良い文章の秘訣は「音楽のように」書くこと

良い文章の秘訣は「音楽のように」書くこと

  • ライフハッカー[日本版]
  • 更新日:2016/06/13
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Crew blog:ルネッサンス期の著名な画家ピーテル・ブリューゲル(父)は、名作『ネーデルラントの諺』で、農民の暮らしを描きました。この傑作を少し離れたところから眺めれば、農民の日常を見事にとらえた美しい作品だとしか思えないでしょう。でも、目を近づけて良く観察してください。

あちこちにいくつものお尻が描かれています。詳しいところまで見ようとした人が、思わずぎょっとして、クスッと笑ったり呆れかえったりする作品なのです。

次には、職場での閲覧に向かない名作絵画とは別の例を挙げてみましょう。担当編集者のJoryが子どものころに、ハイドン作曲の「交響曲第94番」を聴きに行ったときのことです。第2楽章がまもなく終わろうというころ、柔らかな響きが聴衆を日曜午後の心地良いまどろみへといざないかけたときでした。突然の「バーン!」というすさまじい音。オーケストラ全体が一斉にフォルテッシモで和音を奏でたのです。

聴き手を油断させないという考えかたは、芸術そのものが誕生したときから存在します。

ハイドンの交響曲の場合、目が一気に覚めてしまうような驚愕の瞬間がこれからも来るかもしれないと思えば、気を抜いてなどいられません。それに、今度ブリューゲルの作品を前にしたら、みだらな描写がないかと隅から隅まで目を凝らすはずです。

ライターやデザイナー、ゲームなどの開発者、写真家、もしくはまったく異なる業種の人でもかまいません、どんな分野であれ、1つの仕事をある程度続けていれば、ハイドンやブリューゲルが使ったような、見る人や聴く人の関心を引き留めておくための「秘策」の存在に気づき始めます。それは、ちょっとしたワザやパターン、微妙な違いにすぎません。それまでは気づいたこともなければ、深く考えたこともなかったけれど、いったんわかったら、もう無視することはできないものです。

筆者は、ライターとして仕事をしてきたこの5年間で、自分なりの秘密兵器を少しずつ蓄えてきました。それらはとても些細なもので、ほとんど気づかれませんが、筆者のスタイルを高め、クライアントを呼び込み、読者を引きつけてくれます。

その中でも最大の威力を誇る秘密兵器は何だと思いますか。ポイントは、「何を書くか」ではなく「どのように書くか」です。

「緊張感」と「意外性」でオーディエンスをつかんで離さない

ハイドンの度肝を抜くエンディングに効き目があるのは、それが奇抜だからだとか、当時の規範に突然逆らったからだけではありません。ハイドンは曲の始まりからその瞬間までずっと、聴衆を驚かせるために罠を仕掛けているからでもあります。

音楽では、音量やスピードが上下します。そうした強弱の変化は、根源的なところで私たちの感情に強く訴えかけてきます。そして文章も、音楽ほど複雑ではないものの、まったく同じことをやってのけられるのです。

そこで大事なのがテンポです。

リズムを利用して文章を分割し、読み手のスピードを上げたり緩めたりすると、音楽と似たような効果を、言葉を使って生み出すことができます。それこそが、実質的で説得力にあふれたコンテンツのかなめであり、読者を引きこみ、思考を促し、もっと読みたいと思わせてくれるものなのです。

では具体的に見ていきましょう。

テンポと文章の長さに変化を持たせる

ハイドンがフォルテシモに至る直前まで聴衆をまどろみへと誘い込んだように、文章のペースやリズムにあれこれ変化を持たせて読み手を引っ張っていきましょう。長い文章と短い文章を織り交ぜるとペースやリズムに変化が生じ、読者の不意を突くことができるのでお勧めです。これなら、読者の頭の中にいる「語り手の声」はいつまでも表現豊かで、面白味を失いません。

文章の長さをあれこれ変えることがどんなに効果的かを冷静に解釈している人は何人かいますが、ここでは文章の書き方の指南書を何冊も書いたライターGary Provost氏 の言葉を借りましょう。

この文章には5つの単語が含まれている。この文(This sentence has five words)自体も5語文だ。5語文が悪いわけではないが、いくつか続けば単調になる。書いている文章に耳を傾けよう。平坦になっている。文章がだらだらと続いている。空回りするレコードみたいだ。耳は変化を欲している(訳注:原文では、この段落すべてが5語文で構成されている)。

