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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第12章 鬼ヶ島の恋物語

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第204話 ぶらり食文化探訪

  
「ふむ、なるほど……『虚無の黒真珠』に『ニミュアンバー』か……」

「ここにあるって聞いてさ。で、もし余ってたら買い取らせてもらえないかなー、って」

 至福のひと時からしばらく。

 食事も終わり、一息ついた所で、エルクの指摘によりここに来た本来の目的を思い出した僕は、兄さんに『真珠』と『琥珀』の話を切り出したところ。

 あ、もちろん料理は米一粒、肉のひとかけら、葉野菜の1枚も残さず完食しました。
 その過程で白いご飯を3回おかわりしたので、合計10合くらい食べたと思う。いやホントおいしかった……久々に食べ過ぎちゃったよ。

 そんな僕が、イオ兄さんの部下達から理解できない何かを見るような目で見られつつ切り出した話に……兄さんは『ふむ……』と顎に手をやって何やら考えている。

「確かに、ここには2つともある。して、お前としてはどのくらいほしいのだ?」

「んと……黒真珠はできれば2つ。琥珀は……超純化の段階で体積が減ることも考えると、なるべく多く……かな。ずうずうしいこと言うようで申し訳ないんだけども」

「なるほどな……」

 再び考えるイオ兄さん。

 その間に食後のデザートとドリンクが運ばれてきた。給仕のお姉さんにお礼を言って受け取り、普通に食べる僕。お、杏仁豆腐じゃん。美味。

 すると、さっきよりも短い時間で思考を終えた兄さんが、

「なるほどな……話はわかった。ワシとしても新しい弟の手前、気前よく分けてやりたいところではあるが……しかし、モノがモノだ。ただでというのは無理だな」

「うん、それはわかってる。だからお金か、あるいは別の何か条件で、と思って」

「そうだな……現状金には困っておらんし、ふむ……考えておこう。明日までに対価を決めておくゆえ、明日の朝改めてこの話の続きをするとしよう」

 とのこと。よかった、どうやらもらえる方向で話は進みそうだ。
 対価が何になるかはわかんないけど、よっぽど無茶なものじゃない限り、頑張れば何とかなる……と思う。たぶん。きっと。

 それよりも、と兄さんが身を乗り出し、にやりと笑った。

「甘味でもつまみながら、聞かせてはもらえんか? お前のことをな」

「僕のこと?」

「うむ。まあ、兄弟の語らいというやつだ。こうしてせっかく会ったというのに、飯の話と取引の話だけと言うのも味気なかろう?」

 ああ、なるほど……そりゃ確かに。
 じゃお言葉に甘えて、ここからは普通に世間話というこうかな……甘味でも食べながら。

 あ、杏仁豆腐おかわり。丼で持ってきてー♪

((……まだ食べるよこの人……))

 意味ありげな視線なんて感じない。

 ☆☆☆

 世間話を終えた僕らは、この後イオ兄さんが用事があるということで……今日の所はお暇させてもらうことにした。

 あのお城、部屋は多いし広いけど、客人を泊めるための設備は整ってないらしい。
 まあ、元々そこまで世話になるのは悪いし、普通に宿とかとるつもりだったんだけどね。

 そしてその際、この町のことがわからなくては苦労するだろうってことで、イオ兄さんが部下の人を2人ほど、僕らの『世話係』に付けてくれたのは助かった。
 今、僕の斜め後ろをついてきてくれている、彼女たちである。

 どちらも妙齢の美女であり、和装に身を包んでいる。
 聞くと、2人の家は東方からの流れ者がご先祖様なんだそうだ。つまり、その昔にここ『ローザンパーク』にやってきた人達の子孫で、そのご先祖様が東方の出だったと。

 世代が変わっても、かつての故郷の文化を大事にしてる人は意外と多いらしい。この2人もその一礼であり、和服という民族衣装(に、なるんだろうな、西洋から見たら)を自作して今もこうして着ているというわけだ。

