恋姫†無双と生存戦略   作:温泉文庫
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曹操が苦悩し、袁紹が歓喜する時

***

 徐州は予想よりも簡単に手に入った。
 まさか劉備達が一度も戦わずに逃げ出すなんてね。
 何処に行くのか不気味ではあるけど…今はそれどころじゃない。
 
 袁紹が半年もかけずに公孫賛の領地を征服するなんて…。
 圧倒的な速攻だったそうだけど、計略が完全に崩れたわ。

 袁紹を董卓、公孫賛、私の三人で包囲して戦おうと考えていたのに。
 
 だけど、董卓の所と組めば互角以上に戦えるはずよ。
 その使者が今帰って来る。

 

 「孟徳様、董卓へ文を届けてまいりました。董卓は合議の必要があるため後日使者を送ると言いまして御座います」

 「…何ですって? …他に何か情報は?」

 「董卓達は張燕の領地を制圧した模様。功績が評されておりました。第一功は司馬仲達であり、第二功は賈文和。第三功が華雄」

 …司馬、仲達?
 なんて事…。
 あの娘が、本当に董卓の配下になったというの…。

 「そう…。分かったわ。下がりなさい」

 配下になったとしても、おかしいわ。
 あの賈駆を押しのけて突然第一功だなんて。
 
 おかしいと言えば同盟に対して合議が必要だなんて言うのはもっとおかしい。
 他に道なんて無い筈よ。
 袁紹相手に個別に戦えば余りに不利なのに。

 …………。
 あ…。

 なんて…事…。
 信じたくない。
 だけど、間違いなさそうね…。

 「誰かある! 荀彧、郭嘉、程昱を呼びなさい! 直ぐに来いと伝えるのよ」



***


 「お呼びでしょうか、華琳様」

 桂花で最後、皆揃ったわね。
 
 「皆、董卓の情報が入った。今から話すから判断を聞かせてちょうだい。まず、董卓が張燕の領地を取ったわ。その第一功は…そして…」

 話が終わった。
 さて、誰が最初に気付くかしら?
 気付かないようでは困るわよ、私の可愛い子達。

 「そんな…まさか……」

 「あら、桂花何に気付いたの?」

 「…華琳様、董卓は…袁紹との同盟を組もうとしているのですか?」

 「どうして、そう思うの? 説明しなさい」

 「御意の…ままに、華琳様。…董卓が…我々との同盟を悩むのはおかしいのです。他に選択肢は無いのですから。なのに、直ぐに返事をしてこなかった。そして、董卓が我々以外に組める相手は只一つ…袁紹です」

 「馬鹿な! 袁紹は董卓を悪評にて追い落とした怨敵! あの悪評を主に袁紹が流したのは公然の秘密です。しかも、先の戦でも連合に参加したではありませんか。直接戦いはしませんでしたが、袁紹とて参加したと気づいております。帝も董卓ならば袁紹への恨みが分かる筈と仰ったと聞いております。これ程の恨みがある以上袁紹と組むなどありえません」

 「そうですね~。袁紹さんも董卓さんを嫌っていた筈ですし。あれ程名家として誇りを持っている袁紹さんが、董卓さんみたいな辺境の諸侯を馬鹿にしない訳がありません。…でも……。ぐー…」

 「風、今は本当に危急存亡の時なの。寝るのは我慢なさい。でも、何かしら?」

 「…はーい。皆さんが余りに真剣なので少しは緩んだ方が良いと思ったんですけどー。でも、風はずっと気になってたんです。袁紹さんが領地に帰るのが余りに早過ぎました。もしかして、なんですけど、董卓さんが船の準備などを手助けしたんじゃないでしょうかー」

 「…成る程、それは気づいて無かった。上出来だわ、風」

 「むむむ…。…い、いえ。今はそんな場合では…。華琳さま、仲達に大功を与えたのは今までの董卓配下に居ない袁紹の知人である仲達を、袁紹へ使者として遣わす為の前準備なのでは…」

 「そうよ。稟も分かって来たようね」

 「し、しかし華琳様。董卓が本当に袁紹の退却を助けたのならば正に大恩ではあります。そのお陰で袁紹はこんなにも早く公孫賛領を取れたのですから。ただ、董卓の方はどうなのでしょうか。稟が言った通りこれ程の恨み、捨てる諸侯など居る訳が…」

