「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー9
前回記事、「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー8の続きです。前回記事では「定食」配置者の、「猫を殺傷する意図」を証明するのはほぼ不可能ということを書きました。今回では「定食」と殺傷された猫との因果関係の立証がほぼ不可能であることを書きます。つまり犯罪行為が仮に存在したとしても、立証がほぼ不可能であれば、有罪とすることもほぼ不可能ということです。
*いわゆる「定食」とは、法的規制がないが、動物にとって致死毒となるものを、猫の餌などに混ぜたものです。混ぜるものは、自動車ラジエーター不凍液、人間用鎮痛剤などが代表的。掲示板2ちゃんねる「生き物苦手板」で猫の防御方法として紹介され広がりました。猫以外にも、ネズミやナメクジの駆除にももちろん使えます。
問題のブログ記事を引用します。
2ch生き物苦手板の住民とのオフ会の報告
【弁護士の見解】毒餌は敷地内であっても違法行為。(太字が質問者、赤字が弁護士?と思われる)。
>しかし合法的な薬剤であるわけで、「ただ置いておいただけ」「ナメクジやネズミや蟻の駆除のために置いておいただけ」「捨てただけ」と言い訳されてしまったら、逮捕できないのではないでしょうか?
現場の全体的な状況からして、ただ置くということは通常では考えられない行動ですし、ナメクジやネズミ等の駆除をするにしては、不自然な場所、時期(例えば、そのような害虫が発生しようのない冬場であるとか、)に置いたものである場合は、警察官としても、「この人は嘘をついているな」と認定するということも考えられます。
【弁護士の見解】で回答している弁護士は、「既に殺傷された猫の、既遂の原因となる定食配置」と、「今現在行われている定食の配置」と混同しているようです。しかし犯罪として犯人を逮捕~立件~有罪とするためには、過去の「既に殺傷された猫の原因となる定食配置」の犯罪性を証明しなければなりません。既に猫が死傷していても、今現在配置されている「定食」とはその猫の死傷とは因果関係がないからです。
・猫が死傷した原因物質がその定食に混入されていたものと一致するか、・「定食」を配置した日時、・その状況、・だれが配置したのか(土地所有者とはかぎりません。家人に依頼したのかもしれません)などです。
「定食」は、*の定義にあるとおり、一般に市販されている法的規制のないものを利用しています。ですから作用は緩漫で、急性症状が出ることはまれです。例えばラジエーター不凍液を用いた「埠頭駅定食」の有害成分、エチレングリコールは、よほど大量に摂取しなければ急性症状は出ません。エチレングリコールは、動物の体内で代謝されると、シュウ酸カルシウムが生成されます。シュウ酸カルシウム自体は無害な物質で、人の食べ物にも普通に含まれます。ホウレンソウなどに多く含まれます。ただし摂取量が多いと尿細管間質性腎炎を発症し、重症化し無処置であれば死に至ります。
「埠頭駅定食」で、少量ずつ猫に与えた場合は、徐々にシュウ酸カルシウムが腎臓の糸球体に蓄積され、不可逆的な腎炎を発症し死に至ります。死亡時の所見は、腎障害という病死=自然死になります。なぜならば、死んだ時点では、原因物質のエチレングリコールが既に代謝され、検出されないからです。
つまり「埠頭駅定食」で意図的に猫を死傷させたとしても、「定食」が猫死傷の原因ということの証明は、極めて困難です。さらに「埠頭駅定食」を少量ずつ与え続けた場合は、「定食」の配置から相当の時間が経過しており、過去にさかのぼって・「定食」を配置した時間、回数、・場所、・その状況、・誰がどのように、などを証明することは、ほぼ不可能です。
ましてや私有地内で行われているのです。目撃者がいるのでしょうか。
腎臓障害で不審死した猫の体内から、ラジエーター不凍液に添加されている残っている微量成分を分析し、原因となる不凍液を特定することは不可能ではないでしょう。
「埠頭駅定食」を置いたいたと思われる者が同じ不凍液を購入し、それを自宅に保管していたなどとなれば、有力な状況証拠にはなるでしょう(直接的な証拠にはなりません。偶然同じ不凍液を、クルマの整備のために購入していた可能性もあるわけですから)。しかし微量成分の分析には大変なコストがかかるのです。和歌山ヒ素カレー事件では、ヒ素殺虫剤の微量成分分析だけで億単位のコストがかかったと言われています。懲役1年以下の軽微な犯罪で、警察がそこまでしますか。それ以前に、家宅捜査を裁判所がまず認めません。家宅捜査しなければ、問題の不凍液があるかどうかなどの確認のしようがありません。
「埠頭駅定食」は一例です。インターネットで出回っている、猫駆除用とされている「定食」の添加物の中には、何が猫にとって有害な原因物質が特定できていないものすらあります。そのようなものを用いれば、立件は不可能です。
さらには、獣医師が処方する猫治療のための薬剤もあります。人の鎮痛剤であるアスピリンは、猫の血栓症治療にも用いられます。猫への服用量が多ければ、溶血作用による多臓器出血や、肝臓障害を起こして死にます。野良猫の場合は管理されていません。放し飼い猫は野良猫と区別がつきません。もしかしたら誰かがその猫の病気を直そうと思って、善意で餌に混ぜて与え、量が多すぎた可能性もあります。先に述べた通り、人の心は第三者には証明できないのです。動物愛護管理法44条1項違反は、過失では成立しません。
いわゆる「定食」による猫の殺傷を動物愛護管理法違反で有罪とするには、「犯人の猫を殺傷するという意図」を証明することが極めて困難であると同時に、実際に食べた「定食」と猫の死傷の因果関係を証明するのも、それ以上に困難です。つまり「定食」による猫駆除が実際に行われていたとしても、それを動物愛護管理法44条1項違反で有罪とすることは、ほぼ不可能だと言うことです(犯人自ら犯行を暴露するのは例外とします)。
短い文章であるにもかかわらず、一目で法律的に矛盾だらけな【弁護士の見解】などを公表するより、自らが率先して室内飼い適正飼育をすること。そしてそれを啓蒙する方がよほど動物愛護に適うと、私は思います(続く)。
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