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第213話 ローザンパーク防衛線
すいません、感想は後ほど返します……
ザリーの活躍に思いのほか反響がすごくて……びっくりしました。
あと、今回、ラグナドラスあたりからさんざん引っ張ってきたアレがようやく出ます。中身の説明込みで。
そして、またしてもミナトが自重を……
「そうか……まさか、内部でそのような企みがな……」
「はい。しかし、すでに首謀者以下全員がミナト殿と仲間たちによって処断され、計画は阻止したとことです。また、生かして捕らえた者が何人かいるので、後で尋問用に引き渡していただけるとのことでした」
「うむ……わかった。下がれ」
「はっ!」
広場に急ごしらえで用意された陣地の中で、イオは、今しがたやってきたカスミから、ミナト達が蹴散らしたギルバート一味の陰謀についての報告を受けていた。
その内容に、陣地に集まっている幹部達は、驚くと同時に……未然にそれを防いでくれていたミナトに感謝し、そしてすぐさま、それを踏まえて戦いをどうするか、という点に思考を切り替えた。
現在、戦況は膠着気味だが、勝勢は今のところ、ローザンパーク側にあると見てよかった。
兵の総数こそローザンパーク側は劣るが、完全に把握している地形や、堅牢な防壁、そして防衛兵器といった地の利がある。加えてその錬度においても、日ごろから訓練を重ねているローザンパークの軍は、ただの奴隷兵である帝国軍に大きく勝っている。
しかしながら、敵は決して粗末なものではない装備に身を包み、多彩な攻城兵器を繰り出して攻撃してきている。それゆえに、防衛に徹した戦い方では、こちらも中々相手に痛手を与えることが出来ないでいる……というのが現状だった。
決して不利ではないとはいえ、好ましいとも言えない状況。
これをどう打開すべきかと、山賊団の幹部達は意見をぶつからせていたところだったのだ。
「帝国の連中がこの膠着状態をよしとしていたのは、その計画が水面下で進んでいたためだったというわけか……何もしなくても、いずれ我々に内側から打撃を与えるための……」
「しかしそれが意味を成さなくなった今、現状はただの膠着状態に戻ったというわけですねぇ……どうしますぅ? それはそれで困りますけどぉ」
「いや、お主軍師であろう。それを考えるのがおぬしの役目であろうが」
「まあでもアレでしょ、このまま行けば、時間はかかっても負けることはないんだから、気長に今のまま続けるってことでいいんじゃない? 現状、死人も出てないしさ」
「それはちょっと困りますよぅ。このまま戦いが長引けば、物資の消費や兵の疲労がバカになりませんからぁ。それにそれは向こうも同じですし、いつまでもその『毒袋』の作戦が実行されなければ、別な手を打ってきても不思議じゃありませんよぉ」
「ならばどうします? 城壁から出て外に兵を進めますかな?」
「いや、それは下策だろう。確かに戦況は早く動くが、物量戦になってしまう。我が方にも少なくない被害が出るぞ?」
「なら俺や、幹部格何人かで前線に打って出るのは? 雑兵の100や200はちゃっちゃと蹴散らせる自信はあるし、それで敵を総崩れに……できなくても、流れをこっちに持ってくることは出来るんじゃないか?」
「うーん……確かに、高ランクの力を持つ幹部を投入すれば、戦況は動くでしょうが……できればそれもやりたくありませんねぇ。少なくとも、無策では」
「何で?」
「この状況を向こうが予測していないとは思えないんですぅ。むしろ、こうしてこう着状態に持ち込んだのは、私達のような、1人で戦況を変えることが出来るレベルの力を持つ、幹部格をあぶりだすためじゃないかとぉ。となれば、当然すぐさま対処してくる……それに、今回の侵攻の本気度合いからして、向こうにも相応の実力者がいると思いますしぃ……」
「……何らかの形でこちらが戦力を出してくるのを待っている、というわけか……」
「では我々の最善手は、このまま防戦に徹して相手を少しずつ減らしていくことですかな?」
「それはそれで困る、ってさっき言ってたけどね……さて、どうしたもんか……ん?」
