157/198
第217話 今後と拠点
今回で『ローザンパーク編』はラストです。
第217話、どうぞ。
「ったくあんたは、また無茶して……」
「あははは、ごめんごめん。痛たた……」
ベッドの上で上半身だけ起こしている僕は、横に座っているエルクからのジト目を受けながら、気まずそうに頭をぽりぽりとかいていた。
現在時刻は午前7時。あの後、明け方ごろに『ローザンパーク』の宿に戻ってきて……今こうして体を休めているわけなのだ。ゼットとのバトルで傷つき、疲弊した体を。
なお、ここまで運んできてくれたのはアルバである。こいつは『身体強化魔法』も使えるため、体は小さくても僕1人つかんで飛ぶくらいは朝飯前なのだ。
「やれやれ……チラノースの吹っかけてきた喧嘩とは全く関係ない所でこんな怪我して……あんたってどうして時々こう理解しがたいバカやらかすのかしらね」
「厨二病かかえてるとどうしてもねー……それに、何度も戦ってる相手だからムキになっちゃったってのもあるかも」
「やれやれ……で、その『ゼット』とやらはもう出てったわけ?」
「うん、僕が帰るのと同時に、自力でね。あーでも、次会ったらもっと強くなってんのかなー……ちょっと心配だわ」
「だったらトドメさしゃよかったじゃないのよ」
「……終わった」
と、そんな声と共に、右足の辺りで『パチン』と音がした。
ネリドラが、包帯を使って僕の足に巻いた添え木を固定し、包帯止めで止めてくれた音だ。さっきからこんな感じで、傷の手当をしてもらっていた。ほら、彼女、僕の助手ってだけじゃなく、『邪香猫』では衛生兵的な立ち位置なので。
「痛みは無い?」
「うん、ありがとネリドラ。ヒビ入っただけだし、これならがっつり食べて寝とけば……昼過ぎには治るかな」
「……相変わらず治療にかかる期間の単位がおかしいわね」
「……時々、衛生兵は本当に必要なんだろうか、って不安になる」
なぜかネリドラがしゅんとしていた。いや、ホントに感謝してるよ?
『ジョーカー』系の技使った後は回復も遅くなるから、外科的な措置をやっといてもらえるとホントに目に見えて回復する早さが違うんだから。その手際も、本職だけあってネリドラの腕はナナや義姉さん以上だし。
加えて、彼女と全く同じ技量・知識をもつリュドネラもいざとなれば出てきてくれる。
それにネリドラは、僕の研究分野でも力になってくれてるしね。
今回の戦いでも活躍した『C.P.U.M』。あれを作るのにもネリドラに一役買ってもらってたのだ。
もともと材料は揃ってたし、『ラグナドラス』に行く頃にはすでに試作品の作成も済んでたんだけど、彼女のおかげで完成度は更に高くなった。
特に、『精霊式人工知能』――人工精霊を使った、命令を聞いて遂行することが出来る程度の自我――の作成には、ネリドラはもちろんリュドネラにも大いに手伝ってもらったっけ。
「あ、そうだ。イオさんから伝言よ? ええと、昨日の明後日だから……明日ね。明日の夕方になったら城に来てほしいって。くれるみたいよ? 『琥珀』と『真珠』」
「おっ、マジ?」
よっし、そりゃいい知らせだ。
「でも、何で明日? 今日じゃダメなのかな?」
「そりゃ、戦争終わって翌日にすぐご褒美、ってのは難しいんじゃない? あとホラ、あんだけバカ騒ぎしたんだし……片付けも大変でしょ」
ああ、なるほど。
☆☆☆
そして翌日。
呼び出しに応え、僕は、訪問ももう両手の指に余る回数に達している、イオ兄さんの屋敷にきていた。
その際、一応打撲その他の治癒のため、まだ体の何箇所かに包帯を巻いたりシップを張ったりしている僕の姿を見て、従者さんの何人かが『あれ、あの人別に怪我とかしてなかったはずなのに……』とかいう感じの不思議そうな顔をしていた。
まあ、当然か。僕がゼットとバトりに行ってたことを知ってるのは、エルクと、彼女に話を聴いた数人だけだって話だし。
