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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第12章 鬼ヶ島の恋物語

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第211話 オリビア救出作戦

『魔拳』6巻が11月下旬に出ることになりました。
今回は『幽霊船』編が入ってます。ミュウ・シェーン他がイラスト化もして初登場です。
他、詳しいことは活動報告に載せさせていただきました。ご一読お願いします。

お見かけした際は、気がむきましたら手にとって見ていただければ幸いです。
 

「どういう状況だ!? 報告しろ!」

「はっ! 正門の見張りより報告がありました! 先程、チラノース帝国のものと思しき大規模な船団を発見、およそ1時間半後に正門に到達・戦闘開始となる見通しだとのことです!」

 『ローザンパーク』中に突如として鳴り響いた、大きな鐘の音。

 慌てて宿から飛び出した僕らは、広場に集合を始めている、ローザンパークの警備隊――山賊団の戦闘員の皆さんなんだろうけど――っぽい方々の前で、ちょうど報告を受け取っている所らしいイオ兄さん、という場面に出くわした。

 と同時に、イオ兄さんも僕らに気付いたらしい。目が合った。

 部下の人達に何ごとか素早く指示を出すと、こっちに歩いてきて、

「すまんなミナト……これからどうも騒がしくなりそうだ」

「聞こえたよ。チラノースでしょ?」

「おう。どうやら今回は、いつもとは様子が違うらしいが……まあ、詳しいことは隠密部隊を調査に出して調べさせないとわからんが、問題は無い。お前はゆっくり休んでいろ、連中の相手をするのは、ワシらの仕事だ」

「いや、そうしたいところなんだけど……どうも僕らも無関係じゃいられないみたいでさ」

「何? どういうことだ?」

「実は……」

 イオ兄さんに、さっき捕えたバーバラ・ヒーストンの記憶から読み取った情報を報告。

 今、この『ローザンパーク』内に内通者がいること。そしてそれは、フロギュリアの使節団の一員であるあの茶髪のホスト顔の男であること。

 そしてそいつが……一緒にいるオリビアちゃんの『毒』の魔力を利用して、内部からローザンパークを壊滅させる、ある恐ろしい『自爆テロ』を仕掛けようとしていることを、だ。

 オリビアちゃんの毒魔力にはいくつかの特徴があるが、その1つが、特殊な術式を使えば解毒が可能であるということにある。その術式は秘伝で、ウィレンスタット家、およびそこに古くから仕えている家の中枢人物のみが知っている。

 しかし、その『家の中枢』……トリスタン家のギルバート(以後呼び捨てにするのでよろしく)が裏切っているので秘密もへったくれもないんだけども。

 ギルバートはどうやら、マジックアイテムや魔法薬を使ってオリビアちゃんの魔力を極限まで……それこそ、彼女の体と命が到底耐え切れないレベルまで増幅させた上で、それを暴発させるつもりらしい。言ってみれば……彼女自身を、毒の爆弾にする作戦だ。
 オリビアちゃんの『毒』は歴代類を見ないレベルに強力であり、それゆえに可能な作戦らしい。

 それによって、ローザンパークの内側で猛毒を撒き散らして壊滅状態にした後、外側から攻撃を続けて殲滅。ボロボロになった中の人間が力尽きるのを待って突入。同時に『秘伝』の術式で汚染された内部を浄化していき、チラノースの軍用拠点として制圧する、というものだ。

 そして……そんな作戦を実行させられれば、当然、オリビアちゃんの命は無い。
 だからこそ、時間が無い。チラノース軍相手の戦いの方はイオ兄さん達に任せるとしても……オリビアちゃんの救助のため、迅速に動く必要がある。

 ……と、思ってたんだけど、

「ほ、報告します! 先程の報告を訂正! 敵船団の船足は以前よりも早く、1時間以内に戦闘開始の見通し! 加えて目測ですが、船の数から推測して、敵の総兵力は3000以上になると思われます!」

「「「!?」」」

 飛び込んできた報告に、その場にいた全員が仰天した。
 さ、3000人以上!? 多いなおい!?
 軍の規模として多いのはもちろんだけど……こんな危険区にどうやってそんな大軍団引っ張り込んだんだ!? 普通の船は航行するだけでも大変な上、魔物が襲ってくるからろくにここにたどり着くことも出来ないって聞いてたのに……。

「イオ兄さん? まさかとは思うけど、チラノースの軍勢っていつもこんな……?」

「……いや、今回はどう考えても異常だ。チラノース側からは、山脈を利用して『川下り』になるゆえ、船底の丈夫な船を使えばある程度は進みやすいとはいえ……いつもはせいぜいその1割から2割程度しかここまでたどり着かんはずだ。今回に限って、なぜそんな大群が……」

