スズキ、燃費測定で不正!走行抵抗で法令基準守らず。型式申請で改ざんも

 自動車燃費データ不正問題で、スズキが燃費試験用データを違法測定した26車種全てについて、法令で定められた量産型試作車による測定を一切実施していなかったことが6月5日に分かった。スズキは当初の会見で「法令に基づく測定もしていた」と説明していたが、開発途中にしただけだった。国土交通省も同様の事実を把握しており、裏付け調査を進めている。

 法令では、燃費試験用データである「走行抵抗値」について「惰行法」と呼ばれる方法で測定することになっているが、この際、試験に使用される車体は、量産する車両と同じ工場で同じ部品を使って組み立てた量産型試作車でなければならないことになっている。

 しかし、スズキの関係者によると、スズキは平成22年ごろから、違法測定をした全26車種(他社供給分を含む)について、量産型試作車の惰行法による測定を全く実施していなかった。

 スズキはこれまでの記者会見で「違法測定とともに惰行法でも測定していた」「パーツごとの抵抗値を惰行法で確認していた」などと説明をしていたが、量産型試作車による測定については明確な説明がなかった。
 スズキはすでに、量産型試作車による測定をしていなかった事実を認め、国交省に報告した。

 国交省は、スズキが22年ごろに欧州の認証を得たことで「積み上げ方式」による測定に自信をつけ、日本の法令を無視して量産型試作車による測定を実施せずに違法測定を続けたとみている。3日に行ったスズキ本社への立ち入り検査の結果などから、全容解明を進めている。

 スズキは、走行抵抗値について、法令に違反し、タイヤやブレーキなどパーツごとに測定した数値を「積み上げ方式」で算出し国側に報告。さらに型式指定の申請書類には、テストコースで開発途中に惰行法で実施した最後の日の測定環境を記入し、違法測定を隠蔽していた。
(産経新聞 6月6日(月)7時55分配信より引用編集)

◆燃費測定法

 燃費不正問題で頻繁に出てくるようになった「法令で定められた測定方法」とはいかなるものか。走行抵抗の計り方には大きく分けて『惰行法』と『高速惰行法』という二つの測定法がある。日本では前者、アメリカでは後者を採用していると言われているが、それぞれの測定法の概要は以下の通り。

『惰行法』

 車速20km/hの走行抵抗を計る場合、車速25km/hでニュートラルにする。そして10km/hに落ちるまでの時間を計り、抵抗を算出。
 1回だけでは誤差も大きく、風向きの影響も受けるため、3回以上往復し、平均値を採用する。(試験は基本的には無風の日に行う)3回測定したバラツキが大きければ4回、5回と行っていく。
 全く同じ方法で走行抵抗を10km/h刻みでデータを採取し、走行抵抗を出す。たとえば20~90km/hまで取るとなれば、最低3往復を8回行わなくてはならない。

『高速惰行法』

 車速を150km/h程度まで上げておき、そこから1秒ごとに落ちる速度を測っていく。1秒で落ちる速度=走行抵抗ということになります。
 高速域では空気抵抗がハッキリ反映されるため、正確な数値になると言われている。ただ低速域は少しバラツク傾向にある。
 走行試験は往復で4回以上行えば良く、時間も掛からない。

 どちらの計測方法も、空気抵抗+タイヤの転がり抵抗の数値になるため、絶対的な抵抗という点では大差はない。
 ただ、三菱自動車によれば3%程度「高速惰行法」の方が悪い数値になるため、日本で計測するときには補正していたようである。具体的には、高速惰行法での走行抵抗が100と出たら、97にして日本の燃費試験のデータに変換していたという。

『シャーシダイナモ測定』

 シャーシダイナモ測定法は、室内で台車に乗せてその場で車輪を回転させ抵抗を測定するもので、車を動かさずに行うため、車両重量が同じならどんなボディ形状であっても同じ燃費になる。風や天候の影響を受けないため、測定したいときに正確なデータが採取できるため頻繁に用いられる。
 実際はボディの空気抵抗のちょっとした違いで燃費も大きく変わってくることもあるので、法令で定められた惰行法や高速惰行法などでトータルの走行抵抗を測定する必要がある。
 ただ車体のデザインが一旦決まったらこれらの空気抵抗はほとんど変わらないため、タイヤやシャーシーなどの駆動部分の抵抗や車両重量を技術改良によって変更した場合、いちいちテストコースですべてのテストをし直すのが手間なので、このシャーシダイナモ測定値に空気抵抗の差を反映した抵抗値を掛けて全体の抵抗を算出する方が合理的である。

 燃費データを採取する際、10・15モードやJC08モードなどの実際の走行パターンに近い発進、加減速、停止を繰り返して、燃料1Lあたりに走行できる距離のデータを採取するが、シャーシダイナモを用いて行うため、空気抵抗の違いを反映できない。
 そのため、あらかじめ惰行法、高速惰行法などで走行抵抗を測定しておき、燃費試験時に同等の負荷をかけることで実際の走行状態を再現する。

◆部品の仕上がり具合を最終的にチェック

 今回、スズキが実施しなかった、「量産型試作車」を用いた走行抵抗測定であるが、いくら厳密に設計しても、実際に量産する段階において、様々な部品の精度、誤差、バラツキが絡み合い、組み立てられた車両の抵抗は左右される。すなわち、実際の仕上がり具合が異なることから、法令では、より市販車に近い「量産型試作車」を用いることを義務付けている。同じ製品でも、日本製と中国製で「出来が違う」結果になるのはこのためだ。
または、シャープの「亀山モデル」など、同じ会社であっても、工場により品質が微妙に異なることもある。
 法令では、これらのことを鑑み、実際に消費者の手にわたるものと近い車両で最終の製品のデータを取るように義務付けているのだ。

 開発途中には、上記のような走行抵抗の測定など、手間がかかることをある程度省くことは仕方がない。企業では「手間」はすなわち「コスト」だからだ。極力コストをかからないように、手間な測定は省略するため、前述のように、計算で算出しても問題はない。しかし、最終的に、市場に投入する直前では、法令で決められた通りの試験方法で実施する必要はある。ましてや、その事実を隠蔽した、というのは、企業として言語同断だろう。

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シャーシダイナモによる測定(R'sジャーナルより引用)

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