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DaiGoは芸能人で「こいつはビジネスでも成功する」ヤツの1人

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芸能人で 「こいつはビジネスの世界でも成功する」と思える人が2人いる。メンタリストのDaiGoと、オリエンタルラジオの中田敦彦の2人である。

中田さんは言わずもがな「しくじり先生」を大ヒット番組に押し上げたプレゼン力、これは本物だ。以前から「何かおすすめを紹介する」ような企画でプレゼンの強さを垣間見せてきたが、ここ数年で開花している。事前の準備もさることながら、アドリブの巧さはビジネスの世界に持ってきても間違いなくトップレベルだろう。

とまあ、中田さんの話はまた機会があればするとして、今回はメンタリストDaiGoについて書く。

彼はマジシャンのような演出や立ち位置でテレビ番組に出ているが、他とは決定的に違う要素がある。自分が仕掛けるトリックではなく人間の心理に主眼を当てている点だ。そして、その場でネタをばらすこともよくある。ある番組の「ネタばらし」を見たときに、この人の心理学に関する知識の深さと実践力は凄まじいものがあると直感した。

ビジネスの世界で営業でも企画でも、広報でも経営でも、顧客の前に出る仕事なら何でも一流にこなすことができるだろう。そんな彼に著作『限りなく黒に近いグレーな心理術』から迫っていく。

《目次》

 

ショートストーリー形式にこだわった3つの理由

世界で最も読まれた本と言えば、聖書だと言われています、あなたもご存知の通り、聖書はストーリーによって2000年以上も人々の心を動かし続けてきました。

そう、この聖書もじつはショートストーリー本なのです。短いストーリーにさまざまな学びや教えが散りばめられた聖書は、今でも色褪せることのない気づきを私たちに与えてくれます。

まずこの部分を読んで、どう感じるだろうか。

本著全体を通してだが「読みやすさ」が群を抜いている。イチ芸能人のそれではない。編集者がかなり手を加えたにしても、ここまで頭にすっと入ってくる文章は稀だ。おそらく、彼が口語調でなるべく簡単な言葉で書くように相当注意したからだと推測される。

それは文章中の「、」の位置にも現れている。上の文で言えば、「聖書だと言われています、あなたもご存知のとおり」のつなぎは普通は「。」を使うはずだ。あえて「、」を使っている理由は本著でも書かれているとおり論理的なことを説明するときは早口のほうが説得しやすいという法則を意識してのことだろう。さらに読者にはテレビ番組のイメージで本を読んでいる人が大半のはずなので、普段の話し方に合わせているのかもしれない。

また、モデルの例として「聖書」を持ってきているあたりも狡猾だ。「世界で最も読まれた本」を例に出すことで、人が根源的に持っている「周りと同じことをしたい」という心理を利用する社会的証明というテクニックをしれっと使っている。宗教の経典という反論しにくい権威も何気なく振りかざしている。

ちなみに「ショートストーリー形式にこだわった理由」は引用した箇所を含めて3つで語られているが、これはコンサルがよく使う王道の展開である。人は並べる素材が2つだと論理が単純すぎて軽く受け止めがちで、4つだと複雑で理解しづらくなる。だから戦略コンサルは論点を3つに絞って顧客に提案することが多いのだ。

余談だが、就活面接の場合は自分の特徴や主張を2つに絞ると良いと言われている。それは1つだとキャラ不足で、3つだと多すぎて他にもたくさんの候補を面接する面接官には負荷が重過ぎるからだ。「それは2つあります。1つはA、もう1つはBです」という論法でいくと、AとBがハイブリッドされた個性が際立つ。実際に僕は約10年前の新卒面接から中途面接まで、この作戦を明確にとり出してから面接で落ちたことは一度もない。

 

ビジネスで使えそうなメンタリズム

ビジネスで使えそうなメンタリズムをいくつかピックアップする。これらの技術は全て本著中で事例として書かれていることである。しかも対処法まで丁寧に書かれている。DaiGoの知識の豊富さと実践への応用力が伺える技術と事例たちだ。

