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魔拳のデイドリーマー 作者:和尚

第11章 大監獄と紅白の姫

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第198話 Mission Complete

今回、ちょっと読みにくいかも知れません。
なんか書きあがってみたら、時間軸が随分前後したので……

そろそろ11章も終わるかも。
第198話、どうぞ。
 

 彼女は、まどろんでいた。
 つい今しがたまで眠っていたが、意識は覚醒している。

 しかし、体はまだだるく重い。布団に包まれているのだろう、暖かい。またこのまま眠ってしまいたい……そんな、ごく自然な考えが浮かびかけて……

「―――! ――!」

 まどろんでいた意識が、一気に覚醒した。

 ぼんやりとした意識の中……確かに聞こえたのだ。懐かしい声が。
 数年もの間、聞く機会に恵まれなかった……愛しい者の声が。

 少女は、わずかな布団の重みも加わってまだ重い体を、座ったままではあるがゆっくりと起こす。

 そして……まぶたを押し上げ、目を開こうとして……気付く。
 あまりにも今更な、しかしあまりにも劇的な変化に気付く。

 暗いのだ。視界が、暗い。

 目を閉じているのだから当然だ、と普通なら言うだろうが……彼女には、つい先程まで……目をあけようが閉じようが、見える世界は白一色の世界だったのだ。
 それが、今は……黒い。暗い。

 それが意味することを脳で理解し、今度こそ彼女は目を開けた。
 そして……

「……お姉、さま……!!」

「っ! よかった……リンス、よかった……っ!!」

 数年ぶりに光を取り戻した彼女、リンスレット・ネストラクタスが、その目で最初に見たものは……鮮やかな黒い髪が特徴的な姉・メルディアナの、目じりに涙を浮かべた泣き笑い顔だった。

 ☆☆☆

 前世では医療モノや感動モノの映画はあんまり好きじゃなかった僕だけど、この光景は普通に感動的だなあと素直に思ったりしている。

 今僕の目の前では、メルディアナ王女とリンスレット王女が、互いに大泣きしながら抱きあっている。人目もはばからずに。

 まあでも……長いこと待ち望んだ瞬間がついに来たんだから、当然だろう。何も言う気は無い。

 見る限り……いやまあ、ちゃんとこうなる確信があったから投薬したわけだけども、リンスレット王女は、きちんと全ての感覚を取り戻したようだ。

 メルディアナ王女の声も聞こえているし、目も見えている。もともと失っていなかった触覚にも何も以上無さそうだ。味覚と嗅覚は……調べないとわからないけど。

 にしても……だ。

(相変わらずムチャクチャするなあ、あの第一王女様は……いくら薬が完成したのが嬉しいからって、まさか公務ほっぽりだして駆けつけるとは……まあ、ほっぽりだせる内容の公務だったのが幸いしたんだろーけど)

 さて、感動の場面に水を差しちゃいけないし……この間に、少し時を巻き戻して説明しようか。

 
 今日現在、暴動『未遂』の夜から、すでに2週間近くが経過している。

 『看守長』……もとい、事務総長ルドルフが企てていた囚人連れ出し計画は見事に叩き潰され、ルドルフは現在監獄の空いている房に入れられている。

 ちなみに独房である。他の囚人と一緒にされなかっただけ、温情があるかもしれない……というわけでもない。現在進行形であの人、尋問、というか拷問受けてるらしいので。

 動機はもちろん、バックに誰がいるか、あの不審者集団は何なのか、協力者は誰か……etc。
 そういった事柄を1つ1つ、体に聞かれているそうだ。R-15な手法も交えて。

 今更だけどこの監獄、ただ犯罪者に『閉じ込めておく』という刑罰を執行するための場所じゃなく、生かしておくことによる苦痛を与える他の刑罰も行われている。
 延々と拷問を受けさせ続ける、とか。聞くことがあってもなくても。

