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 「帰国すれば必ず逮捕される」。昨年3月、米ニューヨークにいた中国の人権NGO(非政府組織)「北京益仁平センター」代表の陸軍氏(43)は、同僚から国際電話を受けた。北京にある事務所に家宅捜索が入った、という連絡だった。容疑を告げないまま、約20人の捜査員が一晩かけてパソコンや書類を押収。同僚らは拘束された。

 同センターは陸氏が2006年、HIV感染者の支援のためにつくった。女性の権利向上や食の安全などにも取り組んだ。14年夏から1年間、ニューヨーク大に客員研究員として招かれていた。身の危険を察して帰国をやめ、亡命を決めた。

 取り調べを受けた同僚の話から、当局が同センターの決算書のある収入に着目していることがわかった。

 08年7万ドル 09年10万ドル

 全米民主主義基金(NED・本部ワシントン)から受け取った援助額だった。

 NEDは各国の民主化を支援する非営利団体だが、予算の大半は米政府が拠出している。人権問題が米中間の大きな懸案となるなか、中国政府はNEDを米政府の先兵とみなす。陸氏は「当局はNEDとの関係を問題視した」と語る。

 NEDは年次報告書などで人権団体などへの支援について公表しているが、安全上の配慮から中国などの一部の団体名を伏せている。

 それによると、NEDが中国の民主化や人権問題に関わる団体に支援した総額は、9652万ドル(現在のレートで約106億円)。人権や民主化に取り組む中国内のNGOなど少なくとも103団体に交付された。このうちチベット関連の団体には計625万ドル(約6億9千万円)、ウイグル関連の団体には計556万ドル(約6億1千万円)が提供された。この中には、亡命チベット独立急進派の「チベット青年会議」や亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」など、中国政府が「テロ組織」などと批判する団体もある。

 中国政府は、中国内のNGOや人権派弁護士らへの取り締まりを強めており、NEDの活動が「極めて難しくなっている」(NED関係者)という。米国務省は4月に発表した人権報告書で「中国政府はNGOと外国との資金の結びつきを捜査している」と指摘する。NEDのカール・ガーシュマン理事長は朝日新聞の取材に応じ、「中国当局による弾圧が強まっているが、人権や少数民族の権利保護のために闘っている団体を引き続き支援し、孤立させないことが重要だ」と語る。(ワシントン=峯村健司)

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 《全米民主主義基金》 世界各地の民主化支援を目的に、米レーガン政権の提唱で1983年に設立された団体。民間の非営利組織だが、資金の大半は米政府が拠出。90以上の国々で、人権や民主化の推進に取り組む非政府組織や政党などに、毎年1200件以上の助成金を出している。