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小説投稿サイト「カクヨム」編集長インタビュー 「編集者は危機感を持ってほしい」

「カクヨム」編集長・萩原猛さん

大手出版社・KADOKAWAと、国内最大級のブログサービス「はてなブログ」などを運営する株式会社はてなが、2月にオープンした小説投稿サイト「カクヨム」。

誰もが自由に小説を投稿できるだけではなく、『涼宮ハルヒの憂鬱』『冴えない彼女の育てかた』などの人気作の二次創作コーナーや、ユーザー同士のレビュー機能ランキングの実装なども行われ、はてなのノウハウを活用した読みやすいインターフェイスで、すでに数多くのユーザーに親しまれている。

そんなカクヨムの編集長をつとめる萩原猛さんは、このようなカクヨムの現状をどのように見ているのか。

運営の思想や「編集」という仕事への向き合い方、そしてカクヨムや小説業界の今後についてまで、赤裸々に語っていただいた。

取材・文:須賀原みち

今の小説のつくり方に危機感があった

──2016年2月末にローンチした小説投稿サイト「カクヨム」ですが、現在のユーザー数やPV(閲覧数)を教えてください。

萩原猛(以下、萩原) 会員は毎日数百人単位で増えていて、5月中に6万人を超え、月間PVは5月の時点で5000万を超えました。

──順調に推移していますね。そもそも、カクヨムの成立の経緯とはどういったものなのでしょう?

萩原 まず、「ユーザー発生型」という新しい小説のつくり方が、今後の主流になっていくだろうと予測していた出版社の人間はかなりいたと思います。

でも、例えばトヨタのような製造業に比べると、出版社は1社の規模が小さい。その中で、僕らがイメージする規模感の小説投稿サイトをつくり上げるのは難しかったんです。

そんななか、2013年にKADOKAWAとして合併したことで会社の規模が大きくなり、また何より、同じ志を持つ人がひとつの場所に集まることができた。

そうした状況が全てかみ合い、また会社としても、UGC(ユーザー作成コンテンツ)から生まれた小説を「新文芸」と名付けて強化していく戦略をとる中で、自分たち出版社がUGCサイトを持つべきだという認識が共有されました。

──カクヨムの話自体は、合併の前からあったのですか?

萩原 集まって具体的な話をしたのは合併の後です。

私自身、合併前に所属していた富士見書房時代からWeb小説の書籍化を手がけていましたし、富士見書房のサイト内に書き下ろし小説の発表の場を設けるといった試みをしていたので、やりたいという意欲はもともとありました。

私だけでなく、ほかのスタッフも全員、そういう理想は持っていたと思います。

「カクヨム」編集長・萩原猛さん 1 ──KADOKAWAはレーベルを数多く抱えていますが、カクヨム立ち上げの際にレーベル間の衝突などはなかったのでしょうか?

萩原 カクヨムを立ち上げる前には、小説投稿サイトに興味も関心も薄い編集者や、興味関心があっても「自分たちとは別のルールで動いているものだ」という認識でいる編集者もいました。

だから、そういった人たちに小説投稿サイトを理解してもらうという意味で話し合うことはありました。

でも、サイトが立ち上がると「あ、なるほど」という感じで受け止められて、そこからは非常にスムーズでしたね。

──カクヨム編集部の運営体制についておうかがいします。カクヨムは現在どういった体制で運営されているのですか?

萩原 KADOKAWAから「こういうサイトにしたい」という要望を出し、それを実現すべくシステムを開発は株式会社はてなさんがつくる、という体制です。KADOKAWA内には直接の運営部門である編集部はもちろんのこと、編集部の要望を要件にまとめてはてなに伝えてくれる担当者や宣伝全般を取り仕切る担当者もいますし、デザイナーや宣伝の人間もおります。

カクヨム編集部自体は4人で、出身はバラバラです。

ただ、いずれもネット小説に強い興味と関心があって、また、今の「小説」を取り巻く状況に漠然とした危機感を持っていたと思います。

──危機感というのは?

