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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第199話 報酬と懸念

 

 明けて翌日。
 不治の病に別れを告げた3人……リンスレット王女、エルビス王子、そしてルビス王女は、昨日一日、病から開放された晴れやかな気持ちのまま、家族や信頼できる部下・仲間なんかと一緒にすごして存分にゆっくりと休めたようだった。

 今日、今、こうして実際に会ってみると、それがよくわかる気がする。
 3人共、昨日まで病人だったってことが嘘みたいに活力に溢れているからだ。見るからに。

 ……と、いうわけで今僕は……元気になった王族の皆様方と、ラグナドラスのオフィスの一室……会議室を使わせてもらって、こうして面談しているわけである。

 急遽決まったこの会議……決まり方が急遽『すぎる』ため、双方ろくに準備なんてもんはしていない。しかし、それは互いにわかっていたことだ。
 筆記用具など必要最低限のものをさっとそろえただけで、席についていた。

 僕らサイドからは、僕とナナ、義姉さんが出席。このラグナドラスに来たメンバーである。

 ロの字型に並んだ机の対面位置には、メルディアナ王女、リンスレット王女、エルビス王子、ルビス王女の4人が並んで座っている。それ以外……例えば、3ヶ月ほど前に『オルトヘイム号』で会議をした時に一緒にいた、助言役と思しき立場の人は誰もいない。
 あの時はたしか、イーサさんとかドロシーさんが一緒だったはずだけど。

 何度も言うが今回は急だったので、そういう人員を選抜して来ているはずもないわけだし。
 メルディアナ王女は副官さんが一応いたはずだけど、あえて同席はさせていないようだ。政務や交渉ごとには明るくないのか……それとも、こちらへの配慮か。

 何せこっちも、『邪香猫』が誇る交渉担当のエルクがいないし。

 まあもっとも、この会合の席は別に何かを交渉するための席じゃなく、ただ単に雑談と確認だけの場なんだけどね……一応。

「さて……まず何よりもはじめに、あらためて礼を言わせてくれ、ミナト・キャドリーユ」

 メルディアナ王女のそんな言葉で、会議は幕を開けた。

「本当に……感謝している。正直な所、どれだけかを言葉にするのが難しいくらいだ」

「ミナト様……私のこの目に、今一度光を取り戻していただき……本当にありがとうございます」

 そろって頭を下げてくる、ネスティアの王族姉妹。
 昨日から数えて……もう何度目になるやら。普通、王族ってのは他人に容易く頭を下げたりしないはずではある。が、それを昨日指摘した副官さんは、逆に怒られてたっけ。

 それに続くように、今度口を開いたのは……エルビス王子だった。

「我々からも例を言わせて貰いたい、ミナト殿。この身に救う病魔……最早死ぬその時まで共にある定めかと、半ば諦めていた……。このような時が来たこと、本当に嬉しく思う。そして……我ら2人を救ってくれたあなたには、どれだけ感謝してもしたりない」

「本当にありがとう、ミナト殿。我ら2人……この恩は、生涯忘れることは無いだろう」

 次いで、ルビス王女も。あいも変わらずよく似た顔で、一礼。

 う~ん……身分を気にせず、丁寧に接してくれるのは嬉しいんだけど……ここまでくると、こっちが恐縮するというか、緊張しちゃうな……。

 何せ、今目の前にしてる4人、全員が全員王族なわけで……特に従わなきゃいけないような義務が絡んでくる身分とかは持ってないとはいえ、そういう立場ってだけで、やっぱ緊張はする。

 いくらメルディアナ王女が細かいことは気にしないフランクな人で、リンスレット王女は優しくて、エルビス王子もルビス王女も、態度は凛としてるけど身分その他を鼻にかけたりするようなことはしない、ってわかってても……さ。

