高世仁の「諸悪莫作」日記

2016-06-11 横田家の家族写真公開の背景

 2年前、2014年の3月、横田滋さんと早紀江さんは、孫のウンギョンさん一家モンゴルで感動の初対面を果たした。そのときの写真を、参議院議員有田芳生さんが『週刊文春』誌上で公開したことが一部で激しく非難されている。

 救う会全国協議会ニュース」9日付はこう書いた。

 《本日、6月9日発売の「週刊文春」は「横田滋・早紀江夫妻に孫娘ウンギョンさんが初告白」と題する有田芳生氏の署名記事とグラビアを掲載した。グラビアには「横田夫妻孫娘ウンギョンさんと生後10カ月のひ孫とのモンゴルでの面会写真を決意の初公開」との見出しが立てられ、「今回夫妻は、参議院議員有田芳生氏と相談し、初めて写真を公開することを決意した」と書かれている。

 また、記事で有田氏は「横田夫妻と話し合った結果、ここにモンゴルで撮影された写真と交流の詳細をはじめて明らかにする。」と書いた。

 8日に流れたネットでの予告では有田氏の以下の言葉が紹介されている。「お二人は、このときの写真を引き出しにしまって、ときどき取り出しては楽しかった時間を思い出していたそうです。『機会があれば、この当たり前の喜びをみなさんに知っていただきたい』というお気持ちをもっていたのですが、あれから2年が経過して、日朝交渉が再開する見通しがない現状を踏まえて、『拉致問題がどんな悲しみを生んだか、改めて皆さんに関心を持っていただきたいんです』と、当時の写真を公開することを決めたのです」。

以上を読むと、あたかも横田さんご夫妻が自分たちの所有している写真を有田氏に預けて公開してもらったと多くの読者は判断したはずだ。

 しかし、救う会横田さんご夫妻から確認したところ、午前10時過ぎに西岡会長に「写真は横田家から1枚も何処にも出していません」という連絡を受けました。(略)》

 そして、「救う会全国協議会ニュース」はこれを裏付けるものとして、横田夫妻のコメントを公開した。

「皆様へ

この度の週刊文春に掲載の孫たちとの写真は、横田家から提出してお願いをしたものではありません。

 有田氏が持参なさり、「掲載する写真はこれです」と出されたものです。

 私達は、孫との対面時、孫から写真を外に出さないでほしいと約束していましたので、横田家からは、何処へも、一枚も出しておりませんし、今後も出しませんので、よろしく御理解頂きます様お願い致します。

 全て、掲載や、文章、等全て、私共から依頼した事でなく、有田氏から寄せられた事をご理解頂きます様お願い致します。

  6月8日 横田滋 早紀江」

http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_5423.html


 翌10日、「救う会」は、横田夫妻からさらなる「コメント」を得てこれを「全国協議会ニュース」に掲載した。

《孫との面会写真公開に対する横田滋、早紀江さんコメント》

 「この度の「週刊文春」に掲載されました孫ウンギョン達との対面の写真は、横田家から提出してお願いしたものではありません。

 有田先生ご自身が持参なさり、「掲載する写真はこれです」と出されたものです。

 私達は、孫との対面時、孫から「出さないでほしい」と約束していましたので、横田家からは何処へも、一枚も出しておりません。

 有田先生のお話では、あちらの方は了解していますとの事でしたので、当時から、悲劇の中にもこの様な嬉しい日もある事を支援して下さった方々に公表したいと思っていましたので、「写真を掲載して頂く事は異存ありません」とお伝えしました。

 それは被害者家族の誰にも孫があり、この様に当り前の喜びを早く味わって頂きたい、それには、この掲載によって国民の皆様に再度拉致問題の深刻さを思い起こして頂きたい、孫と会えて良かったで終わる問題でなく、多くの罪無く囚われている子供達を一刻も早く祖国に全員とり戻す事を真剣に政府にお願いし戦って頂きたいと願うのみです。

