文・浜田寿美男(奈良女子大学名誉教授)
自白までの舞台裏
「帝銀事件」は高校の日本史の教科書にも載るような歴史的な事件である。その再審を求める請求が、戦後70年を過ぎたいま、あらためて東京高裁に提起されている。
事件は1948年1月26日に東京都内で起きた。敗戦からまだ2年半足らず、首都東京が駐留米軍の統制下にあるなかでのこと、帝国銀行椎名町支店で、行員たちが青酸性の毒物を飲まされ、全員が倒れた隙に大金が奪われ、12名の行員たちが亡くなったのである。
当初は、用いられた毒物が戦時中に七三一部隊の開発した遅効性の青酸化合物だった可能性が浮かびあがって、旧日本軍の生き残りに焦点をあてた捜査が進められた。
ところが、ある時点からその線の捜査がぷつんと断たれ、事件発生から7ヵ月後、被疑者として逮捕されたのは、日本画の大家として名をなしていた平沢貞通だった。
平沢は逮捕当初、頑強に否認していたのだが、1ヵ月後に自白に落ち、やがて犯行筋書きを具体的に語りはじめ、最後にはすっかり犯人になりきって、弁護人にたいしてさえ「私は帝銀の犯人だ」と胸を張るようになる。
そして、起訴後1ヵ月あまりして後、平沢は催眠術からパチンと醒めるようにして自分の無実に舞い戻ったのだという。以来、平沢は一貫して無実を訴えつづけたが、認められずに死刑が確定し、再審請求も実らず、獄中39年の末に95歳で獄死する。それが1987年のことである。
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