航空機を使って台風を直接観測 30年ぶりに実施へ

航空機を使って台風を直接観測 30年ぶりに実施へ
k10010553341_201606111953_201606111954.mp4
航空機を使って台風を直接観測し、将来予想される「スーパー台風」の接近にも備えようという取り組みが来年から始まることになりました。日本の周辺でこうした観測が本格的に行われるのはおよそ30年ぶりで、観測を行う研究グループでは、謎が多い台風の発達のメカニズムを解明して予報の精度の向上につなげたいとしています。
観測を行うのは名古屋大学と琉球大学、それに気象庁気象研究所の研究グループです。

現在、海上にある台風の観測は主に気象衛星のデータを基に、台風の雲の大きさや形のパターンを割り出して風速や気圧を推定し、進路や強さを予報しています。

進路の予報の精度は年々向上していますが、3日後の予測ではいまだに200キロ前後と誤差があるほか、強さについては改善が進まず、特に勢力の強い台風は正確な予測ができていないという指摘もあります。

そこで、研究グループは国の研究の一環として、観測用に改良した民間航空機で台風に近づき、「ドロップゾンデ」と呼ばれる観測機器を台風に投下して観測を行うことになりました。

ゾンデは台風を通過する間に、それぞれの高度での風速や風向き、それに温度や湿度といったデータを観測する仕組みです。直接、台風を観測することで、進路や、強さの予報の精度の向上や、謎が多い台風の発達のメカニズムの解明につながることが期待されます。

航空機を使った台風の観測は、アメリカと台湾では行われていますが、日本の周辺ではアメリカ軍による継続的な観測が昭和62年に終了したあとは、8年前に研究として一時、行われただけです。

今回の観測は来年から平成32年にかけて行われる予定で、研究グループではその後も継続的に観測を行って、将来、予想される風速がおよそ60メートル以上と、猛烈な勢力の「スーパー台風」の接近にも備えたいとしています。

グループの代表で名古屋大学の坪木和久教授は「スーパー台風など勢力の強い台風が接近する場合、数十万人という大規模な避難の必要があるが、そのためには精度の高い予報が不可欠だ。今回の観測を通じて防災にも貢献していきたい」と話しています。

台風の強さ いかに解析するか課題

台風の予報の精度は進路については改善が進んでいますが、勢力に関しては、発達した台風の強さをいかに正確に解析するかが大きな課題となっています。

気象庁によりますと、台風の予報は24時間後の中心位置の誤差は30年ほど前は200キロ前後ありましたが、ここ数年は100キロ前後と半分程度にまで改善されました。ただ、3日後の72時間後の誤差は200キロ前後あり、予報を基にどこに上陸するかを判断して避難につなげるには難しい状況です。

一方、台風の強さの予測については、この20年ほど、あまり改善が進んでいません。気象庁は、海上にある台風の観測は主に気象衛星「ひまわり」が撮影した画像から雲の形などを分析して強さを推定しますが、特に発達した台風の勢力は数も少ないため、正確な予測ができていないという指摘もあります。

台風のメカニズムに詳しい名古屋大学の坪木和久教授によりますと、北西太平洋上の台風のうち、気象庁が風速54メートル以上の「猛烈な台風」と推定した数は、ここ10年ほどは年間に1つ前後ですが、アメリカのJTWC=米軍合同台風警報センターでは年間6つから7つと、大きな違いが出ています。

坪木教授によりますと、1950年代や60年代には、ほとんど違いがなかったものの、およそ30年前に日本の周辺で航空機による観測が行われなくなってから、2つの機関の解析の違いが大きくなっているということです。

坪木教授は「衛星を使って同じ台風を解析している2つの機関で、強さの推定にこれほど開きがあるのは大きな問題だ。実際にはどうなのか、直接、航空機で観測をして検証する必要がある」と話しています。

アメリカや台湾での航空機観測は

アメリカではNOAA=アメリカ海洋大気局と空軍が、大西洋や北太平洋などでハリケーンを航空機を使って継続的に観測しています。「ドロップゾンデ」と呼ばれる観測機器を投下して温度や湿度などのデータを取るほか、レーダーで雲の構造を捉えて予測のシミュレーションに取り込み、進路や強さの予測の改善につなげています。彼らは「ハリケーンハンター」とも呼ばれ、「台風の目」にも直接突入しますが、最近はNASA=アメリカ航空宇宙局が無人戦闘機「グローバルホーク」を観測にも使っています。

また、台湾でも気象機関と大学が航空機による観測を行っていて、台湾に近づくと予想される台風の周囲を飛んでデータを取り、進路の予測に役立てています。今回の観測では台湾と同様、特に勢力の強い台風を選んで沖縄や鹿児島などから台風の周囲を飛行し、「ドロップゾンデ」と呼ばれる観測機器を飛行機から投下します。ドロップゾンデは下降しながら風速や風向き、それに温度や湿度などのデータを取得し航空機に送ります。台風の中心に近い雲のデータなどから、中心の気圧や風速をより正確に推定することができます。

今回の研究では台湾とも協力してデータの交換などを行う計画で、研究チームでは将来的には東アジアで国際的な台風観測のネットワークを作ることを目指しています。

台風 ことしは1つも発生せず

一方、ことしに入って台風はまだ1つも発生しておおらず、統計を取り始めたこの60年余りで過去4番目の遅さとなっています。

気象庁によりますと、去年は1月から12月まで、毎月台風が発生しましたが、ことしは11日までに台風は1つも発生していません。現在は、インド洋の海水温が平年より高く、この付近で上昇気流が発生し、台風が多く発生するフィリピン付近で下降気流となっているため、台風につながる積乱雲が発生しにくい状況が続いているということです。

インド洋の海水温が平年より高い要因は、はっきりしないということですが、南米ペルー沖の海水温が高くなる「エルニーニョ現象」が終息する時期に、インド洋で海水温が高くなる傾向がみられるということです。気象庁によりますと、おととし夏から続いていたエルニーニョ現象は、ことしの春に終わったとみられ、この条件に当てはまります。

過去に台風の発生が最も遅かった平成10年もエルニーニョ現象が終息した年でこのとき、台風1号が発生したのは7月9日でした。ただ、この年はその後、台風が相次いで発生し、9月には5つ発生したほか、上陸した台風も年間で4つと平年より多くなりました。特に、台風8号が和歌山県に上陸した翌日に再び和歌山県に上陸した台風7号は、強い勢力で移動速度も速かったため、雨や風が強まり、三重県伊賀市では最大瞬間風速56.4メートルを観測しました。

名古屋大学の坪木和久教授によりますと、現在、太平洋の海水温は平年より高く、今後、さらに台風の発生が遅くなると、海の深いところまで水温が上がるため、いったん台風が発生すると発達し、勢力をあまり弱めずに日本に接近する可能性もあるということです。

気象庁は「現在、発生していないといっても今後はたくさん発生する可能性がある。今後の台風情報には注意してほしい」と話しています。

この記事の関連ワード