 そして、拷問によって情報を聞き出すまで一時的に生かしておいてる囚人もいる。用済みになったら速やかにあの世に行ってもらうような人も。ルドルフは多分、今回ここ。

 しかもなんか現在、王都にアレの処遇について伺いを立ててるらしく、許可が出れば裁判無しで即死刑台に送ることも出来るらしい。迅速だな。

 まあ、どうでもいいことだけども。僕にとっては。

 仲間友達に毒盛ってくれやがった上、クロエに『貢ぎ者』として目をつけてたって話だし。同情する気なんぞ湧かん……というか、関わりが少なすぎて何かしらの印象が固まる前にさっさとフェードアウトなさった感じである。
 せいぜい、胡散臭いっていう最初のイメージが残った程度だ。透明性だの何だの言って僕の『サナトリウム』にけちつけてきた時のが。

 裏切り者の後始末その他は早々に本職にぶん投げ……もとい、任せた僕は、もともと完成が見えていた各種特効薬の最終調整を始めるため、裏切り者・侵入者全員の処分が終わった段階でさっさと『サナトリウム』に戻った。出張して活躍していた女囚2人も一緒に。

 なお、彼女達2人……クロエとネリドラを迎えに行った際、ちょっと驚くことが2人共にそれぞれ起こってたんだけど……それについてはまた後で。

 戻った時には時刻は夜中だったけど、構わず研究を開始。
 そのまま朝になり、昼になり、夕方になって夜になり……さらに朝。

 まだギリギリ夜明け前かな、ってくらいの時間になって……ついに、完成した。

 『白夜病』『蝕血病』『邪血疱瘡』……2つの不治の病と、1つの難病の特効薬が。

 まあ、その朝には薬が出来ただけで、僕的には厳密に『完成』したのは、それを投与した囚人達が完治したことを確認できたその瞬間だったんだけど。

 完成した薬は5つ。

 1つ目。『蝕血病』の特効薬で、体内の原虫を卵も含めて全て死滅させ、さらに病巣とも言うべき、原虫の『卵塊』がある肝臓にも強く作用して病原全てを殺しつくす殺虫剤のごとき薬。

 2つ目。同じく『蝕血病』の特効薬で、体に原虫の毒素に対する強力な体勢をつけさせることが出来、さらに体そのもの原虫が生きていけない環境に作り変えるワクチン的な薬。

 3つ目。『邪血疱瘡』の特効薬で、体内に蓄積したアレルゲンを体外に排出させると同時に、継続して摂取することで毒を溜め込む体質そのものを改善する作用もある薬。

 4つ目。『白夜病』の治療薬で……夢すら見ないほどに深く眠らせ、神経その他をゆっくり休ませリラックスさせると同時に、使用されずに弱体化した各感覚器官の修復を進めさせる薬。
 例えば、『白夜病』で『失明』している間は目の働きが不十分になり機能が低下する。王女様の目が白く濁っていたのもそのためだ。それらの修復もしなきゃいけないわけなのである。

 そしてその限りなく深い眠りに落ちている間に使うのが、最後5つ目にして、開発に最も苦労した……『乖離人格の消去』の効能を持つ魔法薬である。

 『蝕血病』は、1つ目と2つ目の薬によって体内の原虫の死滅と同時に、今後再発する可能性を根絶することによって完治させる。

 『邪血疱瘡』は、3つ目の薬によって毒を抜くことで炎症を引かせ、さらに継続投与によって体質を改善することで今後発症しないようにすることで完治。さらに、研究段階で発見した真の病気メカニズムもレポート形式で報告。

 そして『白夜病』は、4つ目の薬で眠っている間に5つ目の薬で乖離人格を消し、奪われていた感覚を寝ている間に元に戻して定着させることで完治させる。

 これらの効能は、女囚で実験後……きちんと効果を発揮した。

 今、ようやく落ち着いてきて号泣が収まってきたと見える第二王女様に。

 そして……第二王女様がおきるのを待つ間、一足先に特効薬を用いて『蝕血病』を完治させた、今はオフィスの別室で休んでいるはずの、エルビス王子とルビス王女に。

 いや、実は第一王女様の公務、あの2人がらみだったらしいんだよね。王都での。
 その最中に『リビングメール』で『薬できたよー』っていう知らせが届いたもんだから、公務中断した上、一緒にいた2人も連れてここにすっとんできたのだ、王女様は。

