宇多丸:「映画館では、今も新作映画が公開されている。
一体、誰が映画を見張るのか?
一体、誰が映画をウォッチするのか?
映画ウォッチ超人、シネマンディアス宇多丸がいま立ち上がる——
その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」
TBSラジオで毎週土曜日、夜10時から2時間の生放送『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』。
その中の名物コーナー、ライムスター宇多丸が毎週ランダムで決まった映画を自腹で観に行き、評論する「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ここではその文字起こしを掲載しています。
今回評論する映画は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年4月29日公開)です。
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宇多丸:
今夜扱う映画は先週「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画。本日、光岡(三ツ子)先生もそこにいるし、アメコミ大好きPUNPEEも「楽しみにしています」とか言ってプレッシャーをかけてきて、本当にやりづらい! 『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』。
(BGM:テーマ曲が流れる)
マーベルコミック原作の『キャプテン・アメリカ』シリーズの第3作。マーベルヒーローが集結した『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』の1年後を舞台に、キャプテン・アメリカとアイアンマンという二大ヒーロー同士の戦いが描かれる。監督はアンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ。主演はクリス・エヴァンス、ロバート・ダウニー・Jr、スカーレット・ヨハンソンらというかね。枚挙にいとまがないというか、オールスターキャストでございます。ということで、まあね、ようやく当たったということでね、みなさん『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』をご覧になった方も非常に多いでしょうけど。
実際、この番組で扱ってくれという声も本当に多くてですね、この映画を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいているんですが、とにかくメールの量が本っ当に多い! 本当に、正真正銘、今年の最多かもしれません。賛否でいうと賛が8割。普通とダメが2割。「マーベルシリーズが積み上げてきたものが結集したシリーズ最高傑作」「対決する2人のヒーロー、どちらの言い分にも納得できる。あと、アクションがとにかく最高」「たくさんの要素をシンプルにまとめていて見やすかった」など絶賛の声、多し。一方、「キャラクターが多すぎてそれぞれが薄まってしまった」「ストーリーがあんまり進まない」「キャプテン・アメリカが行動する動機に納得ができない」などの否定的意見もございました。
代表的なところをご紹介いたしましょう……
(メール紹介、中略)
ということで、『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』、ようやく当たりました。なかなかガチャ当たらずで、公開規模がもうだいぶ縮小してからようやく、ね。ずっとガチャのカプセルに入れていたんですけど。もちろん、カプセルが当たる前に私は見ていたんですけど、「当たったらまた見よう」とか思ってボケッとしている間に、IMAX 3Dとか上映が終わっちゃったりして。結局字幕2Dでしか……でも3回、一応見てまいりましたけど。でも、すいません。IMAX 3Dを見ていないのは痛いな。IMAXで撮っている場面とかありますからね。
ということで、先週ようやくリスナーメールで当たりました。で、そのメールでもね、「童貞(※キャプテン・アメリカのことを指していると思われる)はお嫌いですか?」という非常に厳しいご指摘、お叱りの声をいただきましたけど。嫌いじゃないですよ。マーベル・シネマティック・ユニバース。もう、このマーベル・シネマティック・ユニバースの説明はいいですね。とにかく、好き嫌い、評価とかは別にしても、間違いなく現行のエンターテイメント映画の世界の中ではもう台風の目っていうところまで来ましたよね。のちほど、光岡先生をお招きしてのアメコミ映画特集で詳しくそのへんもうかがえると思うんですが。