萩原 人や立場によってその具体的な方向性は違うと思うので、あくまで私個人の自分の中での“危機感”ですが、ライトノベル、一般文芸問わず、さまざまな書籍を担当する中で、書籍を出版するに至るまでのルートが非常に狭いと感じたのです。

もちろん例外的な作品もありますが、基本的には、新人賞の公募に応募して、受賞したら本を出すという以外のルートしか存在しなかった。でも、Webメディアの進化と共に、個人が自分の作品を発表する場が無数にある今の状況で、才能を発見する方法が公募だけでいいのかなと、ずっと考えていたのです。

なぜ「はてな」とつくったのか?

──カクヨムの開発として株式会社はてなとタッグを組むきっかけはなんだったんでしょうか?

萩原 たくさんの選択肢から検討を重ねていく中で、最初は社内開発を含むさまざまなアイデアがありました。

そこでドワンゴの川上会長にご相談したところ、はてなさんを推薦していただきました。

──今おっしゃったように、ドワンゴもCMS(デジタルコンテンツの管理を行うシステム)を運営されています。せっかくドワンゴと経営統合してKADOKAWA・DWANGOになったのだから、ドワンゴで運営しようとはならなかった?

萩原 そこが一般的な考え方とドワンゴの違いだと思います。僕の感覚値ですが、結局「このサービスを開発するにあたって、最適なチームはどこか」というのをフラットに見た上で、はてなさんで開発するという選択肢を提案していただいたのではないでしょうか。

「カクヨム」トップページ

「カクヨム」トップページ

──川上さんがはてなを推したのはなぜでしょう?

萩原 いくつか理由を挙げてもらいましたが、1番は「柔軟な開発を得意としている」という点が大きいです。

というのも、編集部はデジタルの知識が深いわけではないので、例えば小説投稿サイトにとって最適なインターフェイスといった部分では、感覚に頼らない明確な答えを持っていません。でも、はてなさんであれば彼らが今までに手がけてきたサービスの経験から答えを導き出してくれます。

今のカクヨムの開発方針は、ユーザーからの要望を受けて開発順位を検討し、そこで決めた優先する機能からつくり変えていくというアジャイル方式を取っています。立ち上げた時がサイトの完成形ではなくて、様々なユーザーの意見を吸収していくことで、常により良いサービスを目指していくものとなっています。

このような方針ははてなさんからご提案いただいたアイデアですし、またはてなさんの1番得意とする開発方式と合致したと思っています。

──「ユーザーの要望を受けてどんどん改良していく」というのは、非常にインターネット的な考え方ですね。

萩原 これはまさに出版社の考え方からは出てこない発想ですね。

出版社が本を出す場合、出した作品に間違いがあってはいけないので、世に出た時には常に「それが完成形」であることが前提となっています。

一方、刻一刻と状況が変わっていくWebにおいては、世に出した後もその変化にあわせて柔軟に対応していく姿勢が求められます。こういった文化の違いもあり、開発に関してははてなさんからも積極的にご意見を伺うようにしています。

カクヨムそのものが“雑誌=文化”に

──はてなと組んだ結果、今の時点でははてなユーザーがカクヨムをよく利用されている印象を受けるのですが。

萩原 実際には顕著にそういった動きがあるようには感じられませんね。ほかの小説投稿サイトでの執筆経験がある方や、これまで一般小説の公募に応募されていた方も多数いらっしゃいます。

ただ、はてなさんが開発するということで、従来からのWeb小説の読者以外にも、例えばはてなブロガーといった、さまざまな読み手が来てくださっているのは実感しました。いろいろなところから人が入ってきたことで、それがいい意味である種のカオス感を生んで独自の文化が育ち始めているようにも感じます。

──想定のユーザーよりもいろんな人が入ってきたという印象ですか?