と、幹部の一人が、陣地に入ってきた1人の伝令役に気付く。
その伝令は、頭領であるイオの耳元で、直接伝えられ……それを聞いたイオは、驚いたような、あるいは意外そうな表情を浮かべた。
「何? ミナトが……?」
☆☆☆
伝令さんに伝言を伝えてもらって数分後、イオ兄さん達の『会議』の場に呼ばれた僕とザリー、そしてオリビアちゃんは、とりあえず用意された座席に座っていた。
「さて、ミナト……まずは礼を言わせて貰おう、ミナト。それに仲間の……ザリーだったな。此度の帝国の内通者のたくらみ、事前に潰してくれたと聞いている。おかげで助かった」
その言葉と同時に、テーブルについている他の『幹部』の人たちが、軽くだが僕らに会釈を返してくれた。
「そして……フロギュリアのオリビア嬢」
「はっ……このたびの我が方の不徳、フロギュリア使節団を代表して心よりお詫び申し上げます……。後日、本国に連絡の上、あらためて謝意を表明させていただく所存ですが……このオリビア・ウィレンスタット、この身命をもってまずはその一助とする覚悟は出来ております。お望みならば、本国には別に使者を立てますゆえ、いかようにも……」
「よい、オリビア嬢。楽になされよ」
片膝をつき、頭を垂れて丁寧に謝罪の言葉を述べるオリビアちゃんに対し、兄さんは落ち着いた口調でそう促していた。
他の幹部の人達も……特にいらだったりしている様子は無い。
……ちょっと意外だな……今回の陰謀の中核だったフロギュリアの人間だから、結構厳しいこと言われるんじゃないかと思って心配してたんだけど。山賊だから、荒っぽい人も多そうだし。
チラッと見る。幹部の人達の面子は……何か、色々いるな。
イメージどおりの『山賊』というか、荒っぽそうなキャラ濃そうな感じのおっさんもいれば、僕と同じか少し年上、って感じの青年もいる。女の人もいるな……この人達皆幹部?
「此度の一件、オリビア嬢もまた被害者であったことはすでに聞いている。無論、フロギュリアには不手際の旨抗議は入れることになろうが、この件でお主をどうこうすることはない」
「は……重ね重ね、感謝申し上げます……」
「うむ……まだ後で色々と話をつめることもあろうが、まずはこの話は終わりだ。本題に入ろう。ミナト、伝令から話は聞いている、この戦いに手を貸してくれるそうだな?」
「うん。僕としても、仲間と、その大切な人にいらんことしてくれた礼はきっちりしときたくてね……あと、個人的にあの国嫌いだから、腹立つ」
「うむ、気持ちは割とわかるし、正直我らとしてもありがたい申し出だ……して、その見返りに、お前は何を望む?」
「え? いや、特に何も?」
「……んむ?」
イオ兄さんを含め、幹部の皆さんがきょとんとした。あれ、何その反応?
「何も望まんというのか? 戦に手を貸すと申し出ておいて……」
「いやだって、弟として兄さんの手伝いするだけだし……ああまあ、しいて言うなら、もしオリビアちゃんにちょっときつい罰が来そうだった時は、もうちょっとどうにかなんないかな、くらいは言うつもりだったけども」
「「「…………」」」
一瞬の沈黙の後……どっ、と会議の場が笑いに沸いた。
「ふはははははっ……せ、戦争への強力を、ただの手伝いって……」
「やはりこやつ、頭領の弟ですな! 相当に風変わりな考え方をしておりますぞ!」
そんな言葉があちこちから……風変わりってか、おい。
バカにするような意図は感じないけど、やっぱ僕の考え方って独特なんだなあ。
っていうか、イオ兄さんまで笑ってるし
「くくくっ……これは失礼したな、ミナト。どうやらわしも、頭領などという役職についてからというもの、ムダに何かかにか勘ぐる癖がついてしまったようだ」
「昔はただの単純バカでしたもんねぇ、頭領様」
「とりあえず敵見つけたら突撃してぶっ潰すしかしてなかったっすよね」
「やかましいわい、ルフェニア、ウェイン。さてミナト、話を戻そう……その申し出、ありがたく受けさせてもらいたい。ついては、戦況を説明するゆえ、作戦を詰めたいのだが……」
「あ、うん。じゃあ僕の仲間の……秘書みたいなことしてもらってる人呼んでもいい? 戦略とか僕てんでダメだからさ、専門家……じゃないけど、得意な人の意見欲しいし」