  • ゴルディロックス効果:商品に関する情報が少なく、価格帯の選択肢が3つになると中間のものを選びやすいという購買心理の法則。このとき、価格差の比率は「A・B・C=6・4・3」、選択肢の提示順は「高価なA、安いC、本命のB」とするのが効果的。⇒対処法:財布を開く前に、「本当にBが欲しいのか」と問いかける。
  • 単純接触効果:人は、見知らぬ相手には冷淡な態度をとり、攻撃的になるが、接触回数が増えれば増えるほど、親近感を覚えていく(接触回数にはメールやLINEも含まれる)。⇒対処法:親近感と信頼感は別物だと戒める。
  • コントラストの原理:人は先に強い刺激を受けていると、次にやってくる刺激に対して鈍くなる。金銭の支払にも通じ、最初に買った商品との関連性が高く、価格は安いものをすすめられると購入してしまう。⇒対処法:これを買うと決めたもの以外は買わない。
  • ローボール・テクニック:最初に旨味のある提案をして承諾させ、一貫性の原理の流れに買い手を載せてから、徐々に条件を売り手有利に変えていく。⇒対処法:紙に書き出す、数値化するなど、条件を「見える化」して判断する。
  • ハロー効果:一流大学の卒業生は、人格も一流など、人は相手の目立った表面上の特徴に引っ張られ、好印象を抱いてしまう傾向がある。⇒対処法:相手のもっとも目立つ特長について、「もし、その特長がなくても付き合っているか?」と想像する。
  • エビングハウスの忘却曲線:ドイツの心理学社へルマン・エビングハウスは、人間の記憶が20分間で58%まで失われると指摘。時間の経過と記憶は急速に失われていく。⇒対処法:復習曲線を駆使することで、忘れていく記憶を強化することが可能。

 

トップニュースには警戒せよ

ポータルサイトのトップニュースにも注意が必要です。あのニュースはあなたにとっての重要度ではなく、誰かがキュレーションし、クリック数が増えそうなニュースを並べているだけです。

これなどもまさに本質を突いている。スプラリミナル知覚といって、テレビのニュース映像や新聞記事、ラジオニュースなど、視覚、聴覚、触覚から伝わった私たちが意識した情報は、脳を刺激し、行動に影響を与えている。怖いのは、情報により影響されていることをあまり自覚しないという事実だ。

また、ウェルテル効果といって、有名タレントの自殺が報じられると同じ方法を使った自殺者が増えたり、ある手口での犯罪が注目されることで模倣犯が増加するなど、マイナスの方向に社会的証明が働くこともある。

ネットニュースで能動的に情報収集をしているつもりになっているかもしれないが、それは誰かが意図(しかも読まれたいという意図)をもってキュレーションした結果という側面も多分にある。かといって情報をシャットダウンしては情弱になるだけなので、十分に警戒した上で各種ニュースサイトや報道は利用したい。

 

負のバイアスから抜け出す方法

本著の最後の方に書かれているのだが、これは使えると思ったのが内集団バイアスを排除するという考え方。内集団バイアスとは、自分が所属している集団は、他の集団に比べて有能で、価値があると考えるバイアスのことだ。このバイアスに取り付かれてしまうと、凝り固まった意見に終始し、過去の成功体験にしがみついてしまう。

DaiGoは、すっぱい葡萄(憧れていたものの価値を下げることで、自分が傷つかないよう対処する)やカラーバス効果(自分の思い込みに関係する情報を集め、ヒューリスティックやバイアスを強化する動き)、セルフ・ハンディキャッピング(自分が不利な状況にあることを表明したり、障害をあらかじめつくるなど、言い訳を用意し、うまくいかなかったときにプライドが傷つくのを避ける)などで自己防衛気味な人は、一度バイアスをとっぱらって外部の意見を取り入れてみてはどうだろうと提案する。

一度挫折を味わって縮こまっている人は、外部との接触を増やすことで、またチャレンジングな舞台に復帰することができるかも知れない。