萩原 ある程度予想はしていましたが、読者の年齢層では意外な動きがありました。

オープン当初は1番多いのが20代、その次に30代、10代でした。それが、今1番多いのは20代で次が10代、30代。10代の読者が増えて、30代との比率が逆転しました。

──その原因はどこにあると思われますか?

萩原 やはりSNSで話題になった作品が出たからではないでしょうか。

10代だと当たり前のようにスマートフォンを持っていて、ツイッターなどのSNSも日常的に使っています。一方、今は作家さんの方もSNSを駆使して「こういう作品を書いているので、読んでみてください」という形で自分の作品を広げようと努力しています。

そういった事情が重なった結果10代の目にも届くようになり、「無料で読める」「1話の分量が通学の時間で読むのにちょうどいい」といった動機から、Web小説を読んでみようと足を運んでくれる読者が増えたのではないでしょうか。

──いわゆる今のネット小説はコアなユーザー層が30代と、旧来のライトノベルの読者層よりも年齢層が高いですよね。外から見ていて、当初カクヨムは30代の読者層を狙ったのかと思ったんですが……。

萩原 その層に読んでもらおうという強い狙いはありませんでした。ただ、今ある小説投稿サイトから流れてくる人は多いだろうから、結果として30代がボリュームゾーンを占めるのではないかという予測はありました。

ただ、将来的にカクヨムは他の小説投稿サイトで人気となっている作品と同じようなものがウケる場所にはきっとならないだろう、と考えています。

例えば、他のサイトでは人気のある「ファンタジー」ジャンルでは現在の流行と似たような作品が人気となるかもしれませんし、そうならないかもしれない。また、それ以外のジャンルでは今まで他サイトではあまり注目されなかったような作品でもカクヨムのユーザー層には支持される、そういった可能性もあると思います。

それはトップページの構成などを工夫することで意図的に狙っている部分でもあります。実際にカクヨムでは秀逸なSF作品が集まって読者の人気を得るなど、これまで投稿する場所のなかった作品に陽の目が当たるサイトになりつつありますし、これからもそのような場所になっていけば良いと考えています。

──サイトのインターフェイスも関係しているんですね。

萩原 カクヨムははてなさんが開発に携わっていることもあって、ナチュラルにネットに触れている世代にとって読みやすくわかりやすい、感覚的なサイト構成になっています。

これは推測ですが、こうしたインターフェイスを採用したことも、若い世代の読者が増えている要因のひとつかもしれません。

これは僕自身の考えとなりますが、Webサイトはそれ自体がひとつの“雑誌”のようなものであって、“文化”でもあると考えています。

なので、今後ももっとたくさんの小説投稿サイトが出てきてほしいと思っています。それこそ各出版社やレーベルが雑誌のような感覚で小説投稿サイトを開設しそれぞれの運営方針で独自の文化を築き上げていくことで、Web小説業界がもっと盛り上がるのではないでしょうか。

そうやって各サイトが切磋琢磨していく中で、カクヨムらしい幹をしっかりと育てることが出来れば、自ずと「カクヨムとはこういう場所だ」という定義もできる気がしています。

カクヨムならではのビジネスモデル

──カクヨムには現在、広告バナーなどは見当たりませんね。ビジネスモデルとしては、書籍化を前提として収益を上げる形なのでしょうか?

萩原 そこがほかの小説投稿サイトとカクヨムの大きな違いかもしれません。やはりKADOKAWAという出版社が運営していることもあり、編集部から書籍化を打診されるスピードはほかのサイトとくらべても早いのではないでしょうか。

──書籍化する場合、やはり編集部の人が投稿されている作品を実際に読んで判断するのでしょうか?

萩原 それは当然です。各編集部、編集者単位でそれぞれ投稿作品を見ていますし、またコンテストという形で作品が出てくる仕組みをつくっています。

コンテストも、サイトオープンと同時に開催した「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」をやったら終わりということではなく、今後も漫画雑誌「少年エース」での漫画連載を前提とした「少年エース×カクヨム 漫画原作小説コンテスト」や、エッセイや実話を対象とした「エッセイ・実話・実用作品コンテスト」の開催が控えています。

できれば、小さくても何らかのコンテスト企画が毎月開催されているようにしていきたいですね。

──書籍化の際、どのレーベルから刊行されるかというのは、どうやって決定されるのですか?