「くははははっ、素直で結構。ではこちらも専門の者に丸投げ……もとい、任せるとしようか。頼んだぞ、ルフェニア」
「はぁい、丸投げもとい任されましたぁ。あ、私、ローザンパーク参謀長のルフェニア・ウィルファンクスと申しますぅ、よろしくお願いしますねぇ」
そう自己紹介してくる参謀長さん……ルフェニアさんは、そう言ってぺこりとお辞儀。
さっきから気になってた、幹部の中で唯一の女性の人だ。
ウェーブのかかったワインレッドの短めの髪に、露出多めのドレスみたいなインナーが特徴的だ。顔は美人だけど……口調といい、どこかおっとりした雰囲気がある。
けど、それ以上に特徴的なのは……下半身が蛇だ、ってことだろうか。
「ご覧の通り、私、亜人種『ラミア』でしてぇ、よろしくお願いしますねぇ」
よく見ると、口元に八重歯……というにはちょっと長い気がする『牙』が見えた。
……ホント、ここの人材バリエーション豊かだな。
まあいいや、とりあえずこっちもナナと……あと義姉さんとエルク呼ぼっと。
☆☆☆
それからしばらく会議で詰めた後、結果として出来上がった作戦はというと……当初の予想というか予定を大きくぶっちぎる形で固まった。固まってしまっていた。
幹部の人達、『え、いいのかコレで?』『いやでも、有効なのは本当だし……』『でもさすがにコレはちょっとあまりに……』みたいにぶつぶつ話してたし。
いやまあ、気持ちはわからなくもないんだけど……。
何せ、なんと言うか、ほぼ僕の独壇場になっちゃった感じになったもんね……うん。
まあ、僕としては、発明品の数々の実験の場が予想外に出来上がってくれて嬉しい部分もあるんだけど……ね。
「さて、じゃ、そろそろ始めますか……」
まず、ミッションその1……『敵の軍勢を押し戻せ』からだな。
『現在、戦況は膠着状態にありますぅ。これを打破するのがまず第一の目的ですねぇ』
『何か戦略級魔法兵器でも一発ぶちかませばいいんですかね?』
『これがきちんと陣形を取って攻めてきている軍隊ならそれでもいいんですが、あいにく敵さんは陣形も何もなし、玉砕大前提でただ突っ込んできてるだけですから、それだけだと弱いかもですねぇ。一番単純なのは、正面からこちらも物量で押し返すことなんですけどぉ……』
『よし……じゃ、それで行きましょう』
『え?』
ってな感じでルフェニアさんと話し合って決めた作戦をそろそろ開始しようと思う。
今僕は、防衛線が展開されている城壁の上に立っている。
頑丈な鎧に身を包み、衝車なんかの攻城兵器で攻めてくる帝国軍を、巨大弓や油壺、あとは壁上からの弓矢や魔法攻撃で追い返そうとするローザンパーク軍。
ここに一石を投じて戦況を動かすのが僕の役目なわけだけど……さて、どうやってコレを『物量』で押し返すのかと言うと、だ。
「じゃ……始めますか」
言いながら僕は、帯に収納していたあるものを取り出す。
念じると同時に、手元に出現したのは……どことなく見覚えのある、金属製のアタッシュケース。
表面には……『C.P.U-M』『DANGER』の文字。
そう……『ラグナドラス』の騒動の時、義姉さんに渡したものの結局使わなかった、あの『秘密兵器』である。今回、いよいよそのベールを脱ぐことと相成った。
ケースを開けると、中に入っているのは……様々な大きさの円筒形の『何か』。
色はメタリックな感じのシルバーで、円の部分にスイッチのような突起がついている。いや、実際スイッチなんだけどね。
サイズは様々あり、単三電池くらいのものから、缶詰くらいのものまで色々入っている。
僕はその中から、ジュースの缶くらいの大きさのものを2つ取り出して両手に持つ。
そして、そのスイッチを同時に押して……左右にぽい、と投げた。
次の瞬間、円筒のケースは光を放って空中でバラバラになり……その外装は空気に解けるようにして消えた。そしてその中から、光の球体がいくつも飛び出し……壁の上に広がっていく。
1つの缶から20ずつ……合計40の光は、壁の上に僕を中心にして整列するように並んだかと思うと、次の瞬間、それぞれが風船のように膨らんで、人一人が楽に中に入れそうな大きさの、魔力光の球体……繭のようなものに姿を変えた。
