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実質賃金少なくとも過去10年で最低
実質賃金と言うのは,ざっくり言えば物価を考慮した賃金ということだ。
例えば,賃金が1割アップしたとしても,物価も1割アップしてしまえば,実質的に賃金は上がったことにならない。
逆に,賃金が1割下がっても,物価が2割下がれば実質的に賃金は上がったことになるんだね。
そのとおり。そして,受け取った賃金そのものの額が名目賃金だ。
厚生労働省毎月勤労統計調査によると,2015年の実質賃金は少なくとも過去10年で最低だった。過去10年のグラフを見てごらん。
これは平成22年を100とした場合の実質賃金指数の推移だ。
ちなみに,厚生労働省の説明によると,実質賃金指数は名目賃金指数を消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)で割って算出されている。
ずっと下がってるんだね。民主党政権ていつからいつまでだっけ。
平成21年(2009年)9月16日~平成24年(2012年)12月26日までだ。
民主党の時は東日本大震災もあって経済に悪影響が出たけど,その時より低いということだね。
アベノミクス前の平成24年と比較すると,平成25年~27年の3年間で4.6も落ちてる。
実質賃金が下がるとどうなるの。
GDPの約6割を占める個人消費が低下する。総務省統計局作成「家計の消費支出指数」(総世帯)をグラフにした下記の図を見てごらん。これは平成22年を100として各家庭の実質消費支出を指数化したものだ。
ジェットコースターみたいじゃん。超落ちてる。実質賃金と同じで少なくとも過去10年で最低になってるね。
消費がキンキンに冷えてやがる。
アベノミクスは賃金を上げて個人消費を伸ばすのを目標にしているから,これじゃまずいんだ。
家計の消費支出の落ち込みは,国全体の消費の落ち込みにも直結している。下記のグラフは過去22年間の実質民間最終消費支出をグラフ化したものだ。
※内閣府の統計データを元に作成。
アベノミクス最初の年だけ上がってるけど,後は2年連続で落ちてるね。
そうだ。2年連続で落ちたのは,リーマンショックが起きた2008年とその翌年の2009年以来だ。そして,最も重要なのが,2015年の数字はアベノミクス前の2012年を下回ったということだ。このように,「3年前より実質民間最終消費支出が下がる」という現象はリーマンショックの翌年2009年以来だ。
全然ダメじゃん。東日本大震災の年(2011年)ですら前年を上回っているのに。
そうだね。実質民間最終消費支出は基本的に右肩上がりで,前年を下回ることすら22年間でたったの5回しかない。だから,アベノミクスでこれだけ落ちたのは異常事態といえるだろう。
実質賃金低下は非正規雇用が増えたのが原因?
ところで,実質賃金が下がったのは,雇用が回復して非正規雇用が増えて,賃金の平均値が下がったのが原因と言う人がいる。
賃金の低い新規雇用者が増えたから,それが平均値を下げたということか。本当にそれが原因なら名目賃金も下がっているよね。名目賃金だって平均値だもんね。
そこで厚生労働省毎月勤労統計調査を元に作成した下記のグラフを見てごらん。これは平成22年を100とした場合の名目賃金指数(現金給与総額)の推移を示している。
アベノミクスが始まった平成25年にいったん下がったけど,そこから27年にかけて微妙に伸びてるね。 アベノミクス前の平成24年(98.9)と比較すると,3年間で0.1だけ伸びたのか(平成27年は99)。
これを見ると新規雇用者の増加によって平均値が下がったとは言えないね。名目賃金の方は下がるどころか微妙に上がっているからね。
うん。非正規が増えたせいで実質賃金が下がったという理屈は新規非正規雇用者の比率からして無理があるんじゃないかな。
総務省統計局の労働力調査によると,アベノミクスの3年間(2013~2015)で非正規雇用は1813万人から1980万人へ167万人増えた。
そして,全体の雇用者数(役員を除く)は平成27年時点で5284万人だ。
じゃあ増加した非正規社員は全体の約3%を占めるに過ぎないということだな。それなら平均値に与える影響は少ないだろうな。
じゃあ何で実質賃金が下がったのかな。
物価が上がったからさ。下記のグラフは総務省統計局の調査(消費者物価指数:持ち家の帰属家賃を除く総合)を元に作成したグラフだ。平成22年を100とした消費者物価指数の推移が分かる。
25年~27年にかけて超物価上がってるじゃん。3年間で4.9も上がってるよ。
実質賃金,名目賃金,消費者物価の3つの指数を重ねてみよう。
物価の上昇と正反対に実質賃金が下がってるね。まるで鏡に映したみたいだ。
一番大きいのは平成26年4月の増税さ。平成26年にいきなり消費者物価指数が跳ね上がっている。
それまでは名目賃金指数と実質賃金指数は同じように推移していたのに,平成26年になって急に動きが変わっているが分かるだろう。
本当だ。
この増税に加え,アベノミクスによって円安が進んだことも大きい。円安が進めば輸入品の値段が上がって物価が上昇せざるをえないからね。
結局,単に名目賃金の上昇よりも物価の上昇が上回ったから実質賃金が下がったということだね。
そうだ。それがさっき見た通り消費の低下を引き起こしている。
今後,実質賃金は上がるのか?
