ツタヤ図書館がもたらした指定管理者制度の功罪

2016年06月13日 06:00
TSUTAYA図書館がもたらした指定管理者制度の功罪とは? 税金で損失補填も......

TSUTAYA指定管理者制度の図書館フィーバーから一転逆風?!

TSUTAYA図書館が揺れている。事の発端はTSUTAYAの経営母体である「カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)」が運営する佐賀県武雄市の市立図書館の選書疑惑から始まる。

2013年4月、武雄市図書館がリニューアルされ、CCCが指定管理者となる運営が始まった。「T カード」を図書館利用カードとして、貸出しごとにポイントを付与したり、貸し出し対象者を日本国内居住者に拡大したりするほか、開館時間の延長、スターバックスの併設などが話題となり、利用者も増えていった。

しかし、2015年夏ごろからSNS上で書物の中に佐賀県とはまったく関係のないエリアの古い情報誌や、古すぎる実用書などがある、などのコメントがつぶやかれ始めた。

当初はさほど話題にならなかったが、CCC関連企業の大手中古書販売「ネットオフ」から書籍を購入していることが分かると、「TSUTAYAの在庫処分」などと大手メディアが次々に報道し、騒動は次第に深刻になっていった。

TSUTAYA図書館にみられる事実上民間企業が運営する図書館については賛否が分かれる。しかし、武雄市のTSUTAYA図書館がリニューアルオープンした時は、メディア各社は祭り状態となり、こぞって武雄市の取り組みを持ち上げていた。

九州の中でも地味な印象のある佐賀県、さらに取り立てて目立った観光資源のない武雄市が、図書館フィーバーにより一躍全国にその名を轟かせた。それも「TSUTAYA図書館」のために。

武雄市と共に営利企業であるCCCも連日ニュースでその名が取り上げられた。この広告宣伝効果は大きかっただろう。

TSUTAYA図書館発足当初から運営に対する疑念や懸念はあったが、メディアに取り上げられることが少なかっただけで、今起きている問題は予測できたことでもあった。

営利と公共性は相反する! 指定管理者制度の根本的問題

そもそも民間企業が図書館など公の施設運営に携わるメリットはどこにあるのだろうか?
CCCが武雄市の図書館運営に参入するきっかけになったのが、指定管理者制度。この制度は地方自治法が改正された2003年にスタートし、財政赤字に苦しむ自治体の経費削減、民間活力導入による行政サービスの向上が目的とされた。図書館も経費削減の例外ではなく、自治体にとってその運営は大きな負担になっていた。そこで民間企業に白羽の矢が立ったのだ。とはいえ、公共施設の運営が収益拡大につながるかは疑問が残る。

営利と公共性は本質的に異なる。問題になっている図書館も「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設」(図書館法第2条)と定義されている。

財政負担が足かせになっている図書館運営を民間企業が支えてくれるなら行政にとっては喜ばしいことである。しかし民間企業が追及する営利性とのバランスは、果たしてうまく取れるのだろうか。

最後は血税で穴埋め!

武雄市図書館の運営費用は、約4億5,000万円だが、そのうち約3億円をCCCが負担し、残りの1億5,000万円あまりを武雄市側が負担している。

しかし、市の負担分については赤字になっているという。この状況から見ても、TSUTAYA図書館はコスト削減に成功しているとは言えない。

皮肉な話だが、民間参入でかえって財政負担は増しているのだ。このツケは市民の税金で穴埋めされる。

民間企業の場合、損失は企業自ら補填するものだが、指定管理者制度下では、指定管理者は血税で救済されることがあるため、指定された企業にとって実害は少ない。

現在、図書館運営のずさんさ、選書などに不満や疑問を持った住民たちが、樋渡啓祐前市長に約1億8,000万円の損害賠償を求める訴えを起こしている。

TSUTAYA図書館騒動から分かってきたことは、事業拡大を狙う企業にとって、指定管理者になることは大きなメリットであるということだ。社会貢献の名のもと、リスクなしで行うことができる事業には、十分すぎるほどの「知名度アップ」という利益を得られるからだ。

はたしてこのままでいいのだろうか? 制度の見直しが必要なのかもしれない。

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リーガルネット

編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2016年6月8日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

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