そして、さらにその直後、その光の繭が朽ちるように崩れ……中から、『何か』が現れた。
「「「…………!?」」」
敵も味方も、それを見た者たちは一様にして驚いているが、その表情からよくわかった。
事前に僕のことを『味方である』と聞かされているローザンパークの皆さんも同様だ。
まあ、無理もないだろう……光の玉が膨らんで弾けたと思ったら、いきなりその中から、兵士のような魔物のような、人型の『何か』が現れたんだから。
人型ではあるが、人なのか、それとも魔物なのかはわからない。何せ、顔を含む全身が装甲に覆われていて、肌をさらしている箇所が全く無いんだから。
しかもその装甲、甲冑という感じでもなく、見た目があらゆる意味でとにかく異質だ。
しかし、現代日本の知識を持っていれば……なんとなく、こう思うんじゃなかろうか。
『なんか、特撮モノの変身ヒーローみたいだな』と。
ていうかぶっちゃけ、それをイメージして僕が作ったんだけどもね、こいつら。
特撮変身ヒーローのバトルスーツと、ロボットアニメの量産機をイメージして。
名づけて……
「さ……行け、『デストルーパー』!」
号令と共に、『デストルーパー』総勢40体はいっせいに壁から飛び降り……帝国の奴隷兵たちの中に飛び込み、大暴れを始める。門の前や壁の周辺に群がっている兵達を、手にしている武器で蹴散らし始める。
説明に戻ろうか……あいつらは『デストルーパー』。僕の作った『人工モンスター』……『C.P.U..M』の1つである。
その『C.P.U.M』が何なのかといえば……『Custom』『Portable』『Useful』『Monster』の略である。つまりは、『改造できて、持ち運べて、使役できるモンスター』ってこと。
英語の意味当てが無理矢理なのは気にしてはいけない。前世で英語の成績が10段階評価の3だった僕の限界である。
『デストルーパー』は、ミシェル兄さんに協力してもらって、調達した『スケルトン』をベースに、様々な魔法で強化改造や武装の追加などを施しつつ作り上げていった量産型兵士だ。
しかし、量産型と侮るなかれ。魔力で編み上げられている人工筋肉による膂力、これまた魔力で作り上げられた超硬合金の装甲、その各部位に仕込まれている戦闘用兵装、人工精霊ユニットによる上位アンデッド程度の高さの知能など、豪華機能が目白押し。
加えて、ベースにしてあるのがスケルトンのため、疲労することは無い。充填されている魔力が尽きるまで不眠不休で戦える。その上、アンデッドとしての弱点は全て僕のテクノロジーで克服済みで、太陽光や光の魔力を受けても弱体化や浄化されることはない。
おまけに、駆動系や戦闘用プログラムは……こないだ『ネガの神殿』から残骸をいくつか持ち帰って研究・解析したあのAAAランクの魔物『デストロイヤー』がベースである。
言ってしまえばこいつら、『量産型デストロイヤー』とでも呼ぶべき存在なのだ。戦闘力は劣化してるけど、その分汎用性は大きく上がっている。
ちなみに、名前の由来はもちろん『デストロイヤー』と『トルーパー(兵士)』。
そして手にしているのは、これまた僕の趣味が如実に反映された武器の数々。
剣だったり槍だったり斧だったりするけど、そのどれもがもれなく近未来のSF武器ちっくなデザインであり、それを使う本体のスペックにあわせた性能を誇っている。たぶんだけど、そこらの冒険者が使ってる武器より数段強い。
そんなこいつらの相手が、たかだか奴隷兵程度に務まるのかと問われれば、それはもちろん否なわけで……
「う、うわああぁああっ!?」
「な、何だこいつら!? 魔物か……ぐおっ!?」
「き、効いてねえ! 剣も魔法も全く……ぎゃあぁあ!」
とまあ、あんな感じになってる。
瞬く間に門前の連中を駆逐し、たった40体で殺到する数百人をみるみる押し返す。
武器の一振りで2、3人を当然のように吹き飛ばし、その余波で後ろの連中にもたたらを踏ませ、その隙にまた突っ込んで吹き飛ばし……の繰り返し。
……もっとも、あれら一体一体の戦闘能力はAランク相当だ。それが40体。
『たった』なんて言葉は……ちょっと使えないかもしれない、かな?