萩原 コンテストの大賞作品を協賛しているどのレーベルで出すか、という話は現在各編集部と調整中です。ただ、コンテスト対象外の作品については、基本的には規約に則って動いてもらえれば、誰が声をかけても構いません。

──KADOKAWA内の編集者であれば、誰でもいい?

萩原 規約に則ってご連絡いただければKADOKAWA外からの希望も受け付けています。KADOKAWA内では書籍化が難しくても、KADOKAWA以外の会社ならばそれが叶うのであれば、それは歓迎すべきでしょう。そこは「作家さんの可能性を潰したくない」というのが1番大きいです。

ただ、カクヨムが主催しているコンテストに関しては、協賛している編集部に優先権があることだけはご了承いただければと思います。

「カクヨム」編集長・萩原猛さん 2 ──KADOKAWAといえば、メディアミックスですよね。書籍化だけでなく、投稿作品がいきなりアニメ化、といった可能性もあるのでしょうか?

萩原 否定はしません。現に、社内の映像部門ともカクヨムの投稿作品について定期的にミーティングする機会を設けています。

──では、現時点で刊行の具体的なスケジュールはありますか?

萩原 「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」の結果発表が初夏なので、そこから順次改稿し、受賞作は年度内の刊行を予定しています。また、コンテストに応募していない一般投稿作品にも社内の編集部から書籍化希望の声がかかっている作品がすでにいくつかあります。

──書籍化企画を立ち上げるにあたって、ランキングや作品のPVはどのくらいの参考指標になるのですか?

萩原 それは声をかける編集者次第です。PVや評価の数が多いというのはそれだけ読者から支持されているということですので、それをひとつの指標とするのか、もしくはまた別の視点から作品を見ていくのか。作品の見極め方は各編集者の哲学に依るところが大きいと思います。

──書籍化する際には、作品に対しての編集作業も入るのですか?

萩原 基本的には各レーベル・各編集者の判断に委ねる部分が大きいですね。なので、カクヨム編集部としての統一した指針のようなものはありません。

なので、ここからは個人的な話となりますが、僕は書籍の編集もやっているので、横書きのWeb小説から縦書きの本にする時点でそれは“メディアミックスである”という考え方を持っています。

ウェブで読みやすい横書きの小説と、紙で読みやすい縦書きの小説は絶対に違うものとなりますので、書籍化の際にはコミカライズくらいのレベルで作品を1度解体して、新しいメディア(=本)に適した形へとつくり変えるということをしています。

「編集を手放す」ということ

──カクヨムはCGM(消費者生成メディア)なので、小説を投稿する段階では編集の手は入りません。これは「KADOKAWAという出版社が編集を手放す」という見方もできますが、この点についてはどう考えていますか?

萩原 あくまで僕の考え方ですが、編集者の仕事というのはその作品をより多くの人に読んでもらうために最大限の努力をすることだと思っています。

例えば、最高のパッケージや帯をつくって、最高のあらすじを書いて、本の体裁を完璧に整えて本屋さんでしっかり売る体制をつくる。そういう時にこそ編集者の力が生きる。

時には物語に対してアドバイスすることももちろんありますが、基本的には物語はどこまでいっても作家さんのものです。本が出る時に作家さんの名前は出るけど、編集者の名前は出ない。僕はこれは大事なことだと思っています。だから、作家さんが書いた小説に手を加えることが編集の仕事と、そもそも考えていないのです。

もちろん担当した作品に対して編集者に責任がないということではありませんが。ですが、少なくとも本文に対して最終的に責任を負わないといけないのはやはり作家さんになります。だからこそ、自分の名前を冠して作品を世に送り出すからには、作家さんには自分が本当に書きたい作品や読者に届くと思うテーマをきちんと選んで欲しいと思います。