「船足がいつもより早い、ってのも気になるね……どうも今回の襲撃作戦とやら、『フロギュリア』の一部と内通して行われるだけあって、裏に何か隠れてるのかも」

「何かって何?」

「いや、知らんけど」

「……何にせよ、腰をすえて対応に当たらねばならんようだな……場合によってはわしも出ることになるかも知れん」

 と、イオ兄さん。それを聞いて、周囲にいた側近らしき人たちが驚いていた。

「ミナトよ、すまんがそちらの用事に出せる人材はいなそうだ……カスミとナズナは使ってもらって構わん。それで容赦してくれ」

「そりゃもちろんだよ。イオ兄さんの方こそ気をつけてね。何か手伝えることがあったら何でも言って」

 そう言葉をかわし、僕ら『邪香猫』は広場を後にした。オリビアちゃんの救出と……その後、イオ兄さんを手伝って『ローザンパーク』を守る手伝いをするために。

 さて……一丁やるか! まずは……

 ☆☆☆

「くくっ……順調のようだな。後どのくらいで作戦開始だ?」

「はっ、見通しでは、チラノース軍の攻撃が始まるまで、もうおよそ30分強とのことです」

「よし……十分間に合うな」

 『ローザンパーク』内部、とある建物の中。
 貴賓用の宿屋から移動したギルバートとその部下達、そしてオリビアは……来るべき『作戦開始』の時に備えて、じっと息を潜めていた。

 小さめの窓から外の様子をうかがうギルバート。そこそこの高台にある建物なのか……眺めはかなりよく、遠くまで見える。それこそ、外縁の塀の外側までも。

 そして、そのギルバートの後ろには……ロープで椅子に縛り付けられているオリビアの姿が会った。後ろ手に縛り上げられている腕には、ギルバートが『毒を使うためのアイテム』だと言った腕輪が嵌められているが……すでに起動しているのか、燐光を放っていた。

 その効果だろう……オリビアの体全体が、僅かながら紫色の光をまとっているのが確認できた。

「ふん……こっちも順調といえば順調か」

「ぅ、ぐっ……!」

「……耳ざわりな雑音がするな、黙らせろ。それと、万が一光が外に漏れても面倒だ……布でもかぶせておけ」

 マジックアイテムで強制的に高まり続ける魔力が、体の中で氾濫して苦しいのだろうか、うめき声を上げるオリビアだが、ギルバートはそれに興味を示すこともなく、淡々と部下に命じる。
 それに従い、部下のうち2人がそれぞれ、オリビアに言われたとおりの処置を施した。

 猿轡を噛まされた上で、魔力光を隠すために布をかぶせて軽く紐で縛られるオリビア。
 ギルバートは、椅子に座ったまま、大きなてるてるぼうずのような姿にされた彼女を一瞥し、ふん、と鼻で笑った。

「……相変わらずムダに魔力は大きいようだな……この分なら、毒が溜まりきるまであと1時間とかかるまい。もう少し経ったら薬も使って、保有魔力量を増やすドーピングを始める。その後、放置して撤退する……魔力臨界の目安は1時間30分後だ」

「はっ」

 拘束したオリビアを、全く人間扱いする様子の無いギルバートは、再び外に視線を戻す。
 塀の外に徐々に見え始めた『チラノース』の軍勢に、にやりと再び笑みを浮かべる。

「くくくっ……向こうも上手くやったようだな……さすがは最新型の河川航行艦だ」

「ええ……危険を冒して『彼ら』の技術を入手した価値はあったようですね」

「ああ。無断で技術を使ったことで少々『彼ら』の機嫌を損ねてしまったかも知れんが……ここで大きな実績を出せれば『彼ら』の利益にもなる。文句はあるまい」

 傍らに控えている、秘書役か何からしき赤髪の女性と話しながら……ギルバートは脳内で今一度『作戦』を確認する。

 約30分後に始まるであろう、チラノース軍の総攻撃。
 当然、防御に適した設備を持つ『ローザンパーク』は応戦するだろう。今までに何度かあったチラノースからの防衛戦の時も、そのようにして毎度撃退してきたのだ。

 しかし、今回のチラノース軍は規模が違う。
 しかもそれ以上に、ローザンパーク軍は知らない思惑があった。戦術に関わることでも会ったため、ギルバートはそれを事前に聞かされている。