しかし、それでも油断しないのが僕のやり方である。
「さて、押し返してスペースも出来たし……追加しますか」
続きまして、ケースから、さっきのよりも大きい、フルーツ缶詰くらいの大きさの円筒を出して……スイッチを押して放り投げる。
中身は同じ『デストルーパー』ただし……50体入り。
さっきと同じエフェクトと共に現れる、50体の劣化デストロイヤー。合計90体になったそいつらが、正面から突撃して蹂躙を開始する……これは酷い。
とりあえず、このまましばらく待ちます。すると……
「ルフェニアさんの予想通りなら、この後……おっ」
軍議の中で事前に教えられていた『多分こう来ると思いますぅ』ってパターン、見事にその通りに目の前で敵が動いていった。
ルフェニアさん予想では、こいつらは奴隷兵のため、ただひたすら門を突破することだけを命じられていて、それ以外の戦略パターンや対応・連携なんかは何も聞かされてないんじゃないか、とのことだった。
多分それは僕も正しいと思う。ギルバートの話だと、もともと毒で汚染された壁内に突撃させて死なせる予定だったみたいだし。
それゆえに、何が起こっても前だけ見て突っ込んでくるので、通常連携の取れている軍に対して使うような戦術は逆に効果が無い。正面から正攻法で押し返すしかないのだとか。
しかし、それが出来てしまえば途端に楽になる、ということでもある。
正面から押し返されたらどうするか、という作戦を聞かされていない以上、彼らはパニックになり、そのまま総崩れになることすらありうるからだ。
もちろん、それでも構わず突撃を続ける可能性もあるし、その前に連中の司令部が何らかの手を打つ可能性もあるけど。
しかし、今回はこちらにとって幸運なことに……上手いこと大パニックになってくれた。
『数の暴力』という言葉を真っ向から否定して押し返してくる特撮的見た目の戦闘員90体は、予想以上に奴隷兵達にとって恐怖だったようで、戦場のあちこちで、明後日の方向に走って逃げていこうとしている。
「しっかし、見たところ『デストルーパー』はまだ1体も倒されてないみたいだな……こんだけの規模の戦いなら、いくらAランクの戦闘力でも囲まれて倒されてもおかしくは……あ、そっか、防御力も上げたから、運よく攻撃当たっても火力てんで足りてないのか…………お?」
そんなことを考えていた矢先、戦場に別な変化が起きた。
(うげ、あれってまさか……まーたルフェニアさんの予想が当たったよ)
戦場の端っこの方で起こっている異変。それは、ちょっと目を疑いたくなる、というか、目をそむけたくなるような光景になって現れていた。
さっきも言ったように、前線に突如として現れた超戦闘力の敵に恐怖し、逃げた沿うとしている奴隷兵が随所に現れていた。
そして今、その脱走しようとしている奴隷兵達に対して……後ろの方につめていた、チラノースの正規軍と思しき連中が攻撃を加えている。
(……ホントにやったよおい……あれが話に聞いた『督戦隊』ってやつか?)
『督戦隊』……かつて、いくつかの大規模戦争でチラノースが使ったらしい部隊。
地球でも、二次大戦あたりで、どっかの国が使ったとか聞いたことがある。
簡単に言うと、戦おうとしない味方の兵士を脅して無理矢理戦わせる部隊。投降したり、命令無しに逃げる兵士に攻撃を加えて殺すのが仕事というとんでもない部隊だ。こいつらに殺されたくなければ逃げずに戦えと、同じ軍の兵を後ろから追い立てるのである。
士気の低い、強制的に徴兵した兵士や、奴隷兵などを動員している戦場、または、玉砕させるのが前提のため、生き残られても困る戦場で主に用いられるんだとか。
あの国は過去に何度かコレをやらかしてる上、今回は大量の奴隷兵を投入してるってこともあって、多分準備してるだろう、とルフェニアさんと義姉さんが予想してたんだけども……
(これはさすがに僕も引くわ……)
敵は敵。でも味方も敵……何じゃそれ。
奴隷兵の皆さんがさすがに気の毒になる光景だけど……だからって手心を加えるわけにもいかないので、さくっと対応させてもらうとしよう。今ので、逃げ出しかけてた奴隷兵達の一部が、思いなおしてこっちにまた突っ込んできてるし……
「……利用させてもらいますかね、あの『督戦隊』とやらも……」
呟きながら、またさらに別の円筒を取り出す僕。
