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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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閑話1 ある家政婦の1日

次章……の前に、ちょっと思いついたので書いてみました。
ちょっと一休みということで、閑話です、どうぞ。

あ、ちなみに閑話2とか3があるかは未定です。
 

 朝、まだ日も昇らない時間。
 私は、誰に起こされるでもなく、目を覚ます。

 寝起きはいい方だ。寝坊したり、二度寝したりすることはないし、したいとも思わない。
 これはもう習慣みたいなもので、この時間にさっと起きて仕事を始めることに、特につらさなんかを感じることはないのだ。

 といっても、前の職場では必須と言ってもいい技能(?)だったから、別にこれを自慢するつもりは無いんだけど。

 このくらいは当然なのだ。お客様――今は『ご主人様』だけど――に気持ちよく過ごしてもらうためには。

 ベッドから起き上がり、『洗面所』にいって冷水で顔を洗う。
 まだ若干ながら残っていた眠気が完全になくなり、ぱっちりと目が開いた。

 その後、部屋に戻ってクローゼットを開け、中から仕事着を取り出して着替える。
 前の職場から愛用している、簡素ながらもフリルのついたエプロンがかわいい給仕服を。

 そして、着替えが終わると今度は……『ご主人様』から貸し出されている仕事道具を戸棚から取り出して装着。腕に巻いたり、腰に取り付けたり。

 最後に、再度『洗面所』に行き、鏡の前で寝癖その他を直し、身だしなみを整えて……完成。

「よし、準備万端! 今日もお仕事がんばろーっ!」

 私……ターニャ・バースの一日は、こんな感じで始まる。

 ☆☆☆

 数ヶ月前まで、私は普通の宿屋の娘だった。父の経営する宿屋で働いていた。

 しかし、ちょっとした事情でその宿屋を閉めることになった。
 本当なら、その後私は父と一緒に実家……この国の王都『ネフリム』に戻るはずだったんだけど、知り合いの冒険者のミナトさんが持ってきてくれた話が縁で、今の職場に来たわけなのだ。

 そしてそれと同時に、私は……『普通』という生き方とほぼ完全に決別することとなった。
 そのぐらいとんでもない場所、というか環境なのだ。今の職場……『オルトヘイム号』は。

 いや、別に後悔してるわけじゃないよ? むしろ、ここに来てホントによかったと思ってる。

 王都に行かなくてよかっただけでなく、今までの暮らしとは比べ物にならないくらいに便利で、時に贅沢でさえある生活が出来てるから。それこそ、貴族様でもこんな生活できる人なんていないだろうな、っていうくらいにだ。

 何せ、この船……どこもかしこもマジックアイテムだらけなのだ。
 いや、大げさとかじゃなく、ホントに。マジで。ほぼどこを見ても、視界の中に1つか2つはマジックアイテムが入ってくる。

 例えばさっき……私が起床してから仕事に取り掛かるまでの間に触れたもので言うと、

 まず、ベッドで使っていた布団がすでにマジックアイテムだ。
 汗を吸っても匂わず、しわになりにくく、殺菌効果までついてるそうだ。決して派手では無いし、生活感溢れる感じではあるけど、少なくともいち使用人に与えるものじゃない。

 次に、『洗面所』。これも当然のごとくマジックアイテム。
 つまみのような部分をひねるだけで、そのまま飲めるくらいにキレイな水が出てくる。しかも温度は調節可能で、冷水からお湯まで調節は自在。しかも、使用制限も特にない。

 それまでは、水が欲しくなったらその都度井戸水を汲んでくるのが当たり前の生活を送っていた私は、最初にコレを教えられた時唖然としたものだ。コレも明らかに、いち使用人の部屋にとりつけたりするものじゃない。

 他にも、昼だろうが夜だろうが好きな時に使えて部屋全体を明るく照らせる『電灯デントウ』や、飲み水や食べ物を冷やして保存しておける『冷蔵庫』など……何度も言うが絶対にいち使用人の部屋に置くようなものじゃないマジックアイテムがわんさかだ。
 ……正直、ここに来た初日は緊張して眠れなかったのを覚えている。

 だって、仮に私自身が奴隷として身売りしたとしても、1つだって買えるかどうかわからないような高級品たちに囲まれて暮らしているのだから。壊しちゃったらどうしようとか、そんな風に考えて萎縮してしまった私は何も間違ってないはず。