 そういわれて見ると、肌の色も白人よりも黄色人種に近い感じがする。顔つきなんかも、なんとなくアジア系に見えてこなくもないし、目の色も髪色も黒いじゃん。

 ……え、今まで気付かなかったのかって?
 いや、その……そこまで注意してみてる余裕なくてさ。

 何せ、2人ともえらく個性的で……その『個性』にあっけに取られて、そのへんに注意向けられてなかったんだよね。

「あら、ミナト様……私の顔がどうかいたしましたか?」

「え、い、いや、何でもないです、すいません」

「はあ、ならいいのですが……何か気になることがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね?」

 そう言ってにっこり笑う、世話役のお姉さん。
 ……気になること……ね。いや、別になくはないんだけどね……主に、あなたのお顔に。

 何かついているわけではない。いやむしろ、何かがついていない。
 具体的には……目が1つ。

 ……うん、このお姉さん……『ナズナ』さんっていうらしいんだけど……はっきりきっぱりざっくり言っちゃうと、人間ではない。見た目一発わかる、亜人である。

 何せ、目が1つしかない。
 本来なら顔の左右に1つずつあるそれが、顔の真ん中に大きいのが1つあるだけなのだ。花と口と一直線に並んでるんだよ、単眼が。

 それもそのはず……彼女の正体は、なんと亜人希少種『妖怪』。
 超有名な東洋の妖怪『一つ目小僧』なのである。小僧じゃなくて女性だけど。

 そしてもう1人……『カスミ』さん。
 この人は、見た目は完全に普通の人間である。が……同じく『妖怪』である。

 何の種類かというと……っと、話してる間に宿についたか。

 案内されたそこは、かなりの大きさの宿だった。清潔感もバッチリ。
 超賓客用で、イオ兄さんの紹介を受けた部外者以外は利用できないらしい。

 しかし、フロントに誰もいないな……と思ったら、

「あれ、おかしいな……ちょっとお待ちくださいね、ミナト様」

 カスミさん、そう言った次の瞬間……

「おーい、誰かいませんかー?」

 にょろ~ん、と、その首が長ぁ~く伸びて、奥の部屋にまで誰かを呼びに行った。顔だけで。

 ……もうお分かりだろう。この人、『ろくろくび』なんだ。

 この妖怪レディースが、僕らがここに滞在する間の案内役と言うわけである。

 ちなみに何でわざわざこの2人になったのかというと、どうやら僕が『中華料理』を気に入ったことを察したイオ兄さんが気を回してくれたらしいのだ。

 2人とも料理上手で、特に中華料理を作るのが得意らしい。
 また、観光案内や事務作業その他も得意な他、戦闘能力もそれなりにあるため自衛もできるそうだ。そういった総合的な補佐能力を理由に、僕らに付けられたそうな。

 なお、望めば料理の指南役などもやってくれるらしいので、後でシェーンに『中華料理覚えて!』って頼むつもりである。普段の食卓でもぜひ食べたい。

 ……っていうか、ろくろ首も一つ目小僧も日本の妖怪だよね?
 ひょっとして……和食とか作れたりしないんだろうか? 後で聞いてみよう。

 ☆☆☆

 その後、スタッフさんの案内で宿に部屋を取り、部屋に荷物を置いてひと休みした僕らは……今日はもう自由時間ということで、好きに過ごすことにした。

 シェリーさんやザリー、シェーンなんかは出かけるそうだ。買い物だったり、仕事だったり。
 ただ、ザリーの仕事……諜報活動に関しては、場所が場所なので自重するらしく、たまにはいいだろうってことで、何も考えず観光するらしい。