今度のも缶詰サイズ。しかし……中身が違う。
スイッチを押して、それを……戦線右翼の部分めがけて投げる。
投げた先で炸裂し、その中から出てきたのは……また違った『C.P.U.M』。
上半身は、『デストルーパー』の装甲を少し豪華にしたようなものになっているのに対し……下半身は、馬のような4本足。ケンタウロスみたいな感じ。
そしてその下半身も、もちろん装甲に覆われている。
その名も『デストライダー』。元ネタは、『デストロイヤー』と『ライダー』。
『デスタウロス』と迷ってこっちに決めた。
馬に別に乗ってなくて、一体化してるんだけども。てか、またも安直。
騎兵の要領で戦わせる、機動力重視のモンスターだ。それが、戦場の端っこらへんに20体ほど出現し……その機動力を生かして側面に回りこみ、今正に(仕方なく)方向転換してこっちに来ようとしていた部隊のどてっ腹に突撃。
その一角が再び総崩れに。しかも『デストライダー』は早い上に武器の火力も『デストルーパー』よりも高く、突破力も迫力も尋常じゃないため、またしても逃げ出す者多数。
そしてそれを見て、またしても『督戦隊』の皆さんがお仕事。
結果的に、前の『デストライダー』と後ろの『督戦隊』に挟み撃ちにされ、混乱の中殲滅されていく右翼の皆さん。哀れ。
哀れだけど、これって戦争なんだよね。だから手加減しません。
ちなみに、今ザリーに貸してる『アンタレス』も『C.P.U.M』の1つだけど……言うなれば『量産機』であるこいつらと違い、アレは一点もので、戦闘力も大きく違う。
デストロイヤーの元データをベースに、さらに強化するイメージで作ったから……AAAは確実にあるだろう。量産は無理だけど。
さて、所で……右翼はそんな感じになってるけど、左翼はいいのかって? いいの。
だって、左翼は実は……何もしなくても勝手に自滅するから。
右翼と違って『デストライダー』がいないので、右でなく左に行って逃げる兵多数。その一部は、こっちにもやっぱりいた督戦隊の皆さんに粛清されてるけど、逃げる人数が人数なので、だいぶ取りこぼしてる。が、その逃げた人達は……
「「「うわああぁぁああああ―――っ!!?」」」
川の深いところまで走っていってしまい……その早い水流によって全員流されていく。
この時期はあのあたりは川の流れが速くて、あんまり横にいくと、間違いなく足を取られて流されるらしい。これもルフェニアさん情報。あの人マジ優秀だな。
そんなわけで、何もしなくてもあのへんは勝手に全滅してくれるのだ。
装甲している間にも、『デストルーパー』と『デストライダー』がどんどん敵を押し戻していく……と思ったら、どうやら敵さんも手を打ってきたようだ。
「ん? 何か出てきたな……何だアレ?」
敵軍のずっと奥……多分だけど、本陣のあたりから……何かが空に飛び上がったのが見えた。
視力を強化。アレは……
「……龍? に乗ってる……ひょっとして『龍騎士』ってやつか?」
『え、龍騎士!? 連中、そんなのまで出してきたんですか?』
『サテライト』の向こうから、ナナの驚いた声が聞こえた。知ってるのかな?
視覚共有で確認してもらうと……どうやら、彼女が思い浮かべたものと同一だったらしい。
『龍騎士』……調教された小型のドラゴンに乗って、上空から攻撃を行う精鋭部隊。槍を使った戦闘技能だけでなく、乗っているドラゴンの火炎ブレスや、馬をもしのぐ速さで立体的に飛び回るため、1人で数十人分の働きをなすこともあるんだとか。
まあ、チラノースだけじゃなく、同様の部隊はネスティアとか他の国にもいるらしいんだけどね。なんなら、この『ローザンパーク』にも。
その『龍騎士』の部隊、大体20人くらいは、急降下と急上昇を繰り返しながら、前線で大暴れしている『デストルーパー』たちに連携して攻撃を加え始めた。
お、ホントに結構強いな。3騎がかりでの連携で……もう1体やられた。
どうやらアレは、不利になった戦況を変えるために繰り出されたてこ入れらしいな。このままじゃ、ろくにダメージも与えられないまま、奴隷兵が減っていくだけだと悟ったか。
ふーむ……どうしよう、まだ空飛べる『C.P.U.M』は作ってないんだよね……。かといって、このまま放置しとくと割と『デストルーパー』減らされちゃいそうだし……。