では、耳を傾けてみよう。文の長短を変えて、音楽を奏でてみるのだ。文が歌っている。心地良いリズム、軽快な流れ、ハーモニーがある。短い文を使う。中くらいの長さの文も入れてみる。読者が十分に休息したと確信したら、こちらに引き込むために思い切り長い文を入れて、燃えるようなエネルギーを発し、クレッシェンドで勢いを増し、連打するドラムとクラッシュするシンバルの音を奏で、聴いてほしいと訴えかける。それが重要だ。

だから、短い文章、中くらいの文、長い文を組み合わせて書こう。読者の耳を喜ばせるような音を奏でよう。ただ言葉を書き連ねてはいけない。音楽を書くのだ。

意識の流れを利用する

1950年代アメリカの「ビートニク(ビート世代)」と呼ばれる作家たちや、「自由連想」という手法を使っ19世紀後半の心理学者たちに限らず、思い込みを取り除き、制限を受けずにどこまでも続く思考の流れを解き放つことは、思考プロセスを解き明かすための優れた方法です。そうした思考プロセスは、物語の登場人物のものでも、心理療法を受ける患者のものでも、自分自身のものでもかまいません。

ただし、ひたすら続く自分自身との対話を始める前に、1つだけお断りしておきましょう。過ぎたるは及ばざるが如し。無駄をそぎ落とした簡潔な文章を書きましょう。そして、読者を自分の方へと十分に引き寄せたと感じたら、好きなようにやってみるのです。

その一例として、思考の流れをセールス文に生かす方法を紹介しましょう。

仮に、ダイエットしたいと考えている消費者を対象にしているとします。

その場合は、こう語りかけることができます。「5~10キロくらい痩せたいなと思っていませんか」

もしくは、オーディエンスの立場に立って次のように言っても良いでしょう。

気がつけばいつもこんな風に気にしていませんか。「このジーンズを履くとお尻が変に見えないかしら? あの男の人、私のお腹周りをじろじろ見ている! そんなことをするのは誰よ? あれ? このブラウスはタイトすぎる? 着ている服はどれもきつすぎ?」

こういった文体を読むと、読者は一瞬、考え込みます。ついクスクス笑ってしまう人もいるかもしれません。この文章は、書いた人が文字通り「読み手の立場に立って」いて、読み手の悩みを理解していることを表しています。

筆者自身、「Crew」の記事ではこうした文体を頻繁に使っています。思考の流れそのものは短いものですが、筆者の頭の中を垣間見ることができます(筆者の頭の中で起きていることが知りたかったらこちらを読んでみてくださいね)。

優れた文章は、感情を通じて、行動を起こそうという意欲をかき立てます。そして、意識の流れを利用したこういった文体は、自分にも弱い部分があるという思いや共感を読者の心に呼び起こす上で、驚くような力を発揮するのです。

思い切って自分をさらけ出す

パソコンの「I」(私)というキーを取り換えなくてはならないほど自分のことばかり書く人がいますが、自己中心的な文章ばかり書いていると、読者をうんざりさせてしまいます。

そうした読者は、書き手の語るストーリーに自らを投影しにくくなります。だからこそ、読者を前面に押し出して、読者は書き手とともにストーリーの中に存在するのだと示すことがとても効果的なわけです。

そのように文のスタイルを変えると、「第4の壁」を打ち破れます。第4の壁とは、演劇の舞台の前面にある目に見えない壁のことです。つまり、役者は観客が存在しないものとして演じ、観客は壁の外から舞台をのぞき見るという意識を持つことを意味します。けれども、第4の壁が破壊されれば、著者(あるいは登場人物)は、ストーリーのもともとの流れから引き離され、読み手(聴衆)に直接語りかけることになるのです。

フィクションの場合、このかたちを取り入れるのは、著者の生い立ちや物語の背景などを明らかにするためだと考えて間違いありません。つまり、著者は単なる脇役、あるいは受け身の観客の1人ではないという意味です。そしてこのかたちは、どんな文章にも取り入れることができます。これは根本的に、読者に対して「そこのあなた!」と呼びかけ、言葉をただ読むだけの受け身の立場から読者を引き戻し、こちらに関心を向けてもらうためです。つまり、読者もまたストーリーの一部であることに気づいてもらうのです(視聴者を共犯者の気持ちにさせてしまうアメリカの政治ドラマ『ハウスオブカード 野望の階段』と同じ手口です)。