 いつものことながら、行動力あるなんてレベルじゃないなホントにもう……別にいいけど。
 姉が来たって聞いて、めっちゃ驚いてたし。第二王女様も。

 そして、そんな感じでやってきた王女様たちを相手にまずはインフォームド・コンセント。
 意味がわからない人は自分で調べなさい。

 僕が作ったのはどういう薬で、どんな作用が、どんな注意点があるものなのかを、研究で明らかになった病気の原因なんかと一緒にきちんと1つ1つ丁寧に説明。質問には逐一答え、患者さんに不安が極力残らないように事前に全てを伝え終える。

 その後、お待ちかねの服薬タイムとなったわけである。
 結果は、先に述べた通りだ。

 妹への抱擁を解いた姉・メルディアナ王女は、最後に妹の寝間着の胸元を軽く引っ張り……その中を覗き見る。男がやれば、いや女がやってもセクハラ以外の何物でもないように見える行為だけども……その意図は、いやらしい目的など微塵も無い、ただの確認である。

 服の下に、リンスレット王女の染み一つ無い色白の裸体を……あの毒々しいまでに赤黒い『邪血疱瘡』までもがすっかりなくなっている光景を確認したメルディアナ王女は……僕の方に向き直り、親指を立ててサムズアップした。まだ頬に涙の跡を残しながらも、満面の笑みで。

 なんとなく、サムズアップを返しておいた。

 ☆☆☆

 その後、しばらくして両者が落ち着いた所で、予定通り第二王女様には、投薬完了後の最終検査を受けてもらうことになった。
 と言っても、何も大掛かりなことなんてのはなく……ただ単に、感覚が戻っているか、そして、体中にあった疱瘡が残らず引いているかどうか、という点だけだ。

 内容はどれも簡単なので、すぐ済んだ。

 丁度お昼時だったので、昼食がてら『味覚』と『嗅覚』を検査。
 結果、問題なし。『辛い』『苦い』『甘い』『すっぱい』『しょっぱい』……いずれもきちんと感じ取れている様子で……久しぶりに感じるおいしい食事に、王女様、涙していた。

 そしてその後行われた、疱瘡の有無の検査。
 こちらは裸になる必要があるので、第一王女様と、侍女の人達が担当した。僕、待機。

 診察や治療の段階で何度も見てるとはいえ、見なくても大丈夫ならやっぱり王族だし極力……ってな感じなんだろう。別に気にすることでもない。
 正真正銘、あるかないかだけ確認すればいいだけの検査だから、素人にも勤まるし。

 こちらも結果はもちろん、何一つ問題なし。第二王女様の体から、疱瘡は一つ残らず消えていた上、その後遺症的に肌が荒れている様子も全く見られなかったとのことだった。

 まあ、そういう風に作ったんだけどね。ダメージを受けた肌の組織も修復するように。

 こうして、2つの病気の完治が確認された第二王女様は、晴れてここを出られることになった……と、ここで、またしても第一王女様のアグレッシブが発動した。

 なんと、この後このまま第二王女様を王都に連れて帰る、というのである。

 ただ、『この後』と言ってもそれは今すぐとかの話ではなく、きっちり荷物纏めたり手続きしたり、準備すませてからの話ではあるそうなんだけど、自分が乗ってきた大型の『竜車』で、王都に戻る時に第二王女様も一緒に連れ帰るつもりなんだそうだ。この人。

 第二王女様の準備が整うのには2、3日かかるそうなんだけど、その間第一王女様はここラグナドラスに滞在しつつ……なんと、中断したままの公務をここで再開するつもりらしい。

