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参院選へ アベノミクスの行方 地に足の着いた議論を

 アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限にふかす。その是非を問う選挙だと安倍晋三首相は言う。だが、その判断には、これまでふかした結果がどうなったかをまず点検しなくてはならない。

     3年半前、安倍首相が約束した経済再生のシナリオはこうだった。年2%の物価上昇目標を政府と日銀が共有し、政策をフル稼働させたら、デフレから脱却し、経済の好循環が生まれ、かつてのような高い成長が再現できる。

     だが、現実は遠く及んでいない。

    成果だけを語る危うさ

     「2年で2%達成」のはずだった物価上昇率は、3年後の今年4月、2カ月連続でマイナス0・3%だった。実質経済成長率も、政権発足後の2013〜15年は平均で0・6%と、2%の目標にほど遠い。

     景気に対する国民の感覚も悲観的なものに逆戻りしつつあるようだ。日銀の調査によると、1年後の景気が今より「悪くなる」と回答した人の比率が最近は38%と、政権発足前の41%に迫る高さだ。

     こうした現状にもかかわらず、安倍首相はアベノミクスの「成果」を強調する。その証しとしてしばしば首相が引用するのが過去24年で最高という有効求人倍率だ。仕事を探している人1人に対して、仕事の誘いが何件あるかという統計だが、上昇の背景にあるのは人手不足である。特に保育や介護といった、働き手がますます必要とされている分野で、深刻な人員不足が起きている。

     現役世代の人口減少に、低賃金、長時間労働が加わり、必要な人材が集まらない。そんな背景を抱えた有効求人倍率上昇は、問題でこそあれ、誇れる現象ではない。

     安倍首相はまた、アベノミクスはうまくいっているが、世界経済が足を引っ張っているとも説明する。だがこれも正確さを欠く。国際通貨基金の世界経済見通しによると、日本の今年の成長予測は0・5%に下方修正され、下振れの幅も成長率の低さも、欧米に比べて目立つ。

     アベノミクスが、描いた姿になっていないのは明らかだ。では、なぜうまくいかなかったのだろうか。

     そもそも、非現実的な目標を掲げたところに誤りの始まりがあったとみるべきだ。他の先進国と比べたら確かに見劣りする日本の成長率だが、成長の実力が今や0〜0・5%まで低下していることを考えたら、必ずしも低過ぎではない。

     人口減少の影響などで成長の実力そのものが低下した点こそ問題視すべきなのに、「デフレさえ克服すれば、成長の好循環が生まれる」という高成長復活の夢を描いた。

     そしてなお夢を追おうとする。

     昨年9月、アベノミクスは「第2弾」にリセットされ、「1億総活躍社会」というスローガンが登場した。「2020年に国内総生産600兆円以上」を目指すという。達成の前提になっているのは、バブル期と同水準の生産性の向上だ。専門家が実現性に首をかしげる仮定をもとに算出した数字なのである。

     こうした高成長の幻想のもとで政策を最大限「ふかす」とどうなるか。アベノミクスに内在する最大の負の側面が露呈するのはこれからだということを忘れてはならない。

    野党も対抗軸を示せ

     日銀内に積み上がっていく巨額の国債である。すでに日銀が保有する国債の残高は民間銀行の合計を超え、発行残高の約3分の1を占める。今後も増え続けることだろう。

     リスクが顕在化するのは、物価が上昇し日銀が国債の購入ペースを落とさねばならなくなった時だ。「日銀が必ず買うから値下がりしない」との前提で成り立っていた市場で、最大の買い手が退くシグナルを発した途端、つり上がっていた国債の価格は暴落しかねない。

     回避するには、引き続き大量購入を続けねばならないが、そうすると景気が過熱し、インフレが制御できなくなる恐れがある。現在でもすでにリスクは積み上がっているが、安倍首相の「ふかせ」の号令に沿って日銀が購入額を増やせば、一段と出口はふさがる。

     安倍首相も黒田東彦日銀総裁もこの最大のリスクについて語ろうとしない。選挙戦では、アベノミクスのこれまでの評価だけでなく、顕在化していないリスクについても、国民の前で議論を深める必要がある。

     同時に野党は、アベノミクスの非現実的な成長路線に対抗する新たな経済政策を提示すべきだ。何より30年までの15年間で1000万人の減少が予想される人口問題に対応した政策が必要である。女性の労働参加を広げるための働き方の改革や保育の体制充実に加え、タブー視されがちな外国人労働者の受け入れ拡大などにも踏み込んでほしい。

     参院選前の消費増税先送りが象徴するように、目先の良い話と楽観的な将来像ばかりでは、人々は不安を抱きかねない。不安があるから、金利がゼロでも人々はお金をため続け、企業は投資に二の足を踏む。

     現実を直視し、将来までも見据えた政策論議に期待する。

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