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第206話 ザリーとオリビア
……ええと、だ。
『公爵』……5階級の爵位の中で、一番上。国によっては、王家の分家とか傍流しか受けることができない、って感じだった気がする……とにかく、貴族でも特に偉い感じ。
『許嫁』……フィアンセ、婚約者、その他言い方色々。将来結婚する予定の人のこと。
……うん、よし、ここまではいい。
いいんだけど……この2つの単語が、うちの諜報担当のオレンジ色にどうしてこうも密接に絡んできてる感じなんだコレ!?
「あー……ごめん、順序だてて説明するから、その……ちょっと待っててよ、皆」
「なるほど……やはりあなた、この方々にも隠していたのですね? ザリー」
困った感じの表情のザリーと、同じソファのすぐ隣に座る、紫の髪の女の子……オリビア。
現在僕達は……フロギュリアの皆さんが泊まっている、貴賓用の宿にお呼ばれし……そこの応接室っぽい部屋に通されている。
今さっき聞かされたトンデモ爆弾発言の真意を、これから説明してもらう所なのだ。
「真意と申しましても……先程の言葉以上の意味はありませんけれどね」
「それでも説明は必要でしょ。まあ、説明してなかった僕のせいなんだけど」
「それもそうですわね。私も許嫁としては「ん、んっ!」……何ですの、ギルバート?」
と、明らかに故意としか思えないタイミングで咳払いを割り込ませてきた男の方に、オリビアちゃんが、これまたあからさまに嫌そうな視線……ジト目を向ける。
その視線の先には……別なソファに座っている、背の高い男がいた。
『失礼』と、全然心のこもってない感じの声音で一言謝る。
年は……20代半ばから後半、ってとこだろうか。タキシードみたいなデザインの礼服に身を包み、オレンジ色……というよりは茶髪に見える色合いの髪を、オールバックにして後ろに撫でつけている。
金の指輪とネックレスを身につけてて、香水もつけてるみたいだ。
……なんか、雰囲気がホストっぽい。けど、それ以上に気になってるのは……
「言の葉だけとはいえ、戯れが過ぎるよ、オリビア」
「あら、何がかしら?」
「君の未来の夫は僕だろう? それを、隣に座っているそんな下賎の者を指して許嫁などと……何も知らない民達が誤解してしまうじゃないか」
なんか、キザったらしくそんなことを言ってるこの男……どことなく、ザリーに似てる気がするんだけど……。具体的には、ザリーがあと5、6歳年取った感じ?
「あら、そうだったかしら? 確か私の許嫁の座は公的には依然として空位だったと思うのだけれど……数年前、どこかの誰かが黙って行方知れずになったせいでね」
「わかりきったことを言うものじゃない。確かに公式にはそうだが、その話はすでに、身内で片がついていることだろう? 前の婚約が白紙になった今、内々にとはいえ僕が……」
「その『誰か』が戻ってきたのなら話は別でしょう? そもそもあなた、自分の血のつながった弟に対して『下賎』だなんてどういうおつもりかしら?」
その言葉ではっきりした。
やっぱりコイツ……ザリーの身内か。それも、今言ってた感じだと多分……実の兄?