 同じくここに来て、すでに病気を完治させている、エルビス王子とルビス王女を相手にした、会談的な内容の外交業務を。

 いや、そりゃその2人がここにいる上、話もわかる友人的な相手だから、それも別に不可能じゃないだろうけどもさ……相変わらずぶっ飛んだ発想を平気で実行に移す人だ。
 しかも、その2人……エルビス王子達の了承もすでに得ていると来た。どんだけだよ行動力。

 そういうわけで、第一王女様もまだちょっとの間ここに滞在することになったこともあり、少しゆっくり時間が取れるということで……今日一日は、姉妹水入らずで仲良く過ごしてもらうことにした。面倒な手続きとか話なんかは、全部明日以降に回すってことで。

 もし僕が望むなら、この後すぐにでも報酬その他の話に移る用意はある、って言ってたけど、せっかくだし今日は存分にゆっくりしてもらおうと思う。

 それを伝えると、第一・第二王女様は揃って笑顔を浮かべ、優雅な仕草できちんと頭も下げて『ありがとう』と言ってきてくれたので……ちょっと気恥ずかしくなり、こちらも一礼した後、さっさと部屋から退散させてもらった。

 そして、第一王女様のスケジュールの管理をしている副官の人と話して明日の予定を確認して、僕はその場を後にした。

 ☆☆☆

 さて、王女様たち3人の『不治の病』の治療という、この極秘任務の主目的については今しがた達成した所であるけども……ご存知の通り、僕には他にあと2人、治療したかった娘がいた。
 言わずもがな、クロエとネリドラである。

 しかし、これから彼女達にも薬を飲ませる、というわけじゃあない。彼女達の病も、実はもうすでに治っているのだから。

 彼女達はもともと、王女様たちに薬を使う前の『実験台』として『サナトリウム』に呼び寄せ、各種実験を行っていたわけだから、王女様より先に薬を投与し、その結果先んじて病気が治っているというのはむしろ当然だ。

 クロエには、『蝕血病』の治療薬をもう一週間以上も前に投与完了しており、その後継続して経過観察を行った結果、再発も『原虫』の再発生も全く見られなかったため、完治したと断定。

 ついでに他の感染者の囚人たちにも試したが、その全員に効果を発揮したということで、治療薬完成と判断したのである。

 ……が、ネリドラの場合、ちと事情が違ったりする。

 別に、ネリドラの病を完治させられなかった、というわけではない。きっちり治ってる。
 何が違うのかって言うとズバリ、ネリドラの『白夜病』は……『治療薬』によって治したわけではないのである。

 第一王女様に使った治療薬は――もちろん、安全性は他の囚人で試して確認した上で使ったけども――『白夜病』の病原である、感覚を奪っている『別人格もどき』を消滅させる特殊な魔法薬を使って行った。

 思いっきり精神分野の話のはずなんだけどさ……あるんだよ、この異世界には、そういう効能を持つ薬とかも。精神に働きかけて何らかの、それも複雑な作用を引き起こす魔法薬が。

 代表的なので言えば、ファンタジーではお決まりの『惚れ薬』なんかもある。媚薬の延長線上とかそんなんじゃなく、飲んだ人の恋愛感情を操作して本当に惚れさせる薬が。
 思いっきり違法だし、調合が恐ろしく複雑かつ超貴重な材料が必要だったりするけど。

 あと代表的なのは……『自白剤』あたりか。これも、前世の地球にあったような科学的なもんじゃなく、飲んだ人に真実以外をしゃべれないように精神操作する魔法薬だ。これも違法。

 それらと同じ感じで作った魔法薬で、第二王女様や、他の『白夜病』患者を治療し、みごとに全員完治させたわけだけども……ただ1人、ネリドラにだけは、これは使えなかった。

 理由は簡単。ネリドラの『別人格』であるリュドネラは、他の人の『もどき』とは違うからだ。
 彼女を消滅なんてさせるわけにはいかない……というか、させようと思っても出来ない。

 リュドネラくらいはっきりとした自我を持っていると、僕が作った薬でも人格を消滅させられないのである。使用者の体と精神の安全を一番に考えて、副作用を最小限に抑えてある分、薬効も『もどき(・・・)なら消滅させられる』程度のものしかないので。