なんだけど、とにかくマーベル・シネマティック・ユニバースの作品群、他はガチャでも割と当たっていて。『アイアンマン』なんか全部当たっているし、『アベンジャーズ』も2作とも当たっているし。『(マイティ・)ソー』は当たってないけどね。っていう感じなんだけど、“キャップ”ことキャプテン・アメリカ。今回の『シビルウォー』を含めて3作。これまでの2作は全然(ガチャが)当たってなくて。
今回も下手すると3作とも当たらないことに、確かになりかねなかった。でも実は、マーベル・シネマティック・ユニバースの中でもこのキャップ、キャプテン・アメリカの物語ってある意味背骨っていうか、結構重要な芯になっていますよね。いまやね。
っていうのも、そもそもキャプテン・アメリカ。彼こそがマーベル。アベンジャーズとかのいろんなメンツの中でいちばん、最もアメコミヒーローらしいヒーローっていうか。アメコミヒーローのちょっと原型的な形に近いというかね。まあ、DC(コミックス)で言えばスーパーマン的なというかさ。で、1作目。『ザ・ファースト・アベンジャー』。ともすると、ねえ。キャプテン・アメリカっつって、もともとは戦意高揚的なキャラクターですから。ただ時代錯誤的にもなりかねない、「正統派アメリカンヒーロー」を、2011年の映画版1作目『ザ・ファースト・アベンジャー』は映画のスタイルとして、第二次大戦の戦争アクションものみたいな感じで、適度に現代的再解釈を加えつつ、でも割とストレートかつ現代風にちゃんとやっていた。再解釈も適度にやり過ぎず入れていて、僕は「『キャプテン・アメリカ』でこんなちょうどいい着地があるんだ、すごい!」っていうぐらい感心しました。非常に好きな1作目なんですけども。
ちなみに脚本は1作目から今回の『シビルウォー』に至るまで、3作通じて同じコンビ。クリストファー・マルクスさんとスティーヴン・マクフィーリーさん。この人たち、いろいろ書いているんだけど、『ペイン&ゲイン(史上最低の一攫千金)』もやっていますね。僕のマイケル・ベイ最高傑作、『ペイン&ゲイン』の脚本もやっていますけども。で、そのキャプテン・アメリカ、もともとは正統派アメリカンヒーローだったんだけど、時代の変化によって彼自身の思想、信条みたいなものはブレていなくとも……というよりは、彼自身がブレていないからこそ、ある意味時代の変化によって180度立場の転換を余儀なくされていくっていうのが、2作目にしてマーベル映画史上でもトップクラスの傑作なのは間違いないでしょう、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』。この1個前ですね。2014年。
で、そこから今回の『シビルウォー』に至る流れ、というのがあると思います。まあ要は、本来だったら政府側の意向に沿って活動しているはずのキャプテン・アメリカが、アメリカの理想というところに忠実であると、今度は政府と敵対する側になってしまう、というあたりですね。つまり、そのキャプテン・アメリカの歩みっていうのはそのまま、ある種アメコミヒーローのあり方の変遷史っていうか。もともとは結構無邪気に、それこそ無邪気に“勧善懲悪”していたんだけど、もうそうもいかなくなってきた、という流れをキャプテン・アメリカ自体が体現しているということですね。
その意味でも、さっき言ったようにマーベル映画の中でも非常に物語的な芯をなしているという。1個芯が通っているとしたら、キャプテン・アメリカの物語であろうと。で、特にやっぱりいま言った通り、とにかく『ウィンター・ソルジャー』っていう作品が素晴らしすぎてっていうことですね。監督に抜擢されたアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟という方。いろいろと撮られていたりするんだけど、おそらくは、テレビシリーズ的な群像劇のパズルをうまくまとめあげて演出できる手腕を買われたっていうことだとは思うんだけど。まあ『アベンジャーズ』のジョス・ウィードンとかもそうなわけですけどね。
