協会」もルールで選定関係者への金品提供を禁じ、具体例として「教材」も挙げている。

 同社は「ドリルの在庫が残っていたので、役立てて欲しいと渡した」と言うが、ルールを自ら破ったことになる。

 受け取った学校も問題だ。選ぶ側として自覚を持ち、利益供与を受け入れるべきではない。

 深刻なのは、この行為が、小中の教科書会社が教員らに謝礼を渡していたことが発覚した後に行われたことである。

 営業担当の社員が小中と高校は別と考えていたとしたら、危機感があまりに乏しい。

 同社の社長は立て直しに向けて協会の会長に就任したばかりだが、辞任を表明した。

 協会は現在、新たなルールづくりを進めている。よほど実効性のある内容にしなければ、失った信用は取り戻せまい。

 文科省は一連の謝礼問題を受けて小中の会社のみを調査したが、今回は高校の全社を対象にする。徹底的に調べてもらいたい。

 小中の問題については、公正取引委員会が独占禁止法違反の恐れがあるとして、金品の提供をやめるよう9社に警告する方針だ。

 全社が、この警告を自らの問題として受けとめてほしい。

 教科書選びをめぐっては、100年以上前から不祥事が起きている。

 1902年には選定をめぐる汚職が一斉摘発され、三十数府県の関係者100人以上が処罰された。「教科書疑獄」である。これによって多くの教科書が使えなくなったこともあり、国定化への道が開かれた。その歴史を忘れるべきではない。

 少子化のなかの販売競争は、会社にとって、生き残りをかけた戦いに違いない。

 だが、どんな背景があろうとも、教科書への信頼を損なう行為は許されない。各社はそのことを肝に銘じて欲しい。