イスラム世界において、ゲイやレズなどの性的マイノリティは受け入れられないのか?
そうだとするならその理由はどこに有り、今後彼らが正当な権利を獲得することは可能なのか?
イスラム教徒と思われるアフガニスタン系アメリカ人による銃乱射事件を受けて、日本に住むムスリム(イスラム教徒)と久々に飯を食った緊急対談を行った。
(Photo by Magdalena Roeseler)
ハサン氏(仮名)大学ではイスラム文化史を専攻。現在は日本で大手商社に勤務。
留学生を世話するボランティアに就いていた為、留学中は何かとお世話になった。エジプト人。
東京某所にあるレストラン
私「お久しぶりです。本日はよろしくお願いします。早速ですがアメリカで同国最悪の銃乱射事件が起きました。」
ハサン「もちろん知っている。私も大変心を痛めている。」
私
「イスラム教徒によるホームグロウンテロとの見方がありますが?」
ハサン
「今の段階でははっきりしないが、もしそうだとしたら同じイスラム教徒として非常に残念に思う。アメリカと犠牲者の遺族に心よりの哀悼の意を示したい。」
私
「単刀直入にお聞きしますが、イスラムでは同性愛は認められていない?」
ハサン
「現状では【YES】だ。開祖ムハンマドや第4代カリフ・アリーが同性愛者を処刑したことなどが、規範となっている。」
私
「それはなぜか?」
ハサン
「イスラムでは結婚は単なる子孫を残すためだけのものではない。性的営みを通して男女間の性的補完こそ理想の状態だと考える。性行為は単なる生殖行動を超えて、コミュニケーションと喜びをもたらすものと考えられているだからだ。」
私
「同性愛者のそれは男女間のセックスとは違うということか?」
ハサン
「残念ながらそう考えられている。つまり性的マイノリティ、とりわけゲイなどの同性愛者の存在は、神の作り出した秩序にそぐわない、異常な存在だというのがイスラムの考え方だ。だがそれはキリスト教・ユダヤ教の教義でも同じだ。」
私
「確かに昔はそうだったかもしれません。しかし、少しずつですが理解が深まり、今では彼らを受け入れる土壌が育ちつつあります。イスラムだけがまだこの壁を乗り越えられていないように感じるのですが?」
ハサン
「先進国を中心に、宗教離れが加速している。確かに彼らは衰退する宗教的観念の代わりに台頭する人権主義など宗教以外にも様々な倫理的・道徳的規範を確立し、この問題に対する新しいアプローチの方法を見つけつつあるのは事実だろう。」
私
「イスラムはまだそれが出来ていないと?」
ハサン
「良い、悪いは別として、イスラムにおいてはそうした考えは希薄だ。実際に社会の悪として同性愛者には厳しい罰が下される場合も多い。」
私
「例えばどの様な?」
ハサン
「イランやサウジアラビアではソデミー罪などにより死刑が言い渡されることも珍しくない。ISISなども同性愛を口実に死刑を実行している。」
私
「この世から排除すべき悪と考えられているわけですね。ところでソドミー罪とは。」
ハサン
「肛門性交や口内性交だ。」
私(く、口もダメ・・・!!!)
ハサン
「どうした?」
私
「い、いえ、何でもありません・・・ところで、ご自身の出身地エジプトでは?」
ハサン
「エジプトでは死刑こそないものの、摘発や逮捕は度々ある。私の友人にも実際そのような目に会った人間がいる。いずれにせよどの地域においても激しい迫害は避けられないだろう。」
私
「こうした事態にイスラムの指導者や人権活動家は、どの様な解決方法を見出そうとしているのか?」
ハサン
「現在、イスラム指導者、反対派を含め、こうした性的マイノリティに手を差し伸べたり擁護することはイスラムの規律上不可能だと認識されている。」
私
「ではこのままの状態が続くと?」
ハサン
「残念ながらそういうことになる。しかし、過去イスラム国家ではこうした性的マイノリティに対して寛容な時代があったのも事実だ。また、地域によっては疎外こそしているが、こうした人間たちを事実上黙認している場所もある。イスラム教徒の性的マイノリティも黙っているわけではない。」
私
「権利を主張する活動は確実に行われていると?」
ハサン
「そうだ。実際ゲイのイスラム教徒たちはイスラム共同体の中で、彼らの権利を認めるよう活動を活発化させている。」
私
「なるほど。運動の更なる高まりを期待したいところですね。最後にこの問題に関するあなたの見解を聞かせてください。」
ハサン
「正直私もイスラムの一員として、性的マイノリティを異常者として軽蔑してきた過去がある。しかし日本に来て、病気 (性同一性障害)だったり、彼らは彼らなりに止むに止まれぬ事情や大きな悩みを抱えて生きていることを知った。真実を知ることで考え方は変えられる」
私
「日本に来て少し見方が変わったと?」
ハサン
「完全とは言えないまでも、少なくとも前とは少し違う見方が出来ている。」
私
「イスラムも事実に目を向けることで、変わっていけると?」
ハサン
「その可能性は大きい。だが真実を知ったとして、誰だって間違いを認めるのは辛い。大切なのは真実から決して目をそむけず、間違っているなら変わる勇気だ。その勇気をイスラムが手に入れられるかどうかの問題だが。」
私
「世界が協力できることは?」
ハサン
「日本人や宗教離れ著しい欧米の若者からすれば、神など存在せず、宗教とはそもそも人間が作ったものだから、時代背景や作った人間たちの思想により、間違いや時代錯誤が出てくるのは当然だと思うだろう。
しかし、我々は神は常に正しく、神の言葉を伝えたムハンマドもまた正しいと考える。ムハンマドが最後の預言者だと言われる所以だ。」
ハサン
「だからもし性的マイノリティに対する扱いが間違ってるのなら、神やムハンマドの権威は守りつつ、あくまでも現代世界における我々の解釈のみが間違っていたと認めることになる。つまり近年の日本の憲法解釈と同様、苦しいか言い訳にしか聞こえないものとなる可能性は高い」
私
「つまり鍵はイスラムの指導者が自らの解釈の間違いを認める勇気を持つこと。そして神やムハンマドといった偉大なる過去の指導者の威厳を保てる、うまいこじ付けを世界全体で考え、例えそれがひどいこじ付けであろうとも、それを飲み込む寛容さが必要だと?」
ハサン
「あくまでも個人的な見解と捕らえてもらいたいのだが、率直に言えばそういうことになると思っている。」
私
「私もお互いに批判し合うのではなく、お互いの立場や思想を理解・尊重した上で、共に考えていくことは、西洋世界とイスラムの対立そのものを無くすことにも有効だと思います。」
ハサン
「そのとおりだし、そう望んでいる。」
私
「勉強になりました。急な呼び出しにも関わらず、本日はお時間を頂きありがとうございました」
ハサン
「いいんだよ。異文化理解のために少しでも役に立てと思えば光栄だ。ところで・・・この店の支払いは君で良いんだよな?」
私「・・・・・・ハィ」
※あくまでも個人的な対談・見解です
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いやいや、読んでくださいm(_ _)m!