では、どのような仕組みなのか、説明しましょう。

仮に、クライアントとの会話について説明しているとします。

たとえば、単にこう書いても良いのです。「クライアントは、翌日正午までにXYZプロジェクトを終わらせたいと言ってきました。けれども私にはそれは無理でした」

あるいは、読者をその場面へと連れていき、実際に何が起こっているのかを語って聞かせることもできます。

そのクライアントは、翌日正午までにXYZプロジェクトを終わらせたいと言ってきました。

ここでいったん、話を中断しましょう。

このクライアントはいわば、よくいるタイプでした。こういうタイプについてはご存知だとは思いますが、支払いは少ないのに何かと手がかかるのです。電話をかけてきては、何やかや要求してくるので、高校生のころに付き合っていたボーイフレンドよりも面倒なのです。でも私はそんな手には乗りません。他人にどう接すべきか、教えてやらなくてはなりません。こうしたクライアントにはしつけが必要なのです。

これなら、読むのが楽しいばかりか、状況に異なる視点を与えています。読者に状況をゆだねつつ、書き手は時々顔を出して、ストーリーから脱線しないかたちで、自分の言い分ややりかたを差し挟んでいるのです。

決まり文句を利用する

イギリスのSF作家ニール・ゲイマンは次のように述べています。

作家が自分なりの声を見つけるのは、他人のまねごとを散々した後である。

ここで筆者は、ある提案をしたいと思います。文章を書くときは、最初の下書きは決まり文句や名言を使って書いてみましょう。いろいろな場面で繰り返し耳にするような言い回しを入れて書き始めるのです。ただし、後で下書きを見直して、自分なりの表現に言い替えてください。

たとえば、

彼女のためなら月だって差し出したことだろう。

これを自分の表現を使って言い替えてみましょう。

彼女の笑顔が見られるなら、木星の軌道さえ変えてみせただろう。

次の文章はどうでしょうか。

隣の庭の芝生はいつも青い。

これも言い替えてみましょう。

うちの庭の芝生が枯れているのに隣の庭が青々としているなら、人工芝かもしれないと考えてみよう。

自分独自のスタイルを見つけるためのカギは、書き続けること、耳を傾け続けること、文章を読み続けること、そしてひたすら練習することです。

これからは、「いいな」と思える文章のペースや言葉のリズムに注意を払うようにしましょう。興味をそそられるような流れを持つ音楽やユーモア、芸術をじっくりと観察してみましょう。ピンとくることは何か、目に留まることは何かを見つけ出してください。

気になる表現を見つけたら、考えてみてください。それは言葉遊びですか。使い古されたメタファーにひねりをきかせて新しい使いかたをしているのですか。どんな意外性がありましたか。違いは何ですか。

優れた芸術は、たとえそれが1件のブログ記事という形であっても、真実やパターンを明かしたり、古いアイデアに新たな工夫を加えたりして、読み手の関与を促し、それを一緒に楽しんでいます。

みなさんは自分の文章で、読み手に何をしてもらおうとしていますか。名作絵画をじっくり見て、そこに隠された数々の農民のお尻を探してもらおうとしていますか。打楽器の音で聴き手をびっくりさせようとしていますか。ストーリーを中断して、自分の内緒話を読者に告白していますか。いずれにしても、ペースと文体に変化を持たせ、読者を自分の創造の世界に巻き込んで、その心をがっちりとつかんでください。読者はただの聴衆ではありません。読者はあなたと一緒に舞台の上にいるのです。

ただし、舞台の上で繰り広げているのはとても繊細なダンスです。それを絶対に忘れてはいけません。

自分にとって「良い音楽」とはどのようなものなのか、気長に解き明かしていきましょう。

文章を書けば書くほど、失敗すればするほど、時の試練を耐えた作品はどんどん力を増していくのです。

Don't write words. Write music.| Crew blog

Hillary Weiss(訳:遠藤康子/ガリレオ)
Photo by Shutterstock.

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