映画「ジュラシック・パーク」では、一番記憶に残る場面が最も繊細に描写されている。さざ波のように揺れるカップの水面が、大地を揺るがすティラノサウルスの接近を告げるのだ。
世界の石油生産者にとって、米国で石油採掘用のリグ(採掘設備)の数が増えているのも、同じように、迫りつつある脅威のかすかながらも不吉な兆しと見られているはずだ。
米国のシェール産業は低迷してきたが絶滅するにはほど遠く、中には原油価格が今日の水準であっても成長できる企業もある。より高い原油価格でなければ財務的にやっていけない石油会社は、生きたまま食べられることを心配しているはずだ。
■リグ稼働数が2週間で13増
米国での生産活動の回復は今のところわずかだ。米石油サービス大手ベーカー・ヒューズによると、2014年11月のピーク時の1115から減少したシェールオイル生産用の水平坑井のリグの稼働数は、過去2週間で13増えて合計262になったという。
しかし、生産を再開しているリグは、現在より原油価格が低かった数週間前に下された判断に基づいている。原油価格が当面1バレル50ドル程度にとどまれば――ましてやそれより高くなれば――より多くの企業が復帰する可能性が高い。
米国の石油生産量は15年4月以降、低下しており、少なくとも16年中は低下が続く見通しだ。しかし、英調査会社のウッドマッケンジーは、この先50~100のリグが水平坑井の採掘を再開するだけで、この低下は止まると見ている。
世界の石油市場に成長を続ける供給者として米国が復活するという見通しから、米ウルフ・リサーチのポール・サンキー氏が指摘する価格の「ソフト・シーリング」が生じている。
シェール大手の一つであるパイオニア・ナチュラル・リソーシズの最高経営責任者(CEO)、スコット・シェフィールド氏は、長期的に見た原油価格は1バレル約60ドルと予想する。同氏によると、原油価格はその前後で変動し、一時的に40ドルや80ドルになる可能性があるという。しかし、一貫して60ドル以上の原油価格を必要とする会社は窮地に立たされる。
■柔軟な生産体制
石油産業では、米国が原油価格の下落に対して他国に先駆けて素早く反応し、リグの稼働停止や人員削減を行ったが、それは生産コストが世界最大だったからではない。単に、シェール産業は坑井の掘削に数週間しかかからず、大手の国際石油会社が得意とする大規模プロジェクトに比べてはるかに柔軟だからだ。