「何をおかしなことを……僕に弟はいないよ」
「……冗談にしては笑えませんわよ、ギルバート?」
「冗談を言ったつもりは無いよ。まあ、確かに血の繋がりがあるという意味ではそうかもね……けど、貴族たる自覚もなく、責務をも忘れ、可憐な許嫁を放り出して出奔するような男を……僕は弟などと呼ぶ気は無いんだ」
ギルバートと呼ばれた男は、そう言って、キッ、とザリーを睨む。何と言うか……嫌悪のような感情が乗った視線であるように見えた。
それを受けて、ちょっと気まずそうにするザリー。横に座っているオリビアちゃんも同様。
……何だかなー、僕ら外野を放っぽって、何か重苦しい雰囲気になってるけど。
説明してくれるんじゃなかったの? という感じの顔になってるであろう、僕の表情に気付いたのか、ザリーがすぐにいつもの軽薄な調子に戻って、
「はいはい、そのへんにしてよ。オリビアも兄さんもさ」
「お前に兄などと呼ばれる筋合いは……」
「わかった、わかったよ赤の他人。ごめんねミナト君、ちゃんと説明するから、もうちょっとだけ待っててくれるかな?」
軽薄そうながらも、何だか疲れたような表情になっているザリーが気になったけど、とりあえず、言われた通り待つことにした。ザリーが他の2人を落ち着かせて、本題に入るのを。
その『説明』が始まったのは、それからしばらく後のことだった。
☆☆☆
ザリー曰くところの『順序だてた説明』は、オリビアちゃんの実家である『ウィレンスタット公爵家』についての説明から始まった。
6大国『フロギュリア連邦』の建国当初から国政を支えてきた大貴族。
その発言権は強大で、国内のあらゆる分野に対してはもちろん、国外にまでその名を知られている名家であるとのこと。貴族社会とか興味ないから、僕は知らんかったけど。
そして、その傘下に大小いくつもの貴族を抱えているわけなんだけど……その1つに、『トリスタン候爵家』がある。
傘下の貴族家の中でも最古参の1つであり、何度か『ウィレンスタット家』に嫁や婿も出しているため、かなり関係の深い間柄となっている家。
その『トリスタン家』の今代の当主には、3人の息子がいるらしい。
長男……ギルバート。独身。
次男……ドナルド。既婚者。
そして三男……ザリュード。行方不明。
……さて、特に勘のいい人でなくとも、もうお分かりだろう。
そう……この『トリスタン候爵家』の三男……『ザリュード・トリスタン』。
彼が今現在……『ザリー・トランター』を名乗っているのだと。
数年前……僕らの仲間であるザリーは、フロギュリア連邦でも有数の貴族の御曹司だった。
そして、ここにいる彼女……オリビア・ウィレンスタットの許嫁だったそうだ。
しかし、貴族としての堅苦しい生活に嫌気がさしたザリュードは、ある時、誰にも何も告げずに、突如として行方をくらました。許嫁のオリビアを置いて。
当時、両家は捜索隊を組織して探したものの……ついに見つけることはできなかった。
そして、その捜索の目をかいくぐって逃走に成功したザリュードは、『ザリー』と名を偽り、1人の冒険者として……そのしばらく後に、情報屋としても活躍を始めた。
で、今に至ると。
「……マジ?」
「マジ」
とんでもない事実を聞かされ、唖然とする僕ら一同。
まさか……仲間のチャラ男に、そんなドラマみたいな過去があったとは……
しかも『候爵』て……アリスやクロエの実家より上かい。
「そんなわけで、行方知れずになってしまった彼の代わりとして、内々に私の許嫁の予定、ということになっているのがこのギルバートなのですが……先程申し上げましたように、本来の許嫁が戻ってきたとなれば、それも最早不要……」
言いながら……オリビアちゃんは、ザリーに視線をよこす。
その目は、さっきまでと同じ気の強そうな目でありながらも……何と言うか、安心したような、嬉しさがにじみ出てるような……そんな感じの目だった。
そのままズバリ、ずっと会いたい人にあえて嬉しがってる感じ、だろうか。
「ザリー・トランター……私の、本当の許嫁。また、あの頃に……あなたがザリュード・トリスタンだった頃のように……私の隣に戻ってきてくれませんか?」
そう、真正面から目を見て……はっきりと言い切った。
僕らや、現許嫁のギルバートさんが見てる前だってことも構わず……恥ずかしげもなく。
まるで、ドラマのワンシーンを見てるみたいで……言葉が出ず、唖然としてしまった。
多分、今、僕……ちょっと顔赤い。ま、まさかこんなシーンを間近で見ることになるとは……。
