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護憲か、改憲か? 4人の論客の「憲法9条案」を比較する

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■井上達夫氏の考える「10年後の憲法9条」

井上達夫氏
第9条 (1項、2項ともに削除)

(第3章 国民の権利および義務)
第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合、および第30条の2により、兵役に服するか、良心的兵役拒否権を行使して代替公役務に服する場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

(第3章 国民の権利および義務)
第30条の2 安全保障のために戦力の保有を法律で定めた場合は、兵役に服する能力のある国民はすべて、法律の定めるところにより、一定期間兵役に服する義務を負う。第14条第1項は兵役義務にも適用される。
2 兵役に服する国民は軍事訓練に加えて、この憲法と国際法の諸原理の理解を徹底させるための研修を受けなければならない。
3 自己の良心に基づき、兵役を拒否する権利は、これを保障する。この権利を行使する者は、消防、災害救助活動、その他法律で定めるところの、これらに準じる負担を負う非武装の代替公役務に服さなければならない。


(第4章 国会)
第59条の2 安全保障のために戦力を保有するか否か、又、戦力の編成と運営および軍事裁判に関わる事項は、法律により定める。法律で戦力の保有を定めるには第30条の2にしたがって、国民皆兵制と、良心的兵役拒否の代替公役務をも法律で定めなければならない。
2 前項の法律案については第59条第4項を適用しない。
3 武力行使は、衆議院と参議院の緊急合同国会における出席議員の過半数の賛成による承認を要する。


(第5章 内閣)
第66条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならない。法律で戦力を設置する場合、内閣総理大臣は、その最高指揮官となる。武力行使は、閣議で決定した上で、第59条の2第3項による緊急合同国会の承認を事前に得なければならない。

(第6章 司法)
第76条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、第59条の2第1項により法律で定められた軍事裁判を行う機関を除き、これを設置することはできない。行政機関は終審として裁判を行うことはできない。上記軍事裁判機関の判決に対しても、それに不服ある者は通常裁判所に訴えることができる。

(第8章 地方自治)
第95条 一の地方公共団体にのみ適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することはできない。
2 外国との安全保障条約により、我が国土内に外国の軍隊を駐留させる基地を設置する場合には、その外国軍隊の処遇に関する当該国との地位協定に基づく基地の設置は、当該国の基地が設置される地方公共団体の住民投票においてその過半数の同意を得なければならない。

私が言いたいのは、「憲法を守る」と誓っているはずの護憲派が憲法を無残に裏切っているということだ。世界有数の武装組織である自衛隊が「戦力」ではないというのはウソだし、もし日本が侵略されたときに、世界最強の戦力である米軍と合同して戦うのが「交戦権の行使」ではないというのはバカげている。

これは「解釈改憲」そのもの。僕が言うところの修正主義護憲派は、自分であからさまな解釈改憲をやっておきながら、集団的自衛権の行使だけは解釈改憲だと言っている。

もう一つ、「自衛隊と日米安保条約は存在することも違憲だ」「非武装中立しかダメだ」という原理主義護憲派は、「政治的には専守防衛のための自衛隊と安保は必要だ」と言っている。でも、違憲だと言い続ければ、専守防衛あるいは個別的自衛権の枠内で自衛隊を維持するのに有利だと考えている。

こちらは、修正主義護憲派以上に憲法を裏切っている。これは、エセ原理主義護憲派、あるいは、疑似原理主義護憲派と呼ぶべき。いまはピュアな原理主義護憲派が本当にいるかといえば、疑わしいと思う。

私の改正案を見てほしい。「憲法9条削除論」を唱えているが、9条を削除して終わりではない。今回登壇している長谷川さんの改正案は4行、伊勢崎さんは9行しかないが、私の改正案は2ページもある。

私の考えでは、「非武装中立か」「武装中立か」「個別的自衛権の枠内にとどまるか」「集団的自衛権か」あるいは「国連中心の集団安全保障がいいか」という安全保障政策の基本は憲法で凍結してはいけない。日々、立法過程の中で議論しつづけるべきだ。

ただ、憲法では、戦力が濫用されないように戦力統制規範を定めるべき。これを定めたのが、私の憲法改正案。だから長い。その中には徴兵制もあるが、仮にそこにいかなくても、最低限、シビリアン・コントロールを憲法で定めるべきだ。

文民である首相が軍隊の最高指揮命令権をもつということや、武力行使は国会の事前承認が必要ということすら、現行憲法では定められていない。それはなぜかというと、9条があるおかげで、日本国憲法上、戦力が存在しないことになっているから。憲法上存在しないはずの戦力を統制する規範を、憲法がもてるわけがない。

だから、私は「9条削除論」。少なくとも、伊勢崎さんの新9条のようなものを定めるべき。そのうえで、戦力に対する統制規範をはっきりと憲法条文として定めるべき。だから、私の改正案は長くなっている。

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