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アダルトビデオ悪質な勧誘問題に

アダルトビデオ=AVの出演をめぐっては、ここ数年、悪質な勧誘や契約が特に問題となっています。この問題については、政府も、本人の意思に反して出演を強要することは「女性に対する暴力にあたる」と実態把握を進めることにしています。
こうしたなか、警視庁は、AVの撮影と知りながら20代の女性を撮影現場に派遣したとして、東京のプロダクション会社の元社長らを逮捕しました。
なぜ被害が急増しているのか、防ぐ手立てはないのか、取材しました。

大手プロダクションを摘発

「モデル数業界ナンバーワンは安心の証です」
「クリーンなプロダクション」
ホームページで「安心感」を打ち出して女性の募集をしていた東京・渋谷区の芸能プロダクション会社「マークスジャパン」の元社長の村山典秀容疑者(49)ら3人が警視庁に逮捕されました。

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逮捕容疑は、AVの撮影と知りながらプロダクションに所属する20代の女性を撮影現場に派遣した労働者派遣法違反の疑いでした。
警視庁によりますと、3人は「モデルの仕事だ」として所属契約をさせたのち、AVへの出演を指示。女性が「出演したくない」と拒否すると、「多額の違約金がかかる。親に請求書を送る」などと出演を承諾するよう執ように迫ったということです。
「マークスジャパン」が設立されたのは12年前。関連する会社を含めると、これまでに所属していた女性はおよそ4500人と、業界では最大手のプロダクションだということです。

異例の強制捜査

実は、過去5年間、警視庁が同様の事案を摘発した例はなく、強制捜査の対象となるのは異例です。
警視庁によりますと、労働者派遣法では、「公衆道徳上有害な業務」に派遣することは処罰の対象になるとされていますが、適用するのは容易ではないといいます。
女性がAVの出演に承諾する契約を交わしていたり、「家族や他人に知られたくない」と被害を訴えずに黙っていたりするため、警察に届け出るケースは少なく、おととし以降、警視庁に寄せられた相談は10件程度にとどまっています。
今回、被害を訴えた20代の女性の場合も「制作するDVDが成人向けの場合でも出演する」と記載された契約書がプロダクションとの間で交わされ、書類上は女性が承諾したようになっていました。
しかし、警視庁が聞き取りをしたところ、この女性が契約の際に詳しい説明がなかったうえ、契約書のコピーも渡されずAVの出演を承諾する認識がなかったと説明したことなどから悪質なケースだと判断し、強制捜査に至ったということです。
捜査幹部は「今回は女性の訴えがあり、出演させられていた状況が明らかになったので摘発することができた」と話していました。

相次ぐAVめぐる被害

ここ数年、AVの出演をめぐる被害の相談は急増しています。
被害者を支援している団体によりますと、相談件数は平成24年度以降、年々増えていて、これまでに120件以上の相談が寄せられています。

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その内容は、芸能プロダクションから勧誘を受けたり契約を結んだりした際にAVの撮影だと知らされていなかったという相談や、撮影を拒むと違約金を請求されたといった相談が目立っているといいます。
こうした被害は以前から少なくなかったとみられていますが、最近は、インターネットで高収入のアルバイトに応募したところAVに出演させられたとか、出演した動画がネット上で拡散しているといった、インターネットと関係するトラブルも増えています。

深刻化する被害

人権問題に取り組むNGO「ヒューマンライツ・ナウ」は、ことし3月、この問題の現状について支援団体から聞き取り調査を行い、報告書を公表しました。
この中には、深刻な被害の例も報告されています。
ある女性はプロダクションの複数のスタッフに取り囲まれ、AVへの出演を説得されてやむをえず1本出演しました。これを最後に出演を拒むつもりでいましたが、2本目以降も制作が決まっていると言われ、出演せざるをえなくなったといいます。その後、契約は解除したものの、自分の映像が販売され続けていることで精神的に追い詰められ、最後に自殺しました。
別の女性は、大学生のときにグラビアモデルとしてスカウトされ、撮影直前にAVだと知らされました。出演したくないと拒否したものの「高額な違約金を請求する」などと脅されて出演。暴力的な撮影が繰り返されたほか、避妊具をつけずに性行為が行われるなどして性感染症やうつ病を発症したといいます。出演した映像の商品が販売され、過去から逃れるには自分の顔を変えるしかないと思い詰め、整形手術を繰り返しているといいます。