 昨年9月の会見などでも繰り返しお話ししましたが、もう一度ここで誤解なきようにお伝えしたいことがあります。

 北朝鮮からウンギョンさんを日本に呼ぶという話が繰り返し出ていますが、私たちにとってはびっくりするだけです。もしそう言われたとしても、そういう事は致しません。

 私達が立ち上がったのは、子供達が国家犯罪で連れて行かれ、大事な子供達の命が今なおどこにも見えず、偽遺骨が送られてきたり、いいかげんなカルテをもらったりしたことを受けて、多くの国民の方に助けて頂いて、めぐみ達は生きている、すべての被害者を救い出したいと思っているからです。

 これは、繰り返し申し上げていることであり、今回、孫の写真を独自ルートで公開された有田先生と私達の考えは違っているという事をはっきりさせて頂きたいと思います。

      2016年6月10日   横田滋、早紀江」


 救う会全国協議会」はこれをもとに、有田さんを激しく非難した。

 「有田議員は当初、公開した写真は横田ご夫妻が所有しているものだと虚偽をマスコミなどに伝えていた。そのことを救う会は確認している。虚偽を伝えることは拉致問題解決障害になると言わざるを得ない。有田議員に猛省を求めたい。」

 その写真は北朝鮮が有田さんに渡したものだとして、その意図を

 拉致被害者を返さないまま、それ以外の残留日本人や横田さんご夫妻と孫らとの面会などで日本世論を拡散させて、めぐみさんらは死んだという「調査結果」なるものを出そうとする謀略に加担するものではないかと、疑っている」としている。

http://www.sukuukai.jp/mailnews/item_5425.html

 これを皮切りに、「有田氏は北朝鮮の謀略の手先となって、運動を攪乱しようとしている」、「横田夫妻を騙して写真を公開し選挙に利用している」という激しいバッシングがネット上で繰り広げられている。

 私は、ここにいたる事情を多少なりとも知る立場にあった者として、勝手ながら少し立ち入って背景を記しておきたい。

 まず、週刊誌に公開された6枚の写真だが、これらの写真はウンギョンさんの夫が撮影したもので日本に複数セット存在していた。今回有田さんが公開したのは横田夫妻が持っているものと同一の写真である。

 「横田家からは、何処へも、一枚も出しておりません」という夫妻のコメントは、公開された写真は、横田さん宅にあるものではなく、有田さんが持っている同じ写真だという意味にすぎない。

 また、横田夫妻はすでに5月初めの時点で写真公開を了解しており、公開する写真も有田さんと一緒に選んでいる。『週刊文春』に掲載された記事の文章は、あらかじめ横田夫妻に提示され、具体的な表現のチェックもしていただいたうえで掲載にいたっている。

 つまり、写真を公開すること、どの写真を公開するか、掲載する記事の内容、これらすべてに、横田夫妻は完全に同意していた。

 以上が基本的な事実である。

 参考までに上に引用した横田夫妻の二つのコメントより以前に横田夫妻が出したコメント(最初のコメント)を紹介しておくので、さきの二つと比べていただきたい。

f:id:takase22:20160611233923j:image:w360:right

「皆様へ

 一昨年3月にモンゴルウランバートルで孫娘のウンギョン一家と対面した時のことは、私たちにとっては、とても嬉しい時間でしたが、もう2年以上の歳月が流れました。

 その時の喜びを、ご支援下さった方々にも知って頂きたいと思っておりましたところ、詳細は分りませんがウンギョン家族との面会のよろこびの写真を、公表する事に孫も同意してくれた様です。

 又、北朝鮮の再調査については報告もなく、これからどうなるのかも分からないと言う状況が続いています。大変、不安な気持ちです。

 私達は健康もすぐれず、今回の事につきましては、会見や個別の取材に応じる事が出来ません事をご理解下さればと存じます。

 私共が願います事は、唯一つ、一刻も早く、被害者の全部が家族と共に祖国帰国出来ます様、強く政府にお願い致したく思います。

      28年6月 横田滋、早紀江」

 なぜ横田夫妻のコメントが次第に変化していくのかについては憶測するしかないので、ここでは触れない。

 窮地におかれているであろう横田夫妻、不本意なバッシングの渦中にある有田芳生さん、いずれもいま発言するのがためらわれる状況にあると勝手に忖度し、誰にも相談しないまま、これを書いている。

 では、有田さんは、なぜ写真公開という結果的にバッシングを受ける行為に打って出たのか。

(つづく)