熊本・益城町 避難者の8割 住宅再建の見通し立たず

熊本・益城町 避難者の8割 住宅再建の見通し立たず
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一連の熊本地震の発生から14日で2か月です。震度7の揺れを2回観測し、今も2000人を超える人が避難生活を送る熊本県益城町でNHKが100人余りの避難者に取材したところ、住宅を再建する見通しが立っていない人が8割に上ることが分かりました。
益城町では、一連の地震で4700棟以上の住宅が全壊や半壊の被害を受け、2100人余りの人が今も避難所での生活を強いられています。
NHKは今月3日から11日にかけて、町内の避難所で生活を続けている30代から90代の男女103人に取材しました。
この中で、現在の場所に自宅を再建する見通しが立っているか聞いたところ、全体の80%に当たる82人が「見通しが立っていない」と回答しました。
「見通しが立っていない」と答えた人にその主な理由を聞いたところ、「資金が足りない」が56%と最も多く、次いで「別の場所に移るつもりだがそれ以上は決めていない」と答えた人が22%と、地元を離れる方針を決めた人も多く見られました。このほか数人が、「地盤に不安がある」とか「余震が怖い」などと答えています。
益城町では、14日から仮設住宅への入居が順次始まりますが、被災者の生活の基盤となる住宅の確保をどのように支援していくかが、大きな課題の1つとなっています。

1人暮らしの年金生活者の苦悩

住宅の再建は、年金生活のお年寄りにとっては大きな負担です。取材した益城町の山中正一さん(67)もその1人です。
1人暮らしの山中さんは、一連の地震で築およそ50年の木造平屋建ての自宅が全壊。建物全体が大きく崩れ、中に入ることもできなくなりました。地震の発生から2か月たった今も、山中さんは町内の公民館で避難生活を送っています。飼っている犬は避難所には入れないため、毎日、自宅に足を運び餌を与えています。
山中さんは、3年前、長年勤めてきた漬物の工場を退職。月におよそ10万円の年金で生活しています。生まれ育った地域は近所どうしのつながりも強く、1人暮らしの山中さんは同じ場所での住宅の再建を強く願っていますが、再建できるだけの貯蓄もなく見通しは全く立っていません。
仮設住宅に入ることにしていますが、その後、将来の生活は具体的に何も思い描けていないといいます。
山中さんは「愛着がある土地を離れたくありませんが、資金がなく、再建の見通しは立ちません。仮設住宅を出たあとの生活への不安が大きく、先は真っ暗だと感じています」と話していました。

親と子を支え再建見通せない女性

取材した人の中には、親と子どもの生活を1人で支え続け、自宅の再建までは見通せないという女性もいました。
益城町の体育館で母親と避難生活を送る矢野いづみさん(49)は、木造2階建ての自宅が2度の震度7の激しい揺れで全壊しました。
歯科衛生士として歯科医院に勤める矢野さんは、76歳の母親との2人暮らしです。毎月の手取りはおよそ17万円。3年前に夫と離婚し、子どもに不自由はさせたくないと、福岡県で1人暮らしをしている大学生の長女へ月に数万円の仕送りを続けています。
去年5月、築35年になる自宅屋根の雨漏りを防ぐ補修工事を120万円かけて行ったやさきに起きた今回の地震。貯蓄はほとんどなく、家族の生活を支え続けていくだけで精いっぱいで、自宅を再建するための資金が得られる見通しは立っていません。
そのため、再建には住宅ローンを組む必要があると考えていますが、ことし8月、50歳になる自分にできるのか、不安は尽きません。
矢野さんは「いつの日か家族みんなで自宅で生活できればいいなと思いますが、家を再建することは、まだ夢の世界で現実として考えられません。学費や住宅ローンが重なったときが、とても不安です」と話していました。

故郷離れる決断迫られる人も

取材した人の中には、益城町に愛着を持ちながらもこれ以上住み続けられないと思い始めている人もいます。
その1人の吉村静代さん(66)。自宅が全壊し、町内の小学校で夫と2人で避難生活を続けています。自然豊かな町の魅力を多くの人たちに知ってもらおうと、みずから町おこしのグループを立ち上げ、20年以上にわたり地元の伝統芸能の伝承や自然保護などの活動を続けてきました。
吉村さんは、避難してきた人たちが交流できる憩いの場を設けたり、早朝のラジオ体操を提案したりと、避難所の運営も積極的に行っています。お年寄りや子どもたちにも積極的に話し相手になって悩みやストレスの解消に努めています。
そんな吉村さんですが、自宅を再建することには大きな不安を抱えていました。震度7の激しい揺れを2度も経験し、自宅は基礎部分が大きく壊れました。さらに自宅周辺は、至る所で地面がずれたり、ひびが入ったりしていて、同じ場所に自宅を再建することに戸惑いを感じているといいます。長年過ごしてきたふるさとですが、より安全な場所を求め町の外に引っ越すことも考え始めています。
吉村さんは「地震が大きすぎて家を建てるという気持ちにはなれません。町を出ることも選択肢に入れてじっくりと考えたい」と話していました。