言うまでもなく、そのテレビシリーズ的な群像劇のパズルっていうのはいま、マーベル映画をはじめ多くの……まあ、『スターウォーズ』の今後のフランチャイズもそうでしょうけど、間違いなく、今後どんどんエンターテイメント映画はそっちに振れていくであろうという流れ。これ自体がいいことか悪いことかっていう判断はいま、この時間では置いておきますけども。まあ、その手腕を買われたんだとは思うけどね。長編デビュー作になるのかな、この『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』っていう犯罪映画も、まあコーエン兄弟風群像劇っていう感じではありましたけども。
この兄弟、なにが監督として素晴らしいか。特に『ウィンター・ソルジャー』を手がけて素晴らしいって、後ほどまた詳しく言いますけども、アメコミ原作ものとして求められるそのツボに割ときっちり応えていくと。で、ある種のジョス・ウィードン的な「交通整理力」ですね。「この要素とこの要素とこの要素を入れ込んでね。このキャラクターを立ててね」って、そういう交通整理力、ジョス・ウィードンは半端ないですけど。そういう力に加えて、それらをしっかり、とにかく「映画」にしていく。ものすごい映画にしていく力があるんですよね。
たとえば、やっぱりアクションシーンの設計、見せ方ですね。本当に上手いという感じだと思います。特に『ウィンター・ソルジャー』はですね、ロバート・レッドフォードのキャスティングにも表れている通り、全体としては70年代の硬派なポリティカルサスペンス風タッチなわけですね。それがですね、さっきちょっと言ったルッソ兄弟のサスペンス、アクション演出に加えてですね、物語上最終的に浮かび上がる、敵であるヒドラ(ハイドラ)党っていうのが、非常に現代的なファシズム像に進化を遂げていると。そしてそれが、大人が見てアホらしくない敵像としてちゃんと描けている。『ウィンター・ソルジャー』は。この感じが、全体のルッソ兄弟の演出の硬派な、硬質なタッチとはまっていて、本当によかったと思います。
という意味で、『ウィンター・ソルジャー』は「アメコミ映画」としても、「映画」としても……ねえ。アメコミ映画としても、映画としても、非常に高い完成度に達していたということだと思います。このね、「アメコミ映画として」っていうのと、「映画として」っていうのが分離しているから即ダメっていうことでは、ないんですよ。たとえばそれが分離しているタイプに、ザック・スナイダーという人がおりまして、はい。ザック・スナイダーさん。これは、ダメだって言ってるんじゃないよ。ザック・スナイダーさんは、やっぱりアメコミ的な<キメ画>。限りなく止め画ですよね。キメ画の連なりがやりたい。だから、動きの連なりじゃないわけです。つまり、日本のマンガと違う、アメコミのコマの連なり感がありますよね。アメコミのコマの、あの動きの感じを映像にそのままトレースしたのがザック・スナイダーの映画なため、まあアメコミの映像化っていう意味では、これが忠実なんですよ。だから、彼にとってはやっぱりあれは正解なんだよね。きっとね。
なので、どちらが偉いと決めつけているわけではありませんが、とにかく対照的ですよ、本当に。今回の、それこそ一般市民に被害が出ちゃったからなんとかしましょう、なんていう物語の発端は、本当に似ているんですよ。『バットマン vs スーパーマン(ジャスティスの誕生)』と。問題設定は似ているんだけど、非常にやっぱりアプローチは対照的。
ルッソ兄弟はあくまでもやっぱり、たとえばアクションだったらキメ画の連続で、間はまあまあまあ……みたいなことではなく、ルッソ兄弟はアクションシーンを「動き」と「空間の連なり」として、つまりは“映画的”に構築していくわけです。それをシーン全体として構築していく。そうするとやっぱり、あくまでこれは映画としての評価としての差が出るのは、これはしょうがないよねっていうことです。目指しているところが違うんだから、ということだと思います。
ただ、その意味では今回の『シビルウォー』、前作の『ウィンター・ソルジャー』に比べて、処理しなきゃならない要素が何倍かに増えている。いま考えれば、『ウィンター・ソルジャー』はすごくシンプルな話で済んだわけだけど、今回は『ウィンター・ソルジャー』の続編というだけではなくて、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の事実上の続編でもあると。なんたって、もうその『エイジ・オブ・ウルトロン』っていうのはね、前の評の時は、ポスターにまだ出てなかったので名前を伏せましたけども、ヴィジョンっていうキャラクターを有りにしちゃった、ちょっと一線を踏み越えた1作だと僕は思っていて。
