毎日を1%ずつ新しく生きる! 刺激と感動のマガジン&ストア

★がついた記事は無料会員限定

2016.06.13

第1回

行くあてはないけど家にはいたくない

pha

行くあてはないけど家にはいたくない

 旅に出るときはいつも突発的だ。

「あー、もうだめだ。やってられん。なんか駄目。もう無理。もう知らん」

 日常を過ごしていると少しずつこんな風な「あーもうだめだやってられん」が溜まってくる。そして溜まった「あーもうだめだやってられん」が一定量に達すると、全てを投げ捨ててどこかに逃げ出したくなってくる。

 何だか知らないけど何もかもがうまくいかない。ここはひどい世界だ。もうどうにもならない。このままここでこうしていてもどんどんだめになっていく。もうこうなったら、どこでもいいからここ以外のどこかに行くしかない。逃げよう。全部放り出して別の場所に行こう。俺は悪くない。
 そんな風にいつも、最低限の荷物だけを持って周りの人に行く先も告げず、まるで夜逃げのように家を出るのだ。

 突発的な旅ばかりになるのは計画を立てるのが苦手だという性格のせいもある。

 一週間後に自分が何をしたい気分になっているかなんて想像できない。一ヶ月後に自分がどこに行きたいかなんて分かるわけがない。半年後には自分がトラックにはねられて死んでるかもしれない。

 旅というのは非日常、計画の外を求めてするものなのに、その旅をきちんと計画を立ててするというのは、ちょっと衝動を社会に飼い慣らされすぎじゃないか? そんなに自分をうまく管理できるならそもそも旅になんか出なくていいのでは? という気持ちもある。

 まあそんな感じで旅に出るときはいつも突然で、できるだけ誰にも言わずに一人でいきなり出かける。

 特に旅の目的があるわけでもないので早く着く必要もないし、移動中の時間が好きなので、新幹線や飛行機は使わず高速バスや鈍行列車で時間をかけて移動することが多い。

 泊まる場所は移動中の車内で検索すればなんとかなる。宿にこだわりはなくもう自分の家以外の場所にいられるならどこでもいいという感じなので、スーパー銭湯、サウナ、カプセルホテル、ネットカフェ、ビジネスホテルなどに泊まる。

 旅先でも一切特別なことはしない。観光名所なんか一人で行ってもつまらない。景色なんて見ても2分で飽きる。食事も一人のときはできるだけ短時間で済ませたい性格なので、土地の名物などは食べず、旅先でも普通に吉野家の牛丼とかを食べている。あとはマクドナルドで100円のホットコーヒーを飲みながら持ってきた本を読んだりスマホでネットを見たりする。

 要は普段家の近くでやっていることを別の場所でやっているだけなんだけど、僕にとってはそれで十分楽しい。

 多分、僕が旅に求めているのは珍しい体験や素晴らしい体験ではなく、単なる日常からの距離だけなのだ。

 いる場所を変えるだけで考えることは変わる。特に家からの距離が重要で、同じように見える町でも家から1時間の場所と3時間の場所と6時間の場所にいるのでは気分が違ってくる、物理的に遠くに離れれば離れるほど、普段自分が属している世界を客観視しやすくなるのだ。日帰りできない距離まで来てしまったときの「もう帰れないし泊まるしかないな」という諦めのような解放感もいい。

 僕は旅に出るたび日常を振り返って反省することが多い。と言っても別にそんなに重大なことを反省するわけじゃなくて、「最近ジャンクフードばかり食べてたのは良くなかったな……改めよう」とか「部屋のあの部分が散らかってるのずっと放置してたけど帰ったらちゃんと片付けよう……」とか、些細だけど放置していたようなことなんだけど。

 人間というものはすぐに惰性に流されて感覚が麻痺して、自分のいる場所や自分のやっていることの変さに気づかなくなるものだ。

 旅で一旦日常をリセットして距離をとって振り返ってみると、普段の生活のおかしさや行き詰まりや、もしくはなんでもないようなことが幸せだったことに気付いたりする。

 旅というのは日常を見直すための頭の中の整理としてよい。

「旅で自分探しをする」と言うとちょっと笑われたりするけど、僕は全然ありだと思う。人間というのは周りの環境にすごく影響を受けるものだから、身を置く環境を変えてみると、自分の行動のどの部分が周りの影響でやっていたことで、どの部分が環境によらず自分がやりたいことなのかが見えてきたりするからだ。

 突発的に旅に出て、旅先でふと我に返り、自分はなんでこんなとこにいるんだろう、と思う瞬間が好きだ。

 今日の朝までは普通に家にいたのに、今はよく知らない町のよく知らない場所で寝そべっている。なんかちょっとおかしくなる。

 別に旅に出たからといって何かが根本的に解決するわけじゃないけど、自分の部屋で「あーもうだめだ」とずっと思ってるよりは、よく知らない場所で「あーもうだめだ」と思ってるほうが少しだけ気分がマシだ。それだけでも来てよかったのかもしれない。

 とりあえず風呂に入って、適当になんか食べて、ごろごろして眠くなったら寝よう。明日何をするかは明日起きてから決めればいい。

 

★がついた記事は無料会員限定

記事へのコメント コメントする

コメントを書く

コメントの書き込みは、会員登録とログインをされてからご利用ください

おすすめの商品
  • 音を失った苦悩のピアニスト、フジコ・へミングが今、あなたに伝えたいこと。
  • 自らも政治家として田中角栄と相まみえた著者が、毀誉褒貶半ばするその真の姿を「田中角栄」のモノローグで描く意欲作。
  • 民主主義は、戦争と独裁者がお好き。
  • バイリンガルニュースまみの大人気コラム電子書籍化!
  • 99.5%実話!沖田×華の大人気コミックエッセイ!
  • ――カラダ──がまるごと愛しくなる、共感必至のエッセイ集
  • 読んだら誰かと語りたくなる衝撃のミステリー。
  • 衝撃の書き下ろし小説!
民主主義は、戦争と独裁者がお好き。
加藤ミリヤ、衝撃の書き下ろし小説!
エキサイトと幻冬舎のコラボ連載開始!
イベント情報
かけこみ人生相談 お悩み募集中!