とはいえ、これも編集者によっては自分の発掘した作品として連載段階でも口を出す人もいますし、それはそれで作家さんが納得していればいいと思います。

編集者にはそれぞれの考えがあるので、これはあくまで僕の哲学にすぎません。ただ、カクヨムの運営方針はこの哲学に則っている部分もあります。

──CGM自体、作家ありきの構造となっていますからね。

萩原 もし今後Web小説がメインストリームになれば、編集者の仕事も変わってくるかもしれません。

──例えば、本当に多くの人に読まれるような作品であれば、書籍化で収益を得るのではなく、PVで収益を得る広告モデルにしてしまってもいいわけですよね? つまり、書籍にする必要さえなく完全に編集の手が介在しなくなる。

萩原 そうなった時にこそ「編集者とは何をする仕事なのか」ということが再定義されることしょう。でも、少なくとも今はまだそこまで達していないとは思います。

そういう意味では、次の世代の編集者は危機感を持ったほうがいいかもしれません。世の中の流れはそこまで早くないけれど、次の世代の頃にはそれらが切り替わっている可能性は充分ありますので。

純文学でもエンタメでもない作品

──カクヨムにはノンフィクションやエッセイといったジャンルがあるのも特色ですが、やはりライトノベル的な作品が目立ちます。

既存の小説投稿サイトの影響も大きいと思いますが、純文学よりもエンターテイメント寄りにしようと意識されたんでしょうか?


萩原 実はそこまで意識していません。仮にジャンルを縦軸と横軸で置いた時、例えばSFやファンタジーは横軸で、縦軸として純文学やエンターテイメントがあります。

僕の中では、純文学は他人に読まれることを必ずしも前提としていない文学という部分があると思うんです。それが例えば公募に出すことで誰かの目に止まって共感する人もいて、結果的に作者と読者という関係になっていく。

一方で、エンターテイメントは最初から人に見てもらうことを前提とした小説なので、読者の顔を見ないということはありえません。

ただ、純文学かエンターテイメント、どちらか100%の作品というのもないと思っています。なので、カクヨムに「純文学」というジャンルを設けたくないのは、「エンターテイメント」というジャンルがあるのか? という考えと同じです。だから、二項対立にはならないと思っています。

──その考えはカクヨムのカテゴリ分けにも、ある程度反映されている?

萩原 ジャンルを分ける際の思想という部分では反映されていると思います。ただ、今のカクヨムが完成形だとはまったく思っていないので今後もずっと改善は繰り返していきますし、カテゴリ分けに関しても試行錯誤の余地は充分あると思っています。

「カクヨム」編集長・萩原猛さん 3 ──カクヨムにはローンチ初日から、スキャンダラスな作品が次々と登場して話題になりました。

こういった作品が投稿された理由については、どのように考えていらっしゃいますか?


萩原 理由は明確で、新しいサイトだからです。

既存のサイトにはそのサイトのルールがありますが、新しいサイトだったら目立てるし、ルールもまだ確立していないカクヨムは良い意味でも悪い意味でも乗り込みやすかったんだと思います。

さまざまな作品に触れる機会をつくるために

──ドワンゴの川上会長はいわゆる「なろう小説」(小説投稿サイト「小説家になろう」に投稿された小説)に度々言及していて、「なろう小説」のデメリットとして、ランキングによる人気ジャンル偏重と多様性の喪失を挙げています。

ローンチ当初のカクヨムを見て、ランキングを実装しないのかとも思ったんですが、内部でランキングについての議論はありましたか?


萩原 ランキングの実装自体は最初から決めていました。最初の1週間は、週間ランキングの基礎となるデータをつくるための期間でした。

──ランキングの導入が既定路線だった理由とは?