一旦ザリーに連絡とって『アンタレス』返してもらって持ってくるか……いや、面倒だ。それに、アレなら確かに戦闘力では負けはないだろうけど、飛ぶ相手への攻撃手段がないことに変わりは無いし。魔力弾の機銃だけじゃ、いくらなんでも心もとない。
そうなると……さて、どうしたもんか……
(『タウラス』や『レオン』も滞空攻撃無理だし……『キャンサー』は兵装がてんで未完成。『ピスケス』はだめ、論外。アレ調整まだだから出せたもんじゃない。他の7体もまだ全然……うーん、こんなに早く実戦投入するとは思ってなかったから、順番間違えたな……『サジタリウス』か『リブラ』あたりを先に完成させときゃよかった)
……しかたない。こっちもカードを切るか。
帯からスマホを取り出し、電話帳を呼び出して……と。
「あ、もしもしクロエ? 今から行ける?」
『もちろん、30分も前から準備万端よ。むしろ待ちくたびれちゃったわ』
「あっそ……気合入ってるようで結構。聞いてたと思うけど、龍騎士ってのが出てきてさ、こっちに滞空戦力がないもんだから、お願いできるかな?」
『了解! それじゃあ……オルトヘイム号、発っ進!』
そんな、元気のいい声が聞こえた直後……門の内部に呼び出した後、認識阻害システムで隠していた僕ら『邪香猫』の旗艦『オルトヘイム号』がその姿を現した。
突如、戦場に空飛ぶ船が現れるという異常事態に、再び帝国軍の皆さんが、龍騎士たちを含めて度肝を抜かれている間に……その船の甲板で、異変が起こる。
――ウィィィン……ガシャン、ガシャンガシャンガシャン……
と、機械的な音を響かせつつ、甲板の一部分の床が開き、それらが姿を現す。
『サンセスタ島』での戦いを教訓に、こういう事態に備えてオルトヘイム号に取り付けておいた……対軍爆撃用ランチャーミサイルユニットの数々が。
船の形が帆船なのに対し、ランチャーミサイルの砲台はどう見ても近代兵器というアンバランスなことになったわけだけど……まあ、いいとして。
そして……
『よぉーし……標的、チラノース軍龍騎士隊。総数30騎確認。レーダー感度良好、全標的にロックオン……完了。3、2、1……発射!!』
このたび、オルトヘイム号『オペレーター』に就任したクロエの、何だか妙にハイテンションな声が聞こえた直後……甲板のミサイル砲台が一斉に火を噴いた。
飛び出したミサイルは、空中でぼさっとしていた龍騎士たちに容赦なく襲い掛かり、命中、撃墜していく。爆ぜて、飛び散る。うわ、けっこうグロい。
中には間一髪避けた者も何騎かいたけど……残念。あれ、魔力感知の追尾式なんだよね。
……全弾命中。よし、全部叩き落したな。ナイス、クロエ。
クロエってば、ナナやエルクより僕の発明品……特に、乗り物系の操作技術覚えるの早いし見事に使いこなすんだよなあ。意外な才能。
そこ見込んで、オペレーターになってもらって正解だったよ、うん。
さて、あちらさんの切り札的なのもひとまず潰したし……このまま他に何も動きがなければ、連中が撤退始めるまで、『デストルーパー』達で攻め立ててればよさそうだな。
結局その後、僕は何か戦場に動きが起こらないかどうか注意して見つつ……数十分後、チラノース軍が撤退戦を始めて逃げ去っていくまで、とりあえずその場に残っていた。
今回のローザンパーク防衛線、ローザンパーク側、死者0、重軽傷者数十名。
対して、チラノース側は……目測だけど、たぶん損害率6~7割くらい。
そのほとんどは奴隷兵で、正規軍の戦死者は、出てきた龍騎士と、『デストライダー』の攻撃に巻き込まれてた右翼の『督戦隊』の一部くらいだけど……まあ、勝利、と言っていいだろう、今回のこの戦いは。
それを本陣に報告した後、『念話』の向こうに聞こえる歓声。
それに少し遅れて、イオ兄さんから『戻ってきていいぞ』って指示が出たので、後処理は兵隊さん達に任せて、僕も本陣に戻ることにした。
『……ところでミナト君? 君……あの『黒トカゲ』と戦いになったんじゃなかったっけ? アレは無事に撃退か討伐できたの?』
『ん? ああ、それなんだけど……ちょっとあの後、予想外というか、ややこしいことになってさ……後で話すから』
そんな会話を、こっそりザリーとの間にかわしながら。
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