要するに、モロに漫画! みたいなキャラクターを有りにした作品の事実上の続編でもあり、さらにはそこから続く次の『インフィニティ・ウォー』二部作っていう、間違いなくマーベル映画のクロスオーバー──いろんな人が混ざるという『アベンジャーズ』以降の、もう完全に極限ですよね。これ以上はたぶん無理っていうやつの二部作へのブリッジでもあると。それを満たさなきゃいけないため、つまりは処理要素がいま言っただけでもめちゃめちゃ多いわけですよ。キャラクターも多いし。『ウィンター・ソルジャー』に比べてもう倍どころの話じゃない。もう数倍になっている。
なので、ぶっちゃけ『ウィンター・ソルジャー』よりは、単体の映画として、当然のことながら多少ガチャガチャはしています。単体の映画としての完成度が云々、っていう映画じゃない。その多少のガチャガチャと、それでもそれを可能な限りスマートにまとめあげる驚異的手腕。つまり、「祭り」と、その「祭り」をまとめあげる手腕を楽しむタイプの……だからその、『アベンジャーズ』的な楽しみ感もやっぱり当然含まれるということですね。とはいえ、今回もやっぱり僕が何より感心したのは、ルッソ兄弟のアクションシーンの組み立て方。特に、空間の使い方が本当に上手い。
たとえばですね、キャプテン・アメリカ。キャップがかつての友人だった、いまはウィンター・ソルジャーという暗殺者となってしまったバッキーの部屋に行く。そうすると、そこに特殊部隊が襲いかかってきて、からの逃走劇。そこに、今回はじめて出る新しいヒーロー、ブラックパンサーというね、まあ(『バトルフィーバーJ』の)バトルケニアと(『サンバルカン』の)バルパンサーを混ぜたようなですね、系のかっこいいやつが出てくるわけです。ちなみにこのブラックパンサーの単体作の監督はあの! あの、名作『クリード』のライアン・クーグラーということで、本当に超期待してるんですけど。とにかく、ブラックパンサーが絡んでくるという一連のシーンがあります。途中でね。
最初、そのバッキーの部屋に2人がいる。で、そこに襲ってくる。暗く狭い室内。狭い空間での、まずぶつかり合いバトル。これ、『ウィンター・ソルジャー』の中のエレベーターの中のバトルがありましたね。あれにも通じるような、狭い……で、今回は暗いところで、前回のエレベーターともちょっと差別化ができている。そのバトルからの、今度はボーンと表に出て、階段とその吹き抜け。要するに縦の、パイプ状の空間を使ったアクションに今度は移っていく。からの、今度は戸外にポーンと飛び降りますよね。最初にバッキーがポーンとリュックを投げるんで、そこでまず意識がそっちに行っているところに、ポーンと飛んで。まず、上から下への動き、からの屋上にそのブラックパンサーがいて、軽く格闘してからの、今度は高速(道路)でのチェイス、追っかけっこになっていくという。
つまり、今度は横方向の速い動きになっていくっていう風に、ルッソ兄弟のアクションは常に非常に「視覚的にこういう特徴がありますよ」っていうわかりやすい空間を、効果的につながった見せ方で、それをポンポンポンポン重ねていくっていうやり方をいつもしていて。これがやっぱり、「映画」ですよね。映画しかないっていう感じの見せ方ですし。しかも、そのアクションの連なりの中で、それぞれのキャラクターの立ち位置とか個性のようなものを、時にギャグとかを込みで入れ込んだり。あるいは、なんらかのストーリー的な進行をその、たとえば追跡劇なりなんなりに直接リンクさせていったり。とにかく、語り口の効率がむちゃくちゃいいですね。語り口のテンポがいい。無駄がない。
アクションシーンの間、お話が止まってしまうタイプの映画っていうのもすごく多いんだけど、ちゃんと映画が止まらないように気を使って作っているアクションシーンですね。で、そういうルッソ兄弟の上手さの集大成のような名シーンが、間違いなく今回の『シビルウォー』の白眉でしょうけども……みんな、これが見たくて見ているっていうことでしょうけども……閉鎖された空港内での集団ヒーローバトル。松山市でも喧嘩祭りっていうのがあったみたいですけど、ドイツでもヒーロー喧嘩祭りをやっているぞと。『デストラクション・ベイビーズ』ですよね。デストラクション(破壊)してますね。
