6月1日、安倍晋三首相は予想通り消費増税延期を発表しました。増税延期は国内の投資家の間で、株価を上昇させる起爆剤と期待されていたものです。しかし日経平均は1日、2日と続落。その後も一進一退です。今回は消費増税延期決定後の株式市場の動きについて考えてみます。
株価下落の理由は消費増税延期
6月に入ってからの下落を米国の利上げ観測や、欧州連合(EU)残留を問う英国の国民投票など海外要因に求める声があります。これには同意できません。海外要因ならば他の株式市場も同様に下がってしかるべきですが、6月1日以降、他の主要株価指数は上昇しているものが多く、日本株の弱さが目立ちます。筆者は今回の下落の理由は国内要因、特に消費増税の延期にあると考えています。
国内では多くの投資家が増税延期は景気にプラス、よって日本株にもプラスと見ていました。おそらく安倍首相自身もそう考えていたと思います。しかし、海外メディアの受け取り方は違いました。彼らは増税延期をアベノミクスの行き詰まりを示すものと受け止めたのです。
行き詰まったアベノミクス
6月2日付けウォールストリート・ジャーナル(アジア版、以下WSJ)は、1日に行われた増税延期の記者会見について “Abenomics Is on the Rope”と題する記事を1面に掲載しました。“On the Rope”はボクシングの試合で選手がコーナーに追い詰められた状態を指すもので、日本語にする時には「絶体絶命」と訳されます。かなりきつい表現です。
記事の内容は「日本経済が増税できる状況にないことを安倍首相自身が認めた」「記者会見での安倍首相の発言は、アベノミクスのエンジンが止まりかけていることを認めるものだった」などです。増税延期をアベノミクスの行き詰まりを示すものと受け取っています。
同じ6月2日にフィナンシャル・タイムズ(アジア版、以下FT)も記者会見に関する記事を掲載しました。WSJに比べれば穏やかな内容ですが、それでも増税延期について「安倍政権が発足して3年が経過した。日本経済が依然として財政再建に耐えうる状態にないことを示した」とWSJ同様に増税延期を経済再建の停滞を示すものと受け取っています。
首相自らが日本経済の弱さを認めたのであれば、日本株を売るのは当然です。6月に入ってからの株安は、増税延期をWSJやFTのように受け取った外国人の売りによるものと考えています。実際、東京証券取引所が発表した投資部門別株式売買状況によれば、5月30日~6月3日の週に外国人は日本株を1462億円売り越しました。4週間ぶりとなる高水準の売り越しです。
安倍首相や国内投資家は「増税延期で景気はよくなると思ったわけですが、外国人は「増税延期するぐらいだから日本の景気は悪い」と受け取りました。この受け止め方の違いが、安倍首相や国内投資家の予想に反した日本株の低迷を招く結果になりました。