 そんな僕の心のうちを悟ってくれたのか、メルディアナ王女が切り出した。

「そうか……ならば、厚意に甘えさせてもらうこととするか。では今度は我らの方から、早速だが僅かでも恩を返す話に移らせてもらうとしよう」

 言うと同時に、打ち合わせでもしたのかと思うくらいに、タイミングを同じくして4人全員が背筋を正した。

 素人目にもわかる、その凛とした雰囲気――2年以上療養してたはずのリンスレット王女も備えてると来たもんだ、王族ってすごいな――にちょっと気圧され気味になっていると、メルディアナ王女が、後ろに控えていた侍女さんに手で何かの合図を出した。

 それを受けて、侍女さんはこちらに歩いてくると、手に持っていた大きな封筒を僕に渡した。

「あ、ども。えっと……開けていいんですかね?」

「もちろんだ、確認してくれ」

 許可が出たので、ご丁寧にも封ろうで閉じられたそれを開け、中身を取り出してみると……中からは、さらに小さな封筒がいくつか出てきた。こちらは、封は特にされてないみたいだ。

 それらをよく見てみると……どうやらこれらは、目録のようだ。

「急遽ここに来ることが決まったのでな……現物を持ってくることはできなかったのだ」

 と、メルディアナ王女。……そーいやこの人、出先から公務中断してこっち来たんだっけな。
 その『公務』は、会談相手であるエルビス王子達もここにいるってことで、今日から続きをここで始めるつもりらしいんだけど。

 で、当然そんな感じだから報酬の現物を持って来れるわけもない。なので先に目録だけでも、ってことらしい。

 1つ1つ確認していくと、目録は全部で6つあった。

 内3つは、ネスティア王家の判子が押された純白の封筒。サイズは……B5くらいか?
 残りの3つは、サイズは同じくらいではあるが、若草色の封筒だった。

 白い方は見覚えがある。ネスティアの国王様が、アクィラ姉さんに届けさせた封筒と同じだ。
 となると多分、若草色の方は、ジャスニアの王家もしくは行政府あたりが使ってる封筒か。

 中身も確認してほしいとのことだったので、封筒からそれぞれの中身を取り出す。
 それらを読むと、そこに書いてあったのは確かに、事前の交渉で決まった内容の報酬だった。

 前にも言ったと思うが、今回の極秘以来に対する報酬は、事前の交渉で決まっている。『邪香猫』の交渉担当である我が嫁がいい仕事をしてくれた。
 と言っても、さほど紛糾したわけでもなく、ほとんど『これでどうですか?』『はい、いいですよ』ぐらいの感じであっさり決まったらしいんだけど。細かい部分の確認・調整だけで。

 ネスティア・ジャスニア両国の代表から提示された報酬が、あまりにも破格だったためで、エルクがやったのは解釈に齟齬が出そうな部分の突き詰めだけだったから……らしい。

 ネスティアとジャスニアから提示された報酬は、それぞれ5つずつ。計10個。
 内、両国で共通していたのは、『金貨1000枚』という金銭での報酬枠1つだけ。

 残り8つのうち、4つが目録で示されていた。

 ネスティアからは、底知れない闇の魔力を秘めていながらも、熟練のドワーフすらも加工する術を持たない超古代の宝石『ダークサファイア』と、その昔王国を襲った龍を退治した際にその体から素材として取り出されたと言われる秘宝『古龍の仙骨』。

 ジャスニアからは、超金属『ヒヒイロカネ』のインゴットと、その昔東方の国からもたらされたという、闇の魔力と恐ろしい切れ味を誇る妖刀『羅刹』。

 どれもこれも、国宝級と言っていいマジックアイテムや希少素材である。売れば、豪華な邸宅が数件建つだろう、ってくらいには。

 ……何か最近、よくよくこういう形で国からお宝を貰ってるな、僕。

 まあ、正当な報酬として受け取るわけだから何か文句不満があるわけでもないし、貰ったものは結構すぐ使っちゃってるんだけども。

 こないだの依頼でエルビス王子……じゃなくて、ルビス王女だったんだっけ、あの時は。
 彼女に貰った気象素材各種も、もうだいぶ研究・開発に使ったしね。何せ、『アトランティス』で回収したデータや研究記録の分析してたら、作りたいものが多すぎたもんだから。

