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愛好者2億人超え! 中国で急成長する「二次元文化」が「クールジャパン」を凌駕する日
毎年中国・杭州市で開催される国内最大規模のアニメイベント「中国国際動漫節」の参加者たち。1週間の会期中に、約140万人が訪れる
故宮博物院に「萌え~!」
2016年初頭、中国中央テレビ(CCTV)で故宮博物院のドキュメンタリーが放送された際に、“ある異変”が起きた。
技術者が文物の修復に心血を注ぐ様子に、視聴者の目は釘づけになった。だが、
中国版ニコニコ動画「bilibili」では、その厳粛な映像の上に「萌萌達(萌え~)!!!」やそれに類するネット用語の弾幕が飛び交ったのだ。
中国誌「財新週刊」は、「この現象は、アニメ(Anime)、コミック(Comic)、ゲーム(Game)、ノベル(Novel)を総称する『ACGN文化』が中国にいかに浸透しているかを示すいい例だ」と報じた。
こうした虚構の世界は、現実である三次元に対して「二次元文化」とも呼ばれている。
中国のインターネットリサーチ会社「アイリサーチ」によれば、2015年、中国の二次元産業のユーザーは2億1900万人に達したという。また、中国の文科省にあたる文化部は、14年のアニメ産業の市場規模が1000億元(約1兆6300億円)を越えたと発表。BAT(百度、アリババ、テンセント)3社など、ネット関連の新興産業大手による投資も急増している。
「中国新聞網」によれば、この市場の6割を90后(90年代生まれ)、00后(2000年代生まれ)が占めていることから、専門家は今後5年間が「二次元産業の国内高度成長期になる」と予想しているという。
日本の「二次元文化」が到来
二次元文化は、もともと日本で生まれた。
日本では1960年代からテレビでアニメの放送が始まり、90年代には、庵野秀明監督『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』、宮崎駿監督の『もののけ姫』といった最高級の作品の出現でそのピークを迎えた。
2000年以降、インターネットの発展に伴って、日本のオタク文化や二次元文化が中国にも渡ってきた。そしてまたたく間に90后の若者を魅了し、大きな影響力を発揮するようになったのだ。
07年には、ある漫画愛好家が日本のニコ動を真似て、動画共有サイト「AcFun」を立ち上げた。
当初はアニメを中心に放送していたが、ドラマやヲタ芸などの日本の二次元文化を取り入れたコンテンツを増やしたところ、ユーザーが急激に増加。一時はアカウントを手に入れるのも難しいほどの人気だったという。
いま人気を集めている動画共有サイトはbilibiliだ。後発にもかかわらず、当初からビジネスに徹して運営したことから、競合を抜いてこの業界では中国最初のユニコーン企業となった。15年末までにユーザー数は5000万人を数え、その75%が24歳以下だという。
「中国アニメの春」が来た!
中国のビジネスシーンでは、「これからは二次元がわからなければ、アウトさ」とさえ言われている。
かつて「サブカルチャー」と言われたこの分野は、いまや社会文化のメインストリームになりつつあり、ビジネスのチャンスも拡大しているのだ。
政府も二次元産業の振興のための政策を次々と打ち出してきた。
中国では06年から海外アニメの放送を制限し、国産アニメを奨励。12年には文化部が、漫画やアニメの発展に関する「発展計画」まで発表した。
こうした政策のもと、14年には初めて国産アニメ映画の売り上げが11億元(約180億円)を超え、業界外ですら「国産アニメの春」が来たと驚喜するようになった。
中国産アニメの台頭について前出の「中国新聞網」は、中国では技術の進歩とコストダウン、インターネットの普及により、若い世代のクリエーターが急増し、それが魅力的なコンテンツを生み出す土台となっていると分析。作品を発表する配信チャネルも豊富だ。
これらが二次元産業全体の成長に貢献しているという。
国外では「中国の二次元産業発展の最大の障害は、『コンテンツは有料』という感覚がないことだ」と見る向きも多い。
だが、「財新週刊」によれば、中国にもコンテンツの価値を正当に評価し、それに見合った対価を払う習慣が広がりつつあるという。
中国アニメがその存在感を増す一方で、日本のアニメ産業は衰退期を迎えている。
技術力やコンテンツは中国の先を行ってはいるが、新規参入は少なく、業界の主力は40~60歳と高齢化が著しい。
日本のアニメ制作会社は、仕事は激務だが報酬が少なく、いまだに厳しい徒弟制が続いているため、後継者不足が深刻なのだ。
一方、中国の二次元文化は、資本以外の部分ではまだ研鑽が必要だ。
だが、豊富なコンテンツ、さまざまな配信チャネル、そして巨大な市場規模を考えれば、「日本の二次元産業が何十年もかけて到達したレベルに、中国は10年ほどでたどり着くだろう」と考える業界関係者は多い。
そう遠くない未来に、中国の二次元文化が日本を凌駕し、世界を席巻する日がやってくるのかもしれない。