5月下旬、東京都内で、こうした被害への対策について考えるシンポジウムが開かれました。
会場では、被害を受けた女性の証言ビデオが上映され、ある女性は、みずからが体験した被害の実態を詳細に証言したうえで、涙ながらにこう訴えました。
「AVへの出演を望んでいない人が出演しないで済む仕組みを作ってほしい」

悪質な出演強要の手口

急増する出演強要の被害。
取材を進めるうちに、その悪質な手口が明らかになってきました。

実態に詳しいプロダクションの元経営者は、ターゲットになりやすい女性の特徴についてこう語りました。
「社会をよく知らない若い学生。どちらかというと、野暮ったい女の子。ハイヒールを履いている女の子より丸っぽい靴履いている優柔不断な子。誘惑に弱い子や押しに弱い子が狙われる」

悪質な勧誘や契約はどのように行われるのでしょうか。
支援団体などによりますと、最初の段階ではモデルのスカウトなどを装い、食事に連れて行くなどして、信頼関係を結ぶといいます。この際、AVのことには一切触れません。
そのうえで、内容を十分に説明しないまま、相手の女性を複数の男性で取り囲み、強引に契約書に署名させるケースも報告されています。 そして、後日、AVの撮影だと告げ、女性が拒否した場合は「賠償金や違約金が発生する」、「契約のことを親や学校、勤務先にばらす」などと言って撮影を強要させるというのです。

抜け出せなくなる女性も

さらに、誰にも相談できないように女性を周囲から孤立させ、撮影を繰り返させる手口もあるといいます。
女性に部屋を紹介して1人暮らしをするよう勧めたり、交際相手と別れさせることもよくあるといいます。
AVへの出演経験がある女性の心理に詳しい専門家は「孤立化した状況で男性から高圧的な言動を繰り返されると、女性の自己決定力が弱まってしまう場合がある」と話しています。
これは、恒常的にドメスティックバイオレンスを受けていた女性とよく似た心理状態だといいます。

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シンポジウムで証言した女性は、誰にも相談できないまま、長期にわたってAVの出演から抜け出せなくなり自分を責め続けたと言います。 「物のように扱われて、心を殺し、言われるがままになっていた。今思うと、一種の洗脳みたいな状態だったのかもしれない」

被害を防ぐには・・・

被害を防ぐにはどうすればいいのか。
支援団体では、モデルのスカウトなどを装った勧誘を規制したり、本人の意思に反する契約を解除したりできるよう法律の整備を急ぐべきだと指摘しています。
女性に対しては、安易にスカウトについていったり、契約書にサインしたりしないこと、さらにトラブルに巻き込まれた場合はすぐに支援団体などに相談するよう呼びかけています。
また、すでに被害にあってしまった人に対して、支援団体では、被害の状況を聞いて対策をアドバイスしたり、専門家を紹介したりしています。
まず、勇気をもって相談することが、抜け出すための第一歩だといいます。
支援団体のNGO「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS=パップス)の世話人、宮本節子さんはこう訴えます。
「自分を責めることなく、私たちの組織や警察に相談してください。泣き寝入りをすることなく声を上げてください」

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◆アダルトビデオの出演をめぐって悩んでいる方の相談窓口◆

「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS)
https://paps−jp.org
paps@paps−jp.org
050−3177−5432

ライトハウス(NPO法人人身取引被害者サポートセンター)
http://lhj.jp
soudan@lhj.jp
ライン:LH214
0120−879−871(電話相談は月〜金の10時〜19時まで)

よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
http://279338.jp/yorisoi/
0120−279−220(電話相談は24時間)

福田和郎
社会部
福田 和郎
茅原毅一郎
横浜放送局
茅原 毅一郎
私市扶木子
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