アトモスシアターの特徴を生かし劇場版とOVA、TVシリーズをそれぞれ調整
さて、ここからはイオンシネマ幕張新都心の9.1ch上映のセッティング工程について、紹介していきたいと思う。実のところ、ドルビー社が提供する新しいサラウンド規格であるドルビーアトモスに対して、岩浪氏は、大いなる可能性を感じているのだという。
「『ゼロ・グラビティ』をアトモス上映で体験して、いやあ、素晴らしいなと素直に感動しました。360度途切れず音が回ってくれるし、上下方向にも緻密な表現ができる。これはいい、これは使いたい、と思ったんです。今回、イオンシネマ幕張新都心での特別上映が決まったため、これはぜひとも、じっくり取りかかって良い上映にしたいと思いました。当然『ガールズ&パンツァー』はアトモス用音声の用意がないため、アップミックスになるのですが、それでどこまでアトモスシアターならではの効果が得られるのか、そのあたりの検証することから始めました。まずは自分のアトモスホームシアターでTVシリーズ2.1ch、OVA 4.1ch、劇場版 5.1chがアップミックスでどう変わるか検証し、その効果の良さを確信しました。ただ劇場でリアルタイムでアップミックスし上映するというのは前代未聞だったので関係各社に問題点の検証とその解消に尽力いただきました。」
音響調整前日、アトモスシアターと同じ音響施設を有しアトモスムービーの録音作業が可能なグロービジョン社の301スタジオで、岩浪氏をはじめ、音響効果の小山恭正氏、録音調整の山口貴之氏という、「ガールズ&パンツァー」音響チームのフルメンバーでアップミックスの効果のほどをチェック。鳥の声が上のほうから聴こえるようになったり、スピーカー間のつながりが自然で、かつ大きな広がり感を持つようになったことなど、ある程度の感触を得ることができたようだ。
そして、イオンシネマ幕張新都心へ。映画館に到着したのは真夜中。館内のすべての上映が終わった頃を見計らい、ULTIRA9.1ch上映用の音響調整をスタートすることとなった。「この巨大なスクリーンを独り占めで見られるなんて、この仕事に就いて良かった(笑)」などと、岩浪氏みずから映画ファンとしての一面をのぞかせつつも、イオンシネマ幕張新都心のスタッフとともにさっそく調整作業を開始する。
イオンシネマ幕張新都心では、劇場版、劇場版とOVA「これが本当のアンツィオ戦です!」の2本立て、TVシリーズ一挙上映という、3つの9.1ch上映が行われる。当然ながら、調整も劇場版、OVA、TVシリーズそれぞれ別に行われた(それぞれにチャンネル数など音声タイプが異なるため)。まずは劇場版からスタートしたのだが、今回は9.1chへのアップミックスにくわえ、各チャンネルの音量バランスやイコライザー調整なども行えたため、かなり詳細な追い込みが行えた。大まかにいえば、LFE(サブウーファー)を少し強めつつ、メインスピーカーの特定の低域と高域をやや抑えめにしたイメージ。そのおかげで、ずいぶんと演者のセリフの通りがよい、聴きやすい声となり、同時に“試合”シーンの迫力も格段に増した。
それにも増して、印象的だったのが音の広がり感だ。劇場版5.1chのオリジナル音声を、左/中央/右/側面左右/後面左右/天井左右に分離、さらに重低音を加えた9.1chへアップミックスしたことにより、左右に定位感のしっかりした広がリを持つようになっただけでなく、前後や上下に対してもスムーズかつ奥行き感のある空間的広がりを感じられるようになった。なかなかに、素晴らしい音場表現だ。
続いて、OVAの調整を手がける。劇場版のセッティングをベースにしつつも、最終的には細やかな部分でいくつもの調整変更を行うこととなった。こちらも、劇場版に勝るとも劣らない迫力のサウンドに仕立てられた。それが終わると、最後のTVシリーズ。こちらは2.1ch音声のため、先の2タイトルに比べると、解像度感や広がり感にやや不利な点があるものの、それを感じさせない、メリハリのよい表現を持つサウンドへとまとめ上げられた。その過程を間近にじっくりと見ていたはずの筆者ですら、もしかすると魔法なのでは?と思わされたレベル。さすが岩浪氏と、改めてその凄腕に感心させられた。
並々ならぬ「ガールズ&パンツァー」に対しての熱い想い