 「捨てたのでしょうね…。前見た時は軟弱な主君にしか見えなかったけど、この曹孟徳の眼が曇っていたようだわ。恨みを捨て、より確かな道を取ったのよ。確かに組むなら袁紹。…もしかして、あの連合軍への参加も私を騙す為の策だったのかしら? 賈駆…完璧にしてやられたわね…」

 「…華琳さま、董卓が袁紹に付く策は誰が出したんでしょー。賈駆さんだって、あれ程の屈辱を直ぐに乗り越えられたとは思えませんし。今回名前が出て来た華琳さまが以前から気になっていた司馬仲達さんでしょうかー?」

 「…難しい所ね。可能性はある。でも董卓が洛陽から逃げた時、仲達はまだ客分だった筈よ。その後、連合軍が結成された時だって配下になって1年程度。これ程の大事を言えるような信頼を得られた訳が無い。賈駆に献策程度が限界よ。やはり、賈駆が考え、董卓が受け入れたのが大方の真相でしょう」

 「華琳様…申し訳、ありません。この荀彧が不明だったばかりにこのような大事に気づけませんでした…」

 「謝る必要は無いわ桂花。この曹孟徳も全く気づけなかったのだから。それより、袁紹だけでも大敵だというのにその賈駆さえも加わった。…困ったわね。稟、勝てるかしら?」

 「くっ…ぐうぅ…このままでは、不可能で御座います。袁紹の田豊、董卓の賈駆が十全に連携すれば我々は耐えるのも難しいと申し上げるしかございません」

 「いいえ! 華琳さまがあの袁紹如きに負けるなんてありえません! そのような天命は決してないのです華琳さま!」

 「うふふ…。そうね桂花。そうあるべきだわ。さて、具体的な話に移りましょうか。つまり、私たちはまず袁紹と董卓の間に亀裂を作らないといけない」

 「その動き、今すぐ始めるべきでしょうか華琳さま」

 「稟、急くのが貴方の悪い癖よ。董卓が袁紹と組んだのが確定した訳じゃない。今変な刺激をすれば却って組ませてしまうかも。まずは袁紹の所に細作を放って情報の確認ね。
  その間に皆は二人の間に亀裂を作る策、それに…田豊、あの慎重な女を袁紹が重用したら私たちの終わり。この二つの対策を考えてちょうだい。ああ、稟。貴方は袁術が袁紹相手の戦いが終わるまでこちらに手を出させないように同盟を締結する担当とするわ。皆、良いわね?」

 「「「御意」」」

 「風、貴方は少し残って欲しいの。雑用を頼みたいわ」

 …足音は遠ざかった。
 …良さそうね。

 「風。全てが上手く行き、袁紹とだけ直接戦えたとしても私たちはまず勝てないわ」

 「ふーむ。やっぱりそうなんですか華琳さま」

 「自分で自分の考えが外れて欲しいとこれ程思った記憶は無いわね。でも、私はずっと麗羽と戦う時を考えて来た。…難しいわ。百に一つ勝てるかどうか」

 「あやや~。それは困りました。それで、風にどんな雑用をお命じでー?」

 「私はせめて百に一つを十に一つとしたいの。その為に必要なのは…相手の裏切りよ。それも戦ってる最中のね。狙うなら…軍師かしら。兵の配置、麗羽の居場所、兵糧の状態。これらを知る事が出来れば一撃で勝てるかもしれない。もう分かったでしょう?」

 「いやいや、華琳さま…又面倒なお仕事を押し付けられますね~昼寝が出来なくなっちゃいますよ。つまり、風に袁紹の軍師を中心に調べ、内応させろと仰いですか」

 「ええ、諜報関係を司っている貴方にしか出来ない仕事よ風。それにあの二人にはこういった仕事は向かないでしょう?」

 「それはそーなんですけどねー。お金、今のままじゃ足らないですよー? 宜しいんですかー?」

 「勿論よ。死んだあとまでお金を持って行くつもりは無い。可能ならば麗羽の所為で背くように仕向けられれば最高ね。風、貴方に私の命運を託すわ」

 「はー…分かったですよ。でも、袁紹が倒せたら風は三か月は働きたくありませんからね~? お願いしますね華琳さま」

 「そうね。その前に死なないでね風」

 「どう考えても死ぬほど忙しくなるのですー。はー…。風の大事な昼寝の命運が尽きちゃいましたー」

 さて、出来る事は全てしたけど、いよいよ私も追い詰められたわね。
 勝ち目は余りに薄い。
 
 でも、麗羽と戦う事は最初から分かっていた。
 苦しい戦いである事も。
 その予想より苦しくなろうがこの曹孟徳に諦めるなんて言葉は存在しないのよ。
 天が私を邪魔しようとも必ず覆して見せる。




