サソリを吸う――いったい何のことか想像がつかないかもしれないが、一部の地域で今まさに、タバコのようにサソリを“喫煙する”行為が広まりつつあるという。それは人体にどのような影響を及ぼすのか? そして、不気味な行為が蔓延しはじめた理由とは? 詳細についてお伝えしよう。
■社会問題化するサソリの喫煙
サソリの喫煙、その震源地はパキスタンのカイバル・パクトゥンクワ州だと考えられている。今月15日、海外メディア「DAWN」などが一斉に報じたところによると、2007年に社会学者のデイビッド・マクドナルド氏がこの行為を初めて公に報告し、にわかに注目を集めたが、昨今急速な勢いでパキスタンやアフガニスタン、さらにインドの一部の若者の間へと広まり、深刻な社会問題となっているようだ。
報告によると、サソリの喫煙は実にシンプルな方法で行われる。まず、死んだサソリの場合は日光に数時間晒し、生きたサソリの場合は死ぬまで炙る。こうして乾燥したサソリの死骸をすりつぶしてタバコや大麻に混ぜたり、そのままパイプに詰め、火をつけて煙を吸い込む。つまり、従来のタバコの葉を、そのままサソリの死骸に入れ替えただけなのだ。
■サソリを喫煙した人間に起きること
しかし、その効果はタバコとは比べ物にならないほど恐ろしいものだ。サソリの尻尾に含まれる猛毒を煙にして吸い込むと、人間は強烈な高揚感を覚えると同時に、たちまち目が真っ赤になる。そして意識は正常ながらも泥酔したようによろめき、幻覚が見えるように。効果は10時間以上持続するが、体がその状況に慣れるまでの6時間は、全身に痛みを伴うようだ。しかし、それを過ぎると多幸感に包まれ、何もかもが楽しくなってくる。ちなみに、煙はひどい悪臭を放つが、その味は甘く、依存性も極めて高いという。
「道路、自動車、目に見えるすべてのものが踊っているように見えるんだ」
「あまりにもハマって、サソリを求めて村中の至る所をくまなく探したよ。吸いたい気持ちが抑えられなくて、それでも見つからない時は、血眼になってペシャーワル(カイバル・パクトゥンクワ州の州都)中を探しまわるんだ」
「国境を越えてアフガニスタンにまで足を踏み入れたこともある」
過去にサソリの常習者だったという現地住民(74)は、このように明かしている。どうやら、現地のごく一部では、昔からサソリを吸う行為が密かに行われていたようだ。なお、この男性によると喫煙用サソリは、いつの間にかペシャーワル郊外のマタニ地区で闇取引されるようになっていたという。
■サソリの喫煙、その恐ろしい影響
さて、現地当局や地元メディアでは、サソリを喫煙することは極めて危険な行為であるとして直ちに止めるよう訴えている。カイバル教育病院のジャマル医師によると、サソリの毒は「ほかのあらゆるドラッグよりも脳に深刻な影響を与える」という。
特にサソリの毒が含まれる煙を常習的に吸い込むと、睡眠や食欲に障害をきたすうえ、記憶喪失になり、慢性的な妄想に取り憑かれるなど、通常の社会生活を営むことが困難になってしまうようだ。しかし、現時点では情報が極めて少なく、研究も進んでいないため、どのような事態が待ち受けているか不明な点が多いのが実情だという。
サソリの喫煙によって廃人となってしまった元軍人の男性は、何をするでもなく街をふらつき、突然立ち止まっては一点を見つめ、何かをもぞもぞと口走る日々を送っていると伝えられる。いずれにしても、人体に極めて有害であることは火を見るよりも明らかだ。
■国境を超えて広がりつつある悪夢
前述のような背景もあり、現在パキスタン政府はサソリの喫煙を防ぐために何ら有効な手立てを打ち出すことができずにいる。しかし、もはや単なる珍しい風習では済まされないほど、サソリの喫煙はカイバル・パクトゥンクワ州からアフガニスタンやインドの一部へと広まりを見せている。現地警察は、次のように現状を分析する。
「確かに、アヘンやヘロインなど、ほかのドラッグの取り締まりは順調に進みました。しかし、それが逆に若者たちが新しいドラッグに手を出すきっかけとなってしまった可能性がある」
今後、サソリの喫煙という新たなドラッグが世界中に蔓延する悪夢のような事態が訪れてしまうのか? 人体に与える影響の正確な評価と、早急な取り締まりが求められている。
(編集部)
参考:「DAWN」、「THE EXPRESS TRIBUNE」、ほか