今回、岩浪氏にさまざまな話をうかがいつつ、実作業、映画館のセッティング作業を見学させてもらったのだが、それを通して強く感じられたのが、岩浪氏の映画に対する並々ならぬ想いだ。映画を愛し、映画館を愛し、そして、作り手のひとりとして「ガールズ&パンツァー」に強い思い入れを持つ岩浪氏だからこそ、ここまでの気持ちと手間をかけられるのだろう。「ガールズ&パンツァー」という作品が、そんな岩浪氏をはじめ、さまざまな人の強い思いが込められた、素晴らしい作品であることを改めて感じさせられた取材だった。ぜひ、筆者ももう一度、どこかの映画館に足を運んで改めて「ガールズ&パンツァー」を楽しんでみたいと思う。
(取材・文/野村ケンジ)
■【ドルビーアトモスとは?】
天井にもスピーカーを配置することで、前後左右だけでなく、高さ方向にも音場を表現できることが話題となっているドルビーアトモスだが、その素晴らしさの本質は、もっと別のところにあったりする。というのも、ドルビーアトモスは既存のサラウンド音声とは異なり、音声素材のひとつひとつをオブジェクトとしてとらえているため、制作者はミックス作業に煩わされることなく自由な配置や表現が行え、いっぽうで映画館や家庭用ホームシアターなどの再生環境では、作り上げられた音声を理想的な状態で再現できるという、まったく新しいコンセプトに基づく、進化した最新のサラウンド規格だったりするからだ。
今回、イオンシネマ幕張新都心で行われた「幕張新都心 ULTIRAセンシャラウンド/9.1ch」上映は、そんなドルビーアトモスシステムを有するシアターを活用することで、新たなサラウンド表現を実現したもの。「ガールズ&パンツァー」はもともとの音声が5.1chサラウンド(劇場版)であるため、今回はアップミックス(などと呼ばれる手法)となっており、あくまでもネイティブなドルビーアトモス音声とは異なるが、実際には高さ方向も含めた音の広がり感の大きさなど、通常のサラウンドとは異なる表現を持ち合わせていたのも事実だ。今後は、新時代の音場表現をもつドルビーアトモス作品が増えていってくれることを期待して待ちたい。
■【イオンシネマ幕張新都心の音響システムについて】
イオンシネマが独自に開発したULTIRA(ウルティラ)は、独自の建築音響スペックに基づいて造られた映画音響に最適な空間に、ハイスペックな機材を使用することで、映画鑑賞の理想空間を構築したものです。スピーカーにはJBL
PROFESSIONALを採用。メインスピーカーには、4インチ(102mm)チタン製ダイアフラム&ネオジム磁石のコンプレッション・ドライバーと4基の8インチユニットを組み合わせたHigh Powered ScreenArrays 4wayシステム
「5742」を、サブウーファーに18インチウーファーをダブル搭載した「4642A」を使用。さらに、サラウンドスピーカーには天井を含め38台の「AM5215」を採用しています。また、アンプに関しては、スタジアムやドームなどの大規模コンサートなどで活用実績のあるAMCRON「I-T5000HD」を使用することで、ハイクオリティなサウンドを提供しています。
(イオンシネマ幕張新都心 ガルパンULTIRA担当H)
■岩浪音響監督 調整・監修 【幕張新都心 ULTIRAセンシャラウンド/9.1ch】にて上映!
『二本立て/ガルパン劇場版・これが本当のアンツィオ戦です!』(175分)
6/11(土)~30(木)の期間限定で上映 【鑑賞料金】 3,000円均一
【上映時間】
■6/11(土)~16(木) ①11:45~ ②17:20~ ③20:35~
■6/17(金) 19:30~
■6/18(土)・24(金) 18:30~
■6/19(日)~23(木) ①11:55~ ②15:10~ ③18:25~
※6/25(土)~30(木)の上映時間は6/21(火)以降、劇場までお問い合わせ下さい。
『ガールズ&パンツァーTVシリーズ全12話一挙上映!』(325分)
■6/17(金)・18(土)・24(金)・25(土)・30(木)の5日間上映 【鑑賞料金】 2,500円均一
【上映時間】
■6/17(金) 13:00~
■6/18(土)・24(金) 11:55~
※6/25(土)・30(木)の上映時間は6/21(火)以降、劇場までお問い合わせ下さい。
イオンシネマ幕張新都心
〒261‐8535千葉県千葉市美浜区豊砂1-1
イオンモール幕張新都心 グランドモール3階
TEL:043‐213‐3500
(C) GIRLS und PANZER Film Projekt
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