ブラックホールを初めて撮影できるかも
SF映画やアニメなどでブラックホールが描かれるのは珍しくありませんが、実は実際にブラックホールを光学的に捉えたことは一度もないというのはご存じでしたでしょうか?
これまで発見されたブラックホールは、最大のものでもとてもぼんやりしたもので、あまりにも地球からの距離が遠いのです。
せいぜいブラックホールに飛び込む物質が燃えているのが観測できる程度でしたが、国際プロジェクト「事象の地平線」望遠鏡(Event Horizon Telescope:EHT)に参加している科学者によると、2017年にもブラックホールの写真を撮れるようになるかもしれないとのことです。
「事象の地平線」望遠鏡は、地球上の電波望遠鏡を繋いで宇宙を観測する国際プロジェクトで、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上という圧倒的な解像度で観測することができます。
日欧米の他、台湾とチリの大学や研究機関が参加しています。
ブラックホールは超高密度・超巨大質量の天体
ブラックホールを撮影するのには、まだまだ多くの解決すべき問題があります。
たとえばブラックホール自身が小さいこと、超高密度ゆえに巨大質量を持つということが挙げられます。
ブラックホールの例として、いて座A*(「いてざ・エー・スター」と読みます)が挙げられます。
いて座A*は天の川の中心にある超質量のブラックホールですが、大きさは太陽のわずか17倍しかありません。
しかしその質量は太陽の400万倍(!)というから驚きです。
いて座A*は地球から25,000光年の位置にありますので、望遠鏡で観測しようとしても月面のブドウを見るようなものです。また、ブラックホールの周辺にあるガスや塵もブラックホールを観測しにくくする要因です。
最適な波長1.3ミリメートル
研究チームの一人によればラッキーが重なっただけとのことですが、EHTのチームはこれらの問題を解決する手段を導き出しました。
EHTチームは観測に電波を用いることに決定したので、最初の作業は集中的に観測する波長を決めることでした。
ブラックホール周辺のガスや塵を透過するため、1.3ミリメートルの波長が選ばれましたが、この波長は地球の大気もよく透過するという望外の性質も備えていました。
最後に、「事象の地平線」(事象の地平面とも言います)ではガスは1.3ミリメートル波長の光を放っていると考えられているため、これを観測するのにも最適な波長だと言えます。
一般相対性理論の証拠となるか
研究チームが来年に予定しているブラックホールの写真を撮るというプロジェクトは、アインシュタインの一般相対性理論を確認することも目的の一つとしています。
一般相対性理論の説明は量子力学の知識が必要になるのでここでは致しませんが、ブラックホールのような超巨大質量は時間や空間を歪ませるということだけ覚えておいてください。
もし現在の一般相対性理論で考えられている事象の地平線が正しいものであれば、ブラックホールは記事トップの画像のような三日月形に写るはずなのです。
三日月形のブラックホールが映っていなかった場合、これから人類は相対性理論に代わる新しい理論を導かねばなりません。
「事象の地平線」とは
筆者も宇宙物理の専門家ではありませんのでざっくりとした説明になりますが、事象の地平線とは「光すらブラックホールの超重力から抜け出せない領域の一番外側」だとお考え下さい。
事象の地平面と言った方がイメージしやすいかと思います。
本文中で「ブラックホールは空間を歪ませる」と書きましたが、これは「それまで直進していた光がブラックホールの重力に引かれて進行方向を変えるように観測できる」ということです。
事象の地平線の外側であれば光はブラックホールに飲み込まれずに脱出することができますが、事象の地平線の内側では脱出できず、光がブラックホールに飲み込まれてしまうのです。
すると、遠くからブラックホールを観測したときには真っ黒の、文字通り一条の光すらない暗黒、宇宙に開いた穴のように見えます。
ブラックホールを光学的に捉えるには、事象の地平線のすぐ外で光るガスや塵の光を観測するよりありません(事象の地平線の外側なので脱出できます)。
この光こそ記事トップの三日月形の光であり、一般相対性理論の正しさを支持する有力な証拠となるのです。
Via: Geek.com