騒ぎになるのもアレだから、昨日の夜はエルクとイオ兄さんだけにそれを伝えて抜け出した。そして、後でエルクから『邪香猫』の皆に伝わったようで……朝になって帰ったら、オリビアちゃんまで含めた皆に『何してんの!?』って詰め寄られたっけ……危ないことするなって。
まあ、心配かけたのはホントだし、素直に謝っておいた。
……その際、夢魔の能力の1つであり、『記憶の読み取り』と同様に最近使えるようになった『記憶の転写』と、幻術モニターである『マジックタブレット』も使ったあわせ技で、大画面でその戦いの様子を皆に見せたところ……ほぼ全員が唖然としていた。
『何、この戦い……』『次元違うって……人間の領域じゃないって……』『そろそろ私も混ざれるかとか思ってたんだけど……こりゃ無理そうね』とか、呆れた、というか諦めた感想が口々に出てきてた。……っていうか最後のシェリーだろ、絶対。
まあ、それはともかく……イオ兄さんに会うために屋敷に来たんだけども、
「……まだ宴会の酒の匂いが残ってるね、この部屋」
「うむ、そうか? 掃除はさせたのだが……ああ、お前は鼻がきくのだったな」
聞けば、明け方……僕が帰ってきたあたりの時間まで、ローザンパーク幹部組で二次会・三次会やってたみたいで……酒盛りとかバカ騒ぎの類が好きなんだろうか。
「それでさ兄さん、ここ呼ばれた要件なんだけど」
そう僕が言うと、イオ兄さんはにやりと笑って、『おい』と従者の人を呼ぶ。
すると、隣の部屋に控えていたらしい従者さんが2人、戸を開けて現れた。
その手には……それぞれ、一抱えもある大きな箱と、片手でも問題なくもてそうな小さな箱をそれぞれ持っていた。
……舌切り雀みたいに、いずれかを選んで……ってわけじゃないだろうし、おそらく……
2人は僕の目の前に来ると、パカッと蓋を開けて中を見せる。
そこには……予想通りのものが入っていた。
大きい箱の中には……形のいいものから悪いもの、大きいものから小さいものまで様々な、しかしかなりの量になるであろう、琥珀色の半透明の結晶のようなものが入っていた。
……いや、まあ、実際に琥珀なんだろうけどね。
そして、小さい箱には……漆黒でありながら上品な光沢を放つ、そして、僅かに感じとれる魔力の感じがすごく滑らかで静謐な、真球の宝玉が2つ入っていた。
聞いて確かめるまでもないだろう。これが……『ニミュアンバー』と『虚無の黒真珠』だ。
「望みの報酬だ。もっとも……黒真珠はともかく、琥珀はとにかく量が要りそうだったのでな。とりあえず、大きいものから小さいものまで入り混じっているが、2kgほど揃えさせてみた。どうだ、足りるか? 形がいいものがよければ、選びなおさせるが」
「いや、こんだけあればたぶん十分だよ、ありがとうイオ兄さん」
言いながら、2人から箱ごと『琥珀』と『真珠』を受け取る。
うん、これだけあれば……作れるだろう。十分に。
まずは1つ作って……そして、余ったこれらの素材を使って、人工的に作れないかどうかためしてみなくっちゃね。
「聞いてはいたが……本当にものづくりが好きなようだな。よければ聞かせてもらえんか? それを使って何を作ろうとしているのかを」
「いいよ。ただ、ちょっと説明がややこしいんだけど……」
☆☆☆
そんな感じで、僕の『報酬』の使い道に始まり、しばらくそのまま世間話なんかをして過ごしていたんだけども……その話の中で、イオ兄さんがふと思いついたように、こんな質問をしてきた。
「ところでミナト、お前、あとどのくらいここに滞在するのだ?」
それに答えようとして……思い至る。
そういや僕、『琥珀』と『黒真珠』を貰うためにここに来たわけだから……それ以外の滞在理由とか特に考えてなかったっけ。もう、当初の目的は達成してるし。
でも、貰うもん貰ってすぐにさよならってのも何かなあ……どうしよう?