 まあ、山賊のコミュニティ……っていうか『キャドリーユ』の関係者を敵に回す危険を冒してまでお仕事に専念したくはない、ってことらしい。懸命かも。

 他は、今日はもう宿でゆっくりするそうだ。
 その際のお世話は、宿のスタッフさん達が全部やってくれるとのこと。さっき、ナズナさん達が話つけてた。

 そして、僕は……

「うんまーい♪」

「あ、あはは……よかったですね……」

 ろくろ首のカスミさんを案内役に一緒につれて、食べ歩きをしていた。

 そこ、『まだ食べるの!?』とか言わない。

 丁度お昼時だし、食欲をそそる香りが宿にまで届いたんだよ。それに、歩いてる途中で見かけたものの中で、まだまだ食べたい露店はいっぱいあったんだ。

 気がつけば、僕の胃は朝食べたものをとっくに消化・吸収し終えていた。
 となれば、食べるっきゃない。異論は認めない。

 で、今……大通りの屋台をひと通り回った所で、最後に買った肉まんを食べてます。
 あんがまたジューシー極まりない。美味。実に美味。

 5個も買ったのにもうなくなりそうだ。もう2、3個買っときゃよかった。
 てか、ここ来てから僕ひたすら食べてるな……。

 なお、お金は外界でも流通してる金貨や銀貨、銅貨が普通に使えた。よかった。

「それにしても、ここすごいですね。屋台に食堂に、見たこともない美味しい料理があちこちにあって……何でこんなに充実してるんですか?」

「そうですね……すでにお聞き及びかとは思いますが、ここはもともと、はぐれ者たちが集まって出来た集落なんです。それこそ、大陸中から放浪の末に流れ着いた者たちがいたそうで……料理や建物の様式が多種多様なのは、その名残なんですよ。中には、海の向こうから来た人もいたとか」

 と、話し始めるカスミさん。

 その流れ着いた『はぐれ者』の人達は、まだ出来たばかりだったこの集落で新しい人生を始めたわけだけど、それぞれのふるさとの文化――料理や建築様式、民族衣装なんかをそれぞれ大事にし続けた。そして、それに対して他の人は何ら干渉することはなかった。

 その結果が、今のこのローザンパークの食文化その他を形作っているということらしい……え、わかりにくいって?

 普通、大きな国や地域に移住・移民したりするとなると、そこでの生活様式に自分もあわせたライフスタイルを構築するものだ。

 例えば、日本人がどこか外国に移住した場合を考えてみよう。

 テレビでよく、外国で暮らしてる日本人のお宅を訪問、みたいな番組ないしコーナーがあると思うけど、そういうので見る『外国の日本人』は、きちんと現地の文化に順応した暮らしをしていることがほとんどだと思う。

 それも当然だろう。住む場所が違えば、ライフスタイルもそこに合わせざるをえない。

 引越しすれば、手に入るものは基本的に現地のものになる。
 食材も、洋服も、雑貨その他も……あとは、買うとしたらの話だけど、家も。

 仮にだ。発展途上国や未開の僻地に移住しておいて、今までどおりの暮らしがしたいなんて、そんなの出来るわけがない。よっぽどの金持ちの道楽か何かでもない限り。

 要は、日本人だろうがアメリカ人だろうが、中国に住めば食べるものは中華系の料理になるし、アメリカに住めばビッグサイズの洋食になるし、アマゾンに住めば……いやちょっとわからんけど、とにかく現地のものだ。

 まあ、最近の先進国では多国籍料理店なんかもあるし、手に入る食材の種類も豊富だから、あんまりそういう垣根はなくなってきている気がしなくもないけども。

 それはこの世界でも同様なわけだけど……ローザンパークに限ってはそうではなかった。

 何せただの『集落』であり、しかも当時決して規模の大きくなかったそこでは、あわせるべき『現地のライフスタイル』というものがそもそもなかった。
 そのため、移民達は独自のライフスタイルを保って生活できたのである。

 もちろん、その過程で失われていったものも多いそうだけど、結果としては、郷土料理や民族衣装、建築様式などが失われることなく、それぞれ受け継がれてきたのだ。1つの地域の中で、異なった文化がいくつも共生して、今の時代まで。

 そんなことが繰り返されて、いつのまにかこの『ローザンパーク』には、大陸各地の伝統的な料理その他が混在するようになっていたのだという。

 中には、移民の元の居場所ではすでに失われてしまった料理その他もあるとかで……すごいな、まるで博物館か何かじゃないか。

 ……それと、今の話を聴いていてふと思ったんだけども……さっきチラッとカスミさんが言っていた、『海の向こう』っていう部分が少し気になったな。

 文脈からして、どうやら『6大国』なんかとはまた毛色の違う島国か何かが、しかもここから東にあるようなんだけど……そこんとこ詳しく知りたい。

 いやさ、米の存在――しかも、長くなくて楕円形、パサパサせずしっとりしてるタイプ――といい、カスミさんやナズナさんの名前の語感といい、2人の服装といい、種族といい……さっきからある1つの予想というか予感が頭から離れなくてさぁ……。

 否が応にも想像してしまう。その『海の向こうの国』って、もしかして……

「……ん?」

 そこまで考えた僕は、ふと、目の前の光景に気を取られた。

 今現在僕がいる公園(っぽい場所)。そのすぐ前の通りを、数人の男女が通り過ぎた。

 いや、人が通ったこと自体が気になってるわけじゃなくて……その人達の服装がね?

