星降る夜は社畜を殴れ
著:高橋 祐一 イラスト:霜月 えいと
発行元(出版): 角川書店(角川スニーカー文庫)
≪あらすじ≫
高校中退のオレ、立花アキトが就職したのは、よりによって日本有数のブラック企業「ワクワクフーズ」だった。残業を何より好む怪物「社畜」たちの巣窟だ。セクハラの調査のため、オレは苦情のあった秋葉原のチェーン店へ休日出勤(やりたくねえ!)で向かった。そこにいたのは血まみれの包丁を握りしめたモヒカンの店長と太麺にがんじがらめにされた巨乳の美少女で!?オレ、いきなり大ピンチ!第19回スニーカー大賞“特別賞”受賞作!!
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
8月28日前後に読みたい本が一斉発売される前に、(こういうと誤解を生みそうだが)「片手間に簡単に読めそうなものを」と思っていたところで久々にラノベを手にとった。これがこの一冊。
なんといっても最初はそのタイトルと裏表紙のあらすじのインパクトに魅かれた。社畜という、今や一般用語にすらなりつつある存在をテーマに、そんな社畜に対抗する反社畜として立ち上がる主人公と同僚・クールさん、そして幼馴染・ユイカ。
サービス残業、過酷な労働環境、薄利な賃金などを総合して「ブラック企業」というものが社会問題となっている今、敢えてこの問題に対して正面から、そしてギャグとして側面からも捉えるというコンセプトが面白い。着眼点、切り込み方という点ではスニーカー大賞特別賞というのもうなずける。
序盤から中盤までは勢いがあって非常に良かった。社畜に対するアキト、クールさん、ユイカの面々。あの手この手を使う社畜立ちに対して、アキトたちも知恵を凝らしていく。
ただ中盤以降は失速してしまった。下手にラブ要素を入れたせいで肝心の「社畜」としての要素が薄れてしまったこともあるが、何よりコメディとして扱うから面白かった部分もあったのに、そういう部分が完全に霧散してしまったことが大きいのではないか。
あとは個人的な主観としては、「社畜=残業」という感じに固定されてしまっている感じがいかがなものか、と思ってしまう。確かに日常的な社畜的な行動というのは残業なんだろうけど、「残業=悪」「残業をしている企業=悪」みたいな描き方には社会人として首をかしげる。残業そのものは必ずしも悪ではない。それをしなければ翌日の期日に間に合わなければそうまでしてでもやらないといけないことだってあるし、生々しい話、基本給だけでは薄給なので残業代を上積みして稼いでるというサラリーマンだって正直少なくないはずだ。
もちろんサビ残になればそれは悪だ。ただ仕事的に、あるいは給与的に残業は必要な時もある。「残業不要なほどの給料を」なんて簡単に言うかもしれないが従業員一人の基本給を千円、いや数百円上げる苦労を知らないから言えるんじゃないかと思ってしまう。
社畜と言う存在、それに対抗しようとしても社畜は強いのだという現実と組織体系。そう言ったものを知る社会人だとクスリと笑える要素がある一方で、社会人だからこそ終盤の在り方、展開には疑問を覚えてしまうという矛盾がある気がした。
評価は、★★★(3点 / 5点)。着眼点、コメディとしての序盤での勢いは高く評価できる一冊。その勢いが最後まで持続できていればまだ良かったかもしれないが……ひとまずデビュー作としては及第点だろう。
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