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あれか、これか ― 「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門
【第30回】 2016年6月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
野口真人 [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

ギャンブルで絶対に負けない方法は、ノーベル賞が教えてくれる

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ギャンブルで絶対に勝つにはどうすればいいのだろうか?早くも4刷の重版が決定した『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』をベースに、ポートフォリオ理論の背景にある「分散効果」と「相関効果」を理解するための、日常的事例をいくつか紹介していこう。

タクシー会社に保険は要らない!?

さて、前回は株式投資における「分散効果」と「相関効果」について説明してきたが、このイメージを整理していただくために、今回はもう少し卑近な例を出していくことにしよう。

ポートフォリオがリスク・リターンにもたらす効果は、日常のさまざまな場面の中にも隠れている。

これは有名な話だが、航空会社のパイロット3人は、離陸直前の食事と機内の食事は互いに別のものを食べるというルールになっている。3人が同時に食中毒になるのを防ぐためだ。

吉本興業は総勢6000人以上の芸人・タレントを抱えており、一発屋としてブレイクした芸人が下火になったりしても、すぐに次の芸人が出てくる仕組みになっている。したがって、大物タレント数名を抱えるプロダクションに比べ、ビジネスのリスクは圧倒的に小さい。

また、生物の遺伝の仕組みも、ある意味ではポートフォリオ効果そのものである。インフルエンザウイルスが厄介なのは、いくらワクチンをつくっても、すぐに抵抗力のある別のウイルスが生まれてくるからだ。

一般的に、2本鎖のDNAを持つ生物の体内では、変異を修復する仕組みがたくさんある。しかし、インフルエンザウイルスは1本鎖のRNAしかなく、複製エラーをチェックしたり、変異を修復したりする酵素を持たない。修復酵素を持つ生物の突然変異は、全体の100億分の1にまで抑えられるが、インフルエンザウイルスは一度起こった変異を修復できない。結果として、どんどん変異が重なっていくので、ものすごい数の変異体がごく短期間で生まれる。

ワクチンにより個々のウイルスは死滅させられても、種全体に対しては圧倒的な分散効果が働き、種として絶滅させられるリスクを限りなく小さくしているのである。

また、あくまでも思考実験としてだが、タクシー会社は大手になればなるほど、任意保険に入らないほうが得になるかもしれない。1人でやっている個人タクシーであれば、自分の年間事故率はわからない(不確実性が高い)から、それぞれの損害賠償額のばらつきは大きい。

しかし、たくさんの台数を抱える大手タクシー会社であれば、母数が大きくなればなるほど、年間の事故率はほぼ一定になり、賠償額のばらつきが小さくなる(不確実性/リスクが低くなる)。

だとすれば、割高な保険をすべての車両にかけるよりは、保険をかけずに賠償額すべて自己負担したほうが、全体としての損益はプラスになる可能性が高いだろう(もっとも、現在はどんな大手のタクシー会社も、任意保険の加入は義務づけられているので、そんなわけにはいかないが……)。

以上のように、ポートフォリオとは投資の世界だけではなく、この世界を生き抜くうえでの重要な知恵なのだ。

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野口真人(のぐち・まひと) [プルータス・コンサルティング代表取締役社長/企業価値評価のスペシャリスト]

1984年、京都大学経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)に入行。1989年、JPモルガン・チェース銀行を経て、ゴールドマン・サックス証券の外国為替部部長に就任。「ユーロマネー」誌の顧客投票において3年連続「最優秀デリバティブセールス」に選ばれる。

2004年、企業価値評価の専門機関であるプルータス・コンサルティングを設立。年間500件以上の評価を手がける日本最大の企業価値評価機関に育てる。2014年・2015年上期M&Aアドバイザリーランキングでは、独立系機関として最高位を獲得するなど、業界からの評価も高い。これまでの評価実績件数は2500件以上にものぼる。カネボウ事件の鑑定人、ソフトバンクとイー・アクセスの統合、カルチュア・コンビニエンス・クラブのMBO、トヨタ自動車の優先株式の公正価値評価など、市場の注目を集めた案件も多数。

また、グロービス経営大学院で10年以上にわたり「ファイナンス基礎」講座の教鞭をとるほか、ソフトバンクユニバーシティでも講義を担当。目からウロコの事例を交えたわかりやすい語り口に定評がある。

著書に『私はいくら?』(サンマーク出版)、『お金はサルを進化させたか』『パンダをいくらで買いますか?』(日経BP社)、『ストック・オプション会計と評価の実務』(共著、税務研究会出版局)、『企業価値評価の実務Q&A』(共著、中央経済社)など。


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