 ここ『ローザンパーク』で暮らしている人達は、料理と同じように、服装も見事にそれぞれの郷土・民族の特色が出ているものを着ており、バリエーション豊かである。

 少し大きな通りをふと見てみれば、あっちに和装、こっちには洋服、そっちにはチャイナ服、なんていう光景すら見られる。ちょっとしたコスプレ会場みたいだ。

 しかし、そんな多種多様な服装の人々にも、共通点と呼べるものがある。
 それは、無駄に豪華な装飾がないということだ。

 鮮やかな模様とか飾り紐とかは普通にあるんだけど、宝石やら貴金属をあしらったような服っていうのはほぼない。少なくとも、僕がここに来てから――まだ半日も経ってないけど――見ていない。せいぜい、アクセサリーに多少そういうのがある程度だった。

 しかし、今公園の前を横切ったあの人達は……いっそ場違いに思えるくらいに、豪華というかきらびやか……ゴージャスな服や装飾品を身にまとっていた。

 横切るまでの数秒の間に見えた分だけでも……女性は余所行き用に違いないドレスに加え、指輪、ブレスレット、イヤリング、ネックレスといったアクセサリーには、メッキじゃなさそうな金色や、自己主張激しく輝きを放つ宝石類が見て取れた。あと、化粧濃かった。

 一緒に歩いてた男性たちは、女性達ほどのきらびやかさはなかったものの、一見してわかる上質な布地で仕立て上げられた礼服に身を包んでいた。そして、腕や首もとには、やはり高そうなアクセサリーが光っていた。

 それより少し落ち着いた感じの服装の人もいたけど……一歩後ろを歩いてた幹事からすると、執事とか従者だろうな。

 ……何だろう、今の一団は?

 すると、僕の思っていたことを察したらしいカスミさんが説明を入れてくれた。

「今の人達は多分……他国の使節の方ですね」

「他国?」

「はい。割とよくあることですから、珍しくもないんですよ」

 聞けば、こういうことらしい。

 前にもちらっと話したけど、この『ローザンパーク』は大陸の中央部にあり、実に5つもの国と国境を接している。
 『ネスティア王国』『ベイオリア王国』『リアロストピア共和国』『フロギュリア連邦』……そして、『チラノース帝国』の5つ。内、『ベイオリア』を除く4つが『6大国』だ。

 残る2つ……『ジャスニア王国』『シャラムスカ皇国』に接してこそいないものの、大陸の北半分に存在する国々にとって、ここはあらゆる意味で重要なポジションにある。

 多くの国と国境を接しているということは、いわゆる『ハブ空港』みたいに、ここを経由することでいろんな国に行けるということだ。そして、そういう場所あるいはルートは、国同士の交流には欠かせないものであるといえる。

 その意味では、大陸北側の全ての主要国と国境を接しているこの『ローザンパークは』、その経由地としてこの上なく好都合なのである。
 奥地に行けばこそ危険ではあるものの、外周を大回りすれば、さほど危険な魔物も出てこないわけなので。相応の精鋭を護衛につければ、行き来することは難しくないレベルだ。

 少なくとも、その他のエリアを通るよりは断然安全なのである。
 周辺各国に威圧的な振る舞いを見せて嫌われているあの国とか、精兵だろうが普通に全滅するような魔物がうようよいる超危険区域を通るよりは。

 そしてさらに……いざ他の国と戦争になった時には、ここは戦略的に非常に重要なエリアとなる。ここを通れるか通れないかで、取れる戦略は大きく変わってくる。何せ、他の国に攻め込む際にはショートカットして進撃できるし、敵国がここを通れなければそれだけ進攻を遅れさせられる。