 そもそも消滅させる気なんかないので、それについてはまあ大して問題でもないんだけど……じゃあどうやって治すのか、という段階になって……僕は自重をやめた。

 その結果が……今のこの光景である。

「あ、ミナト、お帰り!」

「お帰り」

「お帰り~♪」

 『サナトリウム』内部の、食堂。
 ちょうど昼食時だったらしいそこで、3人の女の子が、戻ってきた僕らを出迎えてくれた。

 食事は済んだらしく、食後のお茶を飲んでいるクロエ。
 まだ食べている最中で、パンを口に運ぶ所だったらしい、ネリドラ。

 そして、二人と向かい合う位置取りで席に座り、頬杖をついて2人が食べる様子を笑って見ている……青い髪と瞳が特徴的な、ネリドラに瓜二つの女の子。

「あー、ただいま。クロエ、ネリドラ……それに、リュドネラも」

 そう、リュドネラである。正真正銘……ネリドラの別人格であるところの、彼女である。

 

 さて、この状況が何なのか説明する前に、さっき言いかけた……『暴動未遂』の夜、全部終わらせた僕が帰ってきた時に、衛生兵ちっくに仕事を手伝っていた彼女……ネリドラに起こっていた変化について、今話しておこうと思う。

 僕が帰ってきた時、野戦病院もかくやって感じだった広間は、ほとんど自体が収束に向かっていた。薬を作ったとはいえ、ありえないほどの速さで。

 合間合間に広間の様子の報告貰ってたから、僕にはなおさらそう思えた。連中の使った毒の組成が雑だったせいで、対処が大変だって。

 ところがなんと、ネリドラは……その雑な毒を始めとした症状全てに対処するため、必要なあらゆる種類の薬をその場で調合して手当てに使っていたのである。
 その知識と技術には、今日だけでもう何度も驚かされている。

 保管庫の材料を勝手に使ったってことで申し訳無さそうにしてたけど、犠牲者0というこの状況を作ってくれた立役者に対して、そんな些細なことをとがめる気など僕には微塵もない。
 とりあえず、0.1秒で許しておいた。

 しかし、ネリドラはその直後、さらに僕の度肝を抜いてくれた。

 なんと彼女、回復魔法を使いながら、引き続き衛生兵をやっていたのである。

 報告文書にはそんな魔法を使えるなんてこと書いてなかったし、『サナトリウム』で過ごしている時にも見たことも聞いたこともなかった。

 それについてネリドラに聞いてみると……彼女はなんと、治療の最中、突如頭の中に誰かの声が聞こえてきたというのである。
 それはなんと、別人格であるリュドネラの声だった。

 もっともその時、リュドネラはネリドラに話しかけたつもりはなく、聞こえないのを承知で独り言?を口にしただけだった。

 しかし予想外に、その激励の言葉がなぜか知らないがネリドラに届いてしまい、リュドネラも『何で!?』と戸惑う中……それはやってきた。

 ネリドラが、突然リュドネラについての記憶を取り戻したのだ。あの夜の記憶ごと。

 しかし、そのことに戸惑ったものの……リュドネラが恐れていた、あの夜の光景その他を思い出したショックで、精神にダメージが及んだりする……というようなことはなかった。

 それどころか、今までリュドネラを忘れていたということにむしろショックを受け、泣きそうな声で彼女に謝ったり、再会(……って言っていいんだろうか?)を喜んだりしていた。

 結果、瞬く間に和解し分かり合った2人。それと同時に……ネリドラの体に、あの夜以来失っていた力が、戻ってきたのだ。
 そう、『回復魔法』である。ネリドラはもともと、回復魔法が使えたのだ。