萩原 それはランキングがないと、初めてカクヨムを訪れたユーザーが、最初にどの小説を読めばいいのかがわからなくなってしまうからです。

カクヨムを訪れるユーザーは必ずしもWeb小説に慣れた人ばかりとは限りませんし、今の10代の人間であれば、初めて小説に触れるのが本ではなくネットになるという可能性は大いにありえます。

そうしたユーザーからの「このサイトでは何が面白いんですか?」という問いに対するひとつのアンサーとして、ランキングはあってしかるべきだと思います。

もちろん、ランキングがそのサイトにとって唯一無二で絶対的な指標にならないようにすることも必要です。そのために読者からのおすすめレビューをサイトのメインで掲載するなど、必要な改装自体はこれからも続けていきます。

多様性についても、カクヨムでは11個のジャンル別ランキングを置いています。そうすることによって、それぞれのジャンルで11の文化ができている。このくらいあれば、ひとつのサイトがオープンした直後に持っている多様性として決して少なくはないはずです。

それに、今後ランキングはもっと細分化されたり、反対に少なくなる可能性もあります。それカクヨムが運営の意向をもとにサイトの流れをつくるのではなく、それらの担い手をユーザーに委ねながら反応を見ることで、常に時代の流れに沿っていくつもりだからです。

──ランキングひとつ取っても、その指標にはPVやレビュー数、フォロワー数など、さまざまな見せ方が出来ますが、そういった調整も想定している?

萩原 今後は検索機能をより強化していきますので、そこである程度フォローできる部分かと思います。5月に第1弾改善ということでリリースして、第2次以降の検索機能強化も進めています。

──トップページ以外から流入してきても、ユーザーが回遊できるような仕組みをつくっていくということですね。

創作の基本は二次創作にもある

──カクヨムには二次創作のコーナーも設けられています。二次創作を許容することについて、レーベル側からは反対意見などは出ませんでしたか?

萩原 事前に各編集部との話し合い、二次創作の許諾を出せる作品を募った際に出てきたのが最初のラインナップです。中には『ログ・ホライズン』のように、「小説家になろう」でも許諾されている作品もありますが、基本的には作品の権利を持っている方が二次創作について前向きに考えてくださった上で許諾をいただいています。なので、大きな問題は起きていませんし、今後も許諾作品は継続的に増えていくと思います。

──二次創作作品の盛り上がりはいかがでしょう?

萩原 作品によりますね。もともと二次創作が流行っていた『ログ・ホライズン』はやはりかなりの数がありますし、今年アニメ化した『この素晴らしい世界に祝福を!』といった最近話題になった作品は徐々に増えていく傾向にあります。

──今後、二次創作作品が書籍化されることもあり得ますか?

萩原 その可能性は否定しません。ただ、そもそも書籍化を狙って二次創作コーナーをつくったのかと聞かれると、決してそうではありません。

──では、なぜ二次創作コーナーを設けたのでしょう?

萩原 音楽でも絵でも、まず既存の作品をまねることから創作の世界に入るのは自然なことですよね。これは小説で言うところの二次創作に当たると思いますし、そこから初めて小説を書くという人がいてもいいと思っています。実際、今のWeb小説自体が二次創作を源流に発生した文化という部分も大きいんです。

あとは二次創作を許可することで、単純にその作品のファン同士のコミュニティ、交流の場所としてカクヨムを使ってもらっても面白いですよね。

──今のお話を伺うと、カクヨムのビジネスモデルとは少し離れている印象も受けます。別サイトを立ち上げるのでなく、なぜカクヨムの中に?

萩原 それは二次創作を書いていくなかでそこから将来的な一次創作の書き手が生まれてくるのは自然な流れだとおもいますし、またそうなってほしいと思っているからです。

──二次創作について、原作者からのリアクションもあったりするんでしょうか?

萩原 表立っては言っていませんが、実は投稿された自分の作品の二次創作を全部読んでるという作家さんもいます。だから、作家さんがこっそり二次創作のレビューを書いていても驚きはしませんね(笑)。

プロも参戦、業界からの評価は?

