銃による無差別の殺人事件がしばしば起きる米国でも、例を見ない惨事となった。

 フロリダ州オーランドのナイトクラブで12日未明、男が銃を乱射し、多数の死傷者がでた。オバマ大統領は「テロであり、ヘイト行為だ」と非難した。

 現場のクラブは、同性愛者の社交場として知られ、容疑者は日ごろから同性愛者への嫌悪を公言していた。大統領がヘイト行為と断じたのも、社会の少数派に対する差別的な憎悪感情がうかがえるからだ。

 少数者の権利と安全の確保は、文明社会が長年の偏見との闘いの末に確立した原則である。事件は、その努力の積み重ねを踏みにじる行為であり、断じて許すことができない。

 事件はまた、銃が容易に手に入る米社会の問題を改めて浮き彫りにした。このような惨事を少しでも減らすには、やはり銃規制の強化が必要である。今年の大統領選へ向けても、活発に論議してもらいたい。

 容疑者はアフガニスタン系の米国人で、現場で銃撃戦の末に射殺された。その前に、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓っていたと報じられている。実際にISとどれほど関係していたかには謎が多く、今後の捜査を待つほかない。

 昨年12月にはカリフォルニア州の福祉施設で、ISを支持するという夫婦が銃を乱射し、14人を殺害する事件も起きた。

 自ら過激思想に傾倒したり、過激派を自称したりして、テロ組織と明確な関係がないまま行動するケースが近年目立つ。

 動機が不明瞭な無差別犯罪とテロとの境は見えにくくなっており、日米欧の当局にとってテロ対策は難しさを増している。自由と人権を守りつつ安全を確保する策は何かを考える上で、各国間の協力が必要だろう。

 今回の事件で戒めるべきなのは、犯罪とイスラム教とを短絡的に結びつけることだ。それは違う意味でのヘイト行為を誘発させかねない。

 共和党の大統領候補指名を確実にしたトランプ氏は事件後、持論であるイスラム教徒の一時入国禁止の方針を繰り返した。そんな言動は緊張をあおるだけで何の解決策にもならない。

 今回の犠牲者の数は、07年にバージニア工科大学で起きた乱射事件の32人を上回り、銃撃事件として米史上最悪となった。無差別の乱射事件は、ほかにも毎年のように起きている。

 痛ましい事件を繰り返す米国社会のひずみは何か。米政界は超党派で、銃規制のあり方とともに冷静に考えるべきだ。