 その後、それなりの時間をかけてようやく環境に慣れることができるまで、まあ色々あったんだけど……とりあえず省いて、仕事を始めようと思う。

 
 今、私の職場は普通じゃないって感じのことを言ったばかりだけど、やること……仕事の内容そのものはそこまで特別じゃない。私がまだ『宿屋の娘』だった頃と、ほとんど同じと言っていい。

 お客さん――もとい、ご主人様達が起きてくる前に、掃除をすませる。

 個室はまだミナトさん達が寝ているので、掃除は後――昼の間にする。朝のこの時間は、それ以外のスペースの掃除だ。廊下とか、リビングとか。

 この船、『くうかんわいきょく』とかいう魔法技術が使われているせいでものすごく広いんだけど、その掃除の際に使う道具ですらマジックアイテムなので、その辺はカバーされている。余裕を持って素早く作業を終えられるので、時間が足りないなんてことにもならない。

 前の職場で、いかに効率よく広い範囲、多くの部屋の掃除をこなすかっていうノウハウを学べていたことも手伝って、この作業はあまり負担に感じてないし。

 一時間半ほどをかけて、船の中の3分の1くらいを掃除し終えた後は、朝食の準備にかかる。

 厨房に行くと、そこにはすでに、私と同じで住み込みでこの船に雇われている料理人であり、料理の献立はもちろん食材の買出しまで、食事関連の全てを負かされている、料理長のシェーンさんがいた。凄まじい速さで包丁を振るい、野菜を切り刻んでるところだった。

 私と同時期に雇われたこの人も、ミナトさん達の個人的な知り合いらしい。
 何でも、海賊船だか幽霊船の騒動を通じて知り合ったとか何とか……うん、よくわかんない。

「お、来たかターニャ」

「おはよう、シェーンさん。掃除終わったから来たんだけど……何手伝う?」

「そうだな……ウインナーの用意を頼む。私はスープを作る」

「了解~」

 よくわかんないけど、仕事に支障は無いので気にしないことにしてる。
 マジックアイテムのこともあるしこの船ではこのくらい図太くないとやっていけない部分が多々あるのです。はい。

 料理長の指示に従って朝食を作り、それをお皿に、あるいはボウルに盛り付けていく。そしてそれらを食堂に運んで、大きなテーブルに並べる。

 全部並べ終えると、そこには……ゆうに20人分以上ありそうな量の食事が。

 この船に乗っているのは、私達や、最近入った新入りさん達を含めても12人と1羽である。
 『リュドネラ』さんっていう、食べたり飲んだりしない人(?)もいるんだけど、それはおいといて……普通に考えれば、どう見ても作りすぎだろう。

 しかも、メニューがまた何と言うか……パンやスクランブルエッグとか、ウインナーとか、野菜メインのスープとか、このへんはまだわかるんだけど……ハンバーグとか魚介系のフライとか、朝食べるにはいささかヘビーに思えるものが混じっている。

 人によっては、朝からコレは見ただけで食欲が失せるかもしれない、って感じの光景。

 しかしコレ、適量である。この船、リーダーを筆頭に、何人か結構な健啖家がいるので。

 その証拠に……全員の朝食が終わる頃には、用意した食事は、パンの一欠片、スープやジュースの一滴も残さず全て平らげられてしまっていた。お粗末さまでした。

 ☆☆☆

 朝食の後は、食器その他の後片付け。
 それも終わると、ちょっと休憩を挟んで……今度は船の中で、朝掃除できなかった部分の掃除に移る。個室とか、そのへんを。

 もっとも、個室の掃除は全員分やるわけじゃなく……中には、『掃除は自分でやるから部屋には入らないで』って言って断ってる人もいる。ザリーさんとか、ナナさんがそんな感じだ。

 ザリーさんは副業が情報屋だし、ナナさんは一応商会に所属してる身だし、色々事情というか、気を使わなきゃいけない部分もあるんだろう。なので、そういう希望には応じている。

 そうでない人……ミナトさんとかの場合は、ベッドメイクなんかも含めて私に一任してくれているので、期待に応えるために誠心誠意ご奉仕させてもらっております。

 ……ただ、人によっては、部屋に高価なマジックアイテムとかが置いてあることもあって、そのへん気を使うんだけどね。触ったり、壊さないように。

 それとこの船には……個人的に断ってる個室とはまた別に、立ち入りが禁止されているせいで入れず、掃除できない区域も存在する。

 その代表格が、ミナトさんやクローナさん、あと新入りのネリドラさんあたりが利用している『らぼ』とかいう部屋なんだけど……冗談抜きに危険なものがわんさかあり、知識がない人が入ると命の保証はできないらしい。なので、掃除は結構とのこと。
 その他にも、一部の保管庫とか武器庫なんかはそんな感じだ。まあ、それは仕方ない。