 そういった時のために、周辺国は可能な限りこの『ローザンパーク』と友好な関係を築いておき、いざという時に自国に味方してくれるように……ちょっとアレな言い方をすれば、ご機嫌を取っているわけなのだ。

 そのために、どの国も定期的に使節団を派遣してきて、贈り物を置いていったり、会談・会食の場を設けたりしているらしい。さっきのもその類ってことか。

 ちなみに、もっと過激な……言ってしまえば『征服して自分の国の領土にしてしまえ』っていう思想の国もあるらしい。
 まあ、言うまでもなく……山の向こうにある、あの北の帝国なんだけど。

 というか正に、公的には『どの国の領土でもない』という扱いのこの『ローザンパーク』を、唯一『あそこは我が国の領土である』とか何とか主張してるらしいんだけど。

 そしてその何の根拠も無い主張に基づいて、さっさと軍門に下れ、税納めろ、言うこと聞けetc……な感じの妄言をここ何年、何十年も続けてるんだとか。

 何回か武力で制圧しようとしたこともあったらしいけど、危険区域の中にあるからまともに進軍してここまで来ることすらできず、勝手に壊滅して逃げ帰ること数多。
 運よくここまでたどり着いて戦いになったとしても、その度に惨敗して尻尾巻いて帰っていくんだそうな。うわ……ダサ。

 てか、あの国領土問題まで起こしてんのかよ……資源目当ての開発や威力外交、さらに他国への工作員の派遣に加えて……本気でめんどくさいな。

「……やなこと考えたら甘いものが食べたくなった」

「あ、まだ食べるんですか……」

 何かもう疲れた感じになっているカスミさんと一緒に、焼き菓子の屋台か何かないかな……とか考えつつ公園の外に出ると……あれ?

(……あれも、他の国の使節の人……かな?)

 通りを挟んで向こう側に、特徴的な一団がいるのが見えた。

 やはりというか、装飾品が多めで煌びやかな……しかし、さっき見た人達よりは少し落ち着いた感じにまとまっている礼装を身にまとっている、数人の男女。
 ほとんどは従者のようだけど、真ん中を歩く男女2人だけは、一見して貴人だとわかる。

 そして僕は、その2人になぜだか目を奪われていた。

 男性の方は、背の高い茶髪のイケメンだ。
 年のころは……20代後半、ってとこかな? いや、何か顔の彫りが深いから、もうちょっと老けて見え……なくもないか? あと、けっこう目力あるかも。

 高級そうな、スーツに近いデザインの上下に身を包んでいて、腕や首元には高級そうな、しかし派手すぎない感じのデザインのアクセサリーがちらほらと見える。

 敏腕ビジネスマンにも見えるし、ホストっぽくも見えるような……コメントしづらい。

 それに……何だろう、どこかで見たことがあるような……? ううん、思い出せない。

 で、女性の方は……まだ少女と言ってよさそうな年齢だ。僕と同い年か、少し下かも。

 明るい感じの紫紺の長髪。全体にウェーブがかかっていて、けっこうなボリュームに見えるそれを、ツインテールになるように2つに纏めている。

 身にまとっているのは、ドレスというにはやや大人しく、しかし礼服というには少々派手に見える服だった。何ていうか……変身ヒロインとか、アイドルあたりが着そうな感じ。
 しかし、来ている本人の振る舞いも手伝って、きちんと気品は感じられる。

 少し童顔だけど、釣り目気味で気の強そうな感じの子だな……とか考えていた、その時、

「…………!」

(あ)

 目が合った。
 その2人のうちの1人……女性の方と。

 しかし、僕はもちろん、目が合ったその少女も、特に何も言わず、表情も変えず、一瞬後には視線を前に戻してすたすたと歩いていってしまった。
 僕はそれを、首は動かさず、目玉を動かして視界に収まる範囲でだけ、目で追っていた。