エルクやナナ、シェリーなんかの女性陣も……大体同じ感じだ。顔を赤くして……小声で『うわー』とか言ってるのも聞こえる。……気のせいか、瞬きの回数が極端に少ない。
……おいおい、義姉さんやナズナさんまで同じ反応か……。
一方で、『内々に』だの『予定』だの言われてたギルバートさんは……あからさまに面白く無さそう。しかし同じように、見つめ合う2人から目が話せないでいる様子。
そんな視線の中心で、思いっきりプロポーズそのものといった感じの告白をぶつけられたザリーは……顔を少し赤くして、数秒ほど視線を空中にさまよわせた後、
「……ごめん。それは……できない」
そう、少し小さな声で……けど、真剣な顔で、はっきり言った。
……一気に重くなる空気。
見てた全員、どんな顔したらいいかわからなくなり……何人か、さっと視線をそらす者も。
かくいう僕も、その1人。
こんな言い方するのは失礼かもしれないけど……こういうシーン苦手なんだよ、僕……真剣に告白したけど、結局思いが届かなくて振られる、って感じの、悲恋なシーン……。
ラブコメはコメディ成分とラッキースケベだけで、シリアスは要らない、っていうのが信条だからさぁ……うぅ、見ていられない……。
女性陣のほとんども、何て声をかけたらいいのかわからない……というか、そもそも声なんかかけられる雰囲気にない、って感じで……。
それ以外の反応をした人といえば……義姉さんと、ギルバートさんくらい。
義姉さんは、人生経験の豊富さゆえか、少しだけ憂いを帯びた目になったけど……それだけ。別に表情を変えることも、目を逸らすこともなかった。
一方でギルバートさんは……僕らとは真逆に、安心したような表情を一瞬見せた後、ふん、なんて得意げに鼻をならしたりしてやがって……正直むかついた。
そして、そんな断りの言葉を真正面から受け止め、うつむいた感じになっている……オリビアちゃん。膝の上で握り締められた両手が、ぷるぷると震えている。
そんな彼女に、さすがに気まずいのか……ザリーがさらに何か声をかけようと、口を開きかけた……次の瞬間、
「なしてや―――っ!!!?」
――バキィッ!!
「ぐふぉあっ!?」
目にも留まらぬ速さで繰り出された、オリビアちゃんのアッパーカットで……ザリーの体が宙を舞った…………って、
(((えええぇえええ―――!?)))
あまりにも予想外すぎる展開に、おそらくはその場にいた全員の心の声がハモった。
沈痛な面持ちから一点、唖然とした表情になっているであろう僕らのことなど構わず、オリビアちゃん(涙目)はすっくと立ち上がると……若干嫌な音と共に落下してきたザリーのところに、つかつかと歩み寄り……その襟元をつかんで、がくんがくんと揺らしだした。
「そげだなってひっでろや! わだし8ね゛んもまってだんさなしてそげだことゆーなやおめ! あげだなどごいいなずげせどが言われでずっとやんだったけど我慢してで、けどまだこーやっておめさ会えで嬉しがったなさ! なして!? 何がやんだごどあったんばゆってよ!? わだしこげだ終わりがだやんだ―――!! 大好ぎだんさ―――!!」
いや、ちょ……何語!?
……あれ? コレもしかして……東北弁か何かか!? 前に、実家に遊びに行った時におばあちゃんがよく喋ってた、なまりまくりのアレによく似てるような……。
いやでも、微妙に違うような気も……これもエセ方言か?
ノエル姉さん(エセ関西弁)の時も思ったけど、この世界の言語ってどうなってんだ?
っていうか、オリビアちゃーん!? と、とりあえずやめてあげてー! ザリー泡吹いてる、泡吹いてるからー!!
☆☆☆
「ああ……死ぬかと思った」
「お疲れさん……飲み物持ってきたけど、飲む? 酒だけど」
「貰うよ、ありがとう……! コレって……」
所変わって、僕らが取ってる宿。ついでに夜。
そのバルコニー的な場所で、ザリーと僕は、風に当たって涼んでいた。
結局あの後、どうにかして落ち着きを取り戻したオリビアちゃんは、『お見苦しい所を……』と一応謝罪した後、お詫びの意味もこめてお土産を持たせてもらってお別れとなった。
そのお土産っていうのが……今ザリーに渡した、酒。
『フロギュリア連邦』特産だっていう銘柄で、飲みやすいけどそこそこ度の強い蒸留酒。大陸の中でも平均気温が特に低い土地なので、こういう温まる酒が好まれるそうだ。
口に含んだ瞬間、それがわかったんだろう。少しの間舌の上で転がした後、ごくん、と飲み下したザリーは……どこか、遠い所を見るような目をしていた。
