実質賃金少なくとも過去10年で最低
厚生労働省毎月勤労統計調査によると,下記グラフのとおり,2015年の実質賃金は少なくとも過去10年で最低だった。これは平成22年を100として実質賃金を指数化したものだ。
その結果,GDPの6割を占める個人消費が低下した。総務省統計局作成「家計の消費支出指数」をグラフにした下記の図を見れば分かる。これは平成22年を100として各家庭の実質消費支出を指数化したものだ。
この家計消費支出の落ち込みが国全体の消費の落ち込みに直結した。下記のグラフは過去22年間の実質民間最終消費支出をグラフ化したものだ。
※内閣府の統計データを元に作成。
2014年,2015年と2年連続で数字が前年を下回っている。また,2015年の数字はアベノミクス前の2012年の数字を下回っている。このように,「2年連続で数字が下がる」のと,「3年前の数字を下回る」という現象は,リーマンショックの起きた年とその翌年(2008年と2009年)以来の異常事態だ。
実質賃金低下は非正規雇用が増えたのが原因?
実質賃金が下がったのは,雇用が回復して非正規雇用が増えて,賃金の平均値が下がったのが原因と言う人がいる。もしそれが本当なら名目賃金も下がるはず。
そこで厚生労働省毎月勤労統計調査を元に作成した下記のグラフを見てみよう。これは平成22年を100とした場合の名目賃金指数(現金給与総額)の推移を示している。これを見ると名目賃金はわずかに伸びており,少なくとも下がってはいない。
実質賃金が下がった原因は物価の上昇だ。下記のグラフは総務省統計局の調査(消費者物価指数:持ち家の帰属家賃を除く総合)を元に作成したグラフだ。平成22年を100とした消費者物価指数の推移が分かる。物価が急激に上がっている。
実質賃金,名目賃金,消費者物価の3つの指数を重ねてみよう。物価の上昇と正反対に実質賃金が下がっていることが分かる。
結局,単に名目賃金の上昇よりを物価の上昇がはるかに上回ったから実質賃金が大幅に下がったということ。そしてそれが消費の低下を招いている。
今後,実質賃金は上がるのか?
名目賃金の伸びが物価の上昇を上回れば,実質賃金は上昇する。実質賃金指数は名目賃金指数を消費者物価指数で割って出すからね。
しかし,アベノミクスの3年間で名目賃金指数は0.1しか伸びていない。他方,物価は3年間で4.9も伸びた。伸びた数字だけで比較すれば物価は名目賃金の49倍のペースで伸びたことになる。そうすると,今後名目賃金の伸びが物価の上昇を上回ることはありえないだろう。
マイナス金利でまだ物価上げるの?
日銀は民間銀行にたくさんお金を供給して物価を上昇させようとした。目標は消費者物価指数が前年比で2%ずつ伸び続けることだ。
ところが,せっかくたくさん供給したお金がいまいち企業に貸し出されず,物価目標を達成できなかった。
そこで日銀は日銀当座預金の金利をマイナスにして,銀行が貸し出しを増やすように仕向けた。しかし,これは企業の資金需要を無視していると思われる。
総務省統計局の発表によると,2016年3月でも物価の上昇は2%にほど遠い。
※総務省統計局のサイトより引用
マイナス金利で仮に物価が上がっても,さっき見た通り名目賃金が全然伸びてこなかったので,実質賃金が下がるだけだろう。
年金使って株価引き上げ
株価が上がったのは,円安の影響に加え,公的資金が日本の株式市場に投入された影響が非常に大きい。
日銀のETF大量購入と,GPIFの資産構成変更(日本株の構成割合を12%⇒25%へ増加),によって,単純に考えるとおそらく24兆円以上が新たに日本の株式市場に投入されたものと思われる。
そして,平成27年の第2四半期(7月~9月),GPIFは7兆8899億円もの大損失を出した。国民の積み立てた年金がそれだけの損失を被ったということ。
GPIFの平成27年度の1年間を通した運用成績の公表は7月29日。例年は7月上旬だった。参議院選挙の投開票日が7月10日と言われているから,公表はその後になる。選挙への影響を防ごうとしたと思われる。
ちなみに,平成26年度までのGPIFの運用実績は下記のとおり。過去4年連続でプラスだったのに,資産構成を変更したとたんに大幅なマイナスになってしまうことになる。
※GPIFのサイトより引用
含み損だから問題ない?
過去1年間の株価の推移を見てごらん。去年の5月から7月にかけて2万円台を超えてきていたのが,8月になって急落している。
※ヤフーファイナンスより引用
第2四半期(7月~9月)に大損失を出していることからして,この2万円台の時に相当買っていたんだろう。
そうすると,少なくとも2万円台を超えるぐらいになってから売らないと,損が出るだろう。しかし,そこまで上がるかどうかは疑問。「含み損だから問題ない」という言い訳は説得力が無い。
参議院選挙の争点は?
今度の参院選は,「アベノミクスをこのまま継続させたいなら与党の候補者に投票する。逆に,止めたいなら野党の候補者に投票する」というのが一つの考え方。
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