 それに気付いたカスミさんが、

「……あの、どうかなさいました?」

「え? ああ、いや、何でも……」

 すると、僕の視線を追ったカスミさんが、その先にいる彼女達を見て……

「……あの方々は……たしか、フロギュリアの使節の方々ですね」

「フロギュリア?」

 それってたしか、大陸北西部の『6大国』で……ネリドラの故郷だったな。

「ええ。今日、お館様との面会の予定だったはずですから、これから向かう所なのではないかと。あの方々がどうかなさいましたか?」

「いや、特に何ってわけじゃないんだけど……」

 そうなんだけど……なんで僕、何か気になったんだろう? あの一団見て。

 悩んでも答えは出なかったので……諦めて僕は、再び食べ歩きに戻ることにした。
 よし、次はスイーツで攻めよう。

 
 ……この時の僕は、当然のことながら……まだ知る由もなかった。

 さっき目の合った、あの紫の髪の少女……彼女と今後、僕ら『邪香猫』が、大きく、そして深く、関わっていくことになるということを……。

 ☆☆☆

 その数十分後。
 紫紺の美少女を中心とした一団は……玉座に腰掛けたイオの前に立っていた。

 そのイオのいでたちは、ミナトが去った後とは大きく変わっている。
 ミナトと話していた時のラフなものから、山賊らしく荒々しくも、威厳と威圧感を醸し出すつくりとなっている装束を見に纏い、更にその上、玉座に座って客人を迎えていた。

 仮にも無法者たちの頭領。相手に舐められてはいけない場では、こうするのが常だった。ミナトに対しての態度は、その『舐められてはいけない相手』に当たらないがゆえだ。

 なお、纏っている装束は、仮にそれを着ているイオの姿をミナトに見せた場合、『ラスボス』という感想を抱かれるであろうつくりであったことを追記しておこう。

 そのイオの前に今立っているのは……昨日、ミナトが目にした一団だった。
 茶髪の美男子、紫紺の美少女を中心とし、その従者達と思しき者達が何名か。

「『ローザンパーク』頭領、イオ・プロセドン殿。このたびは、このような謁見の席を設けていただきましたこと、わが国を代表して感謝いたします」

「うむ。長旅ご苦労であった、使者殿。楽にするがよい」

 その物言いに、少女は軽い会釈を返すのみであったが……周りにいた数人、特に、少女の傍らに立っていた茶髪の男が、僅かに眉をしかめたり、口元をピクリとさせたりと、不快そうなリアクションを見せたことに、イオは気付いていた。

 理由は明白。大集落の長とはいえ、無位無官の山賊が自分達に対してこのような口の聞き方をするのが気に食わないのだろう。容易に想像できた。

「して、此度は何用でこのような辺鄙な所へ参られた?」

「はい。このたびは我が国『フロギュリア』の盟主より、『ローザンパーク』との変わらぬ友誼の確認と――」

 しばし使者の話に耳を傾けるイオ。
 しかし彼は実際の所、そのほとんどを軽く聞き流していた。

 この使者の用件も、結局はいつもと同じか、と悟ったがゆえに。

 ローザンパークと友好的な関係を結び、何かきっかけがあれば味方に付けたい。有事の際には自分の国の味方になってほしい……そんな打算に基づき、各国からは定期的にこういった『使者』が送られてくるのだ。贈り物と共に。

 一部、友好関係ではなく支配しようと高圧的な態度を崩さない国もいるが……主に北に。
 ちょっかいを出してきては、自滅するか軽~く撃退されるのが恒例となっていたりする。

(……まあ、あの国はあの国で、他の国と違っているという意味では刺激にはなるのだがな……対応そのものは面倒だが)

 そんなことを考えながら時間が過ぎるのを待っていたイオだったが……退屈な気分のまま終わるかと思われていた謁見の中、ふと、あることに気付いた。

 そのことについて、使者からのあいさつやら何やら、政治的な用件を全て話し終えた所で、世間話でもするかのような調子で、イオは彼女達に聞いたのだった。

 この『世間話』が、本来交わるはずのなかった2つが、この後密接に絡むことになるきっかけとなることを……当然ながら、まだ誰も知らなかった。

 
「……その話……詳しくお聞かせ願えますかしら?」

 
 この、紫紺の美少女をのぞいては。

 
 
+注意+
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