……エルクや義姉さんが僕の発明品を見た時の『遠い目』とは違うので注意。
ともかく……多分今、ザリーは、昔のことか、あのオリビアちゃんって娘のこと……あるいはその両方を思い出してるんだろうな、ってことは想像がつく。
「……懐かしい味だなあ。寝酒に飲むのに一番お世話になったっけ、コレ」
「出奔して8年ってことは……ザリー当時14歳じゃん。そんな年から酒飲んでたの?」
「フロギュリアは寒いからね。家の方針にもよるけど、子供も結構早いうちから酒の味を覚えるんだよ。貴族の家なら大体……10歳にもなればワインの味を覚えるね」
言いながら、もう一口。コップを空にするザリー。
2杯目を注いでやると、『ミナト君も飲みなよ』って進められた。
酒は好きじゃないけど……まあ、たまには付き合うのもいいだろう。
帯に『収納』していたコップを出して、注いでもらった。昨日の昼間、屋台めぐりしてた時にガラス用品の露店で衝動買いした奴だ。早速出番がきた。
注いでもらって、ぐいっと飲む…………やっぱあんまし好きにはなれないかな。
そのまま、男2人、しばし無言。
視線は空。雲が少なくて、星空と月がキレイである。
「……怒ってるかい?」
「何を?」
「何ってそりゃ……僕が元貴族だってことを黙ってたこととか……」
「いや、別に怒るようなことでもないでしょ。誰だって秘密にしてることの1つや2つあるし……それこそ生まれなんて、自分でどうこうできるもんでもないんだし」
それに、それを隠してたからって、何か僕らにマイナス的な影響があったわけでもないしね。せいぜい、ちょっとびっくりさせられた程度だよ。
美人の許嫁?さんがいたことも含めて、だけど。
「……そこは僕もびっくりしたよ。てっきりもう、忘れられてるもんだと思ってたから」
「……何度も聞いちゃって悪いんだけどさ、許嫁って、マジ?」
「マジ。『元』だけど」
「恋愛系? それとも家と家の取り決めとか、そういう系」
「後者。や、でもまあ……結果的にというか、前者でもあったけど、ね」
「なのに別れたの? 何で?」
「厳密にはわか……ミナト君ってこういうゴシップ的な話題好きだっけ? さっきから何というか……やけに食いついてくるけど」
「あ、いや別にそうじゃないんだけど、純粋な興味からで……迷惑だったらゴメン」
「いや、別にそんなことはないけど……まあ、たまには昔話もいいか」
僕が注いでやった三杯目をくいっと喉の奥に流し込み……ぽつりぽつり、とザリーは話し始めた。過ぎ去った過去を思い出すかのような、遠くを見るような目のままで。
☆☆☆
それは、まだ、『ザリー・トランター』が『ザリュード・トリスタン』だった頃の話。
フロギュリアでも有数の、歴史ある名家に生まれたザリーは、何不自由なく育った。
お金や食べ物に困ることもなく、欲しいものはすぐに手に入る。
しかし同時にその日々は、候爵家の三男としてふさわしい教養その他を身につけるための勉強や社交の歴史でもあった。
豪勢な食事を食べる時には、完璧なテーブルマナーによって食べなければならなかった。
自分より上の身分の貴族には常に敬意を払ってへりくだり、逆に下の身分の者を相手にする時は尊大な態度で振舞わなければならなかった。口調から何から、徹底させられた。
社交会とは、楽しいパーティではない。いかに他の名家と繋がりをつくり、それを友好的なものにして付き合いを深められるかという貴族の仕事の場であり、参加は強制だった。
そして、自らの結婚相手すらも自分で決めることは出来ず……ザリーが10歳になった時、突然両親から紹介された。すでに決められた、自分の将来の伴侶を。
幸いだったのは、ザリーがそこで出会った少女――ウィレンスタット公爵家長女・オリビアと、幾度かの交流を経て、本当に両思いの恋人同士になれた、ということだった。
しかし、貴族として育てられつつも、生来奔放で開放的、自由が好きな性格だったザリーは、オリビアとの時間を癒しとしつつも……年を重ねるごとに、徐々に徐々に自分を締め付けていく貴族社会というものに、嫌気が差し始めていた。
そして、14歳になってしばらくした、ある日。
その日起こったあることをきっかけに、ザリーは家を出ることを決めたという。
「で、そのまま出奔して冒険者になった。その更に数年後、ノウハウを学んで情報屋もはじめた。仕事しながら大陸を大回りしてネスティアまで来て、そこに拠点を置いて腰を落ち着けて……その更に数年後、君達に出会って、こうして一緒につるみ始めたってわけだね」