実質賃金を上げるにはどうすればいいの?
名目賃金が物価以上に上がればいいんだよ。さっきも言った通り実質賃金指数は名目賃金指数を消費者物価指数で割って出すからね。
一覧にするとこんな感じになる。
ふ~ん,例えば,平成27年の名目賃金指数が仮に104.6だったら,同年の消費者物価指数の104.6と同じになるから,指数は100だね。
そう。指数は平成22年を100としているから,それでやっと民主党政権だった平成22年の実質賃金の水準に戻ることになる。
でも現実の平成27年の名目賃金指数は99だから,あと5.6も足りないね。
そうだね。そして名目賃金指数が一気に5.6伸びても,やっと平成22年の実質賃金の水準に戻るだけだ。
ちなみに,さっきの表を見ると,アベノミクスが始まる前の平成24年と比較すれば,アベノミクスの3年間で名目賃金指数は0.1しか伸びていない。
他方,消費者物価指数は3年間で4.9も伸びている。
それじゃあ今後名目賃金の伸びが物価上昇を上回るなんて普通に考えたらありえないんじゃないの。
単純に伸びた数字だけで比較したら物価が名目賃金の49倍のペースで伸びたことになるじゃん。
そうだね。最低賃金を思いっきり引き上がれば改善するかもしれないけど,それは賛否両論あるから実現しないだろう。
じゃあ実質賃金低いまんまで消費も伸びないまんまになっちゃうじゃん。
逆にさあ,物価が下がれば実質賃金上がるんでしょ?
そうだけど,アベノミクスは物価を上げることを目標にしてるから,物価が下がったら失敗したことになる。
まだ上げる気なの・・。もっと実質賃金下がるじゃん。
名目賃金が上がらない原因は色々あるだろうけど,重要なのは,現に3年間で0.1しか上がらなかったということだ。
過去3年でそうだった以上,今後もあまり伸びないだろうな。仮に伸びたとしてもそれが物価の上昇を上回るとは考えられない。
マイナス金利でまだ物価上げるの?
日銀は民間銀行にたくさんお金を供給して物価を上昇させようとした。目標は消費者物価指数が前年比で2%ずつ伸び続けることだ。
物価が上がる⇒企業の利益増える⇒労働者の賃金が上がる⇒さらに物価上がる・・・という好循環が起きることを狙ったんだ。
ところが,せっかくたくさん供給したお金がいまいち企業に貸し出されず,物価上昇が目標に達しなかった。
そこで日銀は日銀当座預金の金利をマイナスにすることにした。
日銀当座預金と言うのは民間銀行が日銀に預けているお金だ。
法律によって,民間銀行は自分の保有する預金の一定割合を日銀に預けることを義務付けられている。
民間銀行が日銀にお金預けっぱなしにしてたらお金が減っていくってこと?
簡単にいうとそういうことだ。太郎,君が銀行だったらどうする?
預けておくと減ってしまうなら,引き出して誰かに貸そうとするだろうね。
そうだろ。つまり,日銀がたくさん供給したお金を使わせるようにマイナス金利にしたんだ。
それさ~,需要を無視してない?銀行の貸し出しが増えなかったのは,単にお金を借りたい企業が少なかっただけでしょ。
そんな無理くり貸し出しさせるよう仕向けたって需要が増えるわけじゃないんじゃないの。
だいたい,もう物価超上がってるじゃん。そのせいで実質賃金下がって消費も冷えてるのに。
そんな状態だったら企業だってお金借りて事業拡大しようと思わないでしょ。
日銀が狙っている物価上昇には,増税による物価上昇は含まれていないんだ。
税金で物価が上がっても,上がった分は政府の懐に入るだけで,企業が潤うわけではないからね。 それに,あくまで「前年比」2%の上昇だ。アベノミクス開始時点からの2%上昇を狙っているわけではない。
だからまだ物価を上げたいんだな。しかし,増税分に加えて,さらに前年比2%で物価上げたって,名目賃金の伸びは絶対それに追いつかないと思うんだけど。
そうだね。ところで,総務省統計局の発表によると,2016年3月でも物価の上昇は前年比2%にほど遠い。
※総務省統計局のサイトより引用。
本当だ。「総合」と「生鮮食品を除く総合」なんかプラスどころかマイナスだね。
賃金伸びないんだから当然じゃないの。誰もそんな状態で値上げしようと思わないよ。物が売れなくなるだけじゃん。
そうだね。結局銀行の貸し出しが増えないのも,物価目標を達成できないのも,「賃金が上がらないから」というのが大きな理由と言っていいんじゃないかな。
じゃあマイナス金利も多分効果無いね。賃金上がらないのに物価上げたって実質賃金が下がって生活苦しくなるだけだよ。
年金使って株価引き上げ
アベノミクスで株価が上がったのは確かだよね。それは成果じゃないの?