 しかし、あの夜以来使えなくなっていた。それどころか、存在すら忘れていた。
 なぜかというと……あの夜の事件に、回復魔法が大きく関わっていたかららしい。

 というのも、ネリドラが――正確にはリュドネラが、襲ってきた何とか候爵を半殺しにした方法というのが、劇薬ではなく、暴走させた『回復魔法』だったというのだ。

 ファンタジーとかで割とよく聞く話だけども、回復魔法なんかで体の組織を活性化させ、細胞分裂を促進したりして傷を治癒させる際……その回復ないし活性化させる力があまりに強い場合、回復させすぎて体組織を破壊してしまう上、治療不可能の傷になる、というものがある。

 抵抗していた時、リュドネラは意図せずしてそれを引き起こしてしまい……その結果、何とか候爵は全身が劇薬を浴びたように悲惨なことになってしまったのだ。回復不可能の損傷で。

 とまあ、実は事件と密接な関係があったおかげで、リュドネラの存在と一緒に記憶のかなたに封印されていたそれを取り戻したネリドラは、それまでに数倍する作業効率で治療を再開。
 重症患者を瞬く間に減らしていっている中……僕が帰ってきたのだそうだ。

 ……さて、前置きが長くなったけど、話を本来の筋に戻そう。
 クロエ、ネリドラ、そしてリュドネラが何で現実の世界で一緒にいるのか、という説明に。

 まず、今言った感じでネリドラはリュドネラのことを思い出した。

 これは、ネリドラに対し、魔法薬とは別な治療法を使って『白夜病』を治そうともくろんでいた僕とリュドネラにとって、大変都合がよかった。何せ、これを実行するに当たり、ネリドラにはあらかじめ、リュドネラの存在を認知していてもらわなければいけなかったからだ。

 それがクリアされた今、最早計画を阻むものは何もなくなったと判断し……僕らはその数日後、ネリドラ&リュドネラ専用の『白夜病』治療方法を実行に移した。

 
 別人格リュドネラ用の新しい体を作り、そっちに別人格リュドネラの意識を移すという、自分で言っていてもわかるくらいにとんでもない方法を。

 
 ただし別に、ヒト細胞を試験官で培養して作り出した人造人間とかを用意するわけじゃなく、あくまでリュドネラの『意識』を入れておき、ネリドラに悪影響が出ないようにするための『器』を作るだけなので、そこまで大掛かりなものじゃない。

 答えを言ってしまうと、その『器』は……今現在ネリドラが首から提げている、ペンダントである。普通に、宝石のついた装飾品にしか見えない。
 しかし、この中にリュドネラが入っているのだ。間違いなく。

 そして、このペンダントに更に組み込まれた機能によって……リュドネラは魔力で構成された半実体の、精霊のような体を構築し、外に出てくることが出来る。
 それこそが、今こうして目の前に座っているリュドネラなのだ。

 この状態……というか、この魔力構成体のことを、僕は『アバター』と呼んでいる。

 簡潔にまとめると、僕が作ったマジックアイテムによってネリドラはリュドネラと分離し、独立して動いたりしゃべったり出来るようになった、というわけだ。
 それにともなって、『白夜病』も治った。めでたしめでたし。

 ただ欠点として、魔力が枯渇するとペンダントの中に強制的に戻ってしまうことや、アバターのリュドネラはペンダントを装着しているネリドラと一定以上離れられないことなんかがあるけど、そのへんは気にならないらしいので問題なし。

 さて、そんなわけで実体化できるようになったリュドネラも一緒になって、しばし談笑した後、僕は3人に……聞こうと思っていたある話を切り出すことにした。

 予定外にも程があるほど早く、王女様こっちに来ちゃったし……今のうちに、3人の要望を聞いておいて……この後の、王女様たちとの話し合いに反映させなきゃいけないからね。

「あのさ、3人共……まあ、実質は2人だけど、あえて、うん」

「? 何、ミナト?」

 きょとんとして聴き返してくるリュドネラ。
 彼女のみならず、僕はネリドラもクロエも、3人共に向けて……こうたずねた。

 
「3人共、もしよかったらさ……ラグナドラス(ここ)から出て、一緒に来ない?」

「「「……え?」」」

 
ちなみに今回、『C.P.U』はホントに出番ありませんでした。
次章以降かな……?
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