それに、せっかくザリーとオリビアちゃんが仲直りしたんだし、今すぐ出発したらまたお別れさせちゃうことになる。それは忍びない。
ザリーは一応『安心してよ、冒険者も情報屋も『邪香猫』も、辞めるつもりはないから』って言ってくれてるけど、僕の信条として今のあの2人を引き離すのはヤである。だって、2人ともすごく幸せそうなんだもん。
すっかり昔の仲をとりもどしたようで、傍目からはどう見ても今の2人は『恋人同士』である。今まで離れ離れになってたとか、そんな気配はまるで感じない。その仲のよさには、他の野郎連中が『リア充爆発しろ!』的な目線を送ることもあるくらいだ。
お互いの意思をきちんと伝え、誤解をしっかりと解いたことで絆が強くなったのかもしれない。それにもともと両思いだったんだし、別に不思議でもなんでもないか。
それに加え、オリビアちゃんは今……なんと、僕らと同じ宿に泊まっているのだ。
今回の騒乱の原因の一端を担う見であるにも関わらず、護衛の大半を失ったせいで帰ることすら出来ないオリビアちゃんは、連邦本国からの迎えが来るまでここに滞在させてもらうことになったわけだけども……その際、貴賓用の宿を引き払ってこっちに引っ越してきたのである。
もう自分は客とは呼べないんだから、あそこは使えない、と。
……僕らが止まってる宿も、内装の豪華さより食生活の充実を重視してイオ兄さんが選んでくれただけで、十分高級な宿なんだけどね。
しかし、それをオリビアちゃんがわかっていないはずもない。
それでもこっちに引っ越してきたってことは、理由は1つだけなので……僕らはもちろん、イオ兄さんやその従者の人達、さらにはローザンパークの人達からも、なんと言うか……微笑ましいものを見るような目で見守られてたりする。
あの2人の仲は、いつの間にか周知なので。多分、宴会の時に知れ渡ったんだろう。
ナズナさんやカスミさんは、引っ越してきて早々にザリーと一緒に出かけたいと言ってこっちの部屋に来たオリビアちゃんを見て、『若いっていいわね』『そうね』何て言ってたし。
……さて、脱線したな。
そんな感じに、色々な理由で……僕はここをいつ出るかとか、決めてないのである。
「ん? 何だ、やはり決めておらんかったのか?」
「うん。まあ、今すぐどっか行こうとは思ってない、かな。もしできるなら、しばらくここで過ごしてたいなって思ってるよ。ザリー達の件はもちろん……まだ行ってない店もあるし(じゅるり)」
「やれやれ、お前は食い道楽も筋金入りらしいな。いっそここに住むか? ここは季節ごとにその季節しか食えない飯もあるし、楽しめると思うが……」
「…………」
「? どうした?」
「……それもあり、かも?」
「「「え?」」」
☆☆☆
ここんとこすっかり忘れてたけど、随分前……そう、丁度『サンセスタ島』に行く前あたりで話題になったんだっけ。僕ら『邪香猫』の拠点をどうするか、って。
無論、今でも『オルトヘイム号』っていう立派な移動拠点で寝起きしてるけど、きちんと場所の定まった拠点があるっていうのは、それはそれで便利なものだ。実際、あの時までは『バミューダ亭』に泊まってたんだし。
例えば、商店・商会で買ったものを、留守中に拠点に運んで置いてもらうことも出来るし、同じようにして定期的に運んでもらうことも出来る。大き目の商会なら、ある程度の量を買えばそういうサービスも交渉次第で受けられるだろう。ノエル姉さんとこなら、確実に。
加えて、『マルラス商会』からは、時々『危なくて保管しときたくないから早よ取りに来い』っていう催促が来るような品物も買うからなあ……毒物とか、爆発物とか。
そんな物騒なものじゃなくても、食料とか生活必需品とか……あそこに戻ればすぐに一定量の安定した物資が貯蔵してある、っていう状況は割と魅力的だ。
物資の貯蔵量にしても、船という限られた空間――空間歪曲で大きく拡張しているとはいえ――よりも、きちんとした家屋の方が多く置いておけるはずだし。