まず、マーベル作品ってとにかくこういうキモになるシーン。大抵、真っ昼間なんですよね。ちゃんと晴天下でやってくれるから、まずヒーロー同士の戦いっつっても、あんまり陰惨にならないっていうのはこれ、晴天なのもあると思うんですよ。カラッと晴れているので、カラッと見れるっていう。まあ、先ほどもちょろっと言いましたけど、原作というか原案のコミック版の『シビルウォー』と違って、そのヒーローの管理を巡る思想的決裂っていう面は、実はそんなに引っ張られないんですよね。そんなにそこは焦点にならないので、ここ、人によっては「ええっ?」って物足りなくなるあたりだろうし、「焦点、ズレてない?」っていうあたりかもしれないけど。まあ、少なくとも気楽に見るには結構いいことになっていて。
で、その見やすさっていうのをとにかくマーベル映画は常に気遣っていて。映画としての見やすさ。『アイアンマン』の1作目の評でも僕、言いましたけど。たとえば、位置関係であるとか。その前のね、空港でまずバトルが始まって、スパイダーマンとファルコンとバッキーの、構内の横のパイプ状空間を使ったバトル。あれも空間の使い方の上手さは言うに及ばず。今回なんか特にですね、お互いに揃ってチーム同士全員で正面衝突してバーン!って乱戦になる。なってからは、画面上、たとえばこれがマイケル・ベイだったら間違いなく、どこがどこやらなにがなにやらになってしまうのは、もう必至じゃないですか。
誰がやっても、そういう風になってもおかしくないような場面なのに、ここはやっぱり上手いのはですね、とにかく最初に「あの格納庫までたどり着く」っていう、つまりA地点にキャップチームがたどり着けばキャップチームの勝ち、それを阻止できればアイアンマンチームの勝ちっていう、ほとんどアメフト的な、ものすごーく単純化された位置関係とルールが最初に設定されるんですよ。そのバトルの手前のところで。しかも、ご丁寧にぶつかり合う前に、ヴィジョンにこうフーッて。「はい、線ひいて、はい。スポーツ、前ね。はいはいはーい! はい、ここから出ないでね!」みたいな。そんなことまでやるので、本当に見やすい工夫がされていると。
なので、どれだけグルングルンとカメラが動き回ろうが、何がいま争われているのか? ということね。あと、途中にもちろんこれ、ネタバレしないようにしますけど、途中であっと驚く大仕掛けとかがあっても、やっぱり混乱しない。何がいま争われているのか?っていう。これは言ってみれば、僕の造語ですけど、「映像的論点」「映像的争点」が明確な見せ方を常にするわけですよ。これは『アベンジャーズ』以来ずっとそうですけど。たとえば、あるキャラクターのアクションから次のキャラクターのアクションが要所要所でひとつのショットの中で、流れで扱われるので、動きや空間がちゃんとつながって感じられるし、チームとしての連携感、もしくは、今回の『シビルウォー』でいえばバトルロイヤル感もちゃんと感じるっていうのは、これは『アベンジャーズ』以来、マーベルのクロスオーバー作品は本当に上手い見せ方だし。
そして、前回の『ウルトロン』から顕著になりましたけど、アメコミ的キメ画ショットもちゃんと押さえるべきところはちゃんと押さえている。全員がワーッて並んでいるショットとか、たとえばアイアンマンとキャプテン・アメリカが向い合ってガーッて対峙しているとか、そういうほしいショットはちゃんと押さえている。なんだけど、やっぱりこれもルッソ兄弟の場合、止め画的な扱いはしないんだね。やっぱり走っているとか、アクションの一環とか、かならず動きの一環として見せる。本当に映画的な資質っていうことだという風に思うんですけどね。
まあ、ラストバトルね。たとえばさ、キャップとバッキーの無言の連携プレー。もう盾をボンボンってやりあって、やっぱり1作目からの流れから考えると、あの無言の連携プレーだけでちょっと泣けてくるみたいなのが本当に上手いなと。アクションでキャラクターを描くのが上手いなと思いました。あるいは、一方、普通の会話シーン。たとえばファルコンとバッキーのある種の恋の鞘当て。どっちがキャップを取るか? みたいな。あと、あの3人の男の子感みたいなのとかさ。今回で言えば、ヴィジョンのちょっと純情な感じね。コミックだと、スカーレット・ウィッチとくっつくっていうのがありますからね。
短い時間の中で、しっかりキャラクターごとの機微を……あ、あと、新しいスパイダーマンだよね。ちゃんと『アイアンマン』の世界観側の方にポップにフィットさせたっていう。わざわざね、おじさんが死ぬところとか見せないで本当によかったっていうね。『COP CAR/コップ・カー』のジョン・ワッツさんが次の『スパイダーマン』の監督ですからね。本当に楽しみですけどね。ということで、本当に手際が鮮やかだと思います。キャラクターのことを短い時間で立てていくのは。