──ラノベ作家の山本弘さんや芝村裕吏さんなど、カクヨムにはプロ作家さんも多く投稿しています。これは想定していましたか?

萩原 想定をしていなかったわけではありませんが、実際にプロ作家の作品がこんなに多く投稿されるとは思いませんでした。皆さんもう少し慎重に様子を伺われるかと思っていたのですが……。

ただ、編集部ではプロ作家の投稿を煽っているわけではなく、反対に自重しろとも言ってません。結果として、純粋に面白いことをやりたいという気持ちからWeb小説に挑戦するプロ作家がいっぱいいた、というのがわかったのは嬉しかったです。

──カクヨムに対して、業界内からの反応はありましたか?

萩原 とある名のある作家さんからは「雑誌媒体として、何十年先まで残るのがコレかもしれない」と、非常に良い評価をいただきました。

ほかにも、改善点や要望を言ってくださった作家さんや「ペンネームを変えて書いてもいい?」と聞いてきた作家さんもいらっしゃいます。後者については、「僕はいいですけど、担当編集とご相談ください」としか言えませんでしたけど(笑)。

読者はWebサイトに帰属意識を持つ

「カクヨム」編集長・萩原猛さん 4 ──お話をうかがっていると、雑誌文化をかなり意識しているのでしょうか?

萩原 やはり雑誌というのは今どんどん苦しくなってきています。では、今後雑誌の機能をどこに移していくのかというと、現状ではWebだと思っているんですよ。

──雑誌は編集者の意図でデザインされますが、カクヨムのようなCGMですと玉石混交な部分も大きいですよね?

萩原 考え方の違いだと思いますが、僕は雑誌のすべてが「意図」によるものではないと考えています。読者がこういう情報を求めている、こういう記事が読みたい、そういったものを吸い上げたり、また先回りして提示したりすることでつくられていく面もあると思います。

そして、それはCGMであっても同じじゃないでしょうか。確かに投稿される個々の作品についてはコントロールできませんが、一方で、それらを俯瞰してみることでユーザーのニーズをつかみ、サイトのUIやトップページの構成、またサイト内で行われる企画などにより、より居心地のいい場所にすることはできると思います。

昔は例えば「ポパイ」や「メンズノンノ」とか、どの雑誌を読んでいるか、ということへの帰属意識が強かったんです。でも今は「小説家になろう」だと“なろう民”というように、「E★エブリスタ」や「魔法のiらんど」のユーザーなどもそうだと思いますが、自分たちの帰属意識のある場所をWebサイトに求めています。そういう意味で、雑誌文化を意識しているところは大きいです。

音楽でも、ライブハウスによって、そこのお客さんにウケる煽り方や演奏をしていくのと同じですよね。ジャズに強いライブハウスもあれば、オタク系でアイドルに強かったり、パンク系でモッシュ&ダイブ上等みたいなところとか。そういう色々な“ハコ”がもっと増えればいいな、と思います。

──実際、今の文芸誌は、宣伝力や購買力もなく、新人発掘もできず、コミュニティもなく……と、機能停止している状況があると思います。カクヨムがその代替になるという展望ですか?

萩原 正直に言うと、僕にそこまでの展望はありませんし、文芸誌に対してそういう感情があるわけでもありません。でも、逆にそういう展望を持っている人たちがユーザーとして集まってくるのであれば、その人たちに住み心地の良い場所を僕らは提供します。その結果として、そういう場所が生まれる可能性はあると思います。

それこそ創作論・評論のジャンルに、書評家たちが集まって創作論を日々戦わせるようになれば、それはそれで面白いことになるでしょう。でも、それは僕らが起こそうと思って起きるものではありません。何万人ものユーザーが何を考え、カクヨムをどのように使うかを運営側で左右することは不可能に近いと思います

僕らにできることはサイトで起きているムーブメントの流れをちゃんと見極め、それらが淀まないようにして絶えず流れを促していく。その結果として面白いシーンが自発的に生まれればいいと思います。

ラノベ市場は過渡期を迎えている

──一方で、ライトノベル市場自体、2012年以降売上が下がっていて衰退しているという議論もあります。この現状をどう見ていますか?