それに、『オルトヘイム号』そのもののメンテナンスなんかもたまにはしなきゃいけない。今までそういう時は、ウォルカあたりで一時的に宿を取って、そこに泊まってる間にやってた。
あと……最近たまに、メルディアナ王女やリンスレット王女、それにエルビス王子やルビス王女――身分は王女じゃないらしいけど――といったVIPがたずねてくることがある。その際、一応彼女らのことは信頼してるので、船に乗ってもらってるんだけど……今後、もしそういう機会が増えるようなら、船以外にそういう場を催せるような場所を持っているのもいいかもしれない。
一応あの船は僕らのプライベート空間だ。一応『客室』なんかも用意してるとはいえ、信頼してる相手や非常時とかはともかく、誰でも気軽に乗せたいとはあんまり思わない。
言い方は悪いが、他人を招いて顔を合わせる場所があったほうが都合がいいわけだ。
まあ、うっとうしい追っかけの連中をかわせる面もあるから、今の生活も十分いいんだけど……こうして考えてみると、割かし需要あるな……固定の拠点も。
その点ここなら、ご飯も美味しいし身内もいるし、住人の皆も優しくていい感じだし、割と魅力的なんだけど……やっぱ交通の便がなあ。
オルトヘイム号で飛ばせば3日でウォルカにはいけるけど……往復1週間弱はさすがに遠い。
それにここ、当然ながらギルドの支部もないからクエスト受けらんないし、世間そのものと隔絶しているに近い空間だから、定期的に来る商隊に頼らないと情報も入ってこない。
だから、固定の拠点を持つにはいささか不都合な面も多いんだけど……本拠地じゃなく、『別荘』程度の扱いの拠点ならありかも、と思ったのである。
疲れた時に帰ってきてゆっくり休める、避暑地みたいな扱いには向いてるかな、と。
物資も、姉さんの商会が定期的に来るし、町の商店とかに頼むこともできなくは無いだろうから、そろえておくのも難しくないだろう。
立地がアレだから、面会用のスペースとしての使用は無理だけど。
とまあ、そんな感じの『どうかな?』程度の提案を皆に話したら、驚かれこそしたものの、おおむねみんな賛成のご様子。
特に強く賛成……というか喜んでたのは、『邪香猫』のメンバーではないオリビアちゃんであった。彼女いわく、避暑地扱いでも『邪香猫』の拠点の1つがここにあれば、距離的・政治的ともにネスティアよりも会いに来やすいらしいので。
よっぽど入り浸るとかじゃなければメリットも多いし、今後の展望の1つとして考えてもいいかな……なんて考えつつ、僕は宿屋でゆっくり休むことにした。
ここ来る前に割と難易度高めの依頼1つこなしといたから、ノルマもしばらくは大丈夫だ。とりあえず……もう半月くらい、ゆっくり羽を伸ばそうかな。
とりあえず……
「ネリドラ! 『黒真珠』と『琥珀』貰ったから、早速アレの作成準備に入るよ、準備して!」
「! 了解。あ、でも……クローナさん、まだ帰って来ないけど……」
「あ、そっか。でも、師匠がたまにフラッといなくなるのは珍しいことじゃないし……あの人のことだから心配も要らないでしょ。そのうち帰ってくるだろうから、その時に状況報告とかすればいいよ」
「わかった。じゃあ、早速」
びしっ、と敬礼して小走りで僕についてくるネリドラと一緒に、僕は宿を出て、『オルトヘイム号』のラボに向かおうとした……その矢先、
ふと、僕らの様子を見て……イオ兄さんの屋敷で、僕がこれらの報酬を使って『何を作るつもりなのか』を横で聞いていた……しかし、やっぱり説明が専門的過ぎてよくわからなかったらしいエルクが、皆にダメもとで尋ねているのが聞こえた。
「あのさ……誰か、『しゅくたいろ』って何なのか知らない?」
「「「知らない」」」
多分、1人でもその単語の意味を知ってる者がいたら、間違いなくひっくり返るんだろうな……なんてことを考えつつ、僕とネリドラは宿を後にした。
それにしても……師匠、いつまでどこにいるんだろ? どっちみちこれじゃ、あの人帰ってこないと出発とか無理だな……
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。