伝説のラップグループ「N.W.A.」の真実を描いた音楽伝記映画。カリフォルニア州コンプトンでドラッグ業を営むイージー・Eは、DJのドクター・ドレー、ラッパーのアイス・キューブたちとラップグループを結成し、一躍スターダムにのし上がるが…。
伝説的ラップグループN.W.A.の栄枯盛衰を描いた「ストレイト・アウタ・コンプトン」は公開週に全米で興行収入一位を獲得。
今の「要するに『フリースタイルダンジョン』でしょう?(via菊地成孔)」な日本の局地的ラップの盛り上がりの中でこの映画を観るひともいるだろうけれど、ある程度の事前知識(コンテクスト)がある方が楽しめる気がする(もちろん無くても観れる)。
そこでギャングスタラップをほぼ聞かない自分ですら知っている幾つかの予備知識を。
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ギャングスタラップ
ラップの歴史で言えばゴールデンエイジ(Run-D.M.C、パブリック・エネミーetc)やニュースクール(ATCQ、デ・ラ・ソウル、ブラックシープetc)などが盛り上がる中、ギャング団であるクラップスに所属していたアイスTがストリートの暴力的な日常を歌ったのがギャングスタラップの嚆矢と言われる。
N.W.A.は、カリフォルニア州南部コンプトンで結成。
ギャングスタラップはNWAと共に一世を風靡することになるが、暴力やドラッグなどを歌う過激な内容から大きな反発を受けることになる。
ロサンゼルス暴動
スピード違反を犯し逮捕されたロドニー・キングを数十人の警官が暴行。
さらに黒人少女ラターシャ・ハーリンズが射殺される事件が発生。
ロドニー・キングを暴行した警官らに無罪の評決が出たことを切っ掛けに暴動が起きる。
暴動は6日間続き、政府は州兵を動員。死者53人、負傷者約2,000人。
放火件数は3,600件、崩壊した建物は1,100件。
被害総額は8億ドルとも10億ドルともいわれている(ロサンゼルス暴動 - Wikipedia)
暴動が起きるような時代背景の中、抑圧された黒人の怒りがギャングスタラップの暴力性に繋がっている。
シュグ・ナイト
劇中、Drドレーはシュグ・ナイトと共にデスロウレコードを立ち上げる。
ところがこのストリートギャング出身シュグ・ナイトは黒い噂ばかり。
中でもこの
"一発屋"ヴァニラ・アイスと"悪党"シュグ・ナイトのこわい話 : matsu & take
Mario ‘Chocolate’ Johnsonというラッパーが、ヴァニラ・アイスの大ヒットアルバム「To The Extreme」の、"Ice Ice Baby"を含む12曲中7曲の制作に手を貸したのに金をもらっていない、あれは俺の曲だ、とシュグ・ナイトに相談を持ちかけました(この訴えが正当なものかどうかは不明)。
Johnsonの旧知だったシュグ・ナイトはこの話を聞いて、ヴァニラ・アイスが食事をしていたレストランに数名のボディーガードとL.A. Raiders所属のフットボール選手を引き連れて乗り込みます。
death row records logo人気絶頂だったヴァニラ・アイスはボディーガードを連れていましたが、シュグ・ナイトのボディーガードに簡単にやられてしまいます。食事をしていたヴァニラ・アイスの向かいの席にシュグ・ナイトがドカっと腰をおろして一言「How You Doin'?(調子はどう?)」。
同様の出来事が何度も起こり、最後にはヴァニラ・アイスが宿泊していたラスヴェガスのホテルの15階にシュグ・ナイトがあらわれます。
何も知らずにヴァニラ・アイスが部屋に入ると、後ろでドアが閉まり、部屋の中にはなぜかシュグ・ナイトとその一味。ヴァニラ・アイスのボディーガードはさっさと殴られて銃を突きつけられ泣き叫ぶのみ。たった一人で部屋のバルコニーに連れ出されたヴァニラ・アイスは、くるぶしを掴まれて15階のバルコニーから吊り下げられます。シュグ・ナイトは語りかけます。「お前はこの書類にサインをする。 そんで、俺の地元に来てライブして、俺にひと稼ぎさせてあげたくなってきた。だよな?」。「はい、そのとおりです」とヴァニラ・アイスはサイン。
……やってることがヤ○ザそのものですが。
そんなシュグ・ナイト及びデスロウレコードに嫌気が差し、Drドレーはデスロウを離れる。
その後、スヌープドッグ、2パックを擁するデスロウは発展を遂げるわけですがスヌープドッグは麻薬所持などで何度も逮捕され、2パックは銃弾を受け東西抗争の中で殺害される。
日本の強面役者は幾らヤ○ザっぽくてもプライベートは一般人ですが、ギャングスタラップ界隈はストリートギャング出身などが多いのでギャングスタというのが看板だけじゃなくホンモノ。
前田日明のTHE OUTSIDERみたいなものを想像してもらえば(違
ICECUBE
アイスキューブはN.W.A.を脱退後、パブリック・エナミーのプロデューサーチームThe Bomb Squadと手を組みアルバム「Amerikkkas Most Wanted」を発表。
そのあとは役者としても活躍。
最近はこんなコメディ映画↓にも出てるらしい
※アイスキューブは、サングラスをかけてる先輩警官役
ちなみに今回、劇中でアイスキューブ役をやっているのがアイスキューブの実の息子。
知らずに観たので「よくこんな似た役者見つけてきたなー」と思ってたらDNAが混ざってた。
最後に
「ストレイト・アウタ・コンプトン」はストーリー自体はよくある「結成→隆盛→脱退と空中分解」という展開。
この辺はATCQだって同じような路線を辿ってる。
ラップによるドロップイン*1のアメリカンドリームな物語。
ただアメリカの中においてギャングスタラップというものが、どういう時代背景で生まれてきたのか、が非常によくわかる。
あとシュグ・ナイトはもっとエグいらしい。
興味のある方は是非一見の価値アリの作品かと。
*1:アメリカの社会においてラップ音楽は社会へドロップ・インするための手段でだからメイクマネーなど社会的成功を歌う。パンクがドロップアウトの音楽であるのとは逆