萩原 “ライトノベル”と一口に言っても、どこまでをその範疇と定義するのは難しいのですが……。仮に『ロードス島戦記』をライトノベルの基礎とすると、ライトノベルというジャンル自体が始まってからもう28年になります。28年も経てば、いくつかの淀みもできてしまいます。

でも、ライトノベルは常に新しい血を入れ続けてきました。そんなライトノベルにとって今はまたその過渡期にあり、新しい流れを模索する時期に入っているのだと思います。

これも僕の考えとなってしまいますが、その次の流れがひょっとしたらWebから来る可能性は十分ありえます。だから、ここ何年かのライトノベルの流れと、これから先、次の世代のライトノベルが全然違うものになっていてもおかしくはありません。

そもそも、ライトノベルという単語自体が不定形なんです。ライトノベルそのものが世代でどんどんと変化しているので、「これがライトノベルだ!」という共通認識自体が多分ないんじゃないでしょうか。

今の40代と10代が考えるライトノベルの代表作は絶対に違うものになっているでしょうし、例えば『アルスラーン戦記』はライトノベルなのか? という提起もありますし、また『シャーロック・ホームズ』をライトノベルと言い切る人もいます。

「カクヨム」編集長・萩原猛さん 5 僕は「ライトノベルとは何か?」というのは、読者が決めるものだと思っています。カクヨムに「ライトノベル」というジャンルをつくらないのも、そういった理由からです。

先ほどの純文学とエンターテイメントの話のように、100%ライトノベルという作品もなくて、ライトノベルのレーベルから出ている作品だけど純文学性を帯びているものがあってもおかしくありません。

一方で、ライトノベルも含めて、ここ何年かのエンターテイメントの消費のされ方を見ても、今がひとつの過渡期だという自覚はあります。いわゆる「新文芸」と僕らが呼んでいるWeb小説をはじめとした、ネットから出てきた才能が活躍の幅を広げているのも、この過渡期に起きています。

こうした流れが今後さらに一般化するのか、もしくはしないのか。それは今の段階ではまだわかりませんが、僕は一般化することを信じてカクヨムをやっていきたいと思います。

──Webのプラットフォームを活用したカクヨムが、文芸を一般化させる切り札にもなりえる?

萩原 切り札という言い方が正しいかはわかりませんが、一般公募では出てこない才能にも、カクヨムという新しいプラットフォームであればチャンスが広がるのは間違いないと思っています。

逆に、カクヨムではなくて一般公募でしか出てこない才能というのもあると思います。それはどっちかが良い悪いということではなく、これまでになかった選択肢が増えることが、書き手にとって非常に意味のあることだと思います。

──ライトノベル業界では、近年は「転生もの」がブームです。こうした中で、新しい潮流は見受けられますか?

萩原 それが決まった時が、過渡期の終わりだと思います。

というのも、これまでも90年代に一世風靡したファンタジーの流れが鈍ってきて新しい流れを模索した結果、00年代に現代異能ものが流行った。しばらくすると今度は学園ラブコメが台頭してきた。そして、学園ラブコメが鈍ってきたら、またファンタジーが出てきた。

その次にまた現代異能ものが流行るかはわかりません。でも、もう次を模索しないといけない段階にきているのではないでしょうか。

──出版不況が叫ばれ、小説のつくり方やライトノベル業界などが過渡期を迎える中、インターネット的な考え方でつくられたカクヨムが今後どう発展していくのか、期待しています。本日はありがとうございました。

萩原猛 // はぎわらたけし

「カクヨム」編集長

2010年、KADOKAWA合併前の旧富士見書房に中途入社。TRPG関連書籍やライトノベル、文芸書の編集を経て、2015年からカクヨム・カドカワBOOKS編集長。

萩原猛

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