ちょっと話の順番が前後してしまいますけど、その『ウィンター・ソルジャー』譲りの硬派サスペンスタッチみたいなのもちゃんと引き続きあって。前作がさっき言ったように70年代ポリティカルスリラータッチ。『大統領の陰謀』とか『コンドル』とか風だったのに対して、今回はね、途中でトニー・スタークのセリフにもありましたけど、『影なき狙撃者』とか、あとドン・シーゲルの『テレフォン』とか。要は催眠暗示テロリストものっていう、ちょっとしたサブジャンルがありまして。そういう設定からの、これは監督たちもインタビューで出しまくっているので言っちゃってもいいと思うけど、まあ、実は『セブン』的な、サイコホラーっていうよりは、要は「超・手の込んだ罠もの」っていうことだと思うんですけど。
なので、今回の映画版だと、ソコヴィア協定ですか。まあ、超人管理法ですよ。コミックで言う。そういうイデオロギー同士のぶつかり合い——まさに、だから「シビルウォー(南北戦争)」なわけだけど——という面は、実はそんなに作中では掘り下げられるわけではないっていうことですね。で、『ウルトロン』でね、起こった騒ぎは本当に実質トニー・スタークの責任多すぎなので、お前は本当に反省した方がいいぞっていうね。一方、「キャップが勝手に見える」っていうのは今回の作品だけだとそう見えるかもしれないけど、『ウィンター・ソルジャー』からの流れだと、「組織なんて本質が腐敗もしてしまうんだ」みたいなのが、流れでちゃんと続編として見ると納得できるなと思います。
まあ、罠もこの手のものとしてはちゃんと手順がロジカルに考えぬかれていると思うけど、ただ惜しいと思うのはですね、トニー・スタークのお父さん、ハワード・スターク。非常に重要な人物ですけど、ジョン・スラッテリーさんっていう人が『アイアンマン2』と『アントマン』でも出てきますけど。が、演じてるんだけど。『キャプテン・アメリカ』のタイムラインでは1作目も2作目も、ドミニク・クーパーが演じていて。まあ年齢的な差があるとしても、同一人物には全然見えねえよ!っていう。これ、トニーと、キャプテン・アメリカの、お父さんを挟んだコンプレックスっていうのが非常に物語上のキーになっているだけに、うーん……ちょっともったいないな。おそらく、『ウィンター・ソルジャー』の時点では、今回のオチは考えていなかったっていうことだとは思う。あとは、ドミニク・クーパーのギャラがたぶんテレンス・ハワードと同じようにモメたっていうことかもしれませんけども。これ、ちょっと惜しいなと。
で、それはいいとしても、トニー・スタークさんね。「お前、この野郎!」ってなるその人に責任能力がないことは一応知った上でなんだから、やっぱりその、まんまとっていう感じがね。その『バットマン vs スーパーマン』でも、まんまと感がちょっと若干ガキっぽく見えなくもないかな?っていう感じはしましたけどね。とにかくですね、あと、やっぱり2時間半が長く感じる瞬間っていうのはありますよ。刑務所に寄ってね、ファルコンと話をするだけの場面なのに、刑務所がズバーンと海から上がってきた瞬間ね、「うん。たしかに画としてはすごいけど、こんなすごいとまた時間がかかる! 刑務所に寄るだけ! 話的には刑務所に寄るだけ!」みたいなのとかね。その割に、ロンドンからウィーンが、次のカットでもうウィーンにいます、みたいになっていたりとかね。そういうところが雑っていうのはちょっとあるんだけどね。はい。
まあ、でもよくまとめた1本なのは間違いないですし、文句なしに楽しい1本、求められているものにほぼ全て完璧に応えているのは間違いないと思います。ルッソ兄弟、『インフィニティ・ウォー』に続投も当然じゃないでしょうか。まあ、とはいえこのクロスオーバーインフレ、次が限界だろうなという一種の危うさも感じる1本ではありましたけども。僕的には。ということで、お時間になってまいりました。ぜひぜひ、劇場でウォッチしてください。面白かったです。
(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ヒメアノ〜ル』に決定!)
以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。
<以下、ガチャ回しパート 起こし>
「あ、そんなすごい、そんなすごい刑務所を出しちゃうと時間がかかる……また時間が延びちゃうよ〜!」と思ったけど、「そんなに簡単に逃げられるのかい!」っていうね。そういう感じもありましたけどね。はい。ということで来週、6月11日にウォッチする映画。その候補6作品を発表いたします……。
(以下省略)