「窮屈な貴族社会に嫌気がさして、か……後悔してない?」
「してないよ。事前によくよく考えて決めた道だからね」
「……恋人と別れることになったのに?」
「……そこ突かれると、ちょっと痛いな」
ちょっと気まずそうにして、何度目かの一気飲みでコップを空にするザリー。
「オリビアには、ホントに悪いことしたと思ってる。何せ僕、何も言わずにいなくなったからね……だからてっきり、忘れられてるか、思いっきり嫌われてるかと思ってたんだけど……」
「意外や意外、まだ好きでいてもらえた、と」
「どころか、まだ許嫁だ、なんて言われるとは……さっきも言ったけど、驚いた」
「嬉しかった?」
「……うん。正直、ね」
「なら、ヨリ戻す?」
「無理無理。勝手に飛び出したバカが、今更実家になんて帰れるわけないじゃない。仮にそれが出来ても、オリビアにはもう新しい婚約者がいるみたいだったしね」
「『内々に』で『予定』だ、って言ってたよ? あくまで」
「親同士・家同士の結婚の約束なんて大概そういうもんだよ。書面にも何も残ってなくても、完全な部外者が割り込めるほどの隙間なんてそこにはありません」
「……相変わらずわっかんないなー、偉い人の考えることってのは」
「僕もだよ。だから家を出たんだ……自分の人生、好きなように生きてみたいじゃない」
「あー、わかるわその気持ち……そういう家に生まれると、人生ごと『家』の所有物、みたいな感じで扱われちゃうからやってらんないのよねー。自分のことは自分で決めたいっての」
「へー……そういうもんなの?」
「私は、あまり意識したことないけど……確かに、言われてみるとそうかもね」
「私やクロエの家は割と放任主義でしたからね。家に迷惑をかけなきゃ何してもいい、的な」
「……私は、ちょっとわかる。貴族に生まれると、自分の人生も自分のものじゃなくなる、っていう感じ……今がすごく楽しいから、余計に」
「確かにねー……そう考えると人生、何が起こるかわかんないわね。私も、半身がまさか監獄で幸せつかむことになるとは思わなかったし」
「それを考えると、人間、思い切りの良さってのも時には重要なんですかね~」
「確かにな……爺様も、そのように考えて家を出て、そして海に出たのかも知れん。それが果たして正しい判断だったのかはわからんが、な」
「でもさでもさ、ネリドラさんの例は、思い切りとかとはまた別なんじゃない?」
「いやでもホラ、監獄出れたのはうちの愚弟の仕業でも、クロエちゃんをかばってみせたのとか、出た後で公然と愛人に立候補したりとかあったわけだし、そのへんはアレでしょ。ね?」
「「…………」」
ね? じゃねーでしょ、コラ……。
おい、いつの間に、どこから湧いた、あんたら?
当然のように会話に混ざってきて……っていうか、チームメンバーからスタッフまで全員集合しちゃってんじゃないか。いないのアルバと、船に残ってる師匠だけかい。
何ていうか、ホント……女子ってゴシップ好きだな……。
シェリーとかターニャちゃんとかはともかく、普段こういうことに興味無さそうな、エルクとかシェーンまで……。
結局この後、『シリアスだけど混ざって話するくらいはセーフっぽい』との判断で会話に乱入してきた女性陣(特に赤色と小さい方の茶色)によって、しんみりした語り合いは瞬く間に姦しい感じのひと時に変貌したのだった。
まあ……ザリーもまんざらでは無さそうだったけど。
もともとアイツ、しんみりした空気好きじゃないタイプだし……昔話も、こういう風に横から茶化されて引っ掻き回される方が気が楽なのかもね。
そう考えると女性陣、グッジョブ……か?
……それにしても、
自由が好きだから、全部捨てて飛び出した……か。
(……ホントにそうなのかな?)
さっきの物憂げな表情を見た僕は、どうしてもそんな風に頭が働いて考えてしまう。何ていうか……今でも、オリビアちゃんのことを大切に思ってるようだったから。
……ザリーって、ホントにただそれだけの理由で、オリビアちゃんとお別れして家を出たんだろうか……?
☆☆☆
そして、その翌朝、
「おはようございます、『邪香猫』の皆様! 本日は私、唐突にて恐縮ながら、ザリー……もとい、皆様のお仕事にご同行させていただくお許しを頂きたく参りましたわ!」
何か、部屋に……来た。
+注意+
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