安倍晋三首相が7月10日投開票の参院選に向け、自身の経済政策「アベノミクス」について「前進か、後退か」という訴えを過熱させている。景気回復が道半ばだとしてアベノミクスの継続を国政選挙の争点に掲げるスタイルは、2012年の第2次政権発足後、これで3回連続だ。消費税増税の再延期を表明し、14年の衆院解散時の「必ず(増税できる)経済環境をつくりだす」との発言との整合性も問われる今回の選挙戦。首相の手法に「是非を何度問うのか」と疑問の声も上がる。
「今の経済政策を前に進め、日本を成長させるのか。あるいは(民主党政権時代の)4年前に逆戻りして暗い時代に戻るのか」。首相は10日の奈良県内での街頭演説で、有効求人倍率が全都道府県で1倍を超えたことなどを挙げて成果を強調。「アベノミクスは道半ばだ。だからこそギアをさらにアップする必要がある」と述べて、自民党候補への支持を訴えた。
首相の念頭にあるのは過去2回の「成功体験」だ。13年7月の前回参院選では、公示前の記者会見で異次元の金融緩和など「3本の矢」を掲げ「この道しかない」と主張。選挙期間中は「確実に経済は良くなっている。今、この歩みを止めてはいけない」と繰り返した。自民党は改選議席の半数を超える65議席を獲得して圧勝。衆参両院で多数派が異なる「ねじれ」の状況を解消した。
14年11月に衆院解散を表明した会見では「アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか」と訴えた。この時は消費税率の10%への引き上げ時期を17年4月まで1年半延期するとも表明。引き上げまでに増税に耐えられる経済をつくると強調し「再び(増税を)延期することはない」と断言した。この衆院選で自民党は過半数を大きく上回る291議席を獲得した。
今回の参院選に際し、首相は「世界経済のリスク」への対応を挙げ、国内の経済状況ではない理由で「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」として消費税増税の2年半の再延期を表明した。だが、14年に首相自身が増税できる経済環境をつくると約束しながら、今回の参院選で「道半ば」だとして継続か否かを問うことは、アベノミクスへの信頼を揺るがす。野党は「約束したことができなかったのに『新しい判断』というのは言葉のごまかしだ」(民進党の岡田克也代表)と批判を強める。
首相周辺は「民進党や共産党に経済を任せていいのか。前進させるか否かに大義がある」と話す。しかし「はっきりとした景気回復の実感がない。それでも是非を問う手法がいつまで通用するのか」(自民党関係者)との懸念も与党内に広がり始めている。
アベノミクスの是非を争点にした3度目の選挙。野党幹部はこう指摘する。「アベノミクスは失敗していないと強弁するが、いつまで『道半ば』が続くのか」(東京報道 徳永仁)