東京都の舛添要一知事は、速やかに知事の座を辞するべきである。政治家として自らを律する倫理観に欠け、首長としての責任感も乏しいことが、一連の金銭疑惑で明らかになった。

 ここまで説明責任から逃れようとする姿勢が招いた都政の停滞は深刻だ。もはやこれ以上、混乱を深めてはならない。

 東京都議会は、知事への不信任決議案を可決する見通しだ。都政史上、前代未聞の事態だ。

 都議会、都職員、そして有権者からの舛添氏への信頼は失われている。本人が身を引かない以上、議会が不信任決議で背中を押すことはやむを得まい。

 都議会総務委員会で、舛添氏は給与を全額返上したうえで、「全身全霊で都政のために働きたい」と続投の意向を示した。

 だが、舛添氏は事態の重さを今も認識しているようには見えない。公金を含む政治資金を私的に使った疑惑などについて、審議に20時間近くをかけても詳細を説明していない。

 都内の市区議会からも辞職を求める意見書が出されている。知事として都民の多様な願いを調整・実行する力は、残っていないと言わざるを得ない。

 猪瀬直樹前知事に続いて、都政のトップが「政治とカネ」の問題にけじめをつけられず、1期目の途中で辞任を迫られるのは、実に残念である。

 不信任案が可決されれば、知事は10日以内に、失職か都議会の解散かを選ばねばならない。問題はひとえに知事の行動にあった以上、議会解散という選択に道理がないのは明らかだ。

 舛添氏は、不信任案が出されればリオデジャネイロ五輪と選挙が重なり、「公益を損ねる」と提出の先送りを求めた。

 確かに、この時期に知事が辞めれば、4年後の東京五輪のさなかに都知事選となる可能性がある。世界の祭典と、そのホスト都市の選挙が重なってしまう事態はできれば避けたい。

 しかしそれでも、信を失った知事をこのまま2カ月以上も置いておけば、どこまで都政の混乱が広がるか、予測はむずかしい。都議会が与野党超えて、今議会の会期中に不信任決議案を出すことにしたのも、圧倒的な都民の声に押されたからだ。

 東京五輪は、東日本大震災からの「復興五輪」という位置づけもある。被災地の視察を都議に何度も促された舛添氏は「時間がない」と答えながら、ほぼ毎週末、湯河原の別荘へ公用車で行っていた。

 「知事に五輪を語る資格はない」。そんな都議の糾弾は多くの都民の思いでもあろう。