 そんなことを思い出していると、タイミングを見計らっていたのか、メルディアナ王女が『さて』と切り出した。

「目録で、金貨とマジックアイテムについては確認してもらえたと思う。記載の品については、後で渡すことになるが、2つの国の王都にわざわざ足を運ばせるのは手間だから、こちらから届けよう。後で時と場所を確認させてくれ」

「わかりました」

「それと、残りの4つもその時に届けるということでよいか? 他の物と違って、目録を用意できるようなものでもないのでな」

「ああ……そういえばそうでしたね。でも……『届ける』って、どうやって?」

 メルディアナ王女の提案に、僕は納得しつつも、同時に疑問も浮かんだ。
 確かに残り4つ――ネスティア2つ、ジャスニア2つ――の報酬は、目録を作って渡せるようなものじゃなかった。けど同時に、届けられるようなものでもなかった気が……?

 何せ残り4つはいずれも、それぞれの国から与えられる『権利』や『許可』だったんだから。

 ジャスニアからは、王族・貴族御用達、一見さんお断りの会員制の最高級宿のライセンス。王都に本店を構え、王国各所に支店を持つ、最高のおもてなしと最強のセキュリティを備えた高級宿に、満室でない限りアポ無しで泊まれるそうだ。

 加えて、高級軍人・官僚しか見ることの出来ない情報の閲覧許可。王国各所にある情報管理部署に直接見に行ってもいいし、手続きすれば届けてもらうこともできる。調べ物をしたりするのに便利な上、ある程度のレベルまでなら、秘匿・機密情報の閲覧もできるという。

 それに対してネスティアからは、国内において土地・建造物その他の資産を保有したことによる、国民か否かを問わずかかってしまう税金の免除。ネスティアで家とか土地、その他の特殊な品物を買っても、関税含めそれについて税金をかけられることは一切なくなるそうだ。

 そしてもう1つは、ネスティアの法律および冒険者ギルドとの協定によって、ギルド加盟の冒険者だろうと立ち入りが禁止されている『特定危険区域』への全面立ち入り許可だった。

 ネスティア国内に何箇所かあるその『特定危険区域』とやら、色々な理由で王国によって認可を受けた者以外の立ち入りを禁止しているらしいんだけど……僕ら『邪香猫』およびその関係者に対し、立ち入りおよびそこでの資材の採取なんかを許可してくれるそうだ。
 そこで取れる希少な素材や資材を、実質独り占めできると言うことになる。

 ただし、立ち入りの際には緊急の場合を除き、届け出を事前に出してほしいらしい。
 そこで不許可ってことにはならないそうだけど、いくつか注意点を挙げることがあるらしいので。

 例えば、貴重な太古の遺跡があるから立ち入りを禁止してる場所なら、その遺跡を壊さないように。貴重な薬草が群生してる場所だから禁止してるなら、それをとり過ぎないように、etc。

 これらとんでもない『権利』については、準備が出来次第、通知文書をよこしてくれたり、ライセンスとなるカードなどを送ってくれるらしい。

 何度見てもとんでもない『報酬』だなあ、と思いつつ、僕はメルディアナ王女に『それでいいですよ』と肯定の返事を返しておく。

「そうか、わかった。それとミナト・キャドリーユ、昨日相談された例の件(・・・)だが……」

「あ、はい。大丈夫ですかね?」

「こちらで手を回しておく。さすがに目録は作れんが、追加報酬オマケということで喜んで受けさせてもらうよ。そのくらい安いものだ、遠慮なく持って行け」

 と、最後に王女様から、僕のちょっとした『ワガママ』についても聞いてもらえる旨の言質を貰い、これでようやくこの、報酬の確認のための会談は終わりとなった――

 ――と、思っていたんだけども、

 
「……あの、ミナト様。もしよろしければ……今日の夜、お時間をいただけませんか?」

「え?」

 
 なぜか、第二王女様……リンスレット王女から、そんなお声がかかった。え、何で?

