ベトナム人は現在、大ざっぱに言って1880年代の米国人と同じ経済レベルにあるが、平均余命は1980年代の米国人と同じだ。健康状態の点では、ベトナムは知らぬ間に100年進んでいたわけだ。
こうなった理由は、知識には国境がないからだ。確かに、高額な手術や最先端のがん治療といった一部の医学的介入は、ベトナムのエリート層以外の手に届かない。だが、命を救い、寿命を延ばすもの――水道、抗生物質、ジェネリック薬品、適時治療、適切な医療ガイドライン、きちんとした保健ネットワークなど――は、それなりにうまく組織化された社会なら手に入れられる。
ベトナムは国内総生産(GDP)を健康に転換することに成功してきた。そのためベトナムは、貧しい国、特にアフリカの貧困国にとって、たとえ所得水準が比較的低くても、まともな政策が達成できることを示す素晴らしい手本になる。
アフリカでは、ほどよい速さの経済成長を健康状態の改善に反映させるという点で、多くの国が後れを取ってきた。主な原因はお粗末な制度機構と粗悪なインフラで、この問題は特にアフリカ南部で大きくなった。健康指標を一世代分後退させたエイズの大流行のせいだ。だが、この後れにもかかわらず、アフリカの傾向線は、認知が不十分にせよ明白だ。状況は上向いている。
■2つの基本的指標が改善
国民の健康を示す最も基本的な2つの指標は、平均余命寿命と乳幼児死亡率だ。データ可視化ツール「ギャップマインダー」によって収集・編集された数字によれば、1980年には、エチオピア、マリ、ニジェールの国民の平均寿命は45歳前後だった。2015年になると、マリの平均寿命は58歳に跳ね上がり、ニジェールは62歳、エチオピアは64歳になっていた。
ケニア人、スーダン人、モーリシャス人はそれぞれ68歳、70歳、74歳まで生きる。同じ期間にほかの地域も好転している。平均すると、低い起点からスタートしたアフリカ諸国はほかの地域との差を縮め始めた。
乳幼児死亡率についても同じことが当てはまる。1980年には、当時世界で乳幼児死亡率が最悪だったギニアとモザンビークでは、子供1000人当たり約175人が5歳になる前に死亡した。2015年になると、その数字は61人と57人に低下していた。例えば米国(5.6人)の標準に照らすと、まだ恐ろしいほど高い数字だが、はっきり目に見える改善だ。ケニア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニアなど、アフリカで最も良好な国々では、30人前後まで減っており、ほぼベトナムのレベル(20人)に達している。