「イチロー選手のバッティングをどう思いますか?」と、2001年の夏にメジャーの選手たちに聞いて回ったことがある。
【写真】2009年の第2回WBCでチームメイトだった田中将大とイチロー
「イチローはミートをしたら、飛んでいくように走り出すんだ」
「ゴロが真っすぐ野手に飛ぶことを願うよ。でなければ、セーフだからね」
イチローについて楽しそうに話す選手たちの表情は、今でもはっきりと覚えている。日本からアメリカに渡った“ルーキー”は、メジャーでもヒットを1本、また1本と積み重ね、今では「生きる伝説」となり、ピート・ローズの通算安打記録を更新しようとしている。
当時、イチローのここまでの活躍を予想した人はどれだけいたのだろうか。15年前の夏、メジャーの選手たちがイチローに受けた衝撃をあらためて振り返ってみたい。
ティム・ハドソン(当時アスレチックス/投手)は、イチローがメジャーの公式戦で初めて対戦した投手で、イチローが渡米する前年の2000年に20勝をマークしていた。
「ゴロをよく打つということは、僕のピッチングスタイルに合うんだけど、彼はスピード感にあふれたプレーが持ち味だからね。内野ゴロを打たせたからといって、送球が彼より先にファーストへ届くとは限らないからね。また、彼のバッティングを見ていると、本当にうまいなぁと思うよ。ボールが来るまで手はちゃんとうしろに残っている。だからバランスを崩されても空振りしないし、最低でもファウルで逃げることができる。メジャーではコツンと当てるようなスタイルは成功しないんだけど、イチローはコツンと当てるだけでなくハードな打球も打てる。彼はあのスタイルをワンランク上に押し上げた。感服するよ」
ジェイソン・ジアンビ(当時アスレチックス/内野手)は、この前年にア・リーグMVPを獲得するなど、メジャーを代表するスラッガーであった。
「93年にハワイのウインターリーグで一緒にプレーしたことはよく覚えているよ。彼が首位打者で、僕が2位だったかな。イチローのバッティングは難しいよね。常に打席で動いているから、目と手がよほど合わないと成功しないスタイルだよね。ボールも動いている、彼も動いている。それであれだけボールをバットに当てられるんだから(笑)」
ラモン・ヘルナンデス(当時アスレチックス/捕手)は、マスク越しに見たイチローの衝撃について、こう話してくれた。
「イチローを見れば、誰だって外角を攻めようと考えるよね。外角をホームランにするパワーがあるようには見えないんだから。だから外角で攻めて、ゴロを打たしていたんだけど……。緩めのボールを交ぜたり、いろんなことをやったけれど、彼はヒットにしてしまう。打つときに体が前に飛び出すんだけど、手はうしろに残っていて、ボールを自在に操っている。そしてミートしたら飛んでいくように走り出す。今、メジャーでそういうことができるのは、イチローぐらいじゃないかな」
イチローはこの年、オールスターにも出場を果たした。ファンからの得票数は両リーグ1位という快挙だった。オールスターではメジャー屈指の左腕、マイク・ハンプトン(当時ロッキーズ/投手)とも対戦した。
「私は4、5球かけて三振を取るより、ゴロを打たせて1球で打ち取るほうがいいという考えだ。肩も長持ちするし、走者がいればダブルプレーも狙えるから。ただし、イチローが打者のときは、ゴロが真っすぐ野手に飛ぶことを願うばかりだよ。でなければセーフだからね。イチローはスピードで相手のディフェンスに問題を引き起こす。味方にいれば、最高の選手だな」
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