***


 ふむ。
 袁紹殿の冀州(きしゅう)府には初めて来たが、立派な物だ。
 流石は天下最強の諸侯と言えよう。

 その袁紹と同盟を結ぶため、ここに来て、今袁紹殿との面会が叶ったわけだが…。
 まずは目の前の田豊殿を論破する所から始めるとしよう。

 「田豊殿、お久しぶりに御座います。先程私がお渡しした董卓様より同盟締結を願う書状に対して何か疑問がおありとか。まずは承りましょう」

 「仲達殿もご健勝であったようで何より。ええ、幾つか答えて頂きたい質問があります。まず、董卓殿は先の戦我等の敵に参戦していました。だと言うのに我等と同盟等虫が良いとはお思いになりませんか?」

 「全く。先の戦、袁紹殿は我々を敵と見ていた筈。その上、あの時連合方に参陣しなければ漢室に対して敵意ありと思われる可能性が御座いました。そうなれば、我々は馬騰殿と張燕により攻められていたかも知れず。それとも、同盟を申し込んできた我々に対して二人の群雄に攻められて死ぬべきだったと仰るか?」

 「…何も其処までは言っていません。では、この点は良いとしましょう。次に世評によるとかつて我々は董卓殿に対して悪評を流したと噂されております。董卓殿もお恨みでは?」

 「それは噂では無く事実。その悪評の為、董卓様は洛陽を追われ大難に見舞われたのです。しかし、その恨みを呑み込んで此度私を遣わされた。大体、もしも袁紹殿に対して未だに恨みを抱いていれば先の戦、逃げる手助け等は致しません。あの手助け、相当に袁紹殿を楽にさせた筈」

 「あら、恨みを持っていた場合、退路を断って曹操と挟み撃ちにしたとは言わないのね?」

 「その手を取っても袁紹殿相手ならば勝ち目は4割。その上兵を損ない今のように張燕の領地を取る事も難しい。下策と申せます。それで、お尋ねの儀は以上で?」

 「まだあるわ。余りにも理不尽な話なれど、今我が主袁紹は朝敵と言われてる。そして、董卓殿は献帝より逆心無しとの言葉を頂いたと聞く。董卓殿と帝達、それに我等が殺した趙忠は昵懇の間柄だった筈。何故曹操では無く我々と組むのかしら?」

 「まず、お二人の帝は既に曹操の傀儡となっているに相違無く。曹操と組んだところで帝の御意に沿うとは言いかねます。そして董卓様はお言葉の通り御三方と昵懇の間柄でした。故に趙忠様を殺したのがやむに已まれぬ話だったのはよくご存じです。
  どうも田豊殿は先程から我が主君董卓を考える頭など無く、感情のみで動く小人だと仰っておられるようですが…。主君を侮辱して私を怒らせ、この同盟を何とかして壊そうとお考えか?」

 「そ、そんな考えは無いわ! だけど、同盟を組むのならば確認しなければならない話が幾つも…」

 「いい加減になさい真直(まぁち)。貴方もあの鳥の汁物を食べた時、泣きながら『天は、我々を見捨ててはいなかった…董卓の助力を得られるのならば、憂いは御座いません麗羽さま』と仰っていたではありませんか」

 「そ、それは! 麗羽さま、外交の場で相手の前でそのような話をしないでください!」

 「その外交で大事な恩ある相手の機嫌を損ねてどうなさるおつもりですの? はぁ…仲達さんうちの軍師が失礼致しましたわ。真直(まぁち)は良い軍師なのですけど、慎重すぎて人を不快にさせる事が御座いますの。ご理解頂けないかしら」

 「袁紹様がそう仰るのであれば」

 ふむ…袁紹殿の軍師達の内、沮授(そじゅ)は眉をしかめている。
 郭図(かくと)許攸(きょゆう)は…田豊殿が諫められたのを見て喜んでいる、か。

 哀れだな田豊殿。
 当然の問いただしをしてこれでは…。
 
 そして、袁紹殿の身命を左右する軍師達の間に強烈な競争心在り…。

 …何という事。
 袁紹殿の勝ちは…必ずしも盤石では無い…。
 幾らかは想定の内だが、これ程とは。

 「袁紹殿。ご存じでは無いであろう事を一つお伝え致します。数か月前我々の元に孫策が玉璽を持って袁術の所より逃げてまいりました。孫策は董卓様の領地に対する野心があった為既に生きておりませんが、孫策が持っていた玉璽、袁術に返還致しました」