 今回のチラノース軍を構成しているのは……その大半が、『奴隷兵』なのだ。

 バッサリ言ってしまえば、使い捨てることが前提になっている兵士達。
 数に頼んで防衛線を突破させるため、開戦早々に玉砕上等で突撃させる特攻戦力だ。

 さらに言えば……実はチラノース軍が、北方はチラノース国内にある拠点を出発した直後、奴隷兵は今の倍近くの人数がいた。

 それを、今ここにこうして到着する間に……途中、危険区で魔物に襲われるたびに突撃させ、さらに時にはそのまま囮として放り出し、時には乗せている船ごと見捨てて残りを進軍させる、というやり方で、ここまでこれだけの数を残して南下してきたのである。

 そして奴隷兵たちが戦い、防衛線を中に押し込むことが出来たタイミングを見計らって……ギルバートが『毒袋オリビア』を使う。それにより、内部から『ローザンパーク』軍に壊滅的なダメージを与え、その隙をついて奴隷兵たちになだれ込ませるのだ……まだ『毒』が充満し、足を踏み入れれば命を蝕まれる、汚染された戦場に。

 もちろん、彼らにそんなことは知らされていない。ただ、隙が出来たら一気に攻め込め、とだけ命令し……敵軍が壊滅するまで戦わせ、その後は見捨てて、勝手に死ぬのを待つ。

 そしてその後、ようやくチラノースの正規軍が残的の掃討と壁内の占領のために動き出すのだ。ギルバートによってもたらされた『解毒術式』を使っての、内部の解毒を進めながら。

 結論を言えば、この戦いは1から10まで、おびただしい数の奴隷兵達の犠牲の上に成り立つ戦いなのである。

「あれだけの数がいれば、たとえ素人同然の奴隷兵といえども……攻め入ることは難しくとも、戦線を内部まで下がらせるくらいは可能だろう。聞いた話では、何か一部見込み違いがあったとかで、あれでも当初の予定よりは少ないという話だが……」

 そして、これはギルバートにも聞かされていない話だが……実はこの大量の奴隷兵の中には、先だって『ラグナドラス』で起こった騒動の際、脱走した囚人たちも組み込まれる予定だった。

 事務総長・ルドルフが言っていた大口の取引先……それは、何を隠そうチラノースの軍部のことであり、彼らはこの作戦で消費するための大量の奴隷を方々から買いあさっていたのだ。ルドルフが脱獄させる予定だった囚人達も、奴隷としてここに売られる予定だった。

 もっとも、そのたくらみはミナト達によって阻止されてしまったがゆえに、今回の作戦に向けて用意された奴隷は『やや少ない』ことになったのだった。

 そうとは知らないギルバートは、自分の役目である、『毒袋』の起爆の準備を進めるため、少し早いが薬品の使用を始めさせようと、手下達に指示を出そうとした……その時、

 
「3、2、1……突入ッ!!」

 
「「「!?」」」

 小さな窓から、これまた小さな丸い『何か』が投げ入れられた次の瞬間……轟音と閃光をあたりに撒き散らし、それは炸裂した。

 ミナトによって開発された『マジックスタングレネード』。光と風の魔力の応用で作られたそれは、現代日本における特殊部隊などが使う『閃光手榴弾』と同じ力を持ち、音と光で相手を無力化させることができる制圧兵器。

 それによって突如として目と耳をふさがれたギルバートたちのもとに……天井や壁を豪快にぶち抜いて、ミナト、ナナ、シェリー、クロエ、そしてセレナがなだれ込み、ギルバートの部下達を端から処分(・・)していく。全攻撃が致命傷。非常時ゆえ、容赦ない。

(っ!? こいつら、なぜここが……いや、そんなことよりも、毒袋を……)

 部屋の中央付近にいたことで、運よく捕縛から逃れていたギルバートは、視界がほとんど聞かない中ながらも、自分たちの『兵器』であるオリビアを回収して逃げようと、とっさに駆け寄ろうとするが……その瞬間、オリビアの真下の床から……大量の『砂』が吹き上げた。

「っ、何……っ!?」

 そのあまりの勢いにひるみ、さらには足元にまで広がった砂に足を取られそうになって急停止したギルバート。
 その直後、吹き荒れる砂の嵐が晴れ、彼の前に移ったのは……

「……お前……っ!」

「やぁ……オリビアに随分素敵な真似してくれたみたいだね……クズ兄貴」

 たった今救い出したオリビアをお姫様抱っこで抱えながら……普段の軽い感じの表情とは180度違う、近づきがたいほどの殺気と気迫を身にまとった、完全武装のザリーの姿だった。