 そんな感じなので、お昼前くらいには掃除もひと段落つく。

 ☆☆☆

「ふぃー、いい仕事したなー……って、わぉ」

「あら、ターニャ、休憩?」

 掃除を一通り終わらせた私は、休憩ということでリビングに向かった。

 するとそこには……先客が。
 いやまあ、先客も何も、この船の主であるミナトさんと、すっかりその『正妻』として知られているお姉さまことエルクさんなんだけど。

 リビングのソファに腰掛けるエルクさん。その膝の上に頭を乗せて、ミナトさんが気持ちよさそうに眠っている。
 帰ってきてすぐコレかあ……相変わらず仲いーなあ、この2人。

「……何よ? にやにやしちゃって」

「別にぃ~? ただ、ミナトさんはやっぱり、お嫁さんの膝が一番落ち着くんだろうなあ、って」

「みたいね。全くもう……おかげで私の膝は連日コイツの寝具と化してるわ。ホントにもう、気持ちよさそうに眠るんだから、起こすのも忍びないし……」

「ありゃま」

 そう返しながら……私はお姉さま(エルクさん)の反応に、若干の寂しさを感じていた。

 前のお姉さまなら、私がこうしてミナトさんとのイチャイチャ関連でからかったりすると、顔を真っ赤にしてあたふたしたりといった、かわいい反応を見せてくれたはずだった。
 しかし、今は……通称『正妻の余裕』なるものを会得したらしく、コレだ。

 人前でごく自然に、あさましさもあざとさもなくミナトさんとイチャつく。
 それをこちらがからかっても、大概さらりと流される。むしろ、浮かれ気味のシェリーさんやナナさん、ネリドラさんといった、候補含めたミナトさんの愛人をきちっと締める始末だ。

 ……愛人、といえば……ミナトさんもミナトさんだ。最初に会ったときから、随分と印象が変わったような気がするなあ。悪い意味じゃないけど。

 最初は、優しくてお人よしな、ちょっとナヨナヨした人、って感じだった。強いのは知ってたし、優しくて真面目な所は好印象だったけど、ちょっと頼りないかな、とも思えた。
 ぶっちゃけ、私がその頃考えていた『男らしさ』とはちょっと遠い印象の人だったし。

 それが今や……もう何から説明したらいいやら、って感じのお人だ。

 Sランクの冒険者であり、こんな否常識(・・・)極まりない船のオーナーであり、超強力なマジックアイテムをいくつも持ってて、しかも自分で作ることさえ出来て、ネスティアやジャスニアの中枢に影響力を持ってて、おまけに愛人までいるときたもんだ。

 ちょっと前まで、将来有望、くらいにしか考えてなかったんだけど……とんだ勘違いだった。この人間違いなく、歴史に名前とか残しちゃうレベルのすごい人だよ……。
 そしてそのすごい人に雇われちゃってるよ……私。いやあ、人生わかんないもんだね。

「こうして見てると、普通のかわいいお兄さんなのになぁ……」

「それには同感。こうして大人しく寝てる分には無害なのよね」

 同じソファの空いたスペースに座り、お茶菓子をつまみながら……すやすやと眠っているミナトさんの顔を、お姉さまと一緒に覗き込んでいる。

 普通に考えて、雇い主と同じソファに座って休みながらお茶菓子食べるとか、妾か何かでもない限り無礼すぎるわけだけど……この優しいご主人様はそんなこと気にしないのだ。
 むしろ、どんどんやれ、くらいの受け止め方をしてくれる。知らない仲じゃないんだし、そのくらい気にしなさんな、と。

 この人が望むのは、雇用者と被用者の関係じゃなく……あくまで、仲のいい友達同士の、気疲れしない関係なのだ。だからこそ……雇ってるはずの私やシェーンさんに対して、『いつも悪いね~。あ、何か手伝えることとかある?』なんていうセリフが出てくるんだろう。