 「な、なんですって! 玉璽を袁術に?」

 「仲達、同盟をと言いつつそなた達は我等の敵袁術に帝の資格ありとしたのか! 袁紹さま! このような輩信頼出来ませぬぞ」

 郭図(かくと)か。
 忠誠心はあっても、広く物を見る目は無い人物のようだ。

 「おだまりなさい郭図(かくと)! …でも仲達さん、どういったおつもりでそうなさったのかご説明頂けないかしら?」

 「我々は現在地力において袁術に劣る。である以上袁術の所から持ち込まれた玉璽を袁術以外に返して恨みを買えば大難を招くのです。袁紹殿との同盟が成されても、常に6万程兵を頂ける訳では御座いますまい?
  それでも尚玉璽を袁術に帰すべきでなかったと仰るのであれば、袁紹殿は我々の命に無関心と思わざるを得ませぬが如何」

 「……そうね。分かりましたわ。皆さん、仲達さんに対して何か仰りたい事がありまして?」

 「「「御座いません、我が主」」」

 「真直(まぁち)? 貴方は何かあるのかしら?」

 「ぐ、ぐぬぬぬ…。ご、御座いません…」

 「はぁ…真直(まぁち)さんは董卓さんの所との同盟に賛成していたと記憶しているのですけど?」

 「…それは、そうです。しかし、董卓殿が我々に対して恨みを持っていたのは疑い御座いません。なのに先のような助力です。何故そのような考えに至ったのか、確かめる必要があると愚考致します」

 「あら、そんなのは簡単ですわ。この仲達さんが董卓さんを説得して下さったに決まっているじゃありませんか。仲達さん、そうですわよね?」

 「献策は致しました。しかし、説得されたのは賈駆殿であり、受け入れて下さった董卓様の大器無くして私は此処に来られなかったでしょう。袁紹殿、私も一つ尋ねなければなりません。貴方様は以前董卓様を妬み、悪評を流されました。今もあの時のようにお思いか」

 「…それこそ、当然の疑いですわね。わたくしは、あの時の判断をとても後悔していますの。わたくしこそが漢を再興し民に平穏を与えられる、その邪魔をする董卓さんは漢の敵だと、そう思って…。でも、それは勘違い。
  今では生き残る為に戦わなくてはならなくなってしまいましたわ。そして、その生き残る機会を大いに増やして下さったのが董卓さん。わたくし、あの時食べさせて貰った鳥の汁物以上に美味しい物を食べた事が無くてよ。これ程の恩人を決して低く見たりは致しません。わたくしが持つ袁の姓にかけて誓いますわ」

 袁紹殿…やはり感情的なお方だ。
 今現在の董卓に対する良い感情も間違いないが、何かの拍子に又憎まれる事もあろうな。
 とは言え今はこれで結構。

 「その言葉を聞き、安堵いたしました。では袁紹殿、我が主君董卓との同盟の件ご了承願えますかな?」

 「勿論ですわ! わたくしの方からお願いしようと悩んでいた所ですの。仲達さん、暫く滞在して行ってくださいね? 幾つも宴を用意してありましてよ。お帰りになる時には董卓さんへ感謝の貢物も持ってお帰り下さってね?」

 「ご厚恩、感謝いたします」

 ターハオ様からも、袁紹殿の状態と特に軍師達の人品を調べて来るように申しつけられた。
 渡りに船、よくよく教えて頂くとしよう。



連絡

この作品をオリジナルとして書き直す事にしたので、この作品の更新はもうしません。

書き直しは小説家になろうだけの予定で、既に投稿しています。
題名は

「戦乱の異世界で俺は陰に潜む」

一から書き直してますが、ストーリーは一緒です。
読み直しても良いと言う人でなければ、詰まらないでしょう。
続きまで書けば読んでも良いと言う人は、一話3000文字程度で書くつもりですから、200話程度まで行けば続きの部分に入るかも。
その頃には題名も忘れてるでしょうし、ブクマだけでもしておいて頂けると嬉しく思います。
1か月は毎日更新予定です。
ここからはお願いです。
読まれて感想を書く方は先の話展開については書かないで下さい。
感想を見つつ読む新規の方が居ると思われますので。


これが今一だったら、歴史を参考にした別のオリジナルを書く、かも。

尚、このメッセージは三日程後に削除されます。


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