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「除湿=省エネ」はウソ 冷房よりも電気食う理由
夏に備える家づくり(4)

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2016/6/14 6:30
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日経アーキテクチュア

 とにかく日本人にはエアコンで冷房することに拒絶反応が強い。温度を下げる代わりに夏を快適に過ごす方法として、最近では「除湿」が大流行している。冷房に比べて空気を冷やさないから「省エネ・エコ」と信じられている夏最大の“常識”は本当なのか。住宅の省エネルギー性能を客観的に調査・分析している東京大学准教授の前真之氏に、検証してもらう。

 人間は運動時に大量の代謝熱を放出する際、発汗機能を使って体を冷やす。だから、汗が速やかに乾いてくれる乾燥した気候を好む。一方で、室内でデスクワークする程度の活動量では大した放熱は必要ない。よって発汗蒸散の割合は少なくなり、主要な放熱は周辺空気への「対流」と周辺壁への「放射」によって行われることになる。

 気温を下げて対流を増やすか、湿度を下げて発汗蒸散を増やすか。どちらが快適でお得なのか。人間の快適性に関するモデル 「PMV(熱収支)・PPD(不満者率)」を使って説明しよう。

 一般的な冷房の設定温度 26℃・27℃・28℃について、PPDが10%を超えない快適な範囲で、許容できる上限の相対湿度をピックアップした(図1)。外気の絶対湿度を超えない制限をつけ加えると、それぞれ快適範囲の相対湿度は70%・50%・20% となる。

図1 同じ快適性の温度と湿度3条件をピックアップ。不満者率PPDが10%未満となる範囲(青枠内)で、温度28℃・27℃・26℃から上限の相対湿度を選んだ。28℃では20%、27℃では50%・26℃では70%とした。26℃では100%としてもよかったのだが、そうすると外気より絶対湿度が高くなってしまうので70%にとどめた
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図1 同じ快適性の温度と湿度3条件をピックアップ。不満者率PPDが10%未満となる範囲(青枠内)で、温度28℃・27℃・26℃から上限の相対湿度を選んだ。28℃では20%、27℃では50%・26℃では70%とした。26℃では100%としてもよかったのだが、そうすると外気より絶対湿度が高くなってしまうので70%にとどめた

■「エンタルピー」は顕熱・潜熱の2 種類

 夏の蒸し暑い外気を快適な状態まで冷却・除湿するにはどれだけの熱を取り除く必要があるのだろうか。空気が持っている熱量を「エンタルピー」といい、空気分だけの「顕熱」と水蒸気分の「潜熱」の2 種類がある。冷房は主に前者の顕熱を取り除き、除湿は後者の潜熱を取り除く。

 東京の8月の年最高気温期間平均は30.8℃、絶対湿度は15.8gである。相対湿度は56.5%であり、エンタルピーは顕熱31.0kJ(キロジュール)、潜熱40.5kJ、合計71.4kJ である。これを前述の快適範囲の「28℃ 20%」「27℃ 50%」「26℃ 70%」で計算すると、取り除くべき熱量が計算できる。

 図2を見ると、一番温度が高い「28℃ 20%」の場合に、実は一番大量のエンタルピーを除去しなければならないことが分かる。高い温度で済ませるための除湿が、逆に膨大な熱負荷の原因となってしまっているのである。

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図2 快適性が同じなら、温度が低い空気の方がお得。夏期を想定して、着衣量0.5クロ・活動量1.1メット・気流0.15m/s・放射温度は乾球温度と同じとして算出した。28℃ 20%・27℃ 50%・26℃ 70%はいずれもPPDが10%以内と十分に快適な条件であるが、温度と湿度の違いにより放熱ルートが異なってくる。夏の湿った空気では水蒸気による潜熱の割合が大きく、湿度を下げようとすると膨大な潜熱エンタルピーを除去しなければならなくなる
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図2 快適性が同じなら、温度が低い空気の方がお得。夏期を想定して、着衣量0.5クロ・活動量1.1メット・気流0.15m/s・放射温度は乾球温度と同じとして算出した。28℃ 20%・27℃ 50%・26℃ 70%はいずれもPPDが10%以内と十分に快適な条件であるが、温度と湿度の違いにより放熱ルートが異なってくる。夏の湿った空気では水蒸気による潜熱の割合が大きく、湿度を下げようとすると膨大な潜熱エンタルピーを除去しなければならなくなる

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