それについては重大な問題があるんだ。
株価が上がった原因は,まずは金融緩和によって円安が進行したことが挙げられる。
円安になると,海外投資家からすれば日本株を安く購入出来てお買い得だからね。
それに,輸出関連企業の業績が伸びることが予想されるから,それらの企業の株価も上がる。
これに加え,公的資金が日本の株式市場に投入された影響が非常に大きい。
まず,日銀がETF(信託財産指数連動型上場投資信託)を大量に購入したことにより,日本の株式市場に日銀からたくさんのお金が供給された。
日銀の発表によると購入額は平成28年4月22日時点で7兆6800億円を超えている。
これに加え,最も大きかったのが,GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が大量に日本の株式を購入したことだ。
GPIFは国民が将来に備えて積み立てた年金約130兆円を運用している世界最大の機関投資家だ。
以前,GPIFにおいて,運用総資産に占める日本株式の構成割合は12%だった。
ところが,GPIFは平成26年10月31日にこの構成割合を変更し,日本株式の割合を25%にした。
13%増えたということだから,総資産を約130兆円とすると,約17兆円程度投入される資金が増えることになるね。
日銀のETF購入額も単純に合算すると,新たに24兆円以上は日本の株式市場に投入されたということになるのかな?どうりで株価が上がるわけだ。
そうだ。こうやって公的資金が投入されることで,他の投資家達も株価の上昇を期待するから,株式の購入が増えて,株価が上がっていく。
それ,上がっている時はいいけど,下がったら大損失だよね。
そのとおりだ。特に平成27年の第2四半期(7月~9月),GPIFは7兆8899億円もの大損失を出した。
そりゃあひどいな。平成27年度の1年間を通した成績が気になるところだね。いつ公表されるのかな。
例年は7月上旬だったが,今年は7月29日だ。参議院選挙の投開票日が7月10日と言われているから,その後になるね。
選挙で問題にされたくないから隠す気だね。せこい。圧倒的にせこい。
民進党は,5兆円程度の損失が出ていると主張しているようだね。
その数字を鵜呑みにするわけにもいかないけど,数兆円規模の損失は出ただろうね。
ちなみに,平成26年度までの運用実績は下記のとおりだ。
※GPIFのサイトから引用
平成26年度まで4年連続でプラス収益になっていたんだね。それが資産構成を変更したとたんにマイナス収益になるということか。
自分たちで株を買いまくって株価を吊り上げたあげく,売るタイミングを逃してまんまと他の投資家に売り抜けられ,損失を出したということだよね。
これ,盛大な自爆じゃん。しかも国民の金使った自爆。超むかつくんですけど。
そうだね。民進党によれば,資産構成を変更していなければ損失は出なかったそうだよ。
それもまた鵜呑みにはできないけど,資産構成を変更していなければこれほど株価が上がることも無かっただろうな。そう考えると確かに損失は出なかったかもしれない。
含み損だから問題ない?
GPIFの損失は,「含み損」だから問題ないという人がいる。つまり,あくまで保有している株式の評価額が下がっただけということだ。
また株価が上がった時に売れば問題ないでしょといいたいのね。でも,上がるのかな。
そこが問題だね。過去1年間の株価の推移を見てごらん。
※ヤフーファイナンスより引用。
去年の5月から7月にかけて2万円台を超えてきていたのが,突然8月になって下落したんだな。
第2四半期(7月~9月)に大損失を出していることからして,この2万円台の時に相当買っていたんだろうね。
そうすると,少なくとも2万円台を超えるぐらいになってから売らないと,損が出るだろう。
え~消費も伸び悩んで経済が伸びる気配が無いのにまたそこまで上がるのかな。それに,上がったところでGPIFが大量に売ったら株価が暴落しちゃうんじゃないの。
そうだね。上がるかどうかも分からないし,上がった時に本当に売るのかも分からないね。せっかく上がった株価が下がっちゃうからね。
参議院選挙の争点は?
今度の選挙,どこに入れようかな~。
アベノミクスをこのまま継続させたいなら与党の候補者に投票する。逆に,止めたいなら野党の候補者に投票する,というのはどうだろう。
なんかそれ単純で分かりやすくていいね。アベノミクスの成否は生活に直結するから一番身近な問題だし。
でもさ~俺,野党も超大っ嫌いなんだよね。野党信用できないじゃんこの国。
ここで与党に投票するか,又は棄権しちゃったら,アベノミクスはそのまま継続される可能性高いだろうな。「民意を得た」ということになるから。
たしかに,「アベノミクスは止めてください。」って意思表示は選挙でやらなきゃ意味ないな。
別にいきなり政権交代が起きるわけでもないから,今回だけは野党に投票するのもありかもな~。じっくり考えよう。
【短くまとめると・・・】
・アベノミクスの3年間で,名目賃金指数が0.1しか伸びなかったのに消費者物価指数が4.9も伸びた。
・その結果,実質賃金指数が4.6も落ちて,実質消費支出指数も5.8落ちた。それが影響して,実質民間最終消費支出はアベノミクス前を下回ってしまった。
・株価の上昇は円安に加え,公的資金(日銀+GPIF)が大量に投入されたのが影響している。株価は大幅に上昇したものの,その後大幅に下落したので,平成27年度のGPIFの運用実績は大幅なマイナスになると予想される。
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