 そのザリーの姿にひるみつつも、何かを言おうとした瞬間……

「「動くな(フリーズ)!」」

 ギルバートの喉元にナイフが、わきの下に『ワルサー』が押し当てられ、動きを封じる。
 左右に立つナナとクロエの、軍人時代からの衰えを感じさせない連携の産物であった。

 左右からも放たれる殺気と威圧感に、指一本動かせなくなったギルバートが、目だけを左右に動かし、ようやく少し見えるようになってきた周囲の様子を見ると……すでに状況が詰んでいるという事実を知ることができた。

 部下達は皆、致命傷を負って床に倒れ……最後の一人が今、シェリーによって斬り伏せられた。ただ1人、クロムは……瞬時に反応・応戦したのか、拘束こそされていないが、セレナと鍔迫り合いになった結果、その怪力で壁際に押し込められたらしく、結果的に動けない状態だ。

 そして、窓際には黒髪の男――ミナトが立っており、逃げ出すものがいないか監視している状態。

 どこをどう見ても逃げられる可能性が見当たらず、ギルバートの脳裏に、死の恐怖と共に『降伏』の2文字がよぎったその時、

 彼に……予想外の幸運が、文字通り降ってきた。

 それに気付いたのは、窓際にいたミナト。
 何かにはっと気付いたように、上を……何もない天井を、あるいはその向こうの空を見上げて、焦ったような表情になる。

 そして、大きく口を開けて何かを叫ぼうとした……その瞬間、

 
『ギュアアアァァァアアアァアアア!!!!』

 
 天井をぶち抜いて、部屋の中に凄まじい勢いで……黒と琥珀色の『何か』が飛び込んできた瞬間、そのあまりの威力に建物全体が崩れ始めた轟音の中で……ミナトの声がようやく響いた。

 
「こんっの……バカトカゲぇ――――ッ!!!」

 
 ☆☆☆

 ああ゛ぁ――もうッ!! 何てタイミングで飛び込んでくるんだよあのバカトカゲ!
 せっかく途中まで上手くいってたのに台無しだよチクショー!!

 どうやらすでに貴賓宿を引き払って、別の場所に潜伏していたらしいギルバートたちだけど……エルクとアルバ、さらにそこに『オルトヘイム号』のメインコンピュータの補助までつけた、最大出力の『マジックサテライト』なら、探し出すのは簡単だった。

 それによって潜伏先を見つけ出した僕らは、元軍人のメンバーを主軸にして強襲用のチームを即席で編成し、僕特製の『マジックスタングレネード』を使って、特殊部隊っぽく一瞬で連中を制圧する作戦を立てた。

 僕とシェリー、ナナ、クロエ、義姉さんの5人で敵戦力を無力化し、その間に人質兼危険物扱いのオリビアちゃんをザリーが救出する、って形で。

 そしてそれは上手くいって、あとは首謀者のギルバートを拘束して終わりかな、ってところで……上空から、あの空気読めない黒トカゲが降ってきたのである。

 妨害が入ったりしないように、周囲の状況は『サテライト』で随時確認してたんだけど、それが仇になった。というか、僕らの油断を招いたかもしれない。

 忘れてた……あいつ、何でか知らないけど、『サテライト』に映らないんだった……!

 結果、飛び込んでくる直前まで気付けず……直後に建物ごと粉砕されてしまったせいで、その場は大混乱に。ギルバートには逃げられるし、皆とはぐれるしで散々だ。

 しかも……どうやら今正に、チラノース軍の攻撃が始まったみたいだし……。

「……っち、トラブル多すぎ……どれから対応すりゃいいんだか」

 『サテライト』で確認……全員無事だ。ただし、ザリーとオリビアちゃんが少し離れた所にはぐれてるな。

 ナナとクロエ、義姉さんも……いた。でも、ちと遠いか。建物が斜面に建ってたことが完全に災いしたな……皆各々が崩落に巻き込まれて変な位置に飛ばされてるよ。

 見た感じ、一番ザリーに近い場所にいるのは僕だけど……

『グルルルル……』

 ……ホント、どんな縁なんだか……目の前にこいついるしなあ……

 外からはチラノースの軍勢、近くにはギルバートとクロム、そして目の前には『ゼット』……さて、どれにどう対応するのが最善かなっと……。

 急がないと、どれもバカに出来ないダメージを受ける可能性があるピンチばかりだし…………うーんと…………

 ……よし、決めた。コレで行こう。

『全員聞いて! これから……』

 脳細胞をフル稼働させて導き出した対処とその順番を『サテライト』ごしに皆に伝えながら……僕は、睨んでくる『ゼット』を相手に、油断なく構えを取った。

 さて……ここからが正念場だ……!

 
 
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