 ……優しいのは結構だけど、もうちょっと威厳ってものにも気を使ってほしいなあ、なんてその時思ってしまったのは内緒だ。

「さて……そんじゃそろそろ、お昼ご飯の用意始めよっかな。例によってこの人がいっぱい食べるだろうし」

「そうしてちょうだい。それまでこの大っきな子供は私が面倒見とくから」

「了解、お姉さま。ああそうだ、デザートにこないだ買ったアップルパイ出すから、楽しみにしといて、ってミナトさん起きたら伝え……」

 
「え、アップルパイ!? どこ!?」

 
「「子供か!」」

 威厳とはまるで無縁な感じで飛び起きたミナトさん(甘党)に対して、私とお姉さまの声がそろった。

「……え? 何?」

 そんな私達2人分の視線を受けつつ、ミナトさんは寝ている時と変わらずかわいい顔できょとんとしているのだった。

 ☆☆☆

 時刻は……午後3時ごろ。
 昼ごはんと午後の仕事が済むと、私は少しの自由時間に入っていた。

 普段はこういう時間も、呼び出しとか急な仕事に備えて部屋で待機してたりするんだけど、事前に一言断れば、こうして外出も認められている。いやーホント恵まれてるね、今の職場。

 しかも、その際は護身用って言ってマジックアイテムまで新たに貸し出してくれると来た……持ち逃げされるとか考えてないのかな?
 まあ、信頼してくれてるのは嬉しいから、それを裏切るつもりは微塵もないけど。

 ……ただ、最初にそれを貸し出されたとき、お姉さまに鬼気迫る表情で『めったなことで使うんじゃないわよ』といわれたのは印象的だった。
 実際に危ない目に会った時とかは使っていいらしいけど……遊びで使うな、って。

 まあ……わからなくもない。お姉さまの言いたいことも。

 さっき言い忘れたけど、ミナトさんは冒険者であると同時に、研究者・技術者でもある。
 船に搭載されてる色んなマジックアイテム……それらの大半を作っているのは、何を隠そう、オーナーであるミナトさん本人だ。あんなとんでもない性能のアイテムを簡単に作り出せるほどに、そっちの方向でもあの人は規格外なのだ。

 しかし……そっち方面で、ミナトさんは自重というものを知らない。

 オルトヘイム号が何よりの例だろう。高価なマジックアイテムを惜しみなく、というか積極的過ぎるほどに組み込んである。生活面から武装面まで、隙間なく。

 まあ……武装面のマジックアイテムの方は、私はあんまり見たことないんだけど。
 てか、見たくない。ミナトさんが全力で作った武装が解き放たれた時、何が起こるかなんて。

 この思いには、以前出かけた時のある出来事、というか経験が関係してたりする。

 その日私は、今日と同じように午後の外出……ショッピングを楽しんでいた。丁度暇だから、って一緒についてきた、シェリーさんも一緒に。

 その時、チンピラっぽい連中に絡まれて裏路地に連れて行かれたんだけど……シェリーさんがいるし、特に心細さとかは感じていなかった。だってAAAの冒険者だもん。
 というか、そういう状況になるのも初めてじゃなかったしね。シェリーさんと出かけると……わざとこの人裏路地に入って、喧嘩売られるの待ってたりするから。やれやれ。

 今回もシェリーさんが暴れて終わりかな、って思ってたんだけど……その日はふと、久々に湧き上がってきた私のイタズラ心がざわついたのだ。

 『これって、ミナトさんに借りたマジックアイテムを試す機会なんじゃ?』と。

 幸いにも、その時襲ってきてたのは、お尋ね者をも含むならず者集団であり、多少やりすぎた所でお咎めが来たりはしない。不謹慎だけど、ためし撃ちには最適の相手だ。

 それを話したら、シェリーさんも面白そうだって言ってくれたので、すでに半分ほど減っているならず者集団に向けて、私は……そのマジックアイテムを使った。……使ってしまった。

 その時の教訓……安易に危険物を使うのはやめましょう。
 さもないと……地獄の門が開きます。いろんな意味で。

「……ぶるぶる……あぅー、思い出しちゃったよ……」

 あの時起こった惨劇を必死で頭から振り払う。

 しかもアレ、作動すると『私に何かあった』っていう情報がミナトさんにまで行くようになってたっぽくて……騒ぎを起こしたことを警備隊のスウラさんに注意されてた所に、完全武装のミナトさんとお姉さまが乱入してきたもんだから余計ややこしいことになった。

 その後、お姉さまにシェリーさんともどもみっちり叱られた。
 さらにその後、『何てモンを渡してんだあんたは!』ってミナトさんも怒られてた。

 ミナトさん曰く、『ただのシールド発生式の防御ユニット6つと攻撃用の射撃ユニット8つ展開するだけの自律応戦兵装じゃない。一応手加減して制圧する時用のショックレーザーしか使ってないし、ジェノサイドモードだって発動してないから死人も出てないのに何でそんな……』とここまで言った所でお姉さまのミスリル製ハリセンの餌食になってたっけ。

