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暴力と死が蔓延するメキシコで家族写真を撮る意味
From Adriana Zehbrauskas @adrianazehbrauskas
<治安当局や麻薬カルテルによる拉致が蔓延するメキシコで、家族写真を撮影し続けるブラジル人写真家、アドリアーナ・ゼフブロスカス。拉致・殺害された人々は、未来だけでなく、過去の記憶さえも抹殺されてしまったので、このプロジェクトを始めたという>
メキシコは、膨大な数の行方不明者を出している国だ。アムネスティ・インターナショナルによれば、治安当局や麻薬カルテルなどによる拉致が蔓延し、2006年から2015年までの行方不明者が2万7000人以上にも上る。実際の数はそれより遥かに多いだろう。麻薬カルテルによる報復への恐れと当局への不信から、まだまだ公にされていないものが多いからだ。
そんな暴力と死が蔓延する国で"記憶"という写真の特性を生かし、「メモリー(記憶)を持たずして、我々は一体何であるのか?」というコンセプトで、恐怖が生活の一部になってしまった人々を被写体としている写真家がいる。Family Mattersという家族写真のプロジェクトで、撮影するのはメキシコ在住のブラジル人、アドリアーナ・ゼフブロスカスだ。アカデミックなバックグラウンドは、ジャーナリズムと言語学だったが、写真の方から彼女に寄り添ってきて写真家になったという。彼女は第1回目のGetty Images Instagram Grantを受賞している。
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アドリアーナがこのプロジェクトを思いついたのは、2014年9月にゲレロ州イグアラで起きたアヨツィナパ師範学校の学生43人の誘拐・失踪事件――今も解決していない事件だ――を取材していた時だ。アドリアーナによれば、学生たちの家族のほとんどは、身分証明書の写真か携帯電話に保存された画像を除けば、失跡した愛する者たちの写真を持っていなかった。彼らは焼き殺されたとされ、その未来だけでなく、過去の記憶さえも運命的に抹殺されてしまったのである。同時にそれはまた、かつてないほど大量の写真イメージが生産され続ける現代の"ハイテク時代"の皮肉でもある。写真プリントは、生産されなくなってきているのだ。
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