悪の組織にいるとですね。
すっごいモテません。
大手は別ですよ。
大手の秘密基地に行くと
可愛い受付もおりますし
若い女性幹部もいたりして
職場結婚もあるみたいです。
しかし、小さい組織には
まず、若い女の子がいません。
いても30前には辞めちゃいます。
だから基本的に外に出会いを求める形になります。
しかし悪ですから。
あまり一般の企業にお勤めの方から好かれません。
なので悪の組織に所属する下っ端は
女性に不慣れな人が多いのです。
・・・
その日、モスコミュール先輩に飲みに誘われました。
モスコミュール先輩は2つ年上の独身。
モテないことにかけては組織内でも
定評のある人です。
いつも居酒屋なのにその日は 小洒落たバー。
行くと一人の女性が待っていました。
「初めまして」
ん?どなた?
「俺の今の彼女。」
今のって。
私の知る限り
先輩に彼女いた時を知りませんけど。
見れば彼女。
とても美しい方でした。
とても先輩に釣り合うようには思えません。
先輩。こんな美人とどこで知り合ったんですか?
「そんなこと、お前に言うわけないだろ。秘密だよ。秘密。」
なんか腹立つな。
その後、先輩は彼女の前で
自分がいかに彼女のことを考えているか。
私がいかに先輩に面倒を見られているか。
彼女へのアピールと
私への自慢が続きます。
この時点で
どんなに美人でも
この先輩を選ぶのなら
相当、頭弱い子かと思います。
ぜんぜんっ!うらやましく!
ないっ!
・・・
次の日。
また、先輩に呼び出されました。
今度は他の同僚たちもいます。
「どうよ?俺の彼女?」
はぁ。きれいな方ですね。
「だろ?会わせたのはまだお前だけなんだぜ。」
なるほど。
私の口から皆への自慢をしろってことですか。
先輩にしては
きれいな彼女でしたね。
「だろ?俺にしては・・・どういう意味だよ!」
悪の組織の下っ端構成員は
基本モテませんので
彼らにとって
きれいな彼女ができた先輩はヒーローのような存在になりました。
皆の目はまるで子供が正義の味方を見るようにキラキラしています。
この飲み会で
先輩に気に入られて
2匹目のドジョウを狙うヤツ。
自分もそうなるために
矢継ぎ早に質問を繰り返すヤツ。
その回答をメモるヤツ。
メモるヤツ。お前には無理だ。
アプローチの仕方が間違ってる。
・・・
先輩は上機嫌でしたが
ある時、空気が一変しました。
先輩が首からネックレスを取り出しました。
「コレ。彼女と結婚するときに指輪にするんだ。」
ネックレスの先には
ダイヤモンドらしき宝石がついています。
「彼女、宝石店で勤めててさ。一緒に選んだんだ。」
「」
誰も一言も発しません。
「コレ。お前らが想像してる金額じゃないよ。ゼロ1個多いからな。」
「」
「さすがに一括はキツいからね。ローン組んだけど。でもそれだけマジなんだわ。」
コレってアレだよね?
間違いなくソレなんだよね?
・・・先輩。彼女とはどこでお知り合いに。
「彼女。襲撃予定の宝石店を調査してるときに仲良くなってさー。」
ミイラ取りがミイラやん。。。
「今回、本気なんだ。彼女みたいな美人と付き合えるチャンスなんて二度とないと思うしさ。仕事変えてもいいと思ってる。」
「世界征服って、いつまでも夢見てるワケにはいかねーし。家庭とか考えると今の組織じゃ厳しいよな。特に俺ら戦闘員はさ。独り身ならさ。どんだけ仕事のこと見下されても俺は平気だけど、家族がバカにされたら耐えられないし、世の中納得いかないって世界征服目指してみたけど、やっぱ戦闘員じゃな。」
誰も
何も
言えませんでした。
・・・
1ヶ月後、この愛すべきモスコミュール先輩にPCの調子が悪いと呼ばれたとき、
ブラウザの検索履歴には
デート商法 指輪
ネックレス デート商法
と、残っていました。
私はすぐに有志を募り、
頓挫していた宝石店襲撃計画を
再開させるべく動きました。
多くの戦闘員が参加し
近年、稀にみる大成功へとなり
宝石店は潰えました。
しかしあれ以来、誰もその話を
先輩にすることはありません。
今後も触れることはないでしょう。
それが我々が目指すべき
優しい世界ですから。
世の中、悪の組織をカモにする
悪の組織があり、
悪の組織をカモにする悪の組織を襲撃する悪の組織があります。
この腐った世界を変え、
愛に溢れる優しい世界になるまで
我々の世界征服は続きます。
それまで我々の組織に
愛は不要ですから。
モテなくてもいいんです!