 うん、言ってることは半分もわかんなかったけど、お姉さまが正しいです。

 ……行き過ぎた好奇心は身を滅ぼす、っていう格言の大切さを身をもって実感したなあ。

 ☆☆☆

 船に戻り、部屋に荷物を置いて……夕食の支度を始めとした、残りのお仕事を片付ける。

 夕食をデザートまで含めて堪能してもらって、その後片付けを済ませたら、今日の業務は終了。
 あとは……寝るまでの間に、ちょっとした用事とかで呼び出されたりすることはあるけど、基本的に自由時間だ。割り当てられた……あの、便利アイテム満載の部屋に戻り、ゆっくり休む。

 その途中……窓の外に見えた甲板に、ミナトさんとお姉さまを見つけた。

 あらら、いつものことながらお熱いなあ、2人とも……星を眺めながら愛を語り合……

 ……ってると思ったら、違ったみたい。船のだいぶ遠くの方で、大きな火柱が立ち上がった。
 ……なんだ、ただの新武器の火力実験か。あ、またお姉さまのハリセンが閃いた。

 あんな感じの凹凸夫婦だけど、あのやり取りも、熟年夫婦ばりにお互いを理解しあってて、それゆえに遠慮がない、っていう関係の上に成り立ってるんだよなあ……。

 普段の仲のいい2人を見てるとそれがよくわかるし、2ヶ月以上もの間、ミナトさんが任務でするにしていたというのに、2人の仲は全く変わってないときている。ホント、すごい夫婦だ。むしろ……熟年夫婦だとしても、そんな領域に至るペアはそう多くないんじゃないだろうか。

 そんな、傍から見れば完全に入り込む隙なんて無さそうな2人だけど……それにも構わず、ミナトさんにアプローチをかけ続けるたくましい女性が、この船には何人も存在する。

 今正に、後ろからミナトさんに抱きついたシェリーさんみたいに。

 それに、ここにはいないけど、ナナさんとネリドラさんもそうだし……他にもはっきり言ってはいないけど、まだいそうな気がする。船の内外に。

 ミナトさん、モテるからなあ……完全に草食系っていうか、自分から女の子に全く手を出そうとしないのに、いつの間にかあちこちの女の子に好かれている。

 そして、その理由も様々だ。強いから、優しいから、頭がいいから、顔がかわいいから、命を救われたから……etc。

 そのほとんどは一時の感情か、打算ありの女の人なんだけど……中には本気の人もいる。
 最近じゃ、なんかどこかの国の中枢の要人に好かれた、なんて話も聞くんだけど……ホント?

 シェリーさんに抱きつかれて慌てているミナトさんを見て笑いながら……ふと、考える。

 もし、あそこにいるのが……あんな風にミナトさんに抱きついているのが、私だったら、と。

 将来有望な年若い主人と、いち使用人に過ぎない小娘との禁断の愛……正妻の目を盗んで愛を育む2人の背徳に満ちた茨の道……なんてアホな妄想はとりあえず取っ払って。

 ぶっちゃけ、シェリーさんやナナさん、ネリドラさんみたいに愛人になりたいとかそういうことを思うことは無いんだけど……女の子としては、強くて優しくて頭もいい、ミナトさんみたいな人は……嫌いじゃないし、むしろ好ましいと思う。

 どっちかといえばもちろん好きだし、信頼も出来る。
 けど……恋人とか愛人になりたいっていう『好き』じゃない気がする。少なくとも、今は。

 こんな感じで、ホームメイドとしてミナトさん達に雇われ、そのお世話をしながら、たまに一緒になってバカ話をしたりする感じの関係で、今は十分に満足できている。それを捨ててまで、また別な関係を求めたいと思わない。

 もっとも……ミナトさんの方から迫られたりすれば、また別かもしれないけど。
 求められたら応じちゃうかもしれない、って位には好きだし……。この前、ミナトさんのお母さん……リリンさんにそんな感じの質問されて慌てたし。

 けど、多分それもない。ミナトさんの性格を考えれば。

 けど……もし今後、それが変わったら?

 今はまだ想像もできないけど、もし何かのきっかけで、私もミナトさんを本気で好きになって……メイドと主人以上の関係になりたい、って思うようになったら……その時は……

 ……考えても仕方ないか。今日はもう寝ようっと。

 明日も頑張らなきゃいけないからねー。メイドとして、ご主人様の快適な生活のために。

 
 
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