 ☆☆☆

 同時刻……場所は、監獄内の中央オフィスの一室。

 決して広いとはいえない、薄暗いその部屋で……ちょっとした騒ぎが起きていた。
 と言っても、囚人が暴れたとかそういった類の状況になってるわけではない。

 その部屋にいるのは……生きている人間が数名と、死んでいる人間が1人だった。

 生きている方は、男女の看守長……ゾルダー・ヘルメスと、アリス・カラドール。そして、その部下の看守達数名。
 そして、死んでいるのは……ある女囚だった。

 赤茶けた髪色に、鋭く悪い目つき、女らしい豊満な顔。
 この囚人につけられたシリアルナンバーは……185。

 問題児として名と顔を広く知られていた女囚……バーバラ・ヒーストン。

 先の騒ぎ……事務総長ルドルフが主犯となって計画された、大量脱獄および囚人奴隷化計画では、一夜で収束したとはいえ、規模が規模だったゆえに、死傷者も出た。

 やけになって看守や警備兵に襲いかかってきたりして返り討ちにされて死んだ囚人もいたし、ルドルフ自身が招きいれた暗殺者や傭兵などへの対処は、基本的に手加減なしの見敵必殺だった。
 その暗殺者達によって殺された看守や警備も、痛ましいことに何人かいる。

 しかし今彼らの目の前で横たわっているこの死体は、その騒ぎで死んだ者ではなかった。

 175番は、ルドルフとの繋がりが会った囚人の一人として、継続的な取調べ等のために独房に拘束されていたのだが……今朝の開房点検の際、死んでいたのを発見されたのである。

 死因は、手首を切ったことによる大量出血・失血死だった。
 脱獄が失敗に終わり、さらに刑罰が重くなることを悲嘆し絶望しての自殺と目された。

 そのため、書類をそろえて早々と死体を処分する運びとなりかけたのだが……そこに待ったをかけた存在がいた。
 男子看守長、ゾルダー・ヘルメスである。

「……今、何といいました? ゾルダー」

 死体を挟んでゾルダーの反対側に立っているアリスは、愕然としたような表情で、視線の先にいる、あいも変わらず顔色の悪い彼にそう尋ねた。

 聞き間違いであってほしい、撤回してほしい、と視線が訴えているようにも見える。
 しかし、同じ肩書きを持つ同僚は、どこまでもドライに告げた。

「今言った通りだ。こいつはバーバラ・ヒーストンじゃねえ……偽者だ」

「……っっ!?」

 アリスが、そして周囲の部下たちが……あらためて驚く。
 それらに目もくれず、ゾルダーは死体の腕を取った。血液が抜けきってしまっている死体の腕は、人間だったことが信じられないほど冷たい上、死後硬直で固かったが、気にした様子は無い。

「見ろ、ここの焼印」

「……? 特に変わったところは無いように見えますが?」

「バカ、よく見ろ……火傷の痕跡が変だろ」

「変、とは?」

「囚人に対して行う焼印の処置は、当然だが自然治癒だ。薬も治癒魔法も使わん。だが……この火傷の跡は自然治癒で出来たもんじゃねえ。わざと跡が残るように調整されちゃいるが、治り方から見て……明らかに薬を使って回復を促進させている」

 それに、とゾルダーは続ける。

「髪の毛の色が少しおかしい。色に僅かにムラがある上に……ほんの少し、染料の匂いがする」

「そう、でしょうか? 私は何も感じませんが……」

「純粋な人間にはわからねーだろうさ。だが……俺は人間じゃないからな」

「……なるほど、あなたは『ダムピール』でしたね。ですがそうだとすると、問題は……」

「ああ、本物がどこに消えたか……ってことだな」

 その疑問に答えを返してくれるものはここにはおらす、バーバラのように見える(・・・・・・・)死体が安置